132 第四十六話 ジャッジメント 02 【真相】
「キュイ、キリス、落ち着いた?」
「よくわからない……」
「正直、頭の中が混乱して整理できないの」
シャロンの問いかけにキュイとキリスは不安そうに答え、グッタリと横たわるバークをやはり不安そうに見つめた。
それは恐らくバークの容態が気になっているだけではないのだろう。
無理もないな。こいつらがバークに魅かれたのは、邪竜アパーカレスの影響によるものだった可能性があるし、最後の戦いでは完全にアパーカレスに飲み込まれていた。
だから〈
だけどな、おまえ
おまえ
それを見かねて救いの手を差し伸べたのがバークだったんだろ?おまえ達が純粋にバークに魅かれ惚れたのは理解できるぜ。
問題は、当のバークがどう思っていたのかが問題なんだが……アパーカレスの影響によるものではない事を祈るぜ。
俺はキュイとキリスを少し気にかけてから、本題に入ろうとした。
「二人とも少し外してくれ。バークに話しがある」
「…………」
「…………」
バークに話があると聞いて、キュイとキリスは不安そうに顔を曇らせた。
こいつら、俺がまだバークに酷い事をするんじゃないかと心配なんだな。
「心配するな、今さら噛みついたりトドメを刺したりしないって。ただ話をするだけだ」
「本当に?蹴ったり殴ったりしない?」
「お願いケンツ、バークに酷い事しないで!」
おおう、必死で懇願してきやがった。
安心しろ、俺は元々平和主義者なんだぜ。
むやみやたらに殴ったりしないから。なんてったって俺は紳士だからなっ!
「暴力は決して振るわない。男に二言は無いぜ」
「…………」
「…………」
しかし二人は訝しそうに俺を見た。
おいおい、信用ねえな。
俺はかつてのリーダーだぞ?もう少し信用してくれたっていいだろう。
「キュイ、キリス、大丈夫よ。ケンツは約束を守る人だから」
「わかった」
「シャロンがそう言うのなら」
シャロンに促されて、キュイとキリスはようやくバークから離れた。
誰が用意したのかは分からないがバークには布がかけられていて、未だ気絶したままだ。
ちっ、面倒くせーな。
「おい、バーク。目を開けやがれ」
― ペシペシッ!
俺はバークに
「ちょっ!」
「なにしてんの!」
「暴力は振るわないって言ったじゃない!」
シャロンはビックリしてビンタを止めに入った。
背後からはキュイとキリスの物凄い怒気を感じる。
「すまんすまん。ついうっかりだぜ。」
間違いは誰にでもあるんだ。イチイチ気にしちゃいけないぜ。
それに今のは暴力じゃなくて、ただ目を覚ましてやっただけだ。勘違いすんな。
ほらほら、バークが目を開けたぜ。
「うう……ケンツさんか……」
「おう、どんな
「全身がだるくて……まるで力が入らない……」
「そうかい」
そりゃ身体を乗っ取られて巨大化して、さらに分離させられて吐き捨てられたんだもんな。まともな状態であるわけがねぇ。
「しゃあねえな、特別サービスだぜ。
キラキラと金色の粒子がバークを包み、バークは問題無く回復した。
「身体が……ケンツさん、あなたはいったい……」
「バークよ、俺の事よりオメーの事を聞きたいんだぜ」
コロシアムには少しずつ人が戻り始めている。
復活竜の亡骸も全て化石に戻り、ミヤビが処理してくれた。
よしよし、この分なら武闘大会は再会されそうだな。と言っても、残りは優勝者判定と表彰式くらいなもんだけど。
主催者の冒険者ギルドとしてもここまで来て中止にするのは避けたいようで、再開しようと職員達がせわしなく走り回っている。
俺はその辺にいた大会職員を捕まえて、バークに着せる服を用意してもらった。
こいつには後で俺と共に観衆の前に出て貰わなきゃいけないんだ。フルチンのままじゃ具合が悪い。
「で、いつ頃からオメーはバークの部分が薄くなっていたんだ?」
アパーカレスからザックリと話は聞いたが、当のバークはどういう心理状態だったのか、どうしても聞いておきたい。
「わからない……召喚勇者にシャロンさんが襲われた時までは、自分が多く残っていたと思うけど……今となってはまるで自信がないんだ」
曖昧な返事だな、今はまだ頭が混乱しているだろうし無理はないか。
「胸に埋め込まれていた黒魔石についてはどうだ?あれのおかげで、いろいろと力を開花させていったはずだ。変だとは思わなかったのか?」
「思ったし興味深かった……でもそれは、棚ぼたで手に入れたスキル程度の認識でしかなかったんだ。だけど……」
「だけど?」
「だけど、日が経つごとに黒魔石の謎を考えることが少なくなっていった。そしていつしか黒魔石への関心が全く無くなってしまったんだ……自身が得た力と黒魔石の関連性など微塵も考えなくなってしまった……」
バークは大人しそうに見えて、実は好奇心旺盛なやつだ。黒魔石なんて面白ネタに興味を無くすわけがねえ。
にも関わらず興味を失ったのは、やはり徐々に力を付け始めたアパーカレスの影響のせいか?
