126 第四十四話 ユリウス・アリサvsダゴン

(今回はユリウス、アリサ、邪竜族の男ダゴンの戦いの様子)




◆ケンツ達の上空400メートル付近 

 


ユリウスとアリサは、妙なプレッシャーをヒシヒシと感じつつ、飛空魔法を使い邪竜族の男ダゴンと戦っていた。


ダゴンは邪竜アパーカレスを創造し、アパーカレスと共に500年前に猛威を振るった邪竜族最後の男である。


そのダゴンは、ユリウスとアリサを相手に予想外の大苦戦。そのうえ下方地上にてアパーカレスがやはり予想外の大苦戦を強いられている事に苦々しい顔をしていた。



「でええええええい!!」



― ブンッ!ザンッ!ガキンッ!



ユリウスの手にはアリサの持つ聖剣と酷似した聖剣が握られ、その姿はアリサ同様に白銀の鎧褒賞の鎧に包まれていた。



「流星斬!」

「彗星斬!」



敵を果敢に攻めるユリウスとアリサ。


そのユリウスとアリサの斬撃を、ダゴンは大剣を持ってして防いでいる。



『ぬぅ…………キサマ達、その強さはなんなのだ!?』



ダゴンを始めとして竜族の戦士は、その一人一人が全て人外級の強さを誇る。


そしてダゴンの強さは召喚勇者を遥かに凌ぎ、真正勇者に近い程の実力がある。


にもかかわらず、ダゴンは目の前の二人には攻めあぐねていた。


アリサは聖女にもかかわらず剣を振るい戦い慣れている。


しかし、こと戦闘においては、所詮聖女は勇者のサポート的存在であり、その戦闘力はどんなに強くとも人外級の入口程度だと思っていた。


実際過去二回アリサと対戦した時(政都の帰りと強姦未遂事件の時)も強い事は強いとは思っていたが、本気でやりあって苦戦するほどとは思いもしなかった。


しかし目の前の聖女アリサは予想以上にとんでもなく強かったのだ!



さらには無属性と思われた謎の剣士ユリウス。


ユリウスは戦闘早々に様相を変え挑んできた。


その力は明らかにダゴン上回っているように思える。



「なんなのだって言われてもな。俺だってここまで過剰な力なんか欲しくなかったぜ。それよりダゴンと言ったか、もう降参しろ」


『降参だと?』


「そうだ。俺はアンタと邪竜アパーカレスの討伐をバンバラ様から頼まれた。アリサに手を出そうとした件ではぶっとばしたい気持ちで一杯だが、それはもう堪えてやる。大人しく降参してアンタ達竜族の故郷、中央大森林の霊山に帰れ。そして竜族同族達の裁き受けろ。そうすれば討伐しないでやる」



ユリウス、まさかの降伏勧告。


邪竜族を名のってはいても、元は竜族と袂を別れた一派だとユリウスは推測した。


そして竜族であるのなら意思疎通が可能であり、話し合いによる決着も用意する必要があると思ったのだ。


何しろダゴンの背後がどうなっているのか不明な事もあり、段階を踏まない竜族の討伐は、ヘタを打てば全竜族を相手に最悪な方向へ向かう可能性がある。



『笑止。何を言うかと思えば……我は竜族の友とは700年も前に袂を別れておるのだ。彼らに我を裁く事は出来ぬ!』


「そうか。では降参する気はないのだな?」


『当然である!むしろ降参して裁きを受けるのはおまえ達人族ヒトゾクの方だ!』



ユリウスの提案は当然の如く拒絶された。それどころか逆に降参を圧されてしまった。



「500年だか700年だか知らないけれど、あなたが降参する気が無い事だけはわかったわ。命を奪うなんてこと本当にしたくはないけれど、もう仕方ないわね」



― チャキッ……



そう言ってアリサは聖剣を強く握りなおした。



『たしかアリサと言ったか。図に乗るなよ。少しばかり手練れのようだが、たかだか聖女に屠られる程、我は甘くはないぞ!』



― ボシュウッ!



ダゴンは禍々しい怨嗟のオーラを噴出、合わせて力が増大していくのをヒリヒリを感じさせられる!



