105 第三十八話 悩めるバークと召喚勇者の末路 05
「後悔してももう遅い!」
「ふはははは、全て滅びてしまえ!」
「勇者の真の力をその目に焼き付けろ!」
「「「
― ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
召喚勇者の気合と魔力を全乗せした斬撃が、リットールの街中央に向かって放たれた!
その恐るべき超絶破壊力は、一瞬でリットールの街全土を飲み込み灰塵と化した!
はずだった。
だが実際は……
― シーン……
全く何も起こらない。
剣圧で僅かに空気が動いたくらいか。
「おわっ、ビックリさせやがって!何にも出ないじゃねーか!」
心臓に悪いぜ。もしかしてドッキリだったのか?
だとしたら、案外お茶目なやつらだな。
「なんだ!?」
「なぜ何も起きない!?」
「俺達は確かに最大の力と魔力を込めて……うっ!?」
― ピシッ……
「え? おいおまえら。そりゃ一体どうしたんだ?」
俺は召喚勇者達の異変に目を丸くして驚いた!
やつらの体表がどんどん黒ずんでいきやがる!?
なんだ?
まさか変身してパワーアップするとかじゃねーだろうな!?
「ひいいい、なんだよこりゃ!?」
「身体が黒く……!?」
「て、てめーケンツ!一体何をしやがった!?」
いや、俺に言われても……俺、なんにもしてないじゃん。
― ピシッ、パサッ……
「なんだ、身体が欠ける!?」
「風化しているのか!?」
「どうなってんだよ、こりゃあ!?」
奴らの身体は黒く木炭のように変化していき、やがてそれが進むと身体の所々がパサパサと欠け始めた。
落ちた欠片は粉々に砕け風化していく。
「彼らは魔力切れを起こしたのだよ」
「誰だ!?」
唐突に声をかけられ驚く俺。
全く気配を感じることなく、俺の背後に男が立っていた。
「私は国家保安委員会のゲドーという者だ」
「国家保安委員会……!?」
泣く子も黙り、死体すら逃げ出す、あの国家保安委員会!?
なんでこんな所に……まさか!?
「まさか俺を反逆罪か何かで捕えるつもりなのか!?」
ちくしょう、まさか連邦の手がこんな早いとは!
召喚勇者さえ助けてやればなんとかなると思ったが甘かったのか!?
「おまえは連邦認定勇者候補落伍者のケンツだな。おまえになど用は無い。私は勇者が暴走しかかっているとの通報を受け来たのだ。だがまさか街一つまるまる消し去ろうとするとはな」
ゲドーと名乗った男は苦虫を噛んだような渋い顔をして、変貌しつつあるユキマサ達三人を睨んだ。
「密告?いったい誰が……」
「ついさっき……いやおまえが知らなくても良い事だ」
ゲドーは俺と話をするツモリは全く無いらしい。
ジロジロと三人の召喚勇者を覗う。
「おいあんた、連邦のお偉いさんなんだろ!?」
「これ、どうにかしてくれよ!」
「なあ、俺達死んだりしないよな?」
三人は狼狽しながらゲドーに縋ろうとした。
その瞬間――
― パサッ……
「ひいいいいいい!!!!!!!」
ユキマサの右腕がパサリと落ちて灰縄のように崩れた。
―― アドレア連邦の召喚勇者を含む召喚者は、魔力を使い果たせば黒い塵となり消滅するか、運よく塵化を免れても廃人になる。
ユキマサ達は、バーク(邪)に魔力のほとんどを吸い取られていた。
その状態で
これがスラヴ王国の召喚者なら魔力ブレーカーが働き失神するだけで済むのだが、残念ながらアドレア連邦の召喚者にその機能は付加されていなかった。
ユキマサ、タケヒサ、ショーゴは、これより最後の時を迎えようとしていた。 ――
ゲドーは冷ややかな目をしながらユ、キマサ達に静かにドスの効いた声で話しかけた。
「どうにかしてくれだと?特権を与えられた召喚勇者とはいえ、街一つ吹き飛ばそうとしたおまえ達を、我がアドレア連邦が助けるなどとなぜ思う?」
「なぜだ!俺達は勇者だ!エリートだぞ!」
「勇者法によって何をやっても許されるはずだろ!」
「こんな現地人の街、一つや二つくらい消滅してもどうってことはないだろう!」
「自惚れるなよ、勇者とはいえ線引きはある。個人相手にイタズラする程度は目を瞑ってやる。だがおまえ達のしようとした事は、連邦への明確なる敵対行為そのものだ!運よく魔力切れで街は助かったが、危なく連邦有数の繁栄した街と貴重な財産を失う所だったのだぞ!もう連邦はおまえ達を必要としない」
―― 召喚勇者とは、いわば我々の世界の核兵器のようなものであり、他国に対する戦争抑止力だ。
その戦争抑止力が、自国に向かって牙を向けるなど本末転倒もいいところだ。
扱いに困る壊れかけた兵器など、修復するより新たに購入した方がいい。
国家予算から莫大な経費を使い召喚したユキマサ達三人だが、ゲドーは見切りを付けたらしい。 ――
連邦から見捨てられたと悟った三人は、必死でゲドーに救いを求めた。
「わ、悪かった!」
「もうこんな事はしない!」
「だから助けてくれ!」
― パサッ、パサッ、
ゲドーに向かって手を伸ばしたタケヒサとショーゴ。
しかしその腕はゲドーに届く前に崩れ落ちた。
「うわああああああああ!」
「いぎいいいいいいいい!」
「もう手遅れだ。魔力が完全枯渇した召喚勇者を助ける術はない。おまえ達は間もなく黒き塵となりこの世を去るのだ」
「いやだ!いやだ!」
「なんで俺達が!こんなの認めねえ!」
「助けて!助けて!助けてえええええええ!」
「諦めろ」
― ムギュギュ……ムニュッ……ウゾウゾ……
「ひぃ!頭の中で何かが!?」
「蛇が!蛇が脳みそを食い荒らしてやがるぅ!?」
「こんな死に方なんていやだあああああああ!!」
恐ろしい事に、このタイミングでミヤビの
蛆虫がチーズを喰い漁るように、オビデスネークは三人の脳内を蠢く!
