128 第四十五話 終局面 02 【犠牲と選択】
「な、なんだ!?」
「おい、あいつデカくなったんじゃないか?」
ユリウスとヒロキの言った通り、アパーカレスの身体は二周り以上大きくなっている!
アパーカレスは、アリサが放った聖属の力を全て吸収。より力を増してしまった!
『グフフフ……さすが聖女、極上の聖属の力であるな。さあ聖女の魔力をもっと我に放て!全て喰らってくれようぞ!』
アパーカレスは、アリサを美味そうなゴチソウに見えているのだろうか。目を細めて舌なめずりした。
「アリサ、おまえ……」
「ご、ごめんなさい!ついうっかり……」
「うっかりで人族が滅亡の危機に……」
「言わないで!だって、痛かったんだもん!」
非難のジト目でチクチク責めるユリウス。
アリサはバツ悪そうに頭を抱えた。
― ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
さっきまで全長30メートル強くらいだったアパーカレスだが、今は全長50メートルを超え、体高も30メートルくらいある。
おいおい、ダンジョンで見たアパーカレスは20メートルも無かったってのに、なんなんだよ、この出鱈目な巨大さは!?
もうこれドラゴンというより怪獣じゃん。こんなもん一個人が倒すなんて無理じゃねーか?
国に丸投げして軍隊に任せる案件だよな?
などとブツブツしていたら――
― ブオッ!
増強巨大化したアパーカレスが、これまた巨大な尾を振り回す!
「あ、あぶねえ!」
豪快な風切り音と衝撃波が、闘技場内を不気味に奏で響く。
こりゃ地上にいちゃダメだ、何も出来ないままに終わっちまう。
いつかプチっと潰されちまうぞ!
「
―バシュッ!
俺は堪らず飛空魔法を使い空中へ。
高機動飛翔魔法〈
いくら力が増したとしても、テメーに黒魔石って弱点がある限り攻めようがあるんだぜ!
―バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!ビュン!
俺に続けとばかりにユリウス、アリサ、ヒロキ、アカリも〈
ミヤビも
さらには――
『ドラゴンウイング!』
― バシュッ!ズボッ! バッサ、バッサ、
シャロンの背中が盛り上がり、ドラゴンの翼が服を突き破って飛び出した!
さらにはお尻から太い尾がニョキっと突き出し、翼を羽ばたたさせ空へ躍り出た!
「ひいいいいい、シャロンがどんどん人間離れしていく~~~~!」
もう俺、泣きそう!
これってもしや、アパーカレスが完全復活した影響なのか?
それともアリサがさらに力を付けさせたせい?
顔の輪郭はまだ人間のままだから美人ドラゴン娘って感じだけど、このままじゃいずれドラゴン顔になっちまうかもしれねえ。そうなる前になんとかしないと!
「よーし、スピードで翻弄してやつの懐に入ってやる!」
俺達は牛にたかるアブのようにアパーカレスにまとわりつこうとした。
そして胸の黒魔石に一撃を加えようとするも……
「なんてこった、アパーカレスが巨大になりすぎたせいで、ちっぽけな黒魔石の位置なんか全然分からねえぞ!?」
唯一の弱点である黒魔石がどこにあるのか見えねえ!わからねえ!
しかもこのアパーカレス、巨大化したにもかかわらず、とんでもなく素早い!
胸の何処かにあるであろう黒魔石を探すのに集中していると、危うく手で叩かれそうになる!
『うっとおしいぞ、人間どもめぇぇ!』
― ブボボボボオオオオオオオオオオオオオオ!
アパーカレスの口の周りが黒々としたかと思うと、まるで殺虫剤を撒くかのように
「瘴気のブレスか!?」
「吸い込んじゃだめ、肺をやられるわ.!」
ユリウスとアリサの悲鳴のような声が飛び、全員慌ててアパーカレスから距離を置く。
ちくしょう、俺達は
だったら……
「おいおまえら、制空権を取るんだ!アパーカレスの頭上に出るぞ!」
制空権を取ってヤツの直上から総攻撃だ!
ダメージを与えてから黒魔石を見つけ出して破壊してやるぜ。
俺の支持で全員がアパーカレスの頭上に上がる!
そして各々が地上のアパーカレスに向かって一斉攻撃!
「ノーマル斬撃飛ばし!」(ユリウス)
「
「
「
「
『
「
― ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
其々がアパーカレスに対して有効と思われる剣技・魔法・気功波を放つ!
しかし一斉攻撃がヒットする直前――
― キュイイイイイイイン……シュン!
地上のアパーカレスの姿が揺らいだかと思うと、その巨体が瞬時に消えた!
― ボッカアアアアアアアアン!
俺達が放った技は、そのまま闘場の地面に激突し、濛々と砂塵を巻き上げた。
「なんだ、命中する瞬間にヤツの姿が消えたぞ!?」
キョロキョロと地上を探すも、もうもうとした砂塵に視界を遮られ状況がよくわからねぇ。
クソ、いったいどこに行きやがった!この闘場を覆う砂塵の中に必ずいるはずだ!
いったいどこに…………え?
― フワッ……
刹那、巨大な何かが日の光を遮った。
「まさか!?」
俺達は一斉に頭上を見上げた。
そこには威風堂々、太陽を背にして巨大な翼を広げ、今まさに
「な、なんで俺達の真上にいるんだ!?」
― ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
アパーカレスの巨大な口から紅黒い灼熱の炎が放たれる!
「やばい、
― キンッ!
俺は咄嗟にアリサの聖女魔法、
だが本当に咄嗟だったため、仲間全体をカバーしきれていねえ!
「うわあああああああああ!」
「きゃあああああああああ!」
「ひいいいいいいいいいい!」
ちくしょう、誰かが被弾した!
いったい誰がやられたんだ!?
砂塵はアパーカレスの
無事なのはユリウスとアリサ、それにシャロンだけか!?
「他はどうなった?……あっ!?」
気付くのが僅かに遅れた誰かが煙を纏い地上へ墜ちていく。
「ヒロキ!アカリ!ミヤビさん!」
被弾を免れたアリサが慌てて落下した三人を追って地上に向かった。
それにしてもアパーカレスは何をやったんだ!?
まるで縮地を使ったかのように、地上から俺達の上空へと瞬間移動しやがったぞ!?
「竜族の使う瞬間移動術のようだな。まさか竜体になっても使えるとは思わなかったぜ。ケンツ、油断するな!」
瞬間移動術だって?
あれか、人型形態の時に俺を翻弄させたやつか!
あんな巨体が瞬間移動するのかよ。信じられねえぜ!
「なら、瞬間移動なんか出来なくなるくらい弱体化してやる。
― ズオオオオオッ!
俺はアパーカレスから吸引した
ジワリと黒き波動がアパーカレスに浸透していく!
だが、アパーカレスはまるで弱体化した様子が無い。
『無駄だ。
― キュイイイイイイイン……シュン!
― キュイイイイイイイン……シュン!
― キュイイイイイイイン……シュン!
「また消えた!どこだ?」
『後ろ!いえ、今度は上!?』
「信じられん、あの巨体で連続瞬間移動するとは」
俺達の周りを巨体が現れては消え翻弄される!
「地上の三人は治癒させたわ。でも呪詛にやられてしばらく戦力にならない……て、えええ!?」
アリサが被弾した三人の治癒・回復を終え戻ってきた。
だが戻るが否や、アリサもアパーカレスの瞬間移動術に翻弄される。
しかし呪詛だと?
あの
ちらり――
地上の三人に目を向けると、悔しそうな顔でこちらを見上げている。
どうやら呪詛で飛空魔法が使えなくなっているらしいな。
いや、アパーカレスのブレスを受ければ、魔法そのものが使えなくなるのかもしれねぇ。
「まさかあいつらが戦闘不能になるとは……」
俺の横から同じく三人を確認したユリウスは険しい顔をした。
彼ら三人のリタイアは、ユリウスにはかなり衝撃的だったようだ。
そのユリウスが現状で打てる最善手(?)を提案してきた。だがそれは、俺にとっては避けたい一手だ。
「ケンツ、これはもう駄目だ。バンバラ様から授かった対邪竜魔法を使うしかない!」
大賢者バンバラが
これを使えばアパーカレスをいくらか弱体化できるかもしれねぇ。
しかし時空系魔法の傷ってのは、アリサの聖属魔法
つまり、この魔法を使いその結果戦いに勝てたとしても、バークは治療出来ずに確実に命を落とす!
「待ってくれ、他に何か方法が……」
「一時しのぎでいいのなら、俺とアリサの全力の一撃でアパーカレスの首を斬り落とし、一瞬にして塵にすることが出来る」
え、そうなの?じゃあ早くやってくれよ!
いやまて、それだとバークはやっぱり死ぬんじゃ?
「だが数日すれば、今の何倍もの力を得て復活するぞ」
「ダメじゃねーか!」
「しかし時間を稼いで改めて対策を練る事は出来る」
いやいやいやいや、
今の何倍もの力を得て復活とか、そんな事になったら全く手に負えなくなるわ。
残念だがバークは諦めるしかないのか?
だけど、そうなったらキュイとキリスは悲しむだろうなぁ……
俺、絶対にキュイとキリスに恨まれちまうぜ。
それに俺自身、当分鬱になっちまう。
だけど今打てる手は、
《対邪竜魔法を使ってバークを見殺しにする》
《悪化覚悟で問題を数日先送りする》
この二択。
「ケンツさん、バンバラ様の魔法を使えるのはケンツさんだけです。苦しい選択なのは理解しています。それでもどうか決断してほしい!」
アリサは同情しながらも、俺に決断を促した。
ちくしょう、やっぱりバンバラの願いなんか受けるんじゃなかったぜ!
なんで一介の冒険者の俺がリットールを守るために、いや人族を守るために、誰かを犠牲にするなんて重い決断を任されなきゃならないんだよ!
おまけにどう転んでも結果は全然よくねーし!
ふんっ!
いやだね、俺はどっちの選択もしねえ!
俺は普通の冒険者だぜ!
冒険者は仲間を犠牲にするようなマネは絶対にしねーんだよ!
いやまあ、バークは仲間じゃ無くてむしろ敵だけどよぅ。
だけどあいつを犠牲にするってのはどう考えても違うぜ。
あいつは敵で加害者のようだけど、実は被害者だぞ!
被害者をさらに叩いて犠牲者にするとかおかしいだろ!
そんな理不尽な犠牲を強いる選択なんか誰がしてやるもんかい!
「どっちの選択肢も却下だ。俺の選択肢は別にある!」
『ケンツのいう通りです。選択肢は他にもあるわ!』
俺に続き、シャロンも別の選択肢の存在を示唆した。
さすがシャロン。思いついたか。
ユリウスとアリサは他に選択肢があると聞いて目を丸くして驚いた。
「聞こう」
「どんな選択肢があるの?」
「それはな……」
ユリウス、アリサ、正面から戦うばかりが選択肢じゃないんだぜ。
俺とシャロンの選択肢、それは……
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