131 第四十六話 ジャッジメント 01 【恋人達】
「ケンツ、おつかれさま」
後ろを振り向くと、そこには竜化がすっかり解け、優しく微笑むシャロンの姿があった。
「シャロン?…………わーーーーーーーー!シャロン!シャロン!怪人トカゲ女じゃなくなってる!シャロンが人間に戻ってるぞ!やったー!」
俺はへたれ込んだ
「鱗とかカギ爪とか無くなってる!尻尾も翼も無くなってる!オッパイも張りがあるシャロンパイだ!!シャロン!シャロン!良かった、良かったなぁ!ううううう……シャローーーーーーン!」
俺はシャロンの胸に顔を埋め、そのままシャロンを押し倒しギュウウウっと抱きしめた。
「ケンツ、無事で良かった……本当に良かったよぅ……」
シャロンは身体を起こして俺の頭をギュウッと抱えかえす。
ポツポツと頭に何かが滴り、俺は顔を上げると、そこには少しクシャクシャした泣き笑顔があった。
「シャロン……」
「ケンツ……」
俺達はもう周りの事なんか全然見えちゃいねえ。
人目など一切気にせず、そのまま深いキスを…………しようとしてギリギリ思いとどまった。
「シャロン、すまねえ。このまま本能のままにキスして無茶苦茶愛し合いたいが、もう少しだけ待ってくれ。まだ全てを終わらせたワケじゃねえんだ」
「うん、わかってるわ」
俺達は立ち上がり、周りを見渡した。
まず目に入ったのは、男に詰め寄る女の姿。
*
◆Side
アリサは緊張した顔でユリウスに訊いた。
「ユーシス……だよね?」
アリサには、もはや確信しかない。
戦いの最中、もはやユリウスは自分の正体を隠そうとはしていなかったのだから。
それでも、まだ何かどんでん返しがあるような気がして、アリサは緊張と不安に襲われていた。
(もしまた違ったらどうしよう。何か事情があって、ユーシスの技を受け継いだだけの別人とかだったとかだったら……)
アリサは今にも泣きそうな顔をしながら、怯えるようにもう一度訊ねた。
「ねえ、ユーシスなんでしょ?それともユリウスさんなの?」
(お願い、ユーシスだと言って……これ以上、私の心は耐えられない!)
アリサは改めてユリウスの容姿を見た。
体格や髪色はユーシスと同じだが、顔は全く違う。
まるでそこに存在していないかのように、ユリウスは地味顔だ。精悍な顔つきのユーシスとは全く違う。
ユーシスが失ったはずの片腕……それもユリウスはちゃんとある。
でも、それ以外は完璧にユーシスなのだ。
ユリウスはアリサの目をじっと見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「アリサ、僕はユリウスじゃない。君のユーシスだ!」
「っ…………!」
― ボウッ!
ユリウスの全身が強く輝き、存在感の薄い地味顔の男は一瞬にして圧倒的な存在感を放つ【隻腕の男】へと変貌した。
アリサの涙腺がプクリと膨れる。
「なによ……なによ!なによ!なんでずっと黙っていたのよ!私が今までどれだ………あぅっ!」
「今まで黙っていて済まなかった。アリサ、これからはずっと一緒だ!」
ユリウス……いや、勇者ユーシスは、アリサの言葉を遮って強く抱きしめた。
その瞬間、アリサの涙腺が限界に達し、いろいろな想いが込められている涙が一気に零れ流れた。
「ユーシス!ユーシス!ずっと寂しかった!ずっと辛かった!もう離れたりしないで!」
「アリサ……約束する、もう絶対に君から離れない!」
号泣するアリサ。
ユーシスは包み込むように、アリサを強く優しく抱きしめ続けた。
*
◆Sideケンツ
「やっぱりなぁ、そうじゃないかと思ったぜ」
「私ももしかしたらと思ったけど、やはりユリウスさんがアリサさんの
アリサからユリウスはユーシスじゃないと聞いたとき、そんなハズはねえと思ったんだ。
あの二人の独特の雰囲気は、数日・数週間程度の間柄では絶対に出せないものだったからな。
なんにせよ、そっちも無事落着して良かったな。心から祝福するぜ。
あ、でも……
「でも、これでアリサ達とはお別れになるのか。寂しくなるなぁ……」
「あの二人にはいくら感謝しても足らないわ。ありがとう、ユーシスさん、アリサさん」
俺とシャロンは、固く抱き合っているユリウスとアリサに向かって頭を下げた。
後で知ったんだが、ユリウス……いやユーシスは、大賢者バンバラから認識阻害系の魔法を授かっていたそうだ。
現人神ミヤビと、
しかし、アリサを含む他の者達の目には、ユーシスの姿は気配ゼロの恐ろしく存在感の薄い男に映っていたらしい。
ダゴンとアパーカレスから警戒されないためとは言え、バンバラも酷い事を押し付けたもんだよ。ほんと、可哀そうな事するよなぁ。
て言うか、
もう何か頼んできても、次は断固断るぜ!
「んで、他の連中はと……あそこにいるのはミヤビか」
「
現人神ミヤビが、独特の魔法を駆使して損傷した
「さすが亜神を目指すとか言っているだけのことはあるな。完璧とは言えないがいい仕事しているぜ………ん?」
― スパーン!スパーン!
突如、コロシアムに快音が響く!
「な、なんだ?敵襲か!?」
「違うわ、あれはヒロキさんね」
召喚勇者ヒロキは、サブドラゴニュート化した観客達を〈状態異常を治すハリセン〉を使ってシバキ歩いて治してまわっている。
どうやら、元の姿に戻るのが遅い者もいるらしい。
「へー、元に戻るのにも個人差ってあるんだな」
「私とキュイとキリスは、一番最初に治してもらったのよ」
「そうなのか?後でお礼言わなきゃな」
でもそれなら、シャロンもハリセンでシバかれたってことだよな。
うーむ……少し微妙。
「
キラキラと金色の粒子が舞い、負傷者達に降り注ぐ。
ヒロキの相方である召喚聖女アカリも、負傷した人々を治癒・回復魔法を使って治療して回っていた。
騒動に巻き込まれた重症者達が次々と全回復していく。
「召喚者でも流石は聖女だな。この分じゃ死傷者ゼロで済みそうだぜ」
このコロシアムは観客席の下に大規模施設があり、観客のほとんどは施設に非難していて難を逃れたようだ。
「ねえ、今聞いたんだけど、コロシアムの外側でも復活竜が出没していたそうよ」
シャロンが聞いた話によると、コロシアムの外も復活竜が数多く暴れていたらしく、それには自警団と冒険者が対処していたのだが、そこになんと一人の召喚勇者と奴隷商の女が手を貸してくれたらしい。
おかげでコロシアムの外も死傷者は出なかったそうだ。
「他にも召喚勇者がいやがったのか。だが外を守ってくれたそうだし、もしかしたら悪い奴じゃないのかもな」
俺は意外な協力者に首を傾げるも、やはり人的被害が無かった事を聞いて安心した。
あとは……
「あとはバーク達か」
「……………………」
俺とシャロンは、キュイとキリスに見守られているバークの元に向かって歩きだした。
バークよ、まだ終わりじゃないんだぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます