099 第三十七話 リサステーション(甦生)06



「開け、冥界への回廊 創造の女神テラリュームの名において、彼方の者を呼び戻せ!」


「「「 リサステーション甦生! 」」」



― ブワッ!



俺達三人がリサステーションを唱えると、金色の粒子が激しく膨れ上がった。


ついで視界が一変する!


それは神々しい白く眩い世界!


これが――



「これが聖女達の世界なのか! ふおっ!なんか身体が軽いぜ!?」



いや違う、これは身体から魂が抜けたのか!?


てことは、俺も死んじゃったんか???



「死んでないから。ちゃんと肉体と線で繋がってるでしょ?」

「ついでに言うと、ここは聖女の世界なんかじゃないからね。星幽化空間アストラルスペース……そんなことはまあいいわ。それよりも早く!」



なるほど、確かに身体からヒモみたいなもんが出てるな。これが肉体と繋がっているのか。


それに星幽化空間アストラルスペース


ようは特殊な空間ってことか。深く考える必要は無さそうだ。


アリサとアカリそして俺は魂だけの身体、【星幽体アストラルボディ】となり空に上がった!



「ケンツさん、あそこよ!シャロンさんに触れることが出来れば、必ず甦生するわ!」

「今までよりずっと近くに寄れた!これなら……いける!」



俺達の向かう先にはシャロンの姿があった!


そして隣には見知らぬ黒衣の男も。


んん?


あの男、最近どこかであったような?


しかもなんであんな満足そうにニコニコしてやがるんだ?


なんか笑顔がムカつくな、こっちは必死で笑うどころじゃねえんだぞ!


いやいやあんな男はどうでもいい。


シャロンだ、とにかくシャロンに触れさえすれば……!


先行するアリサとアカリが必死でシャロンに手を伸ばしているが届かない!



「ぐぐぐ、駄目だわ、届かない!」

「ケンツさん!私達を踏み台にして行って!」


「わかった!うおおおおおおおお!!!!」



力及ばず、悔しそうに下がって来たアリサとアカリ。


その二人から強く背中に圧を受け、俺は一気にシャロンの元へ!



『ケンツ!』



俺の心に直接声が響いた!


シャロンの声だ!



「シャロン!シャロン!クソ、これ以上寄れねえ!届かねえ!」



あとほんの少しなんだ!


感覚的にはほんの数十センチくらい!


その数十センチが全然縮まらねえ!


くそ、さっきアカリが『ほんの少しが絶望的に遠い』とか言っていたのはこのことか!



― ガクンッ!



「な、なんだ?力が抜ける!勢いが!?」



こ、これは!?


リサステーションの術式が解けかけているのか!?



「おいアリサ!アカリ!術が解けそ……!?」



振り向いてギョッとした。


アリサとアカリの姿が無い!?


あいつら術が解けちまったのかよ!


このままじゃシャロンと離れ離れになる!


永遠に離れ離れになる!


そんなの絶対にイヤだあああああああああああああああああ!!!!!



「シャロン!シャロン!くっそー!届け!届いてくれ!」


『ケンツ!ケンツ!私、ケンツと別れたくない!ケンツともっと一緒いたいよ!もっとケンツと生きたい!』


「 ! 」





自殺しておいて、生を望むなど烏滸おこがましいのかもしれない。


しかしそれでも!


ケンツが自分を助けようと必死に迫る姿を見て、シャロンは心からケンツと共に生きたいと思わずにはいられなかった!


そしてその想いはケンツの心に確実に響いた!





シャロンが!またシャロンの声が!


シャロンが俺と一緒にいたがっている!


一緒に生きたがっている!


うおおおおおおお!諦めてたまるかああああああああああああ!!!!


俺はシャロンと共に人生を歩むんだああああああああああああ!!!!



「シャローン!」


『ケンツー!』





『…………』



― ピトッ……



…………………………………………

………………………………

……………………

…………

……















「ぶはっ!はぁ、はぁ、……どうなった!?」



視界がまたガラリとかわる。


俺は地上に、自分の肉体に戻っていた。



俺、届いたよな?


たしかにシャロンに手が届いて……


その瞬間、視界が元通りになって……


で、どうなった?



目の前には気を失って、ユリウスに抱きかかえられているアリサ。


同じく気を失って、ヒロキに抱きかかえられているアカリ。


いまだ背中を向けて、必死に亜重力レンズで巨大な月を維持しているミヤビ。


涙をこらえながら、一点を見ているバーク、キュイ、キリス。


そしてその一点には頭を俺に向けているシャロンが……



どうなんだ、シャロンは生き返ったのか?


