130 第四十五話 終局面 04 【決着】
『バカな!そんなバカな!たかが人間が邪竜の意思を跳ねのけて覚醒するなどあり得ぬ!
― バチッ!ガラガラガドッシャアアアアアアアアアン!
またしても黒き雷が天から落ちて来る!
「あ、あぶねえ!」
俺はシャロンの手を引いてアパーカレスから距離を取り、降り注ぐ雷を避けた。
「グルルルルル……こんな事は有り得ぬ!人間の意思など封じてやる!」
バークの意思が一瞬とは言え、覚醒・顕現して身体の自由を奪われたのがよほど癪に障ったのだろう
アパーカレスは狂ったかのように雷の竜魔法と炎のブレスをまき散らした。
「あの野郎、冷静さを欠いてやがるな。ユリウス、牽制頼む。アリサはそのまま歌を。シャロン、さっきのヤツをタイミングを見てもう一回だ!」
「わかった」
「了解!」
『任せて!』
アリサの歌はいよいよ熱が入り、俺とシャロンに力を与えてくれる!
ユリウスもチクチクと牽制を再開し始めた。
さらには、ヒロキ、アカリ、ミヤビの状態異常が解けたようで、地上からの援護射撃も始まった。
集中砲火を浴びるアパーカレス。ダメージはほとんど無いものの、イライラがマックス状態のようだ。
『おのれ、目障りな人間どもめぇぇぇ!』
いいぞいいぞ。おまえらもっとやれ!
僅かであってもバークの覚醒とユリウス達の攻撃は、アパーカレスの
実にいい感じだぜ!
「よーし。シャロン、やってくれ!」
『
― キュイイイイイイイン……シュン!
俺とシャロンは竜族の瞬間移動術でアパーカレスの後ろに回り込んだ。
注意力が散漫になっているアパーカレスは、すぐ後ろの俺達には全く気が付いていない。
脇の甘い奴だぜ。
500年以上生きているらしいが、実は戦闘経験はそれほど無いんじゃないか?
「
― ブワッ!
両手で強く握りしめた
おお、スゲー!こりゃ確実に聖女の歌の効果だな。
俺の力だけならせいぜい5メートル程のオーラソードにしかならねえもん。
よっしゃ、覚悟しろよバーク!
その巨大長大なオーラソードを振り上げ、渾身の力でアパーカレスの後頭部を斬りつけた……いや、シバきあげた!
「おらバーク!ちゃんと目を覚ましやがれえええええええええええええええええええ!」
―バチコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
『へぶっ!?』
全く予想外からの一撃に、アパーカレスは邪竜らしくない奇声を発し、軽くパニックに陥った。
『なんだ、一体誰が……おぶっ!?おばっ!?』
振り向きざまに、オーラソードの往復ビンタが炸裂!
― バチバチバチバチッ!
「オラオラオラオラ、まだ起きねーのか!テメエは寝虫かよ!」
恐らくアパーカレスにはこの攻撃もダメージは無いだろう。
しかし、ただの人間にいいように往復ビンタをされるのは心理的に十分揺さぶりになるはずだ。
その隙をちょいとこじ開けてやれば、バークに届く声も大きくなるはずだぜ!
『(ケンツさん……)』
聞こえた!バークの声が聞こえたぞ!
この野郎、手間かけさせやがって!
*
「おう、やっと目を覚ましたか!」
『(ケンツさん……どうか逃げてくれ……どうやっても……この身体を取り戻す……ことができない……)』
おいおい、目覚めたかと思えばいきなり弱気発言かよっ!
「はぁ?寝言は寝て言え!いや、寝てもらっちゃ困る!」
『(ケンツさん……本当にダメ……なんだ……シャロンさんを連れて……どこか遠くへ……)』
こいつ、何を甘ったれた事を言ってやがる。どうやら気合注入がまだまだ足らんようだな。
オラオラオラオラオラオラ、オラァーーーーーーーーーー!!!
― バチバチバチバチバチ、バチーーーーーーーーーンッ!!!
『ぬううう、いい加減にしろよ。邪竜の顔に手を上げたこと、万死に………えぶっ!?』
― バチコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
やかましいわ、トカゲの親玉は少し黙っとけ!
こっちはバークと話してんだ、邪魔するんじゃねー!
「やい、バーク!テメエはこの大事件を引き起こした当事者として、何が何でも解決させる義務がある!泣き言なんぞ垂れてる間になんとかしやがれ!」
『(本当に……申し訳……ない)』
あ、バカ!諦めるんじゃない!
諦めたらアパーカレスが力を取り戻して俺が死ぬだろ!
『(シャロンさん……どうか……ケンツさんと……お幸せに……)』
「この根性無しがあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
― ボッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
俺の怒りを具現化して、オーラソードは超巨大なハンマーへと変化。
そしてアパーカレスの脳天を直撃した!
