134 第四十六話 ジャッジメント 04 【ザ・ウイナー】
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「ぶはっ!?」
「ああケンツ……良かった、無事だった!」
俺が目を覚ますなりシャロンが抱き着いてきた。
傍にはアリサが仁王立ちして俺を見下ろしている。
くそう、アリサめ……よくも俺達の愛の逃避行を邪魔してくれたな!
「酷いぜアリサ、俺達は仲間で味方じゃなかったのかよぅ!裏切り者ぉぉぉ!」
俺は怨嗟の目でアリサを睨みつけた。
アリサ、いくらおまえでも俺とシャロンの仲を引き裂くツモリなら容赦しないぜ!
しかしアリサは何ら臆することなく、それどころか蔑視しながら口を開いた。
「なに言ってるの?本気で逃亡するつもりなら、もっと綿密な計画を練って誰にも悟られないうち決行するものよ。そんなド派手に逃亡かましたってうまく行くワケないじゃない!ケンツさん、どうせこの場から逃げる事しか考えてなかったでしょ。あまりにも浅慮だわ」
アリサは、まるで自分が逃亡のプロであるかのように上から目線で責めたてる。
だがアリサよ、それは違うぞ。
俺は綿密に計画を練っていたし、逃亡ルートだってちゃんと考えてあったんだぜ。
おまえが邪魔しなきゃ海上ルートで
こうなったら、今度は
「そもそも、バークさんにシャロンさんを奪い返す意思なんてないから。バークさん、何度も呼び止めていたじゃないの」
「へ?」
え、そうなの?じゃあ逃げなくてもいいのか。
なんだよバーク、そういう事は早く言えっての!
「それにケンツさんがノビてる間に厄介ごとは全部終わっているのよ。後はもう一度勝者判定するだけだから」
「なんだって!?」
聞けば、バークが試合中の出来事を全て話したらしい。
それも一部の大会関係者とかじゃなく、魔導拡声器を使ってコロシアムにいる全ての人々に対して説明したらしい。
自分は邪竜アパーカレスに身体を乗っ取られ、大騒動を巻き起こしてしまった事。
身体を乗っ取られた後は、俺達の活躍によって無事解決した事。
そして本当の勝者は自分ではなく俺だって事。
等々……
「あのバカ、全部バラしちまったのか。ヘタすりゃ日常を送れなくなるぞ!」
意外に思うかもしれねーが、今回の大騒動の中核人物、それがバークであることは恐らく誰も気付いていないハズだ。
なんせ、観客達は復活竜から逃げるだけで必死だったし、状況把握が全く出来ていない審判達もすぐ追い出したんだ。
冒険者や青年団や自警団も、観客の避難誘導と保護、それに復活竜の相手をするだけで精一杯だった。
観客の避難後は俺達を除いて誰もいなかったし。
闘場で何が起きていたのかを正確に把握していたのは、実は俺達だけだったのさ。
だから、突然現れた邪竜と復活竜を退治しただけってことで押し通せばよかったんだ。
そうすりゃバークはまた日常を過ごせたのによう。
なのに全部バラしたとしたら、冒険者ギルドやリットールはもちろん、アドレア連邦にも目を付けられるぞ。
きっと後から尋問される。
ヘタすりゃペナルティーも課せられるかもしれねえ。
「ケンツ、バークさんはケンツとは違うわ。あの人は自分の欲のために黙って知らぬふりが出来る人じゃないのよ」
うーん、確かになぁ。バークは俺と違ってバカ正直で正義感が強いから……
て、シャロン。
「お、俺だって知らんぷりとかしないぜ。バークと同じ立場なら正直に名乗り出ていたと…………」
「何を言っているの?目くらましで有耶無耶にして、シャロンさんを肩に担いで逃げようとした人の言う事なんか説得力ないわ」
今度はアリサがジト目で言葉責めしてくる。
ぐふっ、アリサよ。
俺をイジメて楽しいか?楽しいのか?
シャロンを担いで逃げるのは当然だろう!そんなの常識の範囲だし説得力がないとは心外だぜ!
「大丈夫だケンツ。俺もケンツと同じ立場なら、アリサを担いで速攻で逃げていたぞ」
ユリウスは親指を立てて俺にウンウンと同調してくれた。
ユリウス……いやユーシス、いやいや心の友よ!
おまえだけは信じていたぜ!
だよな、やっぱりそれが普通だよな!
変にカッコつけて、行儀よくして大切な女を手放すなんて愚の骨頂だぜ!
俺は同じ過ちは二度としない。
何が有ろうと絶対にシャロンを離さないぜ!
