127 第四十五話 終局面 01 【同化と増力】 



「な、なんだ!?人が振って来たぞ」



突然の事に、俺達は総攻撃を躊躇っちまった。


いったい誰だ?


なんか血まみれで虫の息のようだが??



「ケンツ、そいつはこの前アリサとアカリを襲おうとした奴だ!」

「私達の敵よ!」



ヒロキとアカリが緊張を高め警告した。



「なんだと、こいつが!?」



遥か上空でユリウスとアリサが戦っていた相手……


そしてアリサから聞いていたダゴンとか言う邪竜族の男か!


では、あの二人にやられて墜ちてきたわけか。


それにしてもこの有様、もう虫の息だな。この分じゃすぐに死ぬぞ。



ん、まてよ。ユリウスとアリサは何で降りてこないんだ?



ジゴブレイク勇者の雷斬!」

マジョレーション変調式ストライバー絶対障壁!」



― バリバリバリ、ドッシャアアアアアアアン!

― キュイイイイイイイイイイン……キンッ!キンッ!



俺は上空を見上げると、二人は別の敵を戦っていた。


なんだ?いったい何と戦っているんだ?かなりガチでやりあっているようだが……


あいつら以上の強敵なんてそうそういるもんじゃねーぞ!?


俺は上空のユリウスとアリサを心配しながらも、すぐ意識を目の前の男ダゴンとアパーカレスに切り替えた。




『何をしている……早く我を……同化……せぬか……』


『出来ない……』


『躊躇うな……我が生きている内に……頼む!』


『わかった……』



邪竜アパーカレスは手を伸ばし、ダゴンの胸元に手を伸ばした。



『そう……それでよいのだ……』



ダゴンはそう言うと、満足そうに目を閉じた。




なんだ、こいつら何をしようとしているんだ?


同化吸収だと?


とんでもなく嫌な予感がして、ラーズソード滅ぼしの剣を振り上げたのだが……



「ケンツ、そこをどけ!」


「えっ!?」


風鳴かざなり十字斬撃じゅうじざんげき!」



 ―ボォシュッ!



俺以上に何かヤバイものを感じたのか、ヒロキが唐突に斬撃波を繰り出した!



氷華斬撃ひょうかざんげき!」

ツェアシュテールング破壊・消滅



―バシュッ!

―ビュリュウ!



ついでアカリとミヤビも斬撃波と魔法を放つ!


それらが全てアパーカレスにクリーンヒット!


衝撃波が走り、濛々と粉塵が上がる。



「いきなりですまん、とんでもなく嫌な気配を感じて先走っちまった」



ヒロキは緊張したまま謝罪した。


アカリもミヤビもまだ緊張を解かない。


三人は巨大な粉塵を前に、戦闘態勢を維持したまま凝視している。


かく言う俺も、そしてシャロンも、ただならぬ気配を感じ、前方の粉塵から目を離させないでいた。



「むっ!?」



視界を遮る粉塵の奥で、確実に何か良くない動きがある!


俺はそう感じた。



「粉塵の中に何かいるぞ!」

「皆、逃げて!」



上空での戦闘を終えたユリウスとアリサが俺達に向かって叫んだ。


刹那、粉塵の中から巨大な炎が走った!



― ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!



「これは魔法じゃねえ、炎のブレスか!?みんな避けろ!」



俺達は其々四散して、間一髪で炎のブレスを躱した。


そして粉塵の中から禍々しいなオーラを発しながら現れたのは、一体の巨大な黒きドラゴン!


まさか、あれは……



「同化ってそういう事かよ!」



俺は、さっき言葉を交し合っていたアパーカレスとダゴンのキーワード、〈同化〉の意味を超速理解した。


目の前の黒いドラゴンは500年前に大賢者バンバラと戦った相手、竜化した邪竜アパーカレスに違いねえ!



「その禍々しい姿、覚えているぜ。てめえ、邪竜族の男を糧にして完全復活しやがったな!?」


『糧……そうだ。我は創造主ダゴンを糧にして復活したのだ。だが、こんな形の完全復活など……我は望んではいなかった!』



竜体となったアパーカレスは、眉間に深くシワをつくり、ギロリと俺達を睨んだ。



『よくも我に、創造主ダゴンを糧にするマネをさせてくれたな。キサマ達、絶対に許さんぞ!』



― ガオオオオオオオオオオオオオオオウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!



「うぉっ!?」(ケンツ)

「きゃあっ!」(シャロン)

「くっ……」(アリサ)

「ぬぅ……」(ユリウス)

「ひゃあ!」(ミヤビ)

「おわっ!」(ヒロキ)

「あひい!」(アカリ)



邪竜の咆哮!


なんつー咆圧だ、これがマジもんのドラゴンの波動ってやつか!


一瞬だが全員が威圧されちまった。


それになんて巨体ずーたいだよ、全長は30メートルを優に超えてやがるぜ!


なんで人間サイズだったやつが、こんなに巨大になってんだ!


しかも俺達が与えたダメージも完全に無くなってやがるみたいだぜ。


パワーだってそうだ。さっきまでとは桁違いに凄いのを感じる。パワーバランスがまた逆転されちまったぜ。


こんなヤツ、向かい合っているだけで小便ちびりそうだ!



「ミヤビ、こいつにはやはり聖属の力は使えないのか?」


「はい、使えばアパーカレスを強化させてしまうだけです!」


「ぐぐ、そうか」



ユリウスの問いに、ミヤビは顔を青くしながら答えた。


あのミヤビがビビるのか。


いやそれより、聖属の力が使えないってことは、ユリウスもアリサもヒロキもアカリも、相変わらず全力では戦えないってことかよ。




『ケンツよ、そして人間共よ、我アパーカレスは全人族に対して宣言する。我の眷属以外、全ての人間を抹殺して地上を浄化する。さあ人間共よ、生きる者の務めとして全力で抵抗して見せよ!』



― ガオオオオオオオオオオオオオオオウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!



また邪竜の咆哮!


くっそー、こいつ完全復活したらメチャメチャ強気になりやがって!


だがこんなトカゲの親玉みたいなやつに気合負けして堪るかよ!



「人間を舐めてんじゃねーぞ!抹殺して地上を浄化だぁ?そんな事は絶対にさせねぇ!俺とシャロンが幸せな生活を送るために、テメーの野望を断じて阻止してやるぜ!」



いつの間にか観客の避難もすでに完了し、広い闘技場コロシアムには俺達だけだ。


思いっきりやってやるぜ!



― ブンッ!



「おわっ!?」



とか思っていたら、アパーカレスのテイルアタック竜尾の一撃


凄まじい衝撃波を発生させながら、巨大なドラゴンの尾が俺達を薙ぎ払いにかかった!



― ズガガーーーン!



仲間達は食らってたまるかとばかりに四散して避ける!


だが、俺とアリサは剣を盾代わりにして防いだ!



― バチーンッ! ベシャッ!



しかし二人とも闘場の反対側まで吹き飛ばされ、石壁に全身を叩きつけられてしまった。



「ぐはっ!いでええええ……ちょっと尻尾しっぽを振っただけでこの威力かよ!?」



俺は残り少なくなったアリサの回復魔法、セイクリッドヒール完全回復を使い回復。


一方、アリサは――



「いたたたた……よくもやってくれたわね!」



アリサは痛がりながらもほとんど無傷。こいつ、なんて頑丈なんだよ!?


そのうえ激昂して即座に反撃、完全に頭に血が昇っている!



「よせ、アリサ!」



俺が慌てて止めようとするも遅かった。



雷帝彗星斬らいていすいせいざん!」



―バリバリバリ、ドッシャアアアアアアアアアアゴオオオオオオオオオン!



アリサ最大の剣技、雷帝彗星斬がアパーカレスに放たれた!


聖属と雷属の魔力がたっぷりと乗せられた雷斬波が、アパーカレスを一刀両断にかかる!



― ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!



アパーカレスの悲鳴!?


もしや、聖属の力を糧にされる前に屠る事に成功したのか?


じゃあ、これで勝ったのか!?



バチバチとアパーカレスの全身がスパークし、誰もがこのままアパーカレスが倒れてくれるのではないかと期待した。


だがそれは都合のよい希望でしかなかった。



― グンッ!ズオオオオオオオオオオオォォォォォ…………



「な、なんだ!?」

「おい、あいつデカくなったんじゃないか?」



ユリウスとヒロキの言った通り、アパーカレスの身体は二回り以上大きくなっている!



「やはり糧にされてしまったか!」



ユリウスは変貌するアパーカレスに息を飲んだ。


やはりアパーカレスはアリサが放った聖属の力を全て吸収してしまった。


その結果、もう誰の手にも負えないくらいアパーカレスは力を増したのだった!

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