120 第四十三話 決戦!ケンツvsアパーカレス 03 【反撃】 


『我に全く歯が立たなかったおまえが、今さらどうやって戦うというのだ。我も弱い者イジメはあまりしたく無いのだがな?』



どうやってだと?


例えばこうやるんだよ!



― シュルリ



俺はラーズソード滅ぼしの剣に括られていた【紅い紐封印】を解いた。



途端にラーズソード滅ぼしの剣から、バチバチと紅く激しい雷のような閃光が走る!



『むむっ!?』



それを見たアパーカレスの脳内に、500年前の出来事がフラッシュバックした。



アパーカレスめ、剣の素性に気付いて驚いてやがるな?


ユリウスから聞いた説明によると……


このラーズソード滅ぼしの剣は人間が作り出した究極の一振りであり、元々は500年前の英雄ガンツが所有していた剣だ。


当時ガンツはこの剣を携え、大賢者バンバラと共に邪竜アパーカレスの討伐に向かった。


しかし残念ながら、アパーカレスをかなり追い詰めた所で邪竜族の介入を許し、ガンツは命を落としたそうだ。


ガンツが死んだことでアパーカレスを滅殺する手段を失い、バンバラは討伐ではなく封印に切り替えたとのことだ。


ちなみに英雄ガンツは俺の御先祖様ってわけじゃ無いみたいだぜ。



『まさか……本当にラーズソード滅ぼしの剣なのか!?だがケンツよ、いかに剣が優れていようとも、扱う人間がおまえではな』



アパーカレスはそう言ってせせら笑った。


この野郎、完全に俺を格下扱いしやがって!


“余裕しゃくしゃく”って感じだな。だがすぐにその笑みを消してやるぜ。


試合は終わり、ここからは何でもアリの邪竜討伐だ。


ルールなんてものは存在しない。


試合じゃ使えなかった封じ手を、遠慮なく使っていくぜ!




「いくぞ!」



― ドンッ! ゴッ!



バークと戦っていた時とは全く次元の異なる踏み込み!


瞬時に斬撃の間合に飛び込む!




『うぉっ!?』



アパーカレスの顔色が変わった。


そりゃそうだろうな、今の俺はさっきフルボッコにされた俺とはまた別物だぜ!


パワーとスピードはさらに高レベルの人外級に及んでいるんだ。



―キンッ!ガキンッ!ズシャッ!ギュリリリリン!……ザンッ!



『グフッ!?』


「おらおら、さっきの余裕の表情はどうした!」



 ―ブオン!バシュッ!ザンッ!シュリリリリン!



俺の剣技はアパーカレスを完全に圧倒し、徐々になます斬りにしていく!


しかし忌々しい事に、邪竜には超回復能力があるのか、斬った傷は数秒で治癒してしまい決定打になはならない。



「ならば魔法剣、ウインドセイバー裂刃の風斬!」



― シュババババババババ!シュバーーーン!



ほとんど溜めをせず魔法剣、ウインドセイバー裂刃の風斬を放つ!


しかし威力は十分に溜めて放ったウインドセイバー裂刃の風斬と同等……いや、それ以上だ!



― ザクッ! ブバッ!



『ぐおっ!?……おのれい!調子に乗りおって……ぐばはぁあああああああ!!!』


「魔法剣、グラビトンバッシュ重力子の圧斬!」



ジャンプ一番!


今度は直情より超重力の刃がアパーカレスを圧殺しにかかる!



『うぉおおおおおおお、こんなものおおおおおおおお!!!!』



しかしアパーカレスもこの程度では参らない。


全身に力を入れ、重力の刃に圧殺されないよう耐えている!



スワローフライ燕の飛翔!」



俺はそのまま飛空魔法で空中に制止。


制空権を握りそのまま魔法剣を乱撃!



「食らえ! 

 魔法剣、バーニングフォース爆熱の炎斬

 魔法剣、フラッシュセイバー煌めきの光斬

 魔法剣、サンダーブレイク破壊の雷斬



―ブオオオオオオオオ!

―シャギュウーーン!

―ガラガラドッシャーン!



『うごおおおおおおおおおおおおお!?』



荒れ狂う魔法斬撃波は確実にアパーカレスを弱らせている!


完全に押している!


しかし、押してはいるが、ヤツを止めるまでにはいたらない。



『なんだ?一体何が起きている?勇者でもない人間が、なぜここまでのパワーとスピードを出せる!?それにその姿は何だ!?』




驚くアパーカレスの様子に、俺はちょっぴり優越感に浸った。


そして、『その姿は何だ』――


アパーカレスが驚いた俺のさまとは……


俺は、全身を【金色の粒子】と【真赤な血霧】を纏い戦っていたのだ。



金色の粒子、これは聖女が魔法を発動する際に発生する独特の粒子だ。


聖女以外だと銀色の粒子になるか、粒子そのものが発生しねぇ。


つまり俺は、無限魔法貯蔵ソーサリーストックに大量に溜め込んでいるアリサの聖女魔法【セイクリッドヒール完全回復】を連続発動させているのさ。


回復効果は俺のヒールの比じゃないぜ!


なんせ身体欠損をも瞬時に治し、死んでも5分以内なら蘇らせるほどの超回復魔法だからな!



