129 第四十五話 終局面 03 【呼びかけと目覚め】


「聞こう」

「どんな選択肢があるの?」


「それはな……」



ユリウス、アリサ、戦うばかりが選択肢じゃないんだぜ。


俺とシャロンの選択肢、それは……



「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」



俺はユリウスとアリサに説明した。



「どうよ!」


「正直、今更そんな手が通用するのかという気もするが……」

「だけどやってみる価値はあるわね」



これからやるのは確実性の無い手だ。


ダメで元々。だけど効果があるまで続けてやるぜ!



『ケンツ、私はこんな姿になっちゃったけど、おかげで幾つか竜や竜族の技が使えるようになったの。だからきっと役にたてると思う』


「シャロン、容姿の事は気にするな。俺が必ず元に戻してやる。それと俺もユリウスから面白い魔法を貰ったんだ。大丈夫、きっとうまく行くぜ!


ユリウスとアリサはアパーカレスの糧にされない程度に牽制をたの………おいアリサ。なんか身体が光ってんぞ?」



俺はアリサの身体がぼんやりと光っている事に気がつきギョッとした。


当のアリサも俺が驚いているのを見て、自分の異変に気が付き驚いている。


しかしユリウスは光の正体がすぐわかったようだ。



「アリサ、それって女神テラリューム様からの祝福じゃないか?」


「そう……みたいね。でもこれ、歌の祝福だわ」


「このタイミングで歌の祝福か。ならこれはケンツとシャロンさんの為のものだな。よし、援護と牽制は俺に任せろ。アリサは二人の為に歌ってくれ」



俺とシャロンの為の歌?


祝福絡みの聖女の歌ってのは、かなりレアなものだと伝えられている。


余程の条件が合致しないと歌の祝福は降りたりしないそうだ。


もしかしたら、俺とシャロンの選択が最良だったのかもしれないな。


別の選択をしていたら、歌の祝福は下りなかったかもしれねえ。


だとしたら、流れは確実に来ている。俺達はきっと良い感じの追い風に乗っているんだぜ!



「よし、ユリウス、アリサ、やってくれ!」


「まかせろ!せりゃああああああああああ!!!!」



ユリウスはアパーカレスの周りを飛び交い、聖属の力を抑えて中・遠距離攻撃を開始した。


アパーカレスを覆う瘴気を焼き払い、炎斬波がアパーカレスを牽制する!



― ブオオオオオオオオオオオオオオオ!



『今更そのようなチャチな炎斬波など、我に通用するものか!』



しかしアパーカレスは疎ましく顔を歪めるだけで、ダメージにはならない。


だが意識はユリウスだけに向いた。



「アリサ、今の内に聖女の歌ってヤツを頼むぜ!」



そう言ってアリサの方を見ると、アリサは両腕を大の字に広げ、今まさに聖女の歌を奏でようとしていた!



「Ra~♪ Lura~♪


Τώρα ακούστε το τραγούδι μου.

(さあ、私の歌をお聴きなさい)


Δύο γενναίοι άνδρες και γυναίκες. Σας δίνω μια ευλογία από τη θεά.

(勇気ある二人に女神の祝福を与えましょう)


Άνθρωπος αιχμάλωτος. Δώστε αυτιά να ακούσετε.

(捉われの男よ、心を開き受け入れなさい)


Lu~♪ Lulu~♪ 」




「おお、これは!?」



アリサの清らかな歌声が脳に直接響いてきた!


同時に、まるで身体強化ブーストアップでもかけたかのようにメキメキと全身に力が漲る。


さらにはアパーカレスの周りの瘴気がどんどん薄くなっていく。


これが聖女の歌の威力!これならアパーカレスに勝てるか!?


しかし俺はすぐに冷静に考えた。


いや、これでもアパーカレスの力には全然届かねぇ。


倒すのは無理だ。



『ケンツ、この“聖女の歌”は戦う為のものじゃないわ!』



シャロンの言う通りだ。


この聖女の歌は戦うためのものじゃねぇ、俺達の選択をアシストするものだぜ。



「よおおおおおおおおし、シャロン行くぜ!」


『ええ、ケンツ!』



俺とシャロンはユリウスが牽制している間をぬって、アパーカレスの頭部に超接近!


そして思いっきり息を吸いこんで――……………………咆えた!




「てめえ、バーク!いつまで呑気に寝てやがるんだ!いい加減に起きやがれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


『バークさん、お願い目を覚まして!アパーカレスに抗って!!!』




聖女の歌の効果もあって、大爆音の俺とシャロンの声。


感情を目一杯込めてガナリ散らしてやった!



