100 第三十七話 リサステーション(甦生)07(改1.1)(裏話あり)



「どうして?ケンツ、私は死んだんじゃ…………そう、私は自害して…………自害………?」



シャロンはそう口にして、自ら命を絶った事を思い出してしまった。


激しい痛みと苦しみ、斬り裂かれる心臓の感覚、吹き出した血の生暖かさ、それらを一気に思い出し、ガクガクと震えだした。


さらにシャロンの記憶が遡って行く。


魅了されケンツに暴言を吐いたこと。


ケンツを裏切って凶拳を放ったこと。


召喚勇者ユキマサの唇を、だらしなく甘受したことも……



「私……私はケンツを裏切って……ケンツを傷つけて……あんな男ユキマサに…………んぐっ!?」



シャロンが魅了の後遺症に襲われそうになるや、俺はシャロンを深く抱きしめ直しキスをした。



「んん!?……んんん……」



ガタガタと震え始めたシャロンだが、徐々に落ち着きを取り戻していった。


「ぷふぅ……シャロン、落ち着いたか?」


「うん……」


「シャロン、奴らとの勝敗はついた。もう大丈夫だ。二度と怖い思いはさせねえぜ」


「ケンツ…………ありがとう…………」


シャロンは俺の胸に顔を埋め身を委ねた。


掛かっていた時間は短いモノだったが、やはり魅了はシャロンにトラウマを植え付けてしまったな。


大丈夫だシャロン、俺と一緒に克服しような。



少し時間が経ち、落ち着いたシャロンど話しているうちに、興味深い事がわかった。


シャロンの最後の記憶は自分の胸に凶刃を突き刺して、俺と最後の言葉を交わしたところまでのようだ。


その後の記憶、つまりシャロンは死んでいた時の記憶は一切ない。


俺、アリサ、アカリの達三人がリサステーションを使い、星幽化空間アストラルスペースにてシャロンを助けた事など全く覚えていなかった。


そういや俺もアリサに助けられる前、首を刎ねられ……つまり世間一般的に死んでいた状態の時の事は何も覚えていないな。


まあ俺の場合は単に何も無かっただけかもしれないけど。



「シャロン。やはり死んでいた時のことは覚えてないのか?誰かが一緒だったようだが……」


「うん、何も覚えてないの。何かあったような気はするんだけど……」


「そっか、いや大した事じゃねーんだ。少し気になっただけさ」



シャロンは必死で思い出そうとするが、やはり駄目なようだ。



「ケンツ、死人しびとの記憶は夢のようなものなんだ。弾ける泡のようにほとんど残らない。何かキッカケがあれば思い出す日が来るかもしれないが……」



ユリウスはそう説明した。


やはり死んでいた時の記憶は残らないらしいな。


シャロンの隣にいた男の事は気になるが……ま、なんだっていいさ。


シャロンは無事生き返ったんだ。



色々な事はあったが、皆はシャロンの生還を喜んだ。


ただその中で、バークの嬉しそうだけどどこか寂しそうな、それでいて辛そうな微笑が少し印象に残った。


あいつもシャロンのことを真剣に愛する男。


目の前で俺とシャロンがキスしたことはさぞ辛かったろうな。


だがよう、シャロンは俺の女だ。


おまえには絶対に譲らねーからな!





*





「とりあえず、無事仕事が終えてホッとしたよ。それじゃアカリを起こすか」



召喚勇者ヒロキは、急激な魔力消失で気を失っている召喚聖女アカリに対して――



― ぶちゅう



「おおうっ!?」



なんと周囲の目を気にもせず、アカリの唇に深いキスをした!


こいつ、いきなり何を!?


見せびらかし?自慢か!?



「ん……んん……」



するとアカリは目を覚ました!


なんか御伽噺の御姫様のようなノリだな。


スラヴの召喚勇者ってのは、キスで女性の目を覚ますのがデフォなんか!?



「そんなジロジロ見るなって。こりゃ俺の魔力を分け与えただけさ」



ヒロキは自分が注目されていることに気付き弁明する。


ああ、なるほどな。魔力を補充してやったのか。


召喚者とはいえ流石は勇者と聖女だな。


勇者じゃねーけど、いつかシャロンに試してみようっと!



ところが、それを見ていたユリウスも………!?



「へー、そんな方法で魔力を流す事が出来るのか。それは知らなかったな。それじゃ俺も……」



そう言って自然な流れでアリサの唇に……


いやいやいやいや!



「ちょっと待たんかい!」


「わっ、なんだよケンツ。邪魔しないでくれ」


「邪魔しないでくれじゃねーよ!おまえがキスしちゃだめだろう!」



そう言われてポカンとするユリウス。



「え、なんで?」


「なんでってオメー、アリサにはユーシスって言う想い人がいるんだぞ!それをおまえ、アリサが気を失っている間に寝取るようなマネを……」


「ユーシス…… 寝取る?…… あ 」



“あ”じゃねーよ!


最近オメーらの仲が良いのはいいけどよ、それでも一線超えちゃダメだろう。


アリサが悲しむようなマネをするのなら、俺は黙っちゃいねーぜ!



「ケンツ、誤解だ!これはその……ついうっかりってやつなんだよ」



うっかりって……コイツ、天然かよ!



