103 第三十八話 悩めるバークと召喚勇者の末路 03
Sideバーク
「ねえバーク」
「ちょっといいかな?」
召喚勇者との戦いの帰り道、キリスとキュイは思いつめた面持ちでバークに気持ちを聞いた。
「アタイ達はバークを応援するし、シャロンとも家族になりたいと思ってる」
「だけど、想い合うケンツとシャロンを見て迷いが出たんだよ」
「ケンツからシャロンを奪ったとしてさ」
「バークとシャロンは幸せになれるの?」
二人に言われるまでも無いかった。
――ケンツさんからシャロンさんを奪っても、僕にはきっと……。
シャロンさんを想う気持ちはケンツさんに負けていない。
しかし、だからと言って僕がシャロンさんを奪ったとしても、シャロンさんを幸せにすることは出来ないんじゃないか?
一年前、ケンツさんは落ちぶれ、逆に僕は力を付けた。
キュイとキリスはケンツさんから離れ、僕の元に身を寄せた。
弱り切っていた二人は僕の元に来たことで光を取り戻し、幸せな日々を送れるようになった。
だがケンツさんの傍に残り続けるシャロンさんは、苦しい日々の連続だった。
『ケンツさんではもう無理だ。シャロンさんは僕が守る!』
思えばこの頃から僕は傲慢だったのかもしれない。
その後、シャロンさんはケンツさんから突き放され、僕の元に来ることになった。
僕はシャロンさんを幸せにする自信があった。
だが結果はどうだった?
シャロンさんが僕の元にいて、【安全】ではあったが【幸せ】な時など一瞬たりとも無かった。
逆に僕はシャロンさんを強引に奪おうとして、弱っていた彼女の心を酷く傷つけてしまった。
それでも僕はシャロンさんを奪われたくなくて……
僕から離れようとするシャロンさんを卑怯な言い回しで繋ぎとめて……
ケンツさんの挑戦をもっともらしいセリフを吐いて受けて……
『その挑戦を謹んでお受けする!シャロンさんを想う気持ちと覚悟を僕に見せてくれ!僕にぶつけてみろ!僕は絶対に負けないぞ!』
過去を振り返る度に吐き気がする。
どこまで醜悪なことをしているんだろう。
それで、もしケンツさんに勝ったとして、僕はシャロンさんを幸せに出来るのか?
「出来るわけが無いじゃないか。この一年で結果は出ているだろ……」
シャロンさん欲しさに、僕は認めたく無かっただけ、目を背けていただけか……
「「ねえ、バーク……」」
「二人とも済まない。少し一人にさせてくれないか?」
そう言って僕は一人、皆とは別行動をとった。
*
Sideケンツ
「バークの野郎、一人で何処に行くんだ?」
「彼も今日の事でいろいろ考える事があったんじゃないかな」
去り行くバークの背中を見て、ユリウスは答えた。
うーん、俺とシャロンのベタベタぶりはバークには目の毒だったかな。
目の前でキスまでしちゃったし。もしかして戦意喪失したかな?
気分が高まっていた時は“全力でぶつかって来い!“とか思っちゃったけどよぅ。
さっきと違い、改めて冷静になって今考えてみれば……
バークよぅ、別に無理して勝負なんてしなくてもいいぜ。
オメーがシャロンを諦めて手を引くなら無益な戦いなどしないさ。
話し合いで解決するならそれが一番だぜ。
俺は平和主義だからな!
………
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
なんてわきゃねえぜ!
話し合いの解決など絶対に有り得ねえ!
バークがシャロンに迫り、関係を持ちやがった事を、俺は忘れちゃいねえ!
今でもシャロンの衝撃告白を思い出すたびに、バークへの怒りで頭の中がクワーッ!って真っ白になるぜ!
俺のシャロンを汚しやがって!シャロンを泣かしやがって!
何が何でもグッシャグシャのボッコボコにしてやらない事には気が治まらん!
それに俺にとってのケジメもつかねえ!
この怒りと恨みの怨念、すなわち
首を洗って待っていろバーク!落とし前は必ず付けてやる!
「クックックッ……ワーッハッハッハッハッ!!!」
「ケンツさん、なに凄い悪そうな顔して突然高笑いしているんですか?」
「ケ、ケンツ!?」
いかんいかん、感情が昂り高笑いしちまった。
アリサにジト目で睨まれ、シャロンにもガチで心配させちまったぜ。
冷静に冷静に。
でも今日だけはバークに「ありがとう」と言ってやりたいぜ。
もういないけど。
「ケンツさん?」
「ケンツ?」
「いやまあ、ちょっと初心に戻っていたのさ。それより、俺も野暮用があるからよ。アリサ、アカリ、ミヤビ、キリス、キュイ、シャロンの事を宜しく頼むぜ。ユリウス、ヒロキ、また明日な」
野暮用……杞憂ならそれでいい。
だが召喚勇者達が大人しく引き下がるとはどうしても思えねえ。
「俺一人で会えばやつらの本音が見えるはずだ。奴らが牙を剥こうものなら刺し違えても屠ってやる!」
俺は皆が泊まる宿前に着いてすぐ、踵を返してもと来た道を引き返した。
*
Sideバーク
あれから僕はあてもなくフラフラしながら思案していた。
どうするのが正解なのかを……
「そんなものはすでに出ている。僕が未練がましいだけだ。認めたくないだけだ。ケンツさんに嫉妬しているだけだ」
ケンツさんの前で見せたシャロンさんの陽の感情……
「きっと僕に向けられる事なんて、この先絶対に無いだろうな……」
悔しいな、どう足掻いても僕にはシャロンさんの心を掴む事は出来ない。
「醜態を晒すだけだな。ケンツさんの挑戦は辞退して、僕は潔く身を引こう……」
僕が身を引けば、ケンツさんはシャロンさんを必ず幸せにする。
シャロンさんが幸せになることこそが、僕が一番願うことなんだ!