『な、なんだ、今のは!?』



へ、さすがのアパーカレスも一瞬身体をビクリとさせて驚いてやがる。



「アパーカレスの体内で、呑気に寝ているバークの野郎を叩き起こす!」

『バークさんを覚醒させて説得するわ!』



俺とシャロンの選択――それは、バークに大声で語り掛ける事。


アパーカレスはバークが目覚めた所で手遅れみたいな事を言っていたが、そんなモンやってみなけりゃわからねぇ。


だいたいだな、こんな騒ぎを起こしやがって、こちとら文句の一つや二つ……いや百や二百くらいネチネチと言ってやらなきゃ気が済まねーんだよ!


バークよ、絶体に叩き起こしてやるからな!覚悟しやがれ!



「おらおら、さっさと起きろ!手間かけさせんな!」

『バークさん、このままじゃ大変な事になっちゃうわ!』



俺とシャロンはアパーカレスの頭の周りを飛び交いながら、大音声での説得?を続ける。



しかしアパーカレスは頭を振り、腕(前足?)を振り、俺とシャロンを叩き落とそうとしてくる。


が、聖女の歌の効果でスピードが増している俺達は、アパーカレスの攻撃を余裕で躱す!躱す!躱しまくる!



『うっとおしいぞ、人間めぇ……ショートビーミング竜魔式近距離転送!』



― キュイイイイイイイン……シュン!



アパーカレスはさっきと同じように連続瞬間移動で俺達を翻弄しようとした!


だが、今回はさっきのようにはいかねぇ。


シャロンはさっきからずっとテメーアパーカレスの影響を受けていたんだ。


バフの傘からは外れてしまったが、それ以外は悲しいことに、どんどん竜化してるんだぜ!



『なまじ私に眷属の絆を付けたのは失敗だったわね。ショートビーミング竜魔式近距離転送!』



― キュイイイイイイイン……シュン!



シャロンは俺の腕を掴むと、ショートビーミング竜魔式近距離転送を発動!


アパーカレスと完全同期して移動先に付いて回る!



『しつこいぞ、シャロン!』


『いくら飛び回っても無駄ですよ!私達を引き離す事は出来ない!』


『くっ、この不出来な娘め!』



アパーカレスはついにショートビーミング竜魔式近距離転送を諦めた。



『ならばこうしてくれる!ファイヤーブレス炎の息!』



今度はアパーカレスが大口を開け、黒き炎を揺らめかせた。


刹那!



「待っていたぜ、テメエが大口を開ける瞬間をよぅ!魔法剣、グラビトンバッシュ重力子の圧斬!」



― ビュグウウウウウウウウウウウウン!



俺はアパーカレスの大口目掛けてグラビトンバッシュ重力子の圧斬を叩き込んだ!



『ウボツッ!?』



今まさに吐き出さんとしていた紅黒い炎の息が、俺の魔法剣グラビトンバッシュ重力子の圧斬によって、口内喉奥へと押し返される!


ドラゴンブレスの類ってのは、魔法や魔法剣以上に溜めが必要みたいだな。


近接戦闘中にその溜めは愚の骨頂だぜ、人間なめんなよ!



― ボシュッ!ボファッ!



『グボラァアアアアアアアアアアアア!?』



アパーカレスは鼻孔、耳孔、眼孔から炎と煙を噴出させ、盛大に自爆した。


へへへ、今のはさすがに効いたろう。


ようやく竜化したアパーカレスに一矢報いたぜ。ザマーミロだ!


ほれほれ、いくらでもブレスを吐いて来いよ!何度でも自爆させてやる!



『お゛……お゛の゛れ゛、人間め゛ぇえ゛……!』



んー、んー、実に良いナイスな呻き声だ。こいつ予想以上にダメージを受けてやがるぜ。


よーし、アパーカレスが朦朧としている間にバークの野郎を叩き起こす。いよいよ奥の手を使うぜ!



「シャロン、今がチャンスだ。畳みかけるぞ!」

『うん!』



俺達はまたスウッっと一呼吸してから、とっておきを発動させた。



ヒーローズシャウト勇者の絶叫!」

ドラゴニックテレパス竜の精神感応!』



ヒーローズシャウト勇者の絶叫はユリウスから貰った絶叫魔法だ。本来は意中の相手に告白するための魔法らしいが、どんな相手も無視できない爆声を咆える事が出来るらしい。


シャロンのドラゴニックテレパス竜の精神感応は、竜族同士なら自分の意思を直接相手の脳に伝えることが出来る。今の状況にはまさにピッタリな竜魔法だ。


いずれも今の朦朧としたアパーカレスなら、眠っているバークに届くかもしれねぇ。


届かなきゃ何度でも咆えてやるぜ!




