096 第三十七話 リサステーション(甦生)03(裏話あり)



「なるほど、思った以上に難しいんだな」



アリサの説明を受け、この聖女の甦生魔法がとんでもなく成功困難な事を理解した。


本来こいつは聖女の命を贄として行う魔法であり、それでも成功率は五割。


確実に甦生させるのであれば、聖女の命が二人分以上必要となる。


聖女の命を贄としなかった場合、成功率は不可能と言っていいほど落ちてしまうのだ。


かつてアリサがリサステーション(甦生)とリザレクション(復活)を行った時は、熟達した先輩聖女が主導の元に、四人の聖女で行った。


結果は十数人の死者に試みたうち、成功したのはたった一人。


さらに後日、反則的な技を使い膨大な月の魔力を増幅して取り込んで、【とある聖女の恋人】の復活を試みたが、たった一夜の命が戻っただけで、日が昇ると恋人は消滅してしまった。


対して今回の聖女はアリサ一人。成功率は絶望的に低い。


しかもそれ以前にアリサ自身の問題があった。



「私にリサステーションをうまく発動できるのかしら……」



アリサが聖女の祝福ギフトを受けてまだ一年弱、超高度な聖女の秘術を使いこなすほどには成長していない。


しかもアリサは、15歳の成人の儀で【聖女の祝福ギフト】を授かるや否や、召喚勇者達の慰み者にされるのを恐れて即効でばっくれた。すぐ想い人ユーシスとともに逃亡の旅に出ている。



なので、ばっくれ直前に先輩聖女に即席で教えられた事以外は、聖女としての教育などほとんど受けていない。


女神テラリュームからの神託もまだ受けておらず、能力の全開放もされていない。


アリサはまだまだ未熟な野良聖女フリーセイントなのである。


きっと識者がそんなアリサの状況を見れば、リサステーションなどという高難易度の聖女魔法など【絶対に成功しない!】と言い切られること間違いなしだろう。



だが変な言い方になるが、シャロンは死にたてのほやほやで、まだ魂が近くに存在している事が救いであり希望だ。


甦生の魔法は、時間が経てば経つほど魂は遠く離れ成功率は低下する。


さらに魂が冥界に行ってしまえば、それこそ聖女の命を贄にしない限り不可能だろう。


だが逆に、時間があまり経っていなければ魂に手が届きやすく、成功率はぐっと高くなるのだ。


可能性は決してゼロじゃない、希望はあるのだ!



「じゃあアリサ様、早く始めましょう!ささ、こちらへどうぞ」



俺はアリサを急かした。


しかし急かされたアリサは、怪訝なものを見るかのような表情で俺を見る。



「いやケンツさん、なんですかその言葉使いは」


「アリサ様は聖女でございますからタメ口を叩くのは不敬でごじゃいましゅ……ございますゆえ……」



俺は態度を改めた。


聖女なんて俺にとっては雲の上の人間だ。


口の利き方には気を付けないと。


気分を損ねて「やっぱりやらない」なんて言われたら最悪だ!


とにかく敬語使って徹底的に遜って丁寧に……


それにしても慣れない言葉使いで舌を噛みそうになるぜ。



「ございございって、気持ち悪いからやめて下さい!王国でも私に敬語を使う人なんてほんの一部だし気にしなくていいから!」


「え、そうなの?タメ口で喋って機嫌損ねて中止するとか無しだぜ。それじゃ早くやってくれ!」



それならと、俺はタメ口でもう一度アリサを急かした。



「まだ準備が出来ていません!月だってまだ登りきっていないし。その間に私も練習しておかないと。ミヤビさんと月の魔力を増幅させる相談もしなきゃ……それにまだ召喚勇者達を冷凍している最中でしょ!」


「召喚勇者!?」



そうだ、忘れていたぜ!


あいつら肉片になってもまだ生きているとは!



「二度と復活できないように焼却してやる!」



俺はユリウス由来の豪炎魔法で焼き払おうとしたが、アリサが慌てて止めた。



「やめて下さい!焼いたりしたらまた煙で月が陰ってしまう。不浄な残気もそこら中に漂ってしまいます!甦生なんて出来なくなるわ!」


「げ、そう言う事か!」



だからユリウスは焼却ではなく冷凍させたのか、納得いったぜ。


胸倉掴んじゃったりして悪かったな、後で謝っておこう。



「そうそう、あとね。助っ人すけっとを呼んであるの。味方だから斬りかかったりしないでね」


「助っ人?誰だ?」


「ほら、時々私が魔導通信していたでしょ。想い人ユーシスを探してくれている仲間なの」



ああ、ちょくちょく連絡入っていたな。


アリサはとは別方向から想い人君を捜索していたんだっけか。


それにしても斬りかかったりとかするなとか、そんな無茶苦茶な事するわけないだろう。


人をなんだと思ってんだよ。


俺はこう見えても礼儀正しい常識人なんだぜ!



「でねケンツさん、その子達は……」



アリサがその仲間に対して何か重要な説明をしかけた時――



「いたいた、あそこだよ!」

「おーい!」



― フワリ……



突然男女のペアが空から舞い降りてきた。


だが、俺はその姿を見た瞬間に全身の毛が逆立った!


そいつらの歳は17~18ってところか。それはまあいい。


しかし問題は容姿だ!


男は黒髪の短髪、女もやはり艶やかな黒髪のセミロング!


そして東洋顔で身体の特徴も東洋的!


つまりこいつらは!



「貴様ら、召喚者か!ユキマサ達の仲間だな!」

「なんだって!召喚者だと!?」



相手の姿を認識するや否や、俺とバークは抜剣して現れた男に全力で斬りかかっていた!



「身体強化4.25倍!縮地! でりゃあああああああああ!!!!」

「アルティメットバフ! つぇえええええええええ!!!!」


「おわっ!なんだこいつら!?」

「きゃあああああああああ!!」



― ガキッ!ガキンッ! ギュリリリリィィィ



「な!?余裕で反応されただと!?」

「ケンツさん、こいつユキマサ達よりも数段格上だぞ!?」



召喚者は二刀流の使い手なのか、大小二本のヒモト刀(日本刀と酷似した剣)を抜き、俺とバークの全力の斬撃に刃を合わせ、余裕で対応しやがった!



「あっぶねーな。あんたらいきなり斬りかかるとは、一体どういう了見だ!」

「て、敵対するなら全力で相手になるからね!」



女の方も抜剣いや抜刀し、俺達にヒモト刀を向けた!



「双方ストップ!ケンツさん、バークさん、この二人が私の呼んだ助っ人よ!」



アリサが慌てて止めに入った。


はぁ?


こいつらがアリサの呼んだ助っ人!?


どこからどう見ても異世界から来た召喚者じゃねーか!



「ケンツさん、バークさん、そんな怖い顔しないで!ヒロキとアカリの善性は私が保証するわ。二人はユキマサ達とは全く違うのよ!」



はぁ?召喚者に善性など天と地がひっくり返っても絶対あり得ん!


やつらは一律外道に違いない!


その外道のせいでシャロンが……!



「アリサ