119 第四十三話 決戦!ケンツvsアパーカレス 02 【真実】


「こいつが……邪竜……アパーカレス……だと……!?」



この男が……アパーカレス!?


いやだって、見た目は一応人間じゃん!?


邪竜って言うから、てっきりダンジョンで見たような、いかにもなドラゴン体形を連想していたぜ。


じゃあ、ユリウスが言っていた【黒魔石に姿を変えたアパーカレスと融合した冒険者】ってのは……バーク!?



「でええええええええええい!」



ユリウスの斬撃がアパーカレスを襲う!



『ちっ、あの時のつまらない人間・・・・・・・か!』



アパーカレスはその場を飛びのいた!


そこへ今度はアリサ必殺の一撃が!



雷帝彗星らいていすいせ……!」



しかしアリサ必殺の雷帝彗星斬らいていすいせいざんは、ユリウスによって止められる!



「ダメだアリサ!技を放つなら聖属の魔力を混ぜるな!糧にされてしまうぞ!」


「ぐっ!そんな器用なことできないよ!」



アリサは踏みとどまり、雷帝彗星斬を堪えた!


そういや邪竜アパーカレスってのは聖属の魔力を糧にして、己の力を爆発的に増大させるとか言っていたな。


アリサとユリウスは、アパーカレスを前にして睨み合い膠着した。




「ケンツさん、これを。万能薬〈ラミアの薬草〉ですよ!それ!」


「むぐっ!?」



そう言って、ミヤビは俺の口の中に無理やり〈ラミアの薬草〉を捩じり込んだ!


途端に俺の身体は癒され、カラになりかけていた魔力も全回復した!



「ぶはっ!はぁっはぁっ……助かった。また死ぬかと思ったぜ」



ついこの前、召喚勇者に首を刎ねられて死んだばかりだからな。


死ぬのは当分勘弁だぜ。



「それより、バークがアパーカレスってのは本当なのか?」


「この少し瘴気が混ざったどす黒いオーラ、邪竜の波動、今までなぜ大人しくしていたのかは不明ですが、こいつはバークさんの身体を乗っ取った【邪竜アパーカレス】に間違いありません!」



ミヤビは言い切った。


瘴気?波動?


そういえば闘場の土が所々変色しているぞ。ヤツの瘴気のせいか!



「この野郎、何が“イエスでもありノーでもある”だ!邪竜アパーカレスならさっさとそう言え!」


『ほう、我を知っておったのか。いかにも我は邪竜アパーカレス、【女神の使徒と人族を滅ぼすもの】なり!』



女神の使徒と人族を滅ぼす?


なんだか面倒くさい事を言いやがるな。


だがそう言う事ならもういいだろう。



「おい、審判のおっちゃん達、試合はここまでだ。危ないからどっか非難してろ」



もう試合どころじゃねーからな。


邪魔だし審判たちには退場してもらおう。


それに観客達の避難誘導もしてもらわないとな。



しかしこの審判たち、イマイチ状況把握が出来ていないようだ。



「ま、待て!勝手に試合を……」



審判、ゴネやがった。



「アホか!死にたくなければさっさとせろ!」


「ひ、ひいいい!」



剣を振り上げ、ガーッ!と咆えると、審判たちは蜘蛛の子散らしたように方々へ逃げていった。




「ケンツー!」


「シャロン!?」



アリサ達に続き、今度はシャロンも闘場内に進入してきた。



「アリサさん達がいきなり結界に穴をあけたから私も来ちゃったけど……何がどうなっているの?…………この人は誰?」



シャロンは、俺達と対峙している男に気付き、怪訝な顔をする。



「シャロン、下がっていろ。前に少し話したろ?こいつは邪竜アパーカレス。そしてバークでもある!」


「え、この大きな人がバークさん!?」


「そうだ、バークはアパーカレスに身体を乗っ取られたらしい」


「そんな!?でも……それなら」



― ズイッ!



「シャロン!?」



シャロンは後ろに下がるどころか前に出た!