大丈夫だよな?


うん、大丈夫だ、きっと大丈夫。


俺、たしかにシャロンに届いたもん、触れたもん。


だからシャロンは生き返っている。


生き返っているはずだ!


よーし、下を向くぞ!シャロンを見るぞ!確かめるぞ!


…………


だけど、やっぱり怖ええ!


見たら今度こそ終わったりしないよな?


微笑を浮かべたまま微動だにしない……なんてことはないよな!?


シャロン~~~~~~~!!!



― ドッキンッ! ドッキンッ! ドッキンッ!



はうぅぅぅうううううう!!!???


やべえ、心臓の鼓動が半端ねエ!破裂しそうだ!


このままじゃシャロンを見る前に俺が死ぬ!死んじまう!


シャロン、頼む!戻っていてくれ!


俺は意を決して下を、シャロンを見た!(ちなみにここまでの思考約三秒也)





「…………」



シャロンは……


シャロンは何も変わってはいなかった。


相変わらず、微笑を浮かべたままの表情で瞼を閉じていて、明るい月に美しく照らされて、身体は全く微動だにしていなかった。


つまり……シャロンは甦生しなかった。



「そんなああああああああ!嘘だああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



駄目だったのか!?


何が駄目だったんだ!?


確かに俺はシャロンに振れたんだ!届いたんだ!


なのに、なんでシャロンは目を開けない!


瞼が開かない!



「シャロン、シャロン、シャロン、シャロン…………ああああ、シャロン!」



シャロンを抱きかかえるも、身体は相変わらず冷たいままで、腕はまたしてもダラリと下りた。


バーク、キリス、キュイのすすり泣く声が聞こえ、ユリウスとヒロキは悔しそうに目を伏せた。



「ちくしょう……ちくしょう……ダメだったのかよ。こんなのあんまりだぜ……あんまりだ!」



うわああああああああああああああああああああ!!!!



期待から絶望へ……


俺は泣いた。


涙腺がぶっ壊れるほど泣いた。


しかし泣いても泣いても涙が枯れる事は無く、俺の絶叫は再開発地区に空しく響いたのだった。



「…………」




もう駄目だ……


ここにいてもシャロンとは一緒になれない。


だけどさっき、死んでも終わりじゃないことは体験したんだ。


死神みたいな男と一緒にシャロンがいたんだ。


それだけは確かに見た!


なら………


俺もシャロンの元へ行こう。


シャロンと一緒に新たな世界へ旅立つんだ!


シャロン少しだけ待っていてくれ。


俺も今すぐ……


そう意を決した時――



― トクン……



「 ! 」



なんだ?今、何かが……何かを感じたような……



― トクン……トクン……



この響き!?これは、まさか!



― トクン……トクン……トクン……



まさか、シャロンの心臓の鼓動か!?



― トクン……トクン……トクン……トクン……トクン……トクン……



ああああああ!!!!


間違いねえ、シャロンの心臓の鼓動だ!


心臓が動き出したんだ!



「シャロン!目を開けてくれ!シャロン!」



― すふうぅぅぅ……



シャロンが息を!


呼吸をした!呼吸をしたぞ!



― ピクッ……



同時にピクリとシャロンの指が動き、ついでシャロンの瞼がゆっくりと開いていく。



「ううーん……」


「シャロン!」


「ケンツ?……ここは……私、どうして……?」



――――――!!!!!!!



シャロンの瞼が開いた!


心臓が動いた!


身体に温もりがある!


そして、しゃべった!


つまり…………シャロンが!



「やった!シャロンが生き返った!生き返ったぞ!シャロン!シャローン!」



― ぎゅううううううううううううううううぅぅぅぅぅ!



「きゃっ!ケンツ苦しいわ。少し緩めて!なんかみんな見ているし!」


「いやだ!絶対に緩めねえ!絶対に離さねえ!」



緩めればシャロンが消えていなくなるかもしれねえ!


また死んじゃうかもしれねえ!


だから何があっても緩めないし離さないぞ!


もうずっと一緒だからな!




絶望から狂喜へ。


俺は、今度こそシャロンが生き返った喜びと、二度と失いたくないという恐怖に震えながら、困惑するシャロンをいつまでも強く抱きしめ続けたのだった。






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シャロンさん、死んでいた時の記憶は抜けているようです。

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