痛みこそ伴わないが、余にも恐ろしい不快感に襲われた。
そして脳を貪られるなどという恐怖に身をよじりそうになる。
しかし身をよじれば一気に身体が崩れそうで、彼らはそれすら許されない!
「ケンツ、見てないで助けてくれよ!」
「そうだ、俺達を助けてくれたら一番の子分にしてやる!」
「魅了した女をおまえに全てやる!だから頼む!早く助けろ!」
「俺の魔力はおまえ達のような聖属性じゃないし。こんなの助けようが無いぜ。それに女を魅了漬けにして回すような輩など、俺が助けるわけがないだろう!だけど、これはさすがに……」
想像を絶する残酷な最後だぜ。
こんなことなら、やはりあの時焼却してやればよかったな。
俺は目の前の惨状を見て、思わずユキマサ達に同情してしまった。
― パサッ、パサッ、パサッ……
「「「いやだああああああああ!!!!」」」
黒化が進行しきり、ユキマサ達の崩壊が最終段階を迎えたようだ。
「終わりだな」
ゲドーは氷の眼差しで呟いた。
「ケンツ!ちくしょう!ちくしょう!」
「ひでえ、こんなのあんまりだ!」
「お母ちゃん!誰か!誰でもいい!助けて!助けて」
「「「 なんで俺達がこんな目にいいいいぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい! 」」」
― バサッ!!!
断末魔の後、召喚勇者ユキマサ、タケヒサ、ショーゴの三人は、黒き塵となりこの世界から完全消滅した。
*
「やつら、本当に消滅したのか。悪党とはいえ、この最後には同情するぜ…………うん?」
ゲドーは何やらゴソゴソとやり始めた。
消滅した召喚勇者の事など放置して、魔力チェッカーを持って気を失っている召喚者達を調べて回っている。
「他の召喚者は気絶しているだけか。魔力もまだまだ十分ありそうだな。こいつらは再教育して……うん?なんだケンツ、まだ何か用があるのか?」
「用があるのかって……いや、無けりゃそれでいいんだけどよぅ……俺は抹殺……というか粛清対象じゃないのか?」
「なんだ?おまえ連邦に対して反逆でも企てているのか?」
「いえ、そんな事は全くありません!俺は善良なアドレア連邦民なんだぜ!……なんです!」
「なら、俺の気が変わらないうちにさっさと行け。こいつらは勝手に街を消し去ろうとして自滅した。おまえ達は一切関係無い。いいな?」
「はい!」
ラララララ、ラッキー!
あのゲドーとか言う国家保安委員会の男、なんだかよくわからねーけど見逃してくれたぜ!
気の変わらないうちにさっさと逃げるべ!
それにしても、召喚勇者達も最後は哀れなもんだったな。
あんな外道な奴らでも、召喚されなきゃ奴らの世界で真っ当な人生を送ってたんだろうか……
いや、考えても仕方ないぜ。
恐らく奴らはこのリットールに来る以前にも、他所の街や村で極悪非道な振る舞いをしていたはずだ。
憐れむことなど必要ない!