嘘を吐いているようには見えないけれど……まあ、黒魔石の件は、もう少し落ち着いたら聞いて見るか。
さてそれじゃ、どうしても確かめなきゃいけない重要事案を聞くか。
正直気が重いぜ……
俺は深く一息ついてからバークに訊いた。
「バーク、かつておまえは無理やりシャロンと関係を持っただろう」
「はい……」
バークはバツ悪そうに、しかし何か言いたそうに、そんな曖昧な表情をしながら返事をした。
「実はな、さっきおまえが身体を乗っ取られていた時に邪竜アパーカレスが言ったんだ。あれはおまえの体に巣くっていたアパーカレスの精神誘導によるものだってな。実際の所はどうなんだ?」
「なっ!?」
バークは目を大きく見開いて驚いた。
「そんなバカな!あの時既に僕がアパーカレスの誘導を受けていただって!?」
「それだけじゃない、アパーカレスはシャロンの精神と肉体を切り離したとも言っていたぞ」
「 !? 」
バークは、まるで後頭部をハンマーで殴られたかのように強く衝撃を受けたようだ。
「そんな……ではあの時、僕を受け入れてくれたのはシャロンさんの意思じゃなかったのか…………だから目が覚めた時、シャロンさんは僕を拒絶したのか…………だとしたら僕は……僕はシャロンさんにとんでもない傷をつけてしまった!なんてことだ、すまないシャロンさん!」
バークはシャロンの前で土下座をして、額を土に擦り付けてひたすら謝った。
「その反応だけで十分だぜ」
アパーカレスの口からこの事実を知った時、もう一つ別の可能性を疑ってしまった。
それは、バークが敢えてアパーカレスの策略に乗ったのではないかという実に胸糞悪い可能性だ。
しかしバークの様子を見るに、それは杞憂だったようだ。
だがバークの言動は、別の何かが俺の神経を粟ただせた。
「バーク、おまえは本当に気付いていなかったんだな?」
「まったく気づかなかった……」
「ベッドの中で、シャロンがおまえを受け入れたときも、何も気づかなかったんだな」
「何も気付かなかった……ただ、シャロンさんが僕を受け入れたことだけが凄く嬉しくて、そんなこと微塵も思いもしなかった……」
「まったく気が付かなかった」「何も気付かなかった」「微塵も思いもしなかった」――この三言を聞いて、俺は瞬時に怒りがこみ上げ一気に沸点へと達した!
「気付けよ、このボケェェェェェェッ!」
― ボコオオオオオオッ!
俺は渾身の力でバークの顔面を蹴り飛ばした!
シャロン、キリス、キュイの顔色が変わるが無視だ。
「うう……ケンツさん、申し訳ない!」
「何が申し訳ないだ!おい、バーク!俺がテメーに挑戦状を叩きつけた時、テメーがシャロンと関係を持ったことを咎めなかった理由がわかるか!?
俺は断腸の思いでテメーにシャロンを託したんだ!シャロンを守るために託したんだ!シャロンがテメーの女になるかもしれないことも覚悟の上で託したんだ!
テメーがシャロンに手を掛けたと聞かされた時、ハラワタが煮えくり返る思いだった!それでも俺が託した男だから、シャロンをテメーに任せたのは俺自身だから、元凶は全て俺にあると思っていたから
それに、逆の立場なら弱り行くシャロンのために、過去の男なんざ忘れさせるために俺も同じことをしたかもしれねえ!――そう思ったから堪えたんだ!全てはテメーのシャロンに対する愛ゆえの行動だと思っていたから堪えたんだ!
それをテメー、シャロンを襲ったのはアパーカレスに心を誘導されたからだと!?
テメーはそれに全く気が付かなかっただと!?
ふざけんなっ!ふざけんなっ!ふざけんなーーーーーっ!」
― ガツッ!ゲシッ!ドコッ!
