094 第三十七話 リサステーション(甦生)01
『ケンツが!そんな、ケンツまで死んでしまうなんて!いやああああああああ!!!!』
全身から血が吹き出し倒れたケンツを見て、シャロン(霊体)は絶叫した。
『大丈夫、死んではいないよ。それにあれだけのベストメンバーが揃っているんだ。心配することなんて微塵もないさ。そもそも彼は今日の冥界入りリストには入っていないんだよ』
慌てるシャロン(霊体)を落ち着かせようと、死神の使者アキムは手をフリフリして、【全く心配いらないですアピール】をした。
『そうなんですか?良かった……うう、ケンツ……あなたまで死んでしまったら、私……』
『いや、むしろ死んでくれたら仲良く冥界にいけたんだけど』
『なんてこと言うんですか!ケンツには私の分も幸せになって欲しいのに!でも無事でよかった……』
シャロン(霊体)は、回りの仲間達に介抱されるケンツを見て安堵した。
それからすぐ近くに寝かされている自分の遺体をシゲシゲと見つめる。
『うーん……』
『どうかしたの?』
『自分が言うのも何ですけど……これ、生きていませんか?』
『大丈夫、しっかり死んでいるから』
『そうかなぁ……ちょっと足の裏くすぐってみてもいいですか?もしかしたらビックリして生き返るかも!』
『試すのは好きにしてもいいけど、絶対に生き返らないよ。だって魂が抜けちゃってるもん』
『うーーー!だ、だったら私が無理やり身体にねじ込んでしまえば……ぐぐぐ、入れない!自分の身体なのになんで!?』
『言ってるでしょ?シャロンさん完璧に死んでるから。
『そうなんですか……こんなに顔色もいいのに……』
『それ、満月に照らされてそう見えるだけだし』
『ううううう……では、どうやっても生き返らない?』
『どうやっても生き返りません!……と普通は言い切るけど、今回に限り絶対ではないかな。役者も揃いつつあるし』
『え!? じゃあワンチャンあるんですか!?』
『さあ、どうだろう?……シャロンさん、実は僕も君達と似たような経験してるんだ。まあ僕の場合は恋人の聖女に刺されて死んじゃったけどね。
『刺された!?甦生に失敗!?少し期待!?それはどう言う……』
『うん、それはね……あ、ケンツが目を覚ましたみたいだよ』
『 ! 』
*
Sideケンツ
「う…………」
「ケンツさん!良かった、思ったより早く目覚めて!」
傍で俺を見守っていたであろうアリサが、喜びと安堵の声をあげる。
地面に寝かされていた俺は、ゆっくり上体を起こし辺りを見回した。
いつ頃から追い付いてきたのか、今回の事件に関わった全ての人々が揃っていた。
ユリウス、バーク、それにミヤビにキュイとキリスも。
「シャロンさん……」
「うう、シャロン……」
「シャロン、どうしてこんな事に……」
キュイとキリスはシャロンの遺体に縋りつき、バークは辛そうに涙を流している。
ユリウスとミヤビは召喚勇者の肉片をかき集め、何やら協議しているようだ。
「俺は……死ななかったのか……」
「普通なら死んでましたけどね。でも私がいたから……」
そうか、アリサがまた
…………
ちくしょう……
「なんで……」
「え?」
「なんで死なせてくれなかった!なんで俺を助けた!余計な事しやがって!」
俺はシャロンの仇さえ討てたら死んでも良かったんだ!
死にさえすれば、今度こそシャロンと一緒になれる!
それなのに……
なんで死ぬのを邪魔した!
「ケンツさん、落ち着いて下さい!ケンツさんはまだ
「なんだよそりゃ!?なんだよその言い方!!あれか?例の邪竜の件があるからまだ死ぬなってことか?ふざけんな!!!」
「違います!邪竜なんて一言も……」
「だったら死なせろ!なんなら殺してくれ!そうすりゃ俺はシャロンと!」
― バシッ!