だけど、でも、
「今度転生してくる時は、真っ当な人生を歩むんだぜ。それまで冥界でうんとシボられて、そんで奇麗な魂になってきやがれ!」
俺は召喚勇者だった者の黒き塵の山に向かって言葉を掛けたのち、一目散にその場を走り去った。
*
Sideバロン&ブルーノ
「召喚勇者共め、死におった」
「完全に騙されたぜ、まさかケンツに負けるほど弱かったとはな」
「おまけに街を消滅させるだぁ?シャレにならんことを……」
「だけど密告するまでも無かったな。まさか自滅するとは……あいつらバカだろ」
密告者とはバロンとブルーノだった。
彼らは街から逃げようしたが、町ぐるみ消滅させると聞いて時間的に脱出不可能と判断。
なんとか難を逃れようと近くのテラリューム系教会に駆け込んだのだが、事情を聞いた神父は大慌てで国家保安委員会に魔導通信を送った。
するとゲドーがすぐに現れ、嫌がるバロンとブルーノに案内させたのである。
「とりあえずどうする?」
「ケンツの野郎、俺達の事を目の敵にするだろうな」
「なら先手必勝だ!」
「まさか、ケンツを殺るのか!?」
「ちげーよ。俺達は国家保安委員会に協力したんだぜ。つまり召喚勇者の暴挙を止めようとした側の人間だ。その事は教会の神父や国家保安委員会が証人だ。俺達は功労者だぜ」
「言われて見れば確かにな。で、それでどうする?」
「今夜中に冒険者ギルドに報告するのさ。それでほとぼりが冷めるまで身をかわす」
「オーケー、それでいこう。一か月もすりゃケンツの怒りも収まっているだろうぜ」
強引で都合の良い解釈をしてプランを練り上げたバロンとブルーノは、急ぎ冒険者ギルドに向かったのだった。
果たしてこのプラン、うまく行くのだろうか?
*
Sideアキム
『と言うわけで、君達は不幸にも
『何が不幸にも
『なあ、あんた死神なんだろう?見逃してくれよ!』
『見逃してくれたら魅了した女を回してやるぜ!』
ヘラヘラと薄ら笑いしている死神の使いアキムの前に、ユキマサ(霊体)、タケヒサ(霊体)、ショーゴ(霊体)の三人が雁首並べて偉そうに慈悲を求めていた。
『ダメダメ、君達は少々……いや、かなり滅茶苦茶にやり過ぎたもん。普通なら魂ごと消滅させて無にするところだよ。でも君達は実に運がいい。地獄にて罰を受けたのち、魂は洗浄されて転生される事が約束されたよ』
『なんだ?』
『死んでも続きがあるのか?』
『そう言う事は早く言えよ。地獄でブイブイ言わせて楽しもうぜ』
三人は、死んだら消滅して終わりとばかり思っていたのが、実は死んでからも続きがあるらしい事に安堵した。
『ケンツに感謝しなよ。彼が最後に君達の転生を願ったおかげで、君達は消滅を免れたんだからさ』
『感謝だと!?』
『ふざけるな、あいつのせいで俺達はこんな所へ来たんじゃねーか!』
『野郎、転生してシャバに戻れたら真っ先にぶっ殺してやる!』
三人はケンツ抹殺を心から誓った!
だがそれは不可能というものなのだ。
『いやぁ、それは無理だよ』
『『『 なぜ!? 』』』
『だって君達の地獄での刑期は千年相当だもん。エルフでもないのにケンツがそんなに長く生きているわけないじゃん』
『せ、千年!?』
『そんなに長く地獄に?』
『おいまて、俺達は地獄行を拒否するぜ!天国に連れていけ!』
『地獄はいいよぉ、苦痛を味わいながら何度も何度も生き死にを繰り返すんだ。並の者なら一日で音を上げるんだよ。『もう殺してくれ!』ってね。すでに死んでいるのに何言っているんだか』
アキムはケラケラ笑いながら、地獄についてくどい程丁寧に説明した。
その説明を聴き、ユキマサ達の顔色が青黄赤と信号のように目まぐるしく変化する。
『いやだ!俺は今すぐシャバに戻る!』
『戻るったって、もう身体が無いじゃん』
『改心します!嫌いなピーマンも食べます!だから!だから!』
『うんうん、千年後にピーマン食べようね』
『俺は何もやっちゃいねぇ!無実だぁぁぁぁ!!!』
『処刑前の死刑囚みたいな嘘を言うのはやめようか』
『『『 誰か助けてえええええええええええええ!!!! 』』』
三人の魂の叫びが星幽空間に響き渡る!
『んーんー、実に良い絶叫だ。悪しき召喚勇者の最期はこうでなくっちゃね♪』
アキムはどこか上機嫌に三人を拘束する。
そして――
『それでは地獄に向かってしゅっぱーつ!』
『『『 いやだあああああああああああああああ!!! 』』』
こうしてユキマサ、タケヒサ、ショーゴの三人は、アキムに確保されて地獄の最下層コキュートスに連行されたのである。
なお千年後、刑期を終えて魂が洗浄された三人は、無事に転生して生まれ変わる。
しかもケンツの子孫達と
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やっと召喚勇者編が終わった……
プロット上では全9話なのに、実際の話数は37話とかもうね……
私の小説、見通し甘すぎ!
お知らせ
104 第三十八話 悩めるバークと召喚勇者の末路 04
上記部分(前話)を微改稿しました。
(ストーリー的な変更はありません)
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