098 第三十七話 リサステーション(甦生)05




「ダメ、届かなかったわ……」



残念ながらリサステーションは一瞬だけシャロンの肉体が反応するにとどまり、魂を捕まえる事は叶わなかった。



「そんな!やはり駄目なのか!?」



俺はガックリと膝をつき項垂れた。


バーク達も絶望色に顔が染まっている。



やはり甦生なんておいそれと出来るもんじゃないんだ。


簡単にいくもんじゃないんだ。


ちくしょう、見事に上げて落された。


こんなのってねーよ……



「うう、シャロン……すまねぇ……今から俺もそっちへ行くからな」



― ギュリリリリリリィィィ



そう言って俺が自分の首を締めにかかった時、アリサの怒声が飛んだ!



「何やってんのよ!ケンツさんがあきめてどうするの!」


「だっておめぇ、駄目だったじゃねえかよぅ……うう……ぐす……」



― スパーンッ!



今度はハリセンでシバかれた!



「はぁ?たった一回失敗したくらいで諦めるワケないでしょ!アカリ、次行くわよ!ケンツさんもそんなトコに突っ立っていないで、シャロンさんの手を握ってあげて!」



え?


一回で終わりじゃねーの?


そう言うことは前もって言ってくれ!


絶望して涙と鼻水で顔面がえらい事になっちまったじゃねーか!


すっげー厳格な感じだったし、魔力も曝食いするって言ってたし。


だから、てっきり一回で魔力が枯渇して終わりかと思ったぜ!


俺は諸悪の根源ユリウスを睨んだ。



「俺、一回きりだなんて一言も言ってないもん。聖女でもたった百回程度で魔力切れ起こすほど大量の魔力が必要になるってことさ」



“もん”じゃねーよ、バカ野郎!


テメーが“もん”なんて言っても可愛くもなんともねーんだよ!


それに“たった百回程度”とか、おまえの感性はおかしい!


あー、腹立つ!


でもそうか。百回くらいはチャレンジ出来るんだな。


よっしゃ!




「ケンツさん、むしろ本番はこれからなのよ!リサステーションは問題無く発動したわ。あとは甦生するまで掛けて掛けて掛けまくるだけよ!ぶっ倒れるまで……いいえ、ぶっ倒れてもやり続けるわよ!」



おお、なんて頼りがいのある言葉!不屈の精神!


さすが聖女の祝福ギフトが降りるだけの女!


女だけど男前だぜ、アリサ!



「バーク、キュイ、キリス、オメーらもこい!皆でシャロンの魂を呼び戻すんだ!」


「シャロンさん!」

「戻って来てよう!」

「この願い届いて!」



シャロンの傍に皆で集まり必死に甦生するように祈る。



「「リサステーション!」」



またも金色の粒子が纏い煌めく……が、シャロンはやはり生き返らない。


だけど、だけど俺には見えた気がした。


シャロンのすぐ傍で祈っていたせいなのか、シャロンの手を握っていたせいなのか、とにかく俺の視界が一瞬変わったんだ!



「シャロンの魂はまだすぐ近くにいる!アリサの手が届きかけているぞ!」



そして、俺には見えたんだ!


あれは確かにシャロンだった!


シャロンが死神らしき男とすぐ近くにいる!



「ケンツさん、その通りよ!シャロンさんの魂に指が届きかけているわ。触れさえすれば、シャロンさんは蘇る!さあ続けてどんどん行くわよ!」


「「リサステーション!」」

「「リサステーション!」」

「「リサステーション!」」

「「リサステーション!」」


……


アリサとアカリは何度も挑戦した。


何度も。何度も。何度も。何度も。何度も…………


そして百回近く試したところで、さすがの聖女達も魔力切れの兆候が現れだした。



「はぁはぁ……届かない、あとほんの少しなのに!」

「ぜぇぜぇ……でもそのほんの少しが、今の私とアリサでは絶望的に遠い!」



ガクリと両手両膝を地に付いて、苦しそうに肩で息をする二人の聖女アリサとアカリ


「限界か……」

「残念だ……」



ユリウスとヒロキが悔しそうに呟いた。



「そんな……ダメなのか?やはりシャロンは助からないのか!?」


「彼女達の様子を見ろ、もう魔力が枯渇しかけている」

「あと一回リサステーションを発動させれば終わりだろうな」


「ぐっ……!」



俺だって二人の様子を見れば限界が近いことくらいわかる。


あと一回、それでだめならもう……



「せめてあと一人、聖女がいれば……きっと手が届くのに……」

「でも前回みたいに都合よく聖女なんて現れないよ……」



二人は呼吸を整えようとしながら悔しそうに呟いた。


聖女があと一人って……


目の前に聖女が二人もいることがすでに奇跡的な状況だってのに、もう一人なんて絶対無理だぜ!


だいたいアドレアエリアの真正聖女は、異変兆候の調査だとかで大陸極東の地に向かっちまって不在だし。



あと一人なんて……


あと一人かぁ……


うーん、あと一人……


…………


…………


待てよ、あと一人?あっ!



そうだよ!


聖女ならもう一人いるじゃねーか!



「アリサ、アカリ、聖女がもう一人いればシャロンに届くんだな!」



俺は顔を輝かせながらアリサとアカリに迫った!



「ちょ、近い!ケンツさん近いです!」

「確実とは言えないけど、成功する可能性はグッと高くなる。でももう聖女なんてどこにも……」


「それがすぐ近くにいるんだぜ!」


「え!?」

「どこに!?」



目を丸くして驚く二人の聖女!


バーク達もどういう事だと騒めきだした。


ふふふ、みんな驚いているな。さあ刮目せよ!


俺は自信満々にドンと自分を指さした。



「聖女は俺だぜ!」






シーン……






一瞬で場が静まり返った。


そしてややあってから……



「あ、あんたこんな時に何をふざけてるの?シャロンさんの命がかかっているんだよ!」



俺の突拍子もない言葉に激怒する聖女アカリ!


しかしアリサがそれを制した。



「待ってアカリ!きっとケンツさんの心はもう壊れて……でなきゃこんなオバカなことを言うワケないわ!」



アリサは両の手を口前で合わせ、ワナワナと震えながらオヨヨと涙を流した。



「ケンツ……」

「ケンツさん……」

「「うう……ケンツ……」」



ユリウスとバーク達は可哀想なものを見る目で俺に同情した。


いやおまえら、同情すんなし!


俺の心が壊れたとか勝手に決めつけるなよ!



「とりあえず説明お願い」



ミヤビだけが真顔で説明を求めた。


さすが現人神、冷静だぜ!



「アリサ、あれだよ。俺もリサステーションが使えるじゃん!思い出してみろ!」


「え?…………………………………………

………………………………………………あ!」



どうやら思い出したみてーだな。


ふふふ、リサステーションが使えるのはアリサとアカリだけじゃねえぜ!


ここにも居たってことさ!



あれは初めてソーサリーストックを試したときのこと……



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回想

(【037 第十四話 無限魔法貯蔵・ソーサリーストック】より、アリサの魔法を取り込んだ直後の様子)




俺は改めて魔法目録カタログを見た。


おお、あるわあるわ、こうしてみると雷属性と聖属性が目立つな。あとはエルフなんかが得意とするプラントマジック植物魔法の類か。


ん、色が薄い文字はなんだ?……なるほど、取り込みはしたが使う事は出来ない魔法もあるのか。


リサステーション甦生リザレクション復活なんてのもあるが、こいつは使えないようだ。


それにこの手の魔法は無許可で使う事は禁止されているはずだしな。




~~中略~~




『さあもういいでしょ。次のダンジョンに行きますよ』


『いや、ちょっと待ってくれ。一つ試したい事がある』


『え?』



― きゅっ



言うが早いか俺はアリサの手を握った。



『ケ、ケンツさん!何するんですか!!警察呼びますよ!!!』



― ゴッ!



『おわっ、あぶねえ!』



アリサは警察を呼ぶと言いながら、ぶん殴ろうとしてきた!


なんてヤツだ!



『落ち着け、手をつないだままこれを見てみろ』


『え?』



そう言って俺は魔法目録カタログを指さした。



『あれ?使えないはずの魔法が使えるようになっていますね???』


『ほんの思いつきだったんだがな。どうやら俺一人では使用不可能な魔法でも、アリサと一緒なら使えるようだ』


『そうなんですね。でも私と手を繋ぐより、私が自分で魔法を放てば済む話だし、あんまり意味は無いですね』



そう言いながらアリサはつないだ手を振りほどいた。



~回想終わり

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ソーサリーストック無限魔法貯蔵に収納されているリサステーションは、俺だけでは発動させることが出来ない。


しかしアリサと触れていれば俺にも使用可能になる!


そしてソーサリーストック無限魔法貯蔵に収納されているリサステーションはアリサの魔法そのものなんだ。


つまり聖女アリサがもう一人いるも同然なんだぜ!




「確かにそうでした!この魔法は聖女と大神官にしか使えないものだから失念していたわ!」



アリサの目の色が変わった!


さっきまでの焦燥感に苦しむ目じゃねえ。


力の入った覇気のある挑戦者の目だ!


しかしアリサもアカリも魔力的に憔悴しきっている。


やはり次がラストチャンス……


よーし、やってやる!



「俺が聖女デビューしてシャロンを救うんだ!」


「いやいや、ケンツさん。聖女デビューとか、なに気持ち悪いこと言っているんですか」

「彼女さんの命がかかっているでしょ?真面目にしてよね!」



なんだよ、そういう気概で頑張るって意味じゃん。


ふざけてなんかいねーよ、俺はいつだって本気だぜ!


そんなことより、さあさあ仕切り直すぜ!



俺、アリサ、アカリは改めてシャロンの傍に集まった。



「じゃあケンツさんはシャロンさんの頭側で。私と朱里はシャロンさんの両側に」



それぞれが手を握り合い、三角形を構築する。



「ケンツさん。私達と呼吸を同調させて、そこから発動の魔力を一体化させるの。ぶっつけ本番で申し訳ないけどチャンスは一度切りだと思って」



くううううう、すげープレッシャーだぜ!


俺の頑張り具合でシャロンの運命が決まるんだ。


絶対ヘマなんて出来ねーぜ!



「すーはー、すーはー…………すーはー……」



俺は二度大きく深呼吸したあと、呼吸をアリサとアカリに同調させた。



「いいぜ、いつでもやってくれ!」



それを受けてキュッと俺の手を握る二人の聖女アリサとアカリ



途端に金色に煌めく粒子が舞い始め、二人の聖女と俺、そしてシャロンを中心に渦を巻きだした!



「開け、冥界への回廊 創造の女神テラリュームの名において、彼方の者を呼び戻せ!」


「「「 リサステーション甦生! 」」」

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