― ふぅぅぅ……
「答えは出た。これからは良き友人として、ケンツさんとシャロンさんに接していこう」
そう決心した時――
『バークよ、本当にそれでいいのか?』
胸中からまたあの声が!?
「またか!おまえは誰なんだ!?」
声は僕の疑問には一切答えず語り続ける。
『バークよ、おまえは大きな勘違いをしておるぞ』
「勘違い?」
『そうだ、おまえが身を引けばシャロンは幸せになると思っているようだが……それは大きな勘違いだ!』
「そんな事は無い!僕はあの二人の深い愛を知っている。僕はもうあの二人の邪魔をするべきじゃない!」
『情けない……おまえはこの世界の
「ケンツさんは咬ませ犬なんかじゃない!咬ませ犬が召喚勇者を屠れるはずがないだろ!」
『勘違いするな。あの召喚勇者は咬ませ犬以下の
「僕の力?」
『そうだ。力こそ正義……今以上の力を振るえば、いかにシャロンと言えども必ず堕ちる』
「ははは、何を言うかと思えば……いまさらシャロンさんを力でどうこう出来るものか。だいたいケンツさんの力は僕の力を遥かに超えている!」
今日ケンツさんの戦いぶりを見てはっきりとわかった。
いったい何をどうやったのか?どんな修行を積んだのかわからないが、ケンツさんの力は明らかに僕を上回っている。
いま戦えば十中八九、僕が負けるだろう。
『この世界の
― ギュイイイイイイイイイン……
「な、なんだ眩暈が……!?」
『
「ケンツさんは咬ませ犬じゃないし、もう僕にもその気はない!僕はあの二人の幸せを願いたい!」
『自分の気持ちを偽るな!おまえの弱腰のせいでシャロンが不幸になってもいいのか!』
「ぐっ……そもそも今の僕じゃ、もうケンツさんに勝てない!」
『ならばおまえも真の力を解放させてやろうではないか』
「真の力?……そんなものいらない!相応でない力は自分の身を亡ぼ……」
― ギュイイイイイイイイイン……
『バークよ、真の力を解放すればケンツに勝てるのだ』
「必要ない!」
― ギュイイイイイイイイイン……
『真の力があればシャロンを奪えるのだ。幸せに出来るのだぞ』
「幸せに?……ダメだ!シャロンさんはケンツさんと共に……」
― ギュイイイイイイイイイン……
『ケンツではダメだ。あの男はシャロンを不幸にする』
「そんな事は無い!あの二人は深く愛し合って……」
― ギュイイイイイイイイイン……
『私には見えるのだよ。今のままではシャロンが不幸のどん底に堕ちていく』
「シャロンさんが不幸のどん底に!?そんなバカな!」
― ギュイイイイイイイイイン……
『シャロンを救えるのはこの世界の
「
― ギュイイイイイイイイイン……
『バークよ、運命から目を背けるな!』
「運命…………」
― ギュイイイイイイイイイン……
『そうだ。さあ、己の運命を受け入れよ!』
「運命を受け入れる…… 」
― ギュイイイイイイイイイン……
― ギュイイイイイイイイイン……
― ギュイイイイイイイイイン……
――――
――
―
「…………僕は……僕はどうすればいい?」
『眠れバーク。後は我に任せろ。次に目覚めた時、おまえの力は大きく膨れ上がっていることであろう……』
「…………」
僕の意識は黒く染まり、深い闇に堕ちた。
『女を餌にしてもすぐには釣れんとは手間を掛けさせおって。全くこの男は真面目すぎて扱いにくいわ。本当に我の血を引いているのか怪しくなるな』
バークの身体は別の何か――邪竜アパーカレスの意思に支配される。
バークはアパーカレスの邪悪な囁きと、邪竜の洗脳術【ドラゴンパペット】の相乗効果により堕ちてしまったのだ。
一時的にだが、バークの瞳は爬虫類的な金色になり、皮膚は黒く染まり身体も二回り大きく変貌する。
さらには周囲の魔素を固定化し、青黒い
その姿、もはや誰が見てもバークとは思わない。
『まったく欲望の無い男には苦労させられる。こやつは読書以外の活力が全く無い。正直シャロンに惚れていなければ、恐らく何を囁いても身体を乗っ取るのは無理であろうな』
『それにしても、あのケンツとか言う小物が持っていた剣…………あの剣はどこかで見たような気がする……』
『いずれにせよ
『だがバークの言っていた通り、今のコイツの力ではケンツには勝てんな。まずは力の解放のために、奴らを糧にせねば……』
バーク(邪)は、ニタリと不気味な笑みを浮かべ、召喚勇者達の元へ向かった。
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