116 第四十二話 ケンツvsバーク R2 04 「配役」

Sideユリウス、アリサ、ミヤビ




「もしかすると、俺は重大な過ちを犯したのかもしれない……」



ユリウスはそう呟いて、闘場のバークを厳しい目で見つめた。


バークが邪竜アパーカレスの黒魔石を埋め込まれし者だとすれば、その異常な能力も頷ける。


しかし決定的な確証は何もない。



「黒魔石を埋め込まれたのは冒険者なんでしょ?バークさんはその頃はまだ冒険者ではなくポーターだったはず」


「それにもしバークさんだったとしたら、一年以上何も悪さをしないなんて事、絶対に有り得ません!邪竜アパーカレスに感化されると、人は悪しき欲望が増大するのですから!」



アリサとミヤビは否定的な意見を口にしたが、内心はそうであって欲しくないと思っているだけだ。


一時はバークの事も怪しんでいたのだが、当時はまだポーターだったことで、ユリウス達は早々にバークを容疑者から外してしまった。


しかし、今またバークに容疑の目が向けられる。


もちろんそれは証拠があるわけでなく、ただ嫌な雰囲気を感じている程度のものだ。


状況証拠とも言えるものでもなく、ただモヤモヤとしたモノが三人の胸中にあった。



「乱入して皮鎧を引ん剝て確かめるか?」


「もし違ったらケンツさんに申し訳ないわ。確かめるのはこの勝負が終わってからでも……」



ユリウスの提案にアリサは待ってほしいと懇願した。



「ケンツさん、この日の為に私達の特訓に耐えてきたんだもの。邪魔をしたくないの……」


「わかった、すまないがヒロキとアカリは引き続き周囲を哨戒してくれ。俺達は闘技場内で何かあったら対処する」


「わかった」

「闘技場の外は任せて!」



ヒロキとアカリは頷くと、再び空へ舞いあがった。








*

 




Sideケンツ





― バシュッ!バシュッ!ガキッ!ガキンッ!



俺とバークの攻防は続く。


先程のあいさつ代わりの戦いのあと、俺は縮地に頼った戦いを控えていた。


それはバークも同じだ。


お互い超高速領域での攻めを完璧に防いでいるので、ピンポイントで使う戦術に切り替えたのだ。




「ふふふ、やはり僕の思った通りでしたね!」


「なにがだよ!?」



ガキンッ!ガキンッ!と剣を交えながらバークは不敵な笑みを浮かべた。



「召喚勇者との戦いで見せたケンツさんの力は、実は使ってはいけない技だったんでしょ?」


「いったい何を言っている!」


「ケンツさん、あの力を使ったあと、あなたは本来それで死んでしまうはずだった。使えば必ず命を落とす異常な身体強化術……つまり【必死の技】【必死の力】だったということですよ!」



ちっ、やはりバレたか。


あの召喚勇者との戦いの時、俺は限界だった身体強化ブーストアップ4.25倍を遥かに超える6倍の力で数分戦った。


だがその結果、俺は命を落としたが、アリサの迅速なセイクリッドヒール完全回復

により一命を取り留めたんだ。



「そしてケンツさん、僕はあの時見せたあなたの【必死の技】をさらに超えた力を身に着けている!悪いがケンツさんにはもう勝ち目は無い!」


「へー、そうかい!だったら試してやるぜ!身体強化ブーストアップ5倍!」



― ボシュッ!!!



高倍率身体強化術独特の爆発のようなオーラが噴出する!


今の俺は特訓の成果により、身体強化ブーストアップは最大5倍まで安全に掛けることができる。


しかも素の力も向上しているので、実質召喚勇者を屠った時の6倍状態に等しい力……いや、それをさらに上回る力だ!


だが逆に言えば、身体強化ブーストアップという技は5倍で頭打ちだ。


これ以上の身体強化ブーストアップは【必死の技】となる。



「アルティメットバフ++ダブルプラス!はあああああああああ!!!」



― ギュオオオオオオオオ!



しかし今度はバークも同様に、自身に強力なバフを掛けた!


どす黒いオーラがバークの全身から噴出しているのが見えるぜ!


しっかし、あいつはなんでも黒基調だなぁ……


皮鎧も剣も技もオーラも全部まっくろ。


そんな色を好むなんて、心に闇でも抱えてるのかねぇ?


もしかして、召喚者達がよく口にする厨二病ってやつかな?