「7か月前、私は私の意思に反してバークさんと関係を持ってしまったわ。あれはあなたの仕業だったの?答えて!」



問われたアパーカレスを含め、その場にいた全ての者がシャロンに向いた。



シャロン我が眷属か。くくく、その通りだ。バークを深層心理下からジワジワ誘導させ、おまえと関係を持たせたのだ。もちろんおまえの精神と肉体を切り離したのも我だ!』


「何で!何でそんな事を!?一体何の恨みがあって!?」


『恨みなど無い。人間のくせに、しかも我の血を引いているにも関わらず、まるで欲望を持たぬこの男バークに、おまえシャロンという餌を与え“欲”に目覚めさせるためだ。

結局、おまえシャロンはバークに堕ちる事はなく無く、バークもまた自分を責めるだけで欲には目覚めなかったがな。あの時は実に面白くない展開だったぞ』



邪竜アパーカレスは忌々しそうな顔をしながら舌打ちした。


シャロンは怒りにワナワナと震えている。



「わからないわ。バークさんを“欲”に目覚めさせることにどんな意味が……」


「そういう事だったのね。シャロンさん、“欲”の無い人間には “邪”な思考・闇が発生しにくいからです。でもそれだとアパーカレスは簡単に浸食できないのですよ。私もようやく合点がいきました。」



アパーカレスではなく、ミヤビがシャロンの疑問に答えた。



「そうか、黒魔石を埋め込まれたバークがすぐに邪竜化しなかった理由はそれか。バークは一年以上無意識な深層心理下でアパーカレスの邪な誘導に抵抗していたんだ。」


「バークさんのシャロンさんに対する想いを突いて、時間をかけ少しずつ歪めたのね。」



ユリウスとアリサも合点がいった顔をしながら呟く。



「でもよう、なんでシャロンの身体と精神を切ったままにしておかなかったんだ?その方がバークを篭絡できたんじゃねーか?」


「出来るものならそうしただろうな。おそらく、その時はまだそれほどの力は無かったんだろう」



ユリウスの説明にアパーカレスは面白くないように言った。



『フン、その通りだ。あの頃はまだ我の本体黒魔石に直接触れたものにしか我が秘術〈ドラゴンパペット竜族の傀儡〉を発動できず、また持続時間も短かったのだ』



― ピンッ!



キーワード〈ドラゴンパペット竜族の傀儡〉に、今度はアリサが反応する!



ドラゴンパペット竜族の傀儡……どこかで聞いたような……はっ!あなたもしや邪竜族の男と一緒に、私とアカリを襲った覆面の男!?」



少し前、アリサとアカリは、夢遊病者のように誘い込まれ貞操の危機に遭い、危なく聖女の資格を失いかけたのだ。



『あの時おまえ達とまぐわっておれば、聖女の圧倒的な魔力を糧にする事が出来たのだがな。実に惜しい事をした』


「ふざけんじゃないわよ!」

「きさま……絶対に許さんぞ…………」



顔を真赤にして激怒するアリサ!


その横でやはり激怒するユリウス!


もしもこの時、不完全状態のアパーカレスがアリサ達の聖属の魔力を手に入れていれば、アパーカレスはバークの【身体移譲の承認】を得る必要もなく力のゴリ押しで復活していたのだ。


邪竜アパーカレスは、ギャーギャーと喚くアリサとユリウスを無視して話を続ける。



『それにしても、まったくこの男バークには手を焼かされたぞ。シャロンを想う気が無ければ、我の復活はもっと後だったろうな。もしかすると、最悪復活出来なかったかもしれん。ケンツよ、おまえには感謝するぞ』


「は?なんで俺に感謝するんだよ」


『おまえの存在があったからこそ、バークは欲を増大させることが出来たのだ。シャロンを奪われたくない、シャロンを自分だけの女にしたいという欲がな!だがおかげで、我はより強く復活を果たしたぞ!』



― ふはははははははは!



アパーカレスは俺とシャロンを交互に見たあと大笑いした。



「ひどい、そんな理由で私達三人を傷つけ弄ぶなんて!」


「シャロン、落ち着け!」



俺は今にもアパーカレスに飛びかかろうとするシャロンを止めた。


俺だって今すぐボコボコに殴りてえ。


だけど、まだこいつから聞きたいことがあるんだぜ。



バーク独特の能力バフと黒い剣技も、おまえの影響によるものだな?」


『半分正解だ。たしかに我の影響によるスキルではあるが、それをより強力に成長させたのはバーク自身だ。そしてその原動力となったのはもちろんケンツ、おまえだ!あの告白の日からバークの力は跳ね上がったのだからな』


「ちっ、俺も原因の一つかよ!」



俺という倒すべき存在がいたから、バークはより強くなったってことか。



「昇級試験でバークが変貌したのも、おまえのせいだったんだな?」



二級昇級試験の時、バークは俺の一撃を食らった後、人が変わったかのように俺をボッコボコのギッタギタにしやがった。



『くくく、おまえを応援するシャロンの前で一撃食らわされたのが、余程辛く悲しかったのだろうな。バークの一瞬の怒りを、我が擽ってやったのだ』



あの時、シャロンは顔を輝かせて俺の活躍を喜んでいたもんなぁ。


バークにしてみりゃとんでもない屈辱と悲しさだったろう。


そこを付け込まれたんだな。



「バークがシャロンを好きだったにも関わらず、キュイとキリスを誑かしたのもおまえのせいだろ。この変態邪竜め!」


『いや、それは我のせいではないぞ?この男、来る女は拒まずの博愛主義者で、一夫多妻にはあまり抵抗が無い。根っからのハーレムマスターのようだな』


「あ、そう……」



なんだ、一番邪竜の仕業と思っていたハーレム形成は、実はバークの趣味・性癖だったのかい。


その点だけは小説の主人公みたいだな。






『訊きたい事はもう終わりか?ならばそろそろ殺してやろう』



邪竜アパーカレスは大剣を大きく一振りして、得物を見るように目を細めた。



へ、律儀に答えてくれてありがとうよ。


だが、どうしても訊いておくことがあと一つあるぜ。



「もう一つ。バークはどうなった?」




邪竜アパーカレスに身体を乗っ取られたバークはどうなったんだ?


まだ無事なのか?


まだ取返しはつくのか?



『ふふふ、バークの心は我の中で眠っておる。もっとも、二度と目覚めさせる気は無いし、目覚めた所でもはやどうしようもないがな』



よしよし、バークの心は死んだわけじゃないんだな。


今はそれだけ確認できれば今は十分だぜ!



『ではそろそろ始めるとしようか。女神の使徒と人間共に死を!』



― ブオッ!



邪竜アパーカレスの黒きオーラが一気に膨れ上がった!


だが俺は動じない。


なぜなら!



「てめえバカだろ。これだけのベストメンバーに囲まれて、まさか勝てるとでも思ってやがんのか?」



俺の周りにはアリサ、ユリウス、ミヤビ、そして姿は見えないが召喚勇者ヒロキに召喚聖女アカリもいる!


今この場にはリットール最強戦力が集結しているんだ!


てめえなんざ一捻りだぜ!



『愚かなりケンツ。アリサ、ヒロキ、アカリは我にとって糧にすぎぬ!無属性剣士のユリウスと蛇女など、復活した我の敵ではないわ。それに見よ!』



― ブオッ!



アパーカレスが腕を大きく振ると、闘場を囲っていた黒い結界が消えた!


そして俺達の目に飛び込んできたものは!?



「うわああああああああああああ!!!!」

「ひいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「た、助けて!助けてえええええ!!!!」



俺達の目に飛び込んで来たのは、【複数の復活竜】と【異様な人間達・・・・・・】に襲われ逃げ惑う観客達だった!



「なんだこれは!?」



『我の復活に同調して集まった復活竜。そして500年の時を経て、邪竜の因子が目覚めた我の血を受け継ぐ子孫達よ!』


「復活竜!?子孫!?」


「ケンツさん、邪竜アパーカレスは500年前、戯れに人間の女性や聖女を孕ませたのです。彼らはその血統を受け継ぐ者ですよ!ですがアパーカレスを倒せば彼奴きゃつの因子は不活性化して、必ず元の人間に戻ります」


「ミヤビ、了解だ!」



場内で暴れている人間はおよそ百人ってところか。


元は観戦に来ていた観客なんだろうな。


それと復活竜は今のところ四体。


しかもさらに増えそうだな。


だったら!



「俺とユリウスで邪竜アパーカレスを討つぜ!ミヤビとアリサは襲われている観客達を守ってくれ!シャロンは身を隠していろ!」


「「了解!」」



アリサとミヤビは返事をしてすぐ観客席へ!



「よーし、それじゃこの野郎をやっつけてバークを助けるぞ!」



へ、ユリウスと一緒なら、こんな奴なんか楽勝だぜ!


さっさとバークの身体から叩き出して、とっ捕まえて皮をひん剥いて、竜皮のハンドバックにしてやるぜ!


俺の……いや、俺達の人生を歪めた代償を払って貰う!



「いくぜ!」



剣先をアパーカレスに向け、改めて宣戦布告だ!



その刹那!



「ケンツ、避けろ!」


「なんだ!?」



― ドーンッ!



突如、直上から強力な魔力波が降ってきた!


ユリウスのおかげで俺達は間一髪、直撃を免れたのだが、〈意中外からの攻撃〉は、アパーカレス以外に別の敵が存在していることを意味する!



「今のは何だ!?」


「ケンツ、すまんが俺のターゲットが現れたようだ」


「ユリウスのターゲット!?」



真上を見上げれば、ガタイのいい大男が空に浮かんでいた。




「あいつは?」


「邪竜族の竜人ダゴン、500年以上前にこのアパーカレスを創った張本人だ。俺はバンバラ様から邪竜族竜人の討伐を頼まれているんだ」


「アパーカレスを創った張本人!?あいつが!?」



あれか、


この前アパーカレスと共に、アリサとアカリを襲った男か!



「ケンツ……」


「な、なんだよ……」



おい、変な間を開けるなよ。なんかすっごい嫌な予感がするぜ……



「一人でやれるな?」


「え?」


「やれるな?」


「いやいやいやいや!さっき、こいつにボッコボコにされたばかりだぞ!?」


「大丈夫だ、じゃあ頑張れ!」


「あ、おい!」



ユリウスは「すぐ片付けて戻るから」と、無情にも俺を放置して空へ舞っていった。



「かー!マジかよ、薄情者!」



あいつ、信じられねえ!


俺はこう見えても仲間内では最弱なんだぞ!


それをまるで、お使いに出す子供みたいに放り出しやがって!


…………


まあでも仕方ねえなぁ。


邪竜討伐は、元々バンバラから俺が受けた依頼だ。


邪竜アパーカレスは俺が退治してやらぁ!



『ふ……ふははははは!今のは流石の我も同情したぞ。中々素晴らしい仲間ではないか!』



今のやり取りを目の当たりにして、腹を抱えて大爆笑する邪竜アパーカレス!



「うっせー!てめえ、大笑いしてやがんのも今の内だぜ!さっきやられた分、倍にして返してやるからな!」


『くくくくく……そうは言ってもな、我に全く歯が立たなかったおまえが、今さらどうやって戦うというのだ。我も弱い者イジメはあまりしたく無いのだがな?』



あ、この野郎。同情しつつムシケラを見る目しやがって!


どうやってだと?


例えばこうやるんだよ!



― シュルリ



俺はラーズソード滅ぼしの剣に括られていた【紅い紐封印】を解いた。










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お知らせ

22年4月20日

106 第三十九話 シャロンのアザ/バロンとブルーノの末路1

107 第四十話 武闘大会前夜 01

追記・部分改稿しました。

なお、この改稿によるメインストーリーへの影響はありません。

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