095 第三十七話 リサステーション(甦生)02



俺はカタログの中から火炎系の魔法を見つけたが、同時に名を連ねている【ある魔法】を見て身体が固まった!


俺の動きを止めた魔法、それは…………


【リサステーション(甦生)】

【リザレクション(復活)】



死者を蘇らす禁忌魔法だった。



「リサステーションにリザレクション!?そうだ、こいつがあったんだ!」



最初、実験的にアリサの魔法を全種類ソーサリーストック無限魔法貯蔵に詰めた時、この禁忌魔法も一緒に入ってきたんだった!


だけど俺には使用不可能な魔法だし、カタログ魔法目録上でも使えない魔法は隅っこ表示だったから、今の今まで存在を忘れていたぜ!


この魔法を由来元のアリサが使えば、シャロンを甦らせる事が出来るじゃん!



「アリサ!あっ…………」



しかし同時に思い出しもした。


許可なく死者を蘇らせるのは禁忌中の禁忌!


教会が許可しない甦生は重罪であり、成功・失敗に関わらず依頼者と術者には重い刑を課せられる!


そして俺達庶民が甦生を嘆願したとしても、教会は絶対に許可しない。


それどころか、どの国の貴族・王族・皇族・その他国家元首が頼んだとしても、余程の理由でない限りまず許可は下ろさないだろう。


許可不要の例外は、フリーの大神官や聖女など、ごく限られた者だけだ。


だからアリサにリサステーションを頼むということは、俺はもちろんアリサにも重い刑が課せられるということだ。


だけど、それでも!




俺はアリサに緊張に強張ったツラを向けた!



「頼むアリサ!シャロンを、シャロンを蘇らせてくれ!お願いだ!」



― ズザザッ!



頭を地面に擦り付け、アリサに土下座して頼み込んだ!


いつかアリサにかました戦略的土下座じゃねえ、本気の土下座だ!



「ちょ、ケンツさん!」



アリサは前回の土下座と同様に焦っている。



「甦生魔法が禁忌で重罪なのはわかっている!アリサも罪に問われてしまうことも!」

「ケンツさん、落ち着いて!」


「だから教会の追手からは俺がアリサを守る!頼む!何でもするから頼む!」

「ん、今なんでもするって……?」


「お願いだ!俺にはもうアリサしか頼れないんだ!アリサしかいないんだ!アリサだけなんだ!」

「そ、そんな愛の告白みたいな言い方しないで下さい!」


「王国までの帰り道も俺がアリサの盾になるから!」

「いやいや、私の盾はユーシスだし!というかこの地から逃げる気満々!?」


「追手には指一本触れさせねえし、絶対に傷つけさせねえ!」

「そんなのいいから。自分の身は自分の身で守れるから」


「だからアリサ、お願いだああああああああ!!!」

「ケンツさん、とりあえず顔を上げて下さい!」


「いやだ、うんと言うまで顔を上げねえ!」

「いいから!一度落ち着きましょう。ね?」


「アリサアアアアアアア!!!」

「しつこい!顔を上げてくれないと説明できないでしょ!いいから顔を上げて!」



とうとうアリサがキレた!


いや、それより…………説明?


俺は土下座の姿勢から顔だけヒョコリと上げた。



「はぁ、実はケンツさんが気を失っている時に、シャロンさんの甦生そせいについてユリウスさんとミヤビさんには相談済みなんですよ」


「そうなのか!?アリサ、じゃあ……!」


「話はまだ途中です。それでケンツさん、この甦生の魔法リサステーションなんですが、実は成功率が恐ろしく低い魔法なんです。それこそ成功すれば奇跡と言っていい程の……もう一つの復活の魔法リザレクションはさらに難易度が高く完全に絶望的。だから過度な期待はしないで欲しいんです」



そうか、確実なものではないんだな。


しかも成功・失敗に関わらず、行使すればそれだけで重罪とかリスクがデカすぎる。


だけど、それでも、希望はあるんだ!



「わかった。全てを承知の上でお願いする。禁忌魔法使用に対する教会と国からの追手は俺が全力で阻止してアリサを守ってみせる!」



アリサにシャレにならねぇリスクを背負わせちまうんだ。


バレたら教会が動いて他の召喚勇者や聖堂騎士に確実に狙われる。


だからアリサは絶対に守る!


この命を賭けてでもアリサを守りきるぜ!


しかしアリサは俺のガードを断った。



「ケンツさんに四六時中守ってくれなくても大丈夫よ。それに甦生絡みで教会が私に罪を課せることは出来ないわ」


「そうなのか?でも教会にもメンツがあるんだ。そんなに甘いものじゃないぞ。黙っていても必ず嗅ぎつけられて……」


「だって私は聖女だもん。甦生するのに許可なんて必要ないし」


「いやいや、いくら聖女ったって、おまえ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………聖女?」


「はい」


「アリサが?」


「はい」


「聖女……」


「聖女ですよ」


「…………」


「えへへ」


…………


…………


「「「「 聖女おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!???? 」」」」



言った言葉の意味がすぐには理解できなかったぜ。


目をシパシパさせたあと、俺はとんでもなく驚いて変なポーズで身構えた!


いや、俺だけじゃねえ。バークもキュイもキリスも同様に声をあげて驚いた!



「アリサが聖女?マジか!?」


「それが迷惑なことにマジなんですよねぇ……はぁ」



自分が聖女であることが心底嫌であるかのように、アリサは渋い顔をした。



「本当にマジなのか!なぜ隠していたんだ!」


「そりゃ隠すわよ。聖女なんて正体明かしたら召喚勇者がこぞって私を奪いに来るし。あいつら聖女に対しては常に性欲全開!異常な執着で襲ってくるんだから。教会だって黙っていないわ。確保しようと躍起になる。それに私は不法入国してきた身だし、いろいろ面倒なんですよ」



アリサは眉間にシワを寄せて、人差指でコメカミをグリグリした。


そういや《召喚勇者は聖女に対して性的に異常な執着をする》って聞いたことがあるが……あれは本当だったんか。



「そりゃまあ、うん。わかるけど……そうか。でも聖女…………」



まさかアリサが聖女だったとはなぁ……


いや俺もオカシイとは思っていたんだよ。


やたら聖属の魔法が使えるし、両腕切断や死後5分以内の死人を簡単に回復させるし、だいたい魔法騎士と言いながら、魔法騎士の戦い方をしないし。


だけど聖女って言ったらやっぱり清らかで、御淑やかで、上品で、美しい聖衣を纏い慈愛に満ち溢れていて、なんか見ているだけで人を幸せにするようなイメージじゃん。


アリサみたいに可愛いけど怪力で、雷纏いながら剣を振り回して、レッサーワイバーンを束でバッサバッサと屠るような女が聖女だなんて誰も思わねーよ。


ギルドの冒険者達も「中身は怪力ゴリラ女」とか言ってたし。


ゴリサだし。



「ケンツさん、何かとても失礼な事を思ってない?」



アリサがジト目で問い詰めた。



「まさか!聖女様にあんな不敬ゴリサな事を思うわけがないですよ」


「あんな不敬!?やっぱり何か思っているんじゃない!」



この聖女、本当に鋭いな。



「まあいいです。じゃあケンツさん、これから具体的な説明をしますね」


「わかった、宜しく頼む!いや、宜しくお願いします!」



俺はアリサの説明を真剣に受け始めた。


シャロン、希望が見えたぜ!


まだ終わっていないからな。


だから早まって冥界に行くんじゃないぞ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る