アリサの平手打ちが飛んだ。
「バカなこと言わないで下さい!ハッキリ言うけど外国人の私には、見た事もない邪竜の件なんて果てしなくどうでもいいわ!邪竜なんて言われても実感なんて全然わかないもの。でもね、友人が死のうとしているところを私がミスミス見逃すとでも?それにシャロンさんはまだあそこにいるのよ!放っておくつもりなの!?」
アリサはシャロンの亡骸を指さした。
「うう、わあああ、シャロン……シャロン!」
俺はヨロヨロと立ち上がりシャロンの傍に。そして寄り添い手を握った
シャロンに外傷は無く、衣服に付いた血も奇麗に浄化されている。
月明かりに照らされているシャロンの顔は、まるで生きているようだった。
しかし握った手は冷たく、微笑んだまま閉じた瞼は決して開かない。
「シャロン……俺、これからどうやって生きて行けばいいのかわからないよ。本当に……シャロン、すまない……俺はシャロンを……シャロン……ううぅ……」
シャロンとの幼少の頃からの思い出が、次から次へと湧いて出て頭の中を埋め尽くす。
思い出はそのまま悲しさに変わり、俺はシャロンに縋りつき泣き崩れた。
「ケンツ……」
「ケンツ……」
「ケンツさん……」
バーク、キュイ、キリスが泣き崩れる俺を気づかってくれた。
三人とも俺が気を失っている間に散々泣いたのだろう。その目は赤く充血し、頬には涙の痕が幾筋も残っていた。
俺達四人のシャロンを失った喪失感は、途轍もなく大きい……
そんな所にユリウスが申し訳なさそうに割って入って来た。
「悲しんでいる所をすまないが、キリスさんにちょっとお願いしたいことがあるんだ」
「ぐす……はい、なんでしょう?」
「えっと、キリスさんは魔術師なんだろ?冷凍の魔法とかは使えるかい?凍らして欲しいものがあるんだ」
「冷凍ですか?
「十分だ。じゃあちょっと来てくれ」
ユリウスに促されキリスは後をついて行く。
*
「これは!?」
キリスの目の前には召喚勇者達の肉塊があった。
だがそれは、一見して普通ではなかった。
― ウゾウゾ……ウゾウゾウゾ…………
「さっきミヤビと集めておいたんだ」
「で、でも……これ、動いてますよ!?」
「ああ、奴らはまだ死んじゃいない。生きて再生しようとしているんだ」
「死んでない!?さ、再生!?」
気味が悪そうなキリス。
ユリウスとキリスの前で、ウゾウゾと蠢く召喚勇者達の肉塊は、バラバラの状態からくっつき合い再生しようとしている!
神経や血管がピュルピュルと伸びて人体パーツを探し求める様は、もうどう見ても人間ではない。
「こんな状態でも生きているんですか!?」
「やつら禁止薬物の【エスカトロジーの魔樹液】を飲みやがったんだよ。あれの回復・再生能力は凄まじいとは聞いていたが、まさかこれ程とはな。だから再生する前に冷凍して欲しいんだ」
「気持ち悪い……でも待って!この【エスカトロジーの魔樹液】を使えばシャロンは蘇るんじゃ……」
キリスは希望を見出したのだが、ユリウスはそれを打ち消した。
「無理だな。シャロンの肉体にはもう魂が無い。その状態で肉体のみ蘇っても【生き人形化】するだけだ。魂無き肉体はやがて肉体を欲する霊団を招き大惨事になる。シャロン自身もやがて魔物化してしまう」
「やはり駄目なんですね……わかりました、すぐやります! あっ……でも冷凍するより焼却した方がいいんじゃないですか?冷凍だといつか解凍された時に復活するんじゃ……」
「焼却するのはちょっと都合が悪いんだ。とりあえず日が昇ってから対処方法を考えるから、今は冷凍して保存を……」
*
「なんだって!?」
「そんなバカな!?」
俺はユリウスの処置に我が目と耳を疑った。
バークも同じように驚いている。
やつらを冷凍保存だと!?
「ふざけるな!今すぐ燃やせ!滅殺しろ!」
「ケンツさんの言う通りだ!こんな奴らを冷凍保存するなど正気なのか!?」
シャロンを自殺に追い込んだ奴らだぞ!なぜこんな奴らを助けようとしやがる!
俺とバークは、ユリウスに詰め寄り胸元を掴んで咆えた!
「落ち着けケンツ、それにバークも。誰もこいつらを処分しないとは言っていない。落ち着いて話を……」
「これが落ち着いていられるか!あんたがやらないなら俺がやる!俺が焼き尽くしてやる!
激昂しながら俺は
先日ユリウスからも魔法をストックさせて貰ったんだ。
その中に火炎系の魔法があったはず!
「あった、こいつだ!こいつで今すぐ………………………な、これは!?」
俺はカタログの中から炎系の魔法を見つけたが、同時にカタログの隅に連ねている【ある魔法】を見て身体が固まった!
俺の動きを止めた魔法、それは…………
【リサステーション(甦生)】
【リザレクション(復活)】
死者を蘇らす禁忌魔法だった。
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昨年10月に投下した伏線が、ようやく芽吹く!?
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