そして真赤な血霧は、過剰な身体強化による自己ダメージによるもの。


この身体強化も俺のものではなく、無限魔法貯蔵ソーサリーストックに溜め込んでいるアリサの【魔式過剰身体強化オーバードライブ】だ。


俺の過剰身体強化オーバードライブよりも、より高倍率の身体強化が可能だぜ!


ただその分、身体へのダメージは半端なく、皮下の毛細血管が破裂して全身から霧状の血を吹き出しているんだぜ。全身への激痛も耐えがたいものがある。


超高倍率身体強化による【常時身体崩壊】と、超回復魔法による【連続速身体回復】の繰り返し。


つまり俺は、【戦の聖女】が使う超反則的な身体強化術を使い、【必死の力】を遥かに超える力を発動しているのさ!


その倍率は今現在なんと15倍だ!


そこにラーズソード滅ぼしの剣の力も加わり、相乗効果によってアパーカレスを圧倒するほどの力を引き出しているのさ!



― ガキンッ!ギュバッ!



「どうだ、さっきとは違いちゃんと戦えているだろ!」


「むぐっ!こんなバカな、我がただの人間なんかに!」



よしよし、ヤツの攻撃は全て見えるぜ。十分対処できる!




「すえいっ!」



― ガキンッ!ギュルリンッ!



『うぐっ!ふはっ!うごおおっ!?』



アパーカレスは徐々に回復が追い付かなくなってきたらしく、見た目の傷が目立つようになってきた。


いいぞ、このまま続ければバンバラから授かった特殊スキルを使うまでも無く、アパーカレスを十分倒せる!


(元々、バンバラからソーサリーストックを譲渡されたとき、対アパーカレス用の魔法を幾つか仕込まれていたのだが、それを使う必要も無さそうだ)



『うぐぐぐ、人間め……だがその力、認めてやろうではないか』



別におまえに認めてほしくなんかねーよ。


しかし、余裕を含んだその言い方は少し気になるぜ。



「でりゃああああああああああ!」



―ゴッ!ブオッ!



直上より衝撃波を伴う袈裟斬り!


しかしアパーカレスはこれをギリギリ躱す!



『ふふふ、悪くない。悪くないぞ、その力……どうだ、我の眷属にならぬか?おまえなら“サブドラゴニュート亜竜人”として我の片腕が務まりそうだ』


サブドラゴニュート亜竜人だと?死んでもお断りだね。いいからもう降参しろ!」


『まあ聞け。眷属になれば“世界の半分”をおまえにやろうではないか。富も女もおまえの思うがままだぞ。どうだ?』



安く見られたもんだぜ。まさか懐柔してくるとはな。


返事はもちろんノーだぜ!



「世界なんていらねーし!俺はシャロンと幸せに暮らせれば、他の事は割とどーでもいいんだぜ!そういう悪魔のささやきみたいな事は為政者志望なヤツにでも言えってんだ!」



だいたい世界の半分とか、俺のポッケにはデカすぎるんだよ!


そもそも、こいつの目的は女神の使徒と人族を抹殺することだろう。


広いだけで人のいない世界なんかで暮らしたくないぜ!



『むぅ、おまえならこの話に飛びつくと思ったのだがな。見た目と違って欲の無い男よ。結局おまえもバークと同類であったか』



― ピクッ



あいつバークと一緒にするな!うおりゃあああああああ!!!」



アパーカレスの間合深くに入り込み、低姿勢から渾身の斬撃!



― ズザンッ!



『 !? 』



決まった!


アパーカレスの両腕が空を舞う!


よし、これは勝ったぜ!


あとは拷問にでもかけて、バークの身体からアパーカレスを叩き出してやる!



だが……


両腕を斬りおとされたアパーカレスだったが、その表情は苦しむどころかニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。


そしてアパーカレスの全身から放たれるモワリとした嫌な感じの黒き波動!



イビルデバフ邪竜の呪弱化!』



―ズオッ!!!!



「な、なんだ!?」



その黒き波動に一気に飲み込まれた!


ちくしょう、何かわからないが、斬撃の打ち放ちをモロに狙われたぜ!


こいつ、ワザと俺に斬らして誘い込みやがったな!


いったい何を放ちやがった!



『ふふふ、邪竜の呪魔法による弱体化デバフだ。どうだ、力が抜けていく感覚は?恐ろしいだろう!』


アパーカレスは腕の切り口から血管や神経がニュルニュルと伸び、斬り飛ばされた腕の切り口に接続、何事も無かったかのように腕は元通りにくっついた。



弱体化デバフだと!?


そういや邪竜はデバフを使うと聞かされていたっけ。


すっかり忘れていたぜ。



「わあ、しまったあ!ちからがぬけていくううううう」



― ガクリ……



俺は片膝を地に付けて蹲った。



「なんということだ、まったくちからがはいらない。これはもうだめだ、ころされてしまう」



力が抜け狼狽する俺の様子を見て、アパーカレスは目を細めて勝利を確信した。



『愚かなりケンツ。素直に我の眷属になっていればよいものを……』



アパーカレスの魔素の大剣がバチバチと黒きいかづちを纏い、さらに禍々しく変形した。


その魔素の大剣を、アパーカレスは高々と振り上げる。



『我に盾突いた罪は重いぞ。だが我は慈悲深くもあるのだ。シャロンは我のきさきとして大切に娶るゆえ、おまえは安心して冥界に逝くがよい!さあ死ね!』



そう言い放つと、アパーカレスは口元を歪めて魔素の剣を振り下ろした。

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