「何が幸せにだ!テメエはシャロンのこの姿を見ても、まだそんなこと言えるのかい!」
俺はシャロンの腕を掴みグイと引き寄せた!
シャロンの竜化はさらに進み、サブドラゴニュートからドラゴニュートへ、そしてドラゴニュートからドラゴンへと変貌しつつある!
「これはテメエのせいだぞ!テメエがシャロンと関係を持ち、眷属の紋章なんぞ付けるからこうなったんだ!テメエはこの先シャロンを怪人トカゲ女として生涯を過ごせって言うのか!そんな残酷な事が出来るのか!どうなんだバーク!」
『(そんな……これが……シャロンさん……なのか!?)』
バークはシャロンの変わり果てた姿に愕然としたようだ。
それは一瞬だが身体を取り返し、アパーカレスを完全に硬直させるほどショックなことだった。
「バーク、テメエがどうしても身体を取り戻せないってのなら仕方がねえ。だがシャロンだけは元に戻してくれ!その後でテメエもろともアパーカレスをぶっ殺してやる!」
『バークさん、私、トカゲみたいな容姿で一生を過ごすのは嫌です。元の姿に戻りたい!それにキリスとキュイも元の姿に戻してあげてほしい!もちろんバークさんも元の姿に!』
シャロンは鋭く伸びた爪の手で、アパーカレスの顔に触れた。
『(こんな……こんな魔物のような手が……シャロンさんの……手……)』
アパーカレスの目から大きな
『(うわああああああああああああああああああああ!!!!)』
バークは絶叫した!
自分に対する怒りに、そして自分がしでかした事に対する罪に、バークは悲しみ絶望した。
『(全部、全部僕のせいだ。僕の歪んだ行動がシャロンさんをとんでもない事に…………いや、シャロンさんだけじゃない。キュイとキリスだって……僕のことを大切に想ってくれているのに…………僕は……)』
『うぐぐぐ、動けん……こんな人間に我の動きを封じるなど……』
溢れ出るバークの感情に気圧されて、アパーカレスは完全に動きを止められてしまった。
バーク、今がチャンスなんだ。
テメエなら出来る!現にアパーカレスの動きが止まってんじゃねーか!
身体の支配権を取り戻せ!
「バーク!」
『バークさん!』
だがバークの返事は、俺を酷く失望させ
*
『(ケンツさん……今の内に……僕を……殺してくれ!アパーカレスを倒すのは……今しかない……早く……僕ごとアパーカレス……を……そうすれば……シャロンさんは……きっと……元の姿に……)』
― ブチッ!
こいつはどこまでマイナス思考なヤツなんだ!
ちょとばかし小説の読み過ぎで、変に自己犠牲にかぶれてんじゃないか?
いいや、これは自己犠牲なんかじゃねーな。
自分の責任を自分の命を代価にして、俺に押し付け逃げようとしているだけだ!
この軟弱者め、一緒に戦おうとする気概は無いのか!
まだ俺の下でポーターやっていた時の方が根性据わってたんじゃないか?
なんかコイツを助けるのがバカらしくなってきたぜ!
「気合入れ直してやる!歯ぁ食いしばれ、バーク!」
― ボッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
またしても巨大なハンマー化した
「おいバーク、てめぇ
『(僕は……僕は
そう言うのいいから!
自虐に酔う余裕があるなら、建設的に動いてみろ!
いつまで甘えてんだコイツは!
『バークさん、きっとあと少しなんです!現にアパーカレスはいま動くことが出来ないでいる!なんとか身体を取り戻して下さい!それが無理ならせめて黒魔石の位置を教えて下さい!』
『(く……黒魔石……)』
ん?
黒魔石???
「黒魔石…………あ!」
いけねえ、バークをシバくのに夢中になっていてスッカリ忘れてた!
そうそう、アパーカレスのウイークポイント黒魔石!
今なら簡単に破壊できるじゃねーか!
「おいバーク、黒魔石の場所を差してみろ!それぐらいの根性見せやがれ!」
『(うぐぐぐぐぐ……うわああああああああああああああああああああ!)』
バークの雄たけびと共に、アパーカレスの指先が黒魔石の位置を示した!
『(ここだケンツさん、ここが黒魔石を埋め込まれている場所だ!)』
でかしたバーク!
おまえはやれば出来る子だと信じてたぞ!
で、どれだ?
目を凝らしてバークの指さす箇所を見れば、確かに一点の黒光りが!
あそこか!
「よしよしバーク、そのままじっとしていろよ!」
俺はニチャリと笑みを浮かべ、標的を見定めた。
「残念だったなアパーカレスとやら。この勝負、俺の勝ちだぜ!」
声高らかに勝利宣言!
俺は
「砕け散れぇぇぇぇぇ!」
*
「砕け散れぇぇぇぇぇ!」
『そうはいかんぞ!』
― ベシッ!