「やい、バーク!テメエどれだけ俺達に迷惑かけてやがる!とっとと起きやがれ!」

『バークさん、お願い起きて!私達の声に耳をかたむけて!』



俺とシャロンは朦朧とするアパーカレスの頭の周りで必死になって呼びかけ続けた。



『む、無駄だ、その程度の声ではバークには届きはせぬ……うぐぅ』


「へ、そんな事やってみなけりゃわからねーぜ。おいバーク、早く起きないとイジメ返しリストの一番上に乗せるぞ!さっさと目を覚ませ!」

『バークさんお願い!この声届いて!』



しかし、俺達の絶叫の呼びかけにも関わらず、バークが目覚めた気配はねえ。


クソ、だめか?


俺とシャロンの選択はやはり甘かったのか?…………うっ!?



アンガーライオット怒りの竜雷!』



― バチッ……ドッシャアアアアアアアアアアン!



「うぉっ!?」

『きゃっ!』



真っ黒な落雷が俺達を直撃!


ちくしょう油断した。


ブレスにばかり気がいって、ヤツの魔法に対して警戒が疎かになっちまった!



「うわあああああああああああああああああああ!!!!」

「きゃああああああああああああああああああああ!!!」



俺とシャロンは雷圧に押されて地上に激突!


幸い聖女の歌の効果なのか、致命傷にはならなかった。


しかし落下の衝撃で全身が動かねぇ!


身体がジンジンしてソーサリーストックが発動しねぇ!



「止まれええええええええええええええ!!!」



ユリウスが牽制の炎斬波を放ち、アパーカレスを止めようとするが……



『勇者よ、そんな手を抜いた炎斬波など、我に通用するとでも思っているのか!』



アパーカレスはユリウスの炎斬波などお構いなしに踵を上げた。


この野郎、俺とシャロンを踏みつぶす気か!



『調子に乗りすぎたなケンツ!これで終わりだ。シャロン、残念だ。恨んでくれてかまわぬ』



― グオッ!



上がった踵が俺達目掛けて降って来る!


今度こそもう駄目だ!完全に詰んだ!



「シャロン、すまねえ!来世こそは幸せなろう!」

『ケンツ、私は今でも幸せよ!幸せだったから!』



俺達はお互い手を握り、そして覚悟を決めてきつく目を瞑った。



はぁ、結局シャロンを助ける事は出来なかったな……


キュイもキリスも、そしてバークも助けられなかった……


ユリウス、アリサ、おまえ等の手に負える相手ではないのは分かっちゃいるが、後の事は宜しく頼んだぜ。


俺達は十分戦った。もう休ませて貰うわ。



……………………

……………………

……………………

……………………


ん?


……………………

……………………


あれ、おかしいな?


……………………

……………………


いつまで経ってもプチッとされねーぞ?


……………………

……………………


俺はうっすら目を開けると、すぐ目の前にデカい壁が。


なんだこれ!?



「ケンツ、シャロンさん、何してるの!早く逃げるのよ!」



地面と壁の隙間から、アリサが地面をバンバン叩きながら必死に呼びかけている!


デカい壁だと思ったのはアパーカレスの足の裏か!


それが俺達の目の前50センチ程のところで、プルプルと痙攣させながら止まっている!



『なんだ?脚が動かぬ!?』



一方、アパーカレスは俺達を踏みつぶそうとして、かかとを上げたまま固まっていた。



『ケンツ、早く!』

「え?あ……おおう!」



俺とシャロンは狭い隙間をゴロゴロと転がりながら脱出。



― ズシーンッ!



そして俺達がヤツの足裏から抜け出た瞬間、踵が物凄い地響きをたてて降りた。



「おいおい、これは……」

『きっと私達の声がバークに届いたんだわ!バークさんは目覚めかけているのよ!』



バークが目覚めかけているだと!?



「そうか、ようやく……」



ふふ…………ふはははは!


ほら見ろ!


やっぱり今更じゃなかったろ。シバキ合うばかりが解決法じゃないんだぜ!


問題解決には暴力じゃなくて、やっぱり話し合いが一番だよなぁ。うんうん。



『ぐうううう、身体が重い……まさか、本当にバークが邪魔をしているのか!?』



まさかの事態にアパーカレスは明らかに動揺している。


そりゃそうだろう、このまま身体の支配権がバークに移れば、アパーカレスは終わったも同然だ。


さあバーク、今こそ根性見せてみろ!



『(うう……ケンツさん……シャロンさん……僕はいったい……)』


「おっ!?」

『ケンツ、今確かに!』



間違いない、バークの声だ、バークの意思だ!


この野郎、やっと完全に目覚めやがったか!






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今回で決着の予定が、なんかスンゲー長くなったので二分割しました。


次回、いよいよケンツとアパーカレスとの戦いに決着です!

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