112 第四十一話 武闘大会 03 アリサvsユリウス
Sideアリサ
いよいよユリウスさんと勝負……
これまで何度か軽く手合わせをした事はあったけど、その都度私は違和感を覚えていた。
お互い軽く流す程度だったから、
闘技場中央でユリウスさんと対峙する。
そして改めて不思議な人だと思う。
背格好はユーシスと同じ、髪と瞳の色もユーシスと同じ。
だけどそれ雰囲気・気配は全て違う。
存在感の塊のようなユーシスと比べ、ユリウスさんの存在感は極めて希薄だ。
剣技の方はスラヴ王国の騎士団仕込みと言う事もあって、私やユーシスと酷似している。
だけど、この人の剣技にはクセが無い。
どんな人でもキメの一撃にはその人なりの特徴がある。
私もそうだしユーシスやケンツさんにも特徴が出る。
しかしこの人にはそれが無い。
時々ユーシスと姿が被る時もあるけど、それはすぐになりを潜める。
意図的に隠しているの?だとしたら理由は?
魔力もこの人は何かおかしい。
この人の魔力は色を感じさせない。
何の属性が強く出ているのか、それがまるで見えない。
「全力で戦っていないから色が出ないのかしら?だったら私が引き出してやるわ!」
ユリウスさんと出会ってからのモヤモヤの正体を、今日この場でひん剥いてやるんだから!
「
―ボシュウッ!
私の身体は一瞬にして白銀の
対してユリウスさんは……
「え、そんな装備のままで戦う気ですか?」
「まあね、でも何も問題は無いよ」
ユリウスさんはいつもと同じ旅人の服。
剣は何処から調達したのか量産品の粗悪な剣。
「もしかして、私って舐められてます?」
まるでやる気の無さそうな容姿に少しムッとする。
特にその剣は何なの?
「とんでもない。
「ああ、なるほど。でもそれにしたって……」
そうだった。ユリウスさん、得物が無かったんだ。
でも……この人、ワザと自分を弱く見せようとしていない?
どうも何か引っかかるのよね。
主審から注意事項を説明が終わり、いよいよ勝負が始まろうとする。
『それでは三回戦。魔法騎士アリサ対魔法騎士ユリウス、
― バーン!
試合開始が告げられ銅鑼が鳴り、それとともに観客の大歓声が地鳴りのように響いた。
どうやら私達の勝負は注目のカードだったようね。
ではまず軽く……
「縮地!」
―バシュッ!
高速移動術縮地でユリウスさんの側面へ……
「そりゃあ!」
一側面から一気に真横一文字の斬撃!
― ガキンッ!ギュリンッ!
反応された!
縮地からの超高速斬撃をユリウスさんは軽く受け流した。
「ふふふ、スラヴ王国のお家芸だもの。反応されて当然ね」
「ま、そう言う事だ。縮地!」
今度はユリウスさんの縮地からの斬撃!
― ガキンッ!ギュリンッ!
同じように私も受け流す。
「ん、んんんんん……?」
なんだろう、モヤっとする。
「縮地!縮地!縮地!縮地!縮地!縮地!」
「縮地!縮地!縮地!縮地!縮地!縮地!」
そこからは連続縮地による超高速域での突入!
闘技場から私達の姿は残像が点々と現れては消える。
「えやっ!」
「そーい!」
― ガキンッ!キンキンキン!