「ぎゃべっ!?」
突如アパーカレスは身体の自由を取り戻し、突撃した俺を
『バークよ、惜しいがおまえはもういらぬ!』
そしてアパーカレスの腹が膨らんだかと思うと、そこが裂けて何かを吐き出した!
「いてて、なんだってんだ……あっ!」
地上に激突し、見上げた俺の目に飛び込んで来たのは、アパーカレスの腹から放り出された裸の男!
「バークじゃねえか!やべえ!」
アパーカレスはバークを体外に放り出し、身体の自由を取り戻したのだ。
俺は慌てて墜ちて来るバークを間一髪で受け止めた。
「おい、生きているか!」
「大丈夫、生きてるよ……」
バークは軽く笑みを浮かべてから気を失った。
アパーカレスにとって、自身の生命を脅かす存在となったバークはもはやお役御免らしい。
それに、邪竜族の男ダゴンを吸収したアパーカレスには、バークは絶対に必要な依り代では無くなったようだ。
しかし、そのせいでアパーカレスの全長は15メートルほどに縮んでいる。
全身にも何かしら傷を負っているようだ。
その理由……アパーカレスが吸収した邪竜族の男ダゴンは、その時点で瀕死の状態だったのだ。
したがって、バークの瑞々しく逞しい肉体を失ってしまえばパワーダウンは免れない。
事実、アパーカレスは空中に留まるのも苦しいらしく、重力に引かれて地上に降りてきやがった。
ふぅ、今度こそ勝負は見えたな。
「おい、これが本当に最後の警告だ。テメエが人間に並々ならぬ怨念を持っているのは戦っていて何となく察した。だがもう勝負は見えている。これ以上の抵抗は無意味だ、降参して投降しやがれ!」
『邪竜さん、私はあなたの心が見えてしまいました。だから殺したくはありません、投降して下さい!人間と竜族、きっと分かり合えます!』
投降を促す俺とシャロン。
しかしアパーカレスは首を横に振った。
『無理だな、人間は我々竜族とは違い、平気で約束を反故にして平気で裏切り傷つける。優れた知能を持ちながら同族同士で殺し合いもする。我にとっては理解し難い存在であり、分かり合うなど天地がひっくり返っても不可能だ』
「降参する気はねーんだな?」
『人間に降参など有り得ぬ!』
これ以上の話合いは無意味か。こいつの事情ってやつを聞いてみたかったが仕方ねえな。
「わかった、覚悟はいいか?」
『いつでも来い。だが、覚悟するのはキサマの方だ』
「そうかよっ!おまえら、手出し無用だ。サシで決めてやる」
― コオオオオオオオ…………
俺は呼吸を整え、全神経をアパーカレスに集中させる。
ヤツの傷んだ筋肉繊維の一筋一筋の動きが手に取るように感じるぜ。
それ即ち、アパーカレスの次の動きを完璧に予測するってことだ!
― ゴゴゴゴゴゴ……
アパーカレスの周囲が瘴気に覆われ、今にも吹き出しそうな程に口元をメラメラと紅黒い炎が溢れだした。
瘴気で目くらまししてファイヤーブレスで先制攻撃か?
いいや違う、口元以外の筋肉の動きが、単純なブレス攻撃であることを否定しているぜ!
『
― キュイイイイイイイン……シュン!
ファイヤーブレスを吐く直前に、アパーカレスは瞬間移動で消えた!
どこに消えた?
右か?左か?後ろか?上か?
いいや違うね、瞬間移動直前の筋肉の収縮が、その全てを否定していたぜ!
「下だ!」
俺はその場を飛びのくと、途端に地中から紅黒い炎の柱が上がった!
「次は後ろ!魔法剣、
俺は金色の粒子と血霧を全身に纏わせながら、揺らぎ始めた空間のある一点めがけて
― バチバチバチッ、ピキッ!!!
『うぐぅっ!?』
揺らいだ空間からアパーカレスが実体化し、ヤツのウイークポイントである黒魔石に寸分狂わず
「爆ぜろ!
―バリバリバリッ、バチーンッ!!!
『グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
ラーズソードの剣先に発生した雷球が勢いよくスパーク、黒魔石は途轍もないエネルギーを放散させて粉々に四散した!
よっしゃ、ついに黒魔石を木端微塵に破壊したぜ!
『見事だ
アパーカレスはそう言い吐くと、突如沸き上がった紅蓮の炎に焼かれこの世から消滅した。
「ふぅ……やっと終わったぜ」
俺はドッと力が抜けて、その場にヘタレこんでしまった。
また復活するだと?
冗談じゃねーや、復活するなら俺のいない時代で復活してくれ。
俺はこれからシャロンと幸せな家庭を築くんだ。
絶体に邪魔するんじゃねーぞ!
― スッ……
その時、誰かが俺の肩に手を置いた。
「ケンツ、おつかれさま」
後ろを振り向くと、そこには竜化がすっかり解け、優しく微笑むシャロンの姿があった。
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