113 第四十二話 ケンツvsバーク R2 01 「前哨」
俯き加減でアリサとユリスがゲート西側選手用観覧席に戻って来た。(バークは東側)
俯き加減のアリサをユリウスがなんか慰めようとしているようだが……
あの感じ……あれは負けて悔しいとかじゃねーな。
「アリサ、その様子だとユリウスは違ったんだな」
アリサは少し驚いた顔をしてから顔を左右に振った。
「ええ、あの人はユーシスじゃなかった。ケンツさん、いつからユリウスさんがユーシスじゃないかと思っていたの?」
「割と最初の頃からな。おまえらの自然なやり取りが、普通に仲の良いカップルに見えたからな。あいつ変装でもしているのかと思ったが……」
「私ね、ユリウスさんに時々ユーシスを感じていたの。そしてさっきの試合でこの人はユーシスだと確信したんだけどね…………
だけど違った。帰りに顔を引張たりしたけど変装じゃ無かったの。絶対にユーシスだと思ったんだけどなぁ……今でもまだ信じられない気持ちが強いわ」
そう言ってすぐアリサは席に座り込み俯いてしまった。
もしかしたらとは思ったんだが違ったか。
流石にアリサが可哀想だぜ。
*
『おおおおおおおおおおおおお!!!!!』
突如、大歓声が場内に響く。
バークが四回戦準決勝を見事勝利。決勝進出を果たしたのだ。
「バークさんも決勝を決めましたね」
「当然だな。あいつが負ける要因なんて無い」
この大会に合わせて新調したのか、バークは漆黒の
闘場のバークは、堂々と観客の声援に手を振って応えたあと一点俺達の方を向き、鋭い眼光と漆黒剣の切っ先をピタリと俺に向けた。
あの野郎、生意気にも俺を挑発してやがる。
「うおおおおおおおおおおお!」
「いいぞ、バーク!シャロンはおまえのもんだあああ!」
「次の勝負もバークに賭けるぜ!」
「バーク!バーク!バーク!」
バークのパフォーマンスに興奮する観客達!
困ったことに大会主催者である冒険者ギルドは、〈俺とバークの因縁の対決〉を
事前に話はあったし、こちらも武闘大会を利用したこともあって、シャロンの名前を出さない事を条件に断りはしなかったのだが、それにしても反響が凄いぜ。
『注目のカード!
リットール最強冒険者バークvs底辺地獄から戻って来た男ケンツ!
雌を奪い合う二匹の雄の争い!』
なんてポスターも貼ってあったりして、宣伝効果は抜群だぜ。
やはり男女間のドロドロした話が絡むと、大衆の食いつきがいいんだなぁ……
それにしてもバークのやつ、挑発パフォーマンスとは随分と似合わない事をするじゃねえか。
初めて
大観衆を前にして臆せずに堂々たる態度、大したもんだ。シャロンは絶対に渡さないって気迫がビンビン伝わるぜ。
だがな、そんな俄パフォーマンスなんかに
― ドンッ!
俺はスクっと立ち上がり、「かかって来い!」とでも言わんばかりに拳を握り自分の胸を強く叩きつけ、バークを睨み返した。
「うおおおおおおおおおおお!」
「ケンツもやる気満々だぜ!」
「よおおし、俺はケンツに賭けるぞ!」
「ケンツ!ケンツ!ケンツ!」
バークの挑発的なパフォーマンスに応えた俺を見て、観客の熱狂がさらに過熱!
物凄い音圧の大歓声に会場がビリビリと震える!
へへへ、案外俺も人気者じゃねえか。
一頻り睨み合った後、バークは踵を返し闘場をあとにした。
俺は緊張を解いて、ドカッと席に座った。
「ケンツさん、中々素敵でしたよ」
「流石に気圧される事はなかったようだな」
「前哨戦はまずまず引き分けですね」
アリサ、ユリウス、ミヤビ、おまえらと出会わなかったら今の俺は無かったな。
シャロンを取り戻すために、バークと真っ向勝負なんて絶対に叶わなかったぜ。
「
俺は三人を前に深々と頭を下げた。
「お互い様よ。こっちも助けて貰ったわ」
「俺もおまえには感謝しているんだ。気遣いは無用だ」
「ケンツさん、もう少しです。シャロンさんを奪還しましょう!」
こいつら、本当にいい奴だな。
それから時間は流れ、闘場の地ならし等の整備が終わった頃、係りの者が呼びに来た。
『ケンツ選手、そろそろゲート裏に集まって下さい』
いよいよか。
一瞬ブルっと震えが来た。
恐怖・怯えからの震えじゃねえ、武者震いってやつだ。
よし、やってやる!