この自然な違和感にモヤモヤはどんどん溜まっていく。
あまりにもモヤモヤしちゃうから、戦いながら私はユリウスさんと言葉を交す。
「ねえ、その剣は量産品じゃなかったの?そんな使い方したらとっくに砕けてるはずだけど?」
「量産品だよ。ただし自分で少々加工はしたけどね」
「加工!?」
こんな一山なんぼの剣なんて、加工したところでたかが知れている。
だけど、この剣は確かに耐久性が増している。
言っちゃ悪いけど、鋳造の量産品なんて耐久性なんか上がりようが無い。
鋼の剣ならまだしも、こんな不良鉄の剣なんか、焼き入れしたら硬くなるだけで衝撃には脆くなる。
普通の人にはマトモな加工なんて出来るワケないし、プロの職人でも溶かして鋼の剣に作り変える以外方法が無い。
魔石を組み込んで強化付与は可能だけど、ユリウスさんの剣には魔石など組み込まれていないようだ。
にもかかわらず……
「自分で加工ね……」
量産品の粗悪剣を加工して耐久性を上げる……か。
「ユリウスさん、もう少しだけ本気出してもいい?」
「遠慮なんてしなくていいよ。どんどんかかっておいで」
ほー、余裕ですね。
だったらその御自慢の加工剣をへし折って差し上げるわ!
「彗星斬!」
― パリパリッ、バシュッ!
雷の魔法を剣に乗せての斬撃&斬撃飛ばし!
私の剣技は魔法騎士や魔法剣士とは微妙に違う。
魔法剣士なら剣そのものから雷が放たれる。
しかし私の場合は雷撃魔法と剣技の組み合わせ。雷の魔法を剣に乗せての斬撃技が正体。
効果は似ていてもプロセスは違うのだ。
その技の一つが彗星斬。ほとんど溜めもなく放つことが出来る。
「よいしょっと!」
― バシュンッ
その彗星斬を、ユリウスさんは避けもせずわざわざ加工剣を振るって粉砕する。
別にショックを感じたりはしないけど、そのニコニコと嬉しそうな顔が癪に障る。
そして、そのどこか懐かしい笑顔を見ていると、なぜか私は心をかき乱される。
「
― ボシュウッ!
リットールに来てから滅多なことでは使わない
そこからの連打乱撃!
― キュッ!キンッ!ギュルルルル!
「っ――――!」
むうう、なに涼しい顔……というか満面の笑み浮かべて嬉しそうに捌いているのよ!
なんだか不気味なんですけどー!
「凄い凄い!さすがアリサさんだ!でも身体強化は二倍までにしておこうか。僕達がこれ以上
わかってるわよ、そんな事!
でももう少しだけ試させて貰うわ。
「
「ちょっ!?」
― カッ!バリバリバリ、ドゴワッシャーーーーーン!
スラヴ王国最強聖女、カーシャ・リースティン直伝の必殺技よ!
悪いけどこれで決めさせてもらうわ!
超圧縮された雷を聖剣に乗せ、ユリウスさん目掛けて振り下ろす!
ユリウスさんは、バックステップしながら雷帝彗星斬を加工剣で逸らそうとするけれど無駄よ!
― ベキャンッ!
ユリウスさんの加工剣は刀身真ん中くらいで粉砕した!
ほらごらんなさい、そんな俄に耐久性を付けただけの加工剣じゃ待たないから!
これで勝負は私の勝ちぃ~♪……はっ!?
「縮地!」
― バシュンッ!
雷帝彗星斬の打ち放った後に出来る一瞬のスキを狙って、ユリウスさんが縮地で私の懐に飛び込んだ!
そして折れた剣の残っている部分を私の首に突き立てる!
『それまで!勝者ユリウス!』
「へへへ、残念でした。勝負は俺の勝ちぃ~♪」
やられた!
でも、こんな逆転負けなんてあり得ない!
剣を粉砕されるのも恐らくは計算の上だわ。
なにより、今ユリウスさんの戦術は、私が雷帝彗星斬を放った後、必ず僅かなスキが出来る事を知っていなければ出来ない返し技。
つまり、ユリウスさんは私の最大の技、雷帝彗星斬を知っていた。
そして私はユリウスさんにはまだこの技を見せた事はない。
それに、私に喉元に刃を突き付けた瞬間、僅かだけど炎属と聖属の魔力を感じたわ。
やはりユリウスさんの正体は……
私とユリウスさんは、ゲートを潜り闘技場をあとにする。
そして
― ドンッ!
逆壁ドンッ!
「うわっ!?……えっと、これは一体?」
突然の壁ドンにたじろぐユリウスさん。
いいえ、この人はユリウスなんかじゃないわ。
この人はきっと……
「ねえ、ユーシスなんでしょ?」
どう考えてもユーシス以外有り得ない!
「ユーシス?君の想い人の?」
「とぼけないでよ!あなたの剣技、所々でいろいろ抑えているようだけど、あれはユーシスと同じものだわ!」
「そ、それは同じスラヴ王国騎士団の流れを組む者同士だし……」
「だったら何故私のクセを知っているのよ!戦いながらずっと感じていたわ。『次はここを狙ってくる』ってわかったもん。ユリウスさん実際打ってきたじゃない!」
「そうだっけ?偶然じゃないかな」
「じゃあ剣の加工の事は?ただの粗悪な量産剣を加工して、高耐久性を付けるなんてこと、ユーシス以外には無理よ!」
「そんな事ないよ。腕の良い職人ならそれくらい……」
「極めつけは私の雷帝彗星斬を放った後に出来るスキを狙っての攻撃!あのスキが出来る事を知っているのはユーシスだけよ!」
「待って、落ち着いて!僕はユーシスじゃないよ!腕だってあるし」
「どうせ義手か何かなんでしょ?手の甲に数字が書かれているし!」
「す、数字はただの覚書だよ!義手じゃこんなにヌルヌル動かないよ。それに義手があんなに力を出せると思う?」
「思わない!思わないけど何かやっているんだわ!」
「困ったなぁ……」
「私が今までどんな気持ちで過ごしてきたと思っているのよ!バカー!」
私は涙をボロボロ溢しながらユリウスさんに縋りつこうとした。
しかしユリウスさんは私の両肩を掴んで制止させようとする。
なによ、あくまでもしらばっくれるツモリ?
だったら――!
「その変装を剥がしてやる!どうせ特殊メイクかなんかでしょ!」
私はユリウスさんの両のホッペを握りしめ、思いっきり引っ張った!
― ギュイイイイイイイイ!
「いひゃい!いひゃい!ひゃめへくへ~~~!!!」
しかしユリウスさんのホッペはビヨーンと伸びるだけで、何かが剥がれたりはしない。
「え、なんで!?」
特殊メイクじゃなくて素の顔!?
じゃ、じゃあ腕の方を!
「飛びつき腕十字ひしぎぃいいい!!!」
―ギュリリリリリリリリィィィィィ!
「痛い!ほんと痛いから!マジでやめて!」
悲鳴を上げるユリウスさん。
うそ、全然取れない!
これ、本物の腕なの!?
手の甲に数字がある以外なにもおかしいところなんて無い!
「酷いなぁ。でも気が済んだでしょ?特殊メイクなんかしてないし、腕だって本物だよ」
ユーシスじゃないの?
こんなにユーシスみたいなのに?
「本当に……ユーシスじゃ……ないの?……」
「残念だけど」
「そんなぁ、絶対にユーシスだと思ったのに……思ったのにぃ……うええええん!」
その場に崩れ、子供のように泣きじゃくる私。
ユリウスさんは泣きじゃくる私を慰めようとオロオロしているけど、その様がユーシスと被り私には余計辛い。
「グスッ……ごめんねユリウスさん。私の早とちりだったみたい」
「気にしないで。レイミアさんの情報だけじゃなく、ヒロキとアカリもユーシスはすでにリットールに来ているって言ったそうじゃないか。きっと近いうちに願いは叶いますよ」
「うん……」
ユリウスさんの最後の言葉に少し違和感を覚えながら、私達はその場をあとにした。
でもユリウスさんがユーシスではないのなら、この人は何者なんだろう……
私と同じスラヴ王国出身で、私やユーシスと同じく王国騎士団の剣技を振るい、その腕前は人外級……
そんな凄い人ならもっと噂になっていてもいいはずなのに。
なお、次の四回戦ではユリウスさんは剣の破損を理由に試合を辞退した。
この事により、ケンツさんは不戦勝となり、決勝進出が決まったのだった。
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