『一瞬で終わりにしくれる!』



ダゴンは大剣を片手で振り上げ、ユリウスとアリサを屠りにかかった!


だがその結果は、ダゴンの思った結果にはならなかった。



5分後――



『バカな!なぜ力が及ばぬ!?』



空気を大きく震わすほどの激しい戦いが繰り広げられたあと、軍配はユリウスとアリサに上がった。



ダゴンは竜族の再生力も追い付かない程にユリウスとアリサから大ダメージを受けていた。



『おのれ、我にここまでのダメージを負わす人間など…………何故たかが人間が……!』



アリサの尋常ではない強さはもちろん、ダゴンはユリウスの強さにも改めて驚愕した。


本気の本気を出せば余裕で勝てると踏んでいたダゴンだったが、まるで歯が立たなかったのだ。



「それについては謝る。俺はただの人間じゃないんだよ」


『なんだと!?』


「俺は野良勇者なのさ」



― ボンッ!



『 ! 』



ユリウスはそう言うと、今までずっと抑えていた聖属の力を解放した。


凄まじい程の聖圧がダゴンを圧倒する!



野良勇者とは――

女神テラリュームより勇者の祝福ギフトまでは受けたものの、その使命・役割たる神託をまだ受けていない勇者の事だ。


そして、力量的にダゴンはどうやっても本物の勇者には勝つことは出来ない。



「アンタが警戒して姿を現さない可能性があったからな。ずっと正体を隠していたんだよ」



ユリウスが勇者だと名乗れば、ダゴンは決して表には出てこない。


それどころか邪竜アパーカレスも慎重となり、リットールから去り別の地にて復活を目指したかもしれない。


そういった懸念もあり、ユリウスは大賢者バンバラの霊より正体を隠すようにと念押しされていたのだ。



『こうなったら……せめてその聖女だけでも屠ってアパーカレスの糧にしてくれる!』



ダゴンは斬死覚悟でターゲットをアリサ一本に切り替えた。


聖女であるアリサを半殺しにして、地上で苦戦しているアパーカレスに糧として与えれば、アパーカレスは本来の力を取り戻せる――


――そう思ったのだが、ユリウスの次に放った言葉にダゴンは愕然とした。



「それはやめた方がいいぞ。アリサは聖女だが、その力は勇者である俺を遥かに超えている。どうやってもアンタに勝ち目はない」


『なっ!?』



ダゴンは驚き大きく目を見開いた。そして改めてアリサを凝視した。



過剰身体強化オーバードライブ20倍……」



― ボフゥッ!



そのアリサは瞬間的に身体強化20倍を発動させた。


聖属の力が一気に爆発してダゴンを威圧する!



『聖女がこれほどの力を!?そ、そんなバカな!』



ここに来て、ダゴンは自分に勝機が一切ない事を悟った。




その一方、アリサは――



「(今度こそ、今度こそ間違いないわ!ユリウスさんの正体は完全にユーシスよ!)」



アリサの確信した通り、ユリウスの正体はアリサの想い人であるユーシス!


しかし、まだユリウスは自分がユーシスだと名乗ってはいない。


だが、アリサはユリウスの姿と戦いぶりを見て、今度こそ疑うことなく確信した。


試合で戦った時以上にユリウスの剣筋はユーシスそのものだし、今放った聖属のオーラも懐かしいユーシスのものだ。


纏っている鎧と握っている剣は、ユーシスが纏い振るっていた鎧と聖剣と全く同じもの。


しかも自分が野良勇者であることをカミングアウトし、ユーシスの剣技である【流星斬】まで披露した。


さらにはアリサの力量についても、自分がユーシスでなければ発せられない言い方をした。


つまりユリウスは間違いなくユーシスであり、しかもユーシスは最早もはや自分の正体を隠す気は無いようだ。


きっとアリサが「ユーシスだよね?」と訊けば、あっさりとイエスと言うのだろう。


正体をずっと隠している理由も聞いた。仕方のない事だったのかもしれないし、正体を隠していたユーシス自身もきっと辛かったことを容易に想像できる。


しかし、それでも、やっぱり――



「なによ!なによ!なによ!私が今までどんな思いで……何度寂しくて眠れない夜を送ったと思ってるのよぉぉぉぉ!」



― ゴゴゴゴゴゴゴ……



アリサは大きな喜びが沸き上がると同時に、これまた凄まじい怒気を沸々とさせる!



「ダゴンさんでしたっけ。降参しないのなら不本意ではあるけれど屠らせてもらうわ。それとユリウス・・・・さんには後でたっぷりとお話があるから」



アリサはニッコリと怒気を込めた笑顔をユリウスに向け、ドスの聞いた声でユーシスではなくわざわざユリウスと呼んだ。



「え、アリサ?」


「たっぷりとお話があるから。勇者のユリウス・・・・さん♪」


「あ、はい………」



ユリウスユーシスは完全にアリサの怒気に気圧され消沈。逃げるように意識をダゴンに戻した。







『想定外だ、この国の真正勇者は出払っていたと聞いておったのに野良勇者!?しかも勇者以上の力を持つ聖女だと!?』



このままでは最悪の結末を迎えてしまう。負けを悟ったダゴンは地上の邪竜アパーカレスに念波を送る。



『(聞こえるかアパーカレス!)』


『(ダゴン様か!?)』


『(聞け、もはやこの状況、我らに勝機は無し。これから我も地上に降りる。降りたら速やかに我を同化吸収するのだ。いいな!)』


『( !? )』


『(返事は!)』


『(命令のままに……)』


『(それでいい。同化したあとは全力でこの地から離脱するのだ、いいな)』


『(…………)』



アパーカレスからの返事は無かったが、ダゴンは了承したものと受け取った。


そしてスウッっと一呼吸してから大剣を構えユリウスとアリサに向かって突撃した!



『死ねい、女神の使徒どもぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』



その突撃してくるダゴンに対し、ユリウスとアリサのカウンタースラッシュが一閃!



「 炎 獄 流 星 斬 !」

「 雷 帝 彗 星 斬 !」



― ドギャッアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!ズッシャアアアアアアアアアアア!



『うぐがあああああああああああああああああああ!!!!』



ユリウスとアリサの最大奥義の合わせ技!


炎と雷の斬撃波は巨大な雷炎流の竜巻を発生させ、ダゴンを一気に飲み込み屠り去った!



「やったか!?」

「手ごたえはあったわ。あそこを見て!」



アリサの指さす方向には、もはや竜族の再生力も発動しない程にダメージを負い、重力に抵抗できずに落下していくダゴンの姿があった。



「アリサ、まだだぞ!」

「ええ、わかってる!」



しかしユリウスとアリサは動けない。ただならぬプレッシャーに二人は互いに背中を合わせ、臨戦態勢を保っていた。



“パチパチパチパチ”



ふいに手を叩く音が聞こえ頭上を見上げると、そこには三人の女性らしき者が拍手をしながらユリウスとアリサの戦いぶりを称えていた。



「竜族を相手に圧勝するとは流石です」

「邪竜の黒魔石はやはり欠陥品でしたね。あのポーターは使いこなすどころか身体を乗っ取られてしまった」



三人のうち二人の顔を確認してギョッとするユリウスとアリサ。



「バカな、おまえ達は!?」

「有り得ない、あなた達は死んだはず!」



ユリウスとアリサを驚かせた二人の女。


この二人こそ邪竜アパーカレスを黒魔石化してバークの胸に埋め込んだ女達!


そしてユリウスとアリサにとっては、ユリウスがリットールに飛ばされる少し前に、激闘の末に屠り去った宿敵!


さらにはユリウスを転移トラップにて片腕を喪失させ、そのままリットールに飛ばした張本人なのである!



その後、ユリウスとアリサはこの三人と交戦!


しかしてきとうにあしらわれた挙句、まんまと逃げられてしまった。





*





◆地上コロシアム




『忌まわしい人間め……うっ?』



邪竜アパーカレスにダゴンの念波が届き、その内容の悲痛さに驚いた表情に変わった。


刹那!



― ドッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!



轟音とともに、ケンツ達とアパーカレスの間にボロボロになったダゴンが墜ちてきた。




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