「あのー、ユリウスさん。魔力を流すのなら、別にキスでなくても額を合わせれば流れていきますよ?」



唐突にミヤビがアドバイスする。



「あ、そうなの?(ちっ)」



“ちっ”!?


いま確かに舌打ちしやがったぞ!?


こいつ、うっかりじゃねー!


絶対に確信犯だ!


誠実そうな男だと思っていたが、実は召喚勇者と同じ淫獣だったのか!?


俺のユリウスを見る目が一気に変わったぜ!




―コツン



ユリウスはアリサと額を合わせ魔力を流した。



「んんん……もっとぉ……♡」



ユリウスの魔力が流れる心地よさに、その身をよじらせるアリサ……


おいおいアリサよ、誤解されるような寝言は慎みなさい。


今のおまえ、なんかすっごくエロいぞ!


こんなの想い人君ユーシスに見られたら破局するぞ!


ユリウスからの魔力はちゃんと流れたようで、アリサも無事目を覚ました。



「はっ!ケンツさん、シャロンさんはどうなりました!?」


「おう、この通り無事に生き返ったぜ!」


「よかったぁ……術が解けた時はもう駄目かと思いましたよぉ」



シャロンの姿を確認して、大きく息をして安堵するアリサ。



そのアリサの目覚めを見て、アカリがリサステーション中の事について訊いた。



「ねえアリサ、あの時シャロンさんと一緒にいた死神みたい人なんだけど……」

「うん。なんかアキムさんと似てたよね。本人じゃないとは思うけど……まさかね」



何やら意味深なアリサとアカリの様子。


いやそれより、



「アキム?」



なんだろう、なんかどこかで聞いたことが有るような無いような?


「アキム……」



シャロンも首を傾げている。


誰だっけ?【イジメ返しリスト】にもそんな名前の野郎はいなかったし……



「あっ!」


「どうしたシャロン、アキムという男の事を思い出したのか?」


「ううん、そうじゃないんだけど。ケンツ達が甦生魔法で助けに来てくれた時のこと、少し思い出したの」



おお、俺がかっこよく助けようとした時のことを思い出したのか!


それでそれで?



「えっとね、ケンツ、アリサさん、あとアカリさんでしたっけ。あのとき最後ケンツだけになって必死で手を伸ばしてくれたけど届かなくて……」



そうそう、あれは絶望的に近くて遠かったぜ。



「でも最後はケンツが凄いを伸びを見せたんだけど……」



そうそうそうそう♪


俺頑張ったもん。


シャロンと離れたくなくて必死だったもん。


だから褒めて褒めて!



「その時、誰かが何か言ったような……」


「なんだって?」



あの瞬間、俺とシャロン以外の誰かが干渉・介入したのか?


もしやシャロンと一緒にいた男か?



「で、なんて言ったんだ?」


「うーん……あれは確か……そう、『おっと身体が滑った!』とか言いながら背中を押されたような……」


「はえ?」



なんだそりゃ?


『おっと身体が滑った!』???


あの最大級のドラマチックな場面で、そんなマヌケなことを言うヤツなんていないだろう。



「なあシャロン、そりゃ夢じゃねーか?いくらなんでも緊張感無さ過ぎだろう」


「だよね、記憶の混濁かしら?『おっと身体が滑った!』……うん、確かに無いかな。ごめん、忘れて!」



シャロンはコツンと自分の頭を叩いて、バツの悪そうな顔をした。


はっはっはっ、シャロンは面白いなぁ。


そんなシャロンが大好きだぜ。愛してるぞ!



「『おっと身体が滑った!』って……シャロンってば、時々不思議ちゃんになるよね」

「ほんとほんと、『おっと身体が滑った!』とか。不思議ちゃん通り越して頭が心配になるレベルだよぉ」


「ふ、二人ともそんなに言わないでよ!あー恥ずかしい!」



キリスとキュイに揶揄されて、シャロンは顔を真赤に染めた。


今のシャロンの『おっと身体が滑った!』発言は、変にツボにハマったのか、皆大笑いしてその場の空気が和らいだ。


しかしそんな空気に動じない者が一人……




「えっと、和んでいる所を申し訳ないのだけど、そろそろアレの処分方法を考えてくれます?」



現人神ミヤビが両の人差指で一方向を指した。


その指先にあるもの――


それは氷漬けにされている召喚勇者達の肉片だった。





*





Sideアキム


『ふぅ、どうやら甦生は出来たようだね。『おっと身体が滑った!』……あれは純全たる事故だからね。死神は手心てごころなんて一切加えないのさ』



死神の使いアキムはワザとらしく棒読みで呟き含み笑いした。



『さあ、ここからシャロンさんが天寿を全う出来るかどうかはケンツ君次第だ。しっかり守れよ!

新米聖女さん達、またね!


さてさて、次の冥界送りリスト者は……ふむ、またリットールエリア……例の三人・・・・か。やつら生粋の極悪人だし地獄行きのうえ、転生は無いだろうな。犯した罪を苦しみで償って貰おう』



柔和なアキムの表情が厳しいものに変わる。


冥界送りリストを確認し終えるなり、アキムの姿はフッとその空域から姿を消したのだった。

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