俺はバークを蹴り続けた。蹴って蹴って蹴り続けた!
「ケンツ、もうやめて!バークさんが死んじゃうわ!」
シャロンが後ろから羽交い絞めにして俺を止めに入った。
キュイとキリスもバークに覆いかぶさりバークを必死で守ろうとする。
俺はフーッフーッと荒く息をしながらバークを見下した。
「シャロンを守るべき立場のテメーが、
気が付けば、俺は涙を流しながらバークを責めていた。
「うっ……ぐぅ……すまない、ケンツさん、シャロンさん、本当に……」
バークも謝り続けながら涙を流している。
「バカ野郎、テメー泣いてんじゃねーよ!」
― ボッコォォォォォ!!!!
俺はシャロンに羽交い絞めにされながらも、バークの顎を蹴り上げた!
バークはキュイとキリスごと宙を舞った。
情けねえ、俺もバークも情けねえ!
テメーにシャロンを託した俺も、アパーカレスに唆されたテメーも、本当に情けねえ!
シャロンを愛する男二人が、まるで連携するようにしてシャロンを傷つけちまったんだ。
こんなバカな話はねえっ!
バーク!テメー、バカ野郎!バカ野郎!
そして俺もバカ野郎だ!大馬鹿野郎だ!
「ちくしょう、バカ野郎……バカ野郎……シャロン、すまねえ……」
俺はグズグズと言いながら、横たわるバークの隣で正座して、情けなさと悔しさに、そして申し訳なさに泣き続けた。
*
「ケンツ、もう落ち着いた?」
「シャロン、すまねえ……」
「気にしないで。全部私の事を想ってのことでしょう?私には感謝の気持ちの方が圧倒的に強いわ」
「想いと結果が伴ってねえのが問題なんだぜ……」
「何言ってるのよ、結果も伴っているじゃない。私は人間に戻れたし、邪竜達の脅威も無くなったわ」
「でも、アパーカレスの手の平の上で踊らされて、俺もバークもシャロンを深く傷つけちまった。情けねえ……」
「あーもう!男が情けない
シャロンはそう言って
「そんな事よりもっと重要な事があるでしょ?」
シャロンの目が訴えている。
『私は誰の女なのかな』と、訴えている。
「わかっている。ケジメを付けてくるぜ」
俺はもう一度バークに向き合った。
バークに叩きつけた挑戦状の目的、シャロン奪還イベントを果たすぜ!
「おい、バーク。この勝負は俺の勝ちだ。文句はないな?」
「文句なんかあるわけない。誰が見ても僕の負けだ」
「ならば挑戦状の約束通り、今この時を持ってシャロンは返して貰うぜ」
「異存は無い。シャロンさんをお返しする」
俺とバークの淡々とした言葉の交わし合いが終わり、シャロンは無事俺の元に帰ってきた。
「ケンツ!」
シャロンが感極まって俺の胸に飛び込もうとする!
が、しかし――
― グワシッ!
「え、ケンツ?」
しかし俺は、シャロンの両肩を掴んで制止した。
曇るシャロンの表情。
「シャロン、バークは負けを認めたが、まだ試合判定が出たわけじゃないんだぜ」
「へ?」
俺が何を言っているか理解できずに困惑するシャロン。
いいかシャロン。
そもそもこの武闘大会を決闘の場に選んだのは、バークに勝って誰の目にもシャロンは俺の女で、俺はシャロンの男であることを周知させるためでもあるんだぜ。
だから審判による勝利者判定が絶対に必須なんだ。
審判や観客達も戻ってきているし、今からがクライマックスなんだぜ!
幸い、周囲も復活竜やらなんやらで、バークがアパーカレスに乗っ取られていたとか気付いていないはずだ。
つまりこれから武闘大会プログラムは恙なく行われる。
そして勝利者判定が確定した時こそ、俺達は結ばれるんだぜ!
「おい審判ども、さっさと判定結果を言いやがれ!」
俺は、どうしたものかと頭を悩ませている審判団に向かって咆えた。
やがて、長い協議のあと、俺とバークは闘場中央に呼ばれた。
いよいよ勝者発表だぜ!
この発表が終わった時、俺とシャロンは晴れて恋人同士の関係に戻れるんだ!
さあ審判、一世一代の晴舞台なんだ。ドモらずにビシッと決めてくれよ!
主審は俺とバークの双方を一瞥してから、魔導拡声器を手に声高らかと勝利者をアナウンスしはじめた!
『優勝はバーク選手!なお、ケンツ選手は反則及び試合放棄により失格となりました!』
え?
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