戦いはさらに過酷を極め、俺達の戦いは再び高次元で拮抗する!



― ガキンッ!ギュリリリリリリリリィィィィィ……ズバッ!


― ザンッ!シュババッ!ガッキャアアアアアン!



「驚いた、この前見せた時よりもさらに激しく強くなっているじゃないですか!」


「驚いたのはコッチだぜ!おまえの方こそシャレにならねえ強さだ。今なら召喚勇者だって余裕で屠れるんじゃねーか?」



いやいや、ガチで驚いたぜ。


この野郎、5倍の俺と完全に同等じゃねーか!


俺と違ってバークには師となる者はいなかったハズ。


一体どうやってこんな力を……



「心外だなぁ。ケンツさん、召喚勇者なんて雑魚ざこと比べないでくださいよ」


「おいおい、悪逆非道の召喚勇者を雑魚呼ばわりかい。おまえも言うようになったな」


「当然ですよ。僕はこの世界の主人公メインマンなんですからね!」



主人公メインマン



「は?主人公メインマン?なに言ってんだおまえ?」


「ケンツさん。僕ね、一時はシャロンさんをお返ししようと思ったんですよ。でも思い直しました」


「なんだよ、素直に返してくれりゃいいのに…………だが何で思い直した?」


「それはシャロンさんもまた、この世界のヒロインだからですよ!」



…………


えっと、


聞き間違えじゃないよな?


シャロンがヒロイン……?



「シャロンがこの世界のヒロインだって?いやまあ、その意見には賛成してもいいけどよ。シャロンがヒロインだったら何だってんだ?」


「いやだなぁ、どんな物語でもヒロインは主人公メインマンと結ばれるものなんですよ。小説では常識ですよ。そんなことも知らないんですか?」



おおう!?


なんかこいつヤバイ事を言い出したぞ!?


小説の読み過ぎて頭の中が拗れたんじゃねーか???



「おいバーク、おまえ試合前に変なもの食べなかったか?あるいは禁止薬物使って幻覚見たとか……」


「ははは、そう思うのも無理はないです。僕だって最初は信じられなかったんですよ」



― キンッ! キンッ! キンッ!

― ギシリッ!



「だからね、噛ませ犬・・・・のケンツさんにはシャロンさんは任せられないのです。最初からケンツさんとシャロンさんは結ばれる運命じゃなかったんですよ」


「俺が噛ませ犬だと!?」


「そうです。ケンツさんは主人公メインマンたる僕を引き立てるための咬ませ犬にすぎないんです。その事については僕も深く同情しますよ」


「…………」



こいつ本気で言ってるのか?


な、なんか聞いていて頭がクラクラしてきたぜ。



― シュウウウウゥゥゥゥゥ…………



「うぉっと!?」



いかんいかん、これはきっとヤツの心理的揺さぶりだ。


いろいろと不安定になって、危なく身体強化ブーストアップが解けるところだったぜ。


バークめ、この期に及んで心理戦を仕掛けて来るとは……なかなかやるな!



「御理解いただけましたか?ヒロインであるシャロンさんは、主人公メインマンたる僕と結ばれる運命にある!

さあ、出番の終わった咬ませ犬には早々に舞台を降りていただきましょう!」



違う、こいつガチだ!


ガチで自分を主人公だと思い込んでやがる!


目が危ないくらい真剣だぜ!


だったら、こっちもそのツモリで相手してやらぁ!



「俺が噛ませ犬ってんなら、まずは俺を倒してみやがれ!主人公メインマンのバークさんよう!」


「いいでしょう。主人公と咬ませ犬の力量差、とくと思い知るがいい!

 アルティメットバフ+++トリプルプラス!」



― ギュオオオオオオオオ!



『きゃああああああああああああああああああああああ!』

『うわああああああああああああああああああああああ!』



悲鳴を上げる観客達!



バークの身体から明らかに邪悪な黒きオーラが噴出し、衝撃波のように四方へと広がり、神官たちが張り巡らせた結界に激しくぶつかった!



「なんだぁ!?この邪悪っぽいオーラは?それにバーク、おまえその身体はどうしたってんだ!?」



バークの身体、というか全身の皮膚が黒く変色していく!



「ふふふ、ケンツさん。この黒き肌は主人公メインマンたる証なんですよ!さあ、これで終わりです!シャロンさんは僕のモノだ!」



― ドンッ!



バークはミチミチと黒き力を漲らせ、弾かれたように突撃してきた!

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