だから、もしも俺がバークの立場だったら、シャロンとの幸せな未来のために心を鬼にして知らんぷりを……
『ケンツ選手、バーク選手、改めて闘場中央にお集まりください』
おっと、差し戻し判定が決まったか。
俺とバークは皆に見送られ改めて闘場中央へ。さっきと同じように審判を挟んで並び立つ。
観客達はさっきの事を根に持っているのか、ずっと憎々しい視線を俺に向けて来やがる。
もの凄い
― ギロリッ!
おうふ、なんか審判も凄い眼圧で睨んでやがる。
根に持たれてバークにエコ贔屓とかしねーだろうな……
審判、さっきは目つぶししちゃってごめんなさい。
後でちゃんと謝るから公平なジャッジを頼むぜ!
『ご静粛に!』
審判の口が開き、魔導拡声器を通していよいよ勝者判定がアナウンスされる!
― ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ
やべえ、心臓が物凄い音で鳴り出しやがった。
こんな緊張は久々だぜ。
遠くでシャロンがキュッと目を閉じて、両こぶしを組んで祈っている姿が見える。
シャロン、大丈夫。今度こそ必ず正しいジャッジをされるはずだ!
バークはもう勝敗に関わらず、シャロンを奪い返す意思は無いそうだが、それだけじゃダメだ。
さっき逃げといてアレだが、俺は優勝して一点の曇りも無くシャロンと恋人同士の関係に戻りたいんだ!
さあ審判、優勝はどっちだ?
発表しろい!
『厳正なる審議の結果、
審判はそう言い切ると、俺の手を取って高らかに上げた!
「 ! 」
よしっ!
よしっ!
よしっ!
よしっ!
「よっしゃああああああああああああああああああああああ!!!
シャロン、優勝したぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は、身も心も喜びで大きく弾けた!
いや弾けたなんてもんじゃねえ。
大爆発だ!ハッチャケだ!天にも昇る気分とはこの事だぜ!
― おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
同時に、またしても地鳴りのような歓声がコロシアムに響く!
「ケンツ、おめでとう!」
「ドラマチックな展開が良かったぜ!シャロンと幸せにな!」
「おめでとう!しかしテメーには慰謝料請求だ!まだ目がシパシパするぜ!」
「くっそー、賭けに負けた!上げて落すとかやめてくれよ!でもおめでとう!」
「俺達が避難している間に邪竜とか退治してくれたのか!?凄いぜケンツ!」
「ケンツッ!ケンツッ!ケンツッ!ケンツッ!」
あれほど俺に怨嗟の視線を送っていた観客達が、一転して俺の優勝を大歓声で褒め称え始めた!
おう、みんな応援ありがとう!
もっと褒め称えてくれていいぞ!
はぁ、それにしても本当に優勝できてよかったぜ。
もう一回バークが優勝とかだったら流石に立ち直れなかったぞ。
だが、俺は優勝したんだ。
これでまたシャロンと……
「ケンツ!」
大歓声の中、背後から愛すべきシャロンの呼び声が心地よく通った。
振り向けば
今更ながら、心臓がドクンッと大きく跳ねあがった。
「シャロン、俺は勝ったぜ…………勝ったんだ、シャロン!」
「ケンツ……きゃっ!」
俺はシャロンの両脇を掴んでシャロンを高らかと持ち上げた!
そして、この喜びをシャロンと分かち合おうとクルクルと踊るように回った。何度も何度も回りまくった。
俺はシャロンを完全に取り戻したんだ!
シャロンは俺の女で、俺はシャロンの男だぜ!
わかるかシャロン!
全部元通りだ、元通りなんだぜ!
いきなり高々を抱え上げられ驚き戸惑うシャロンだが、すぐに幸せの
ああ、シャロン。シャロンの笑みは最高に素敵だなぁ……
惚れ直しちまうぜ。シャローン!
「ケンツ……」
やがてシャロンは零れるような笑みを俺に向けながら、俺の頬に手を伸ばしてきた。
俺はクルクル回るのをやめ、シャロンの足を地に付けた。そしてお互い見つめ直す。
シャロンの潤んだ瞳が最高に奇麗すぎて、なんだか吸い込まれそうだぜ。
「シャロン、愛してるぜ。もう絶対に離さねえ!」
「私も愛してる。だから何が有っても離さないで!」
観客の大歓声の渦中、ふいに全ての音が消えた。
シャロンの声以外何も聞こえねえ。
シャロンしか見えねえ。
「シャロン……」
「ケンツ……」
今度はもう止まらない、気持ちを抑えたりしない!
俺達は、溢れ出る想いのままに、恋人同士のキスを交わした。
唇を通じてお互いの愛情が行き交い感化し、シャロンの頬に甘く透明な涙が伝う。
シャロン……俺達、やっと恋人同士に戻れたんだぜ。
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