バークを叩きのめして勝つ!
そしてシャロンを――……
「じゃあみんな、ちょいとシャロンを取り返しに行って来るぜ!」
― バチッ! バチッ! バチンッ!
三人の仲間と流れるようにハイタッチして、俺は戦いの場へ向かった。
*
◆ゲート東側選手用観覧席
Side バーク
「バーク、決勝進出おめでとう!」
「かっこよかったよ!」
決勝を決めたバークを、キュイとキリスが褒めたたえる。
「ありがとう、皆の応援のおかげだよ」
「次はケンツだね。絶対に勝ってよ!」
「もうすぐシャロンも家族になれるね、一緒にバークを応援しよう!」
キュイとキリスにそう言われ、シャロンは困った顔をする。
『勝敗に関係なく、試合が済んだら私はこのパーティーを離れるわ』
喉元まで言葉が出かけたが、シャロンはなんとか留まった。
男達の戦いの直前に水を差すような野暮な発言を慎んだのだ。
しかしバークは察したようだ。
「シャロンさんの言いたい事はわかっているよ。でもね、シャロンさんはやはり僕と一緒にいるべきなんだ。シャロンはヒロインだからね」
「ヒロイン?」
思いもしなかった言葉にシャロンは戸惑った。
「そうそう、シャロンはヒロインだったのよ!」
「そして私達もヒロインなの。ヒロインは
すぐには理解が追い付かないシャロン。
しかし過去にあったバークの〈幻聴の話〉を思い出した。
「
「そう!バークはやっぱり
「あれは幻聴なんかじゃなかったんだって!」
やたらハイテンションなキュイとキリス。
目がギラギラして少し異様だ。
「シャロンさん、残念だけどケンツさんの元にはいかせないよ。シャロンさんは僕のヒロインなんだ。みすみすケンツさんに奪われて不幸な道を歩ませたりはしない。僕は必ず勝つ!」
― ギュイイイイイイイイイイイイイイイン……
バークの胸の黒魔石が、またしても不気味な波動を放つ!
しかし――
― パシッ!
その波動はアリサから託された【宝珠】の効果によって、シャロンに届く直前に弾かれてしまった。
『(やはり通じぬか。だが何故だ。この女は我の影響を強く受けるはずなのに?)』
三人の召喚勇者の力を奪い、力が増大した邪竜アパーカレス。
その邪竜アパーカレスは、秘術
そして、それに同調するようにバーク自身も無意識かつ自然に首を傾げてしまった。
『(まあ良いわ。我が覚醒すれば眷属として従うであろう)』
一瞬、意思が強く出た邪竜アパーカレスだったが、思い通りにならなかった事が面白く無かったのか、すぐになりを潜めた。
男達の真剣勝負に水を差すような発言はしまいと思っていたシャロンだが、バーク達の荒唐無稽さに、さすがに黙っていられなくなってしまった。
「バークさん、私はバークさんのヒロインじゃありません。もし私がヒロインだというのなら、それはケンツのヒロインでありたい!」
シャロンの言い放った言葉を聞いて、バークの片眉が一瞬刎ねる。
「結果が全てさ。試合が終わった時にはシャロンさんは必ず僕の元に収まる。それが
バークは柔和な表情で、しかし声のトーンは幾分低くして、シャロンに言った。
「バークさん、それにキュイとキリスも、一体どうしちゃったの?三人ともなんだか変よ!」
三人に何か不気味なものを感じ、シャロンは思わず後ずさりした。
その時、
『バーク選手、そろそろゲート裏に集まって下さい』
係りの者がバークを呼びにきた。
「みんな、行ってくるよ!シャロンさん、僕は必ず勝ってあなたを手に入れる!」
バークは最後にそれだけ言うと、シャロン達を背にして戦いの場へと向かった。
――――――――――――――――――――――――――――
次回更新は、4月10日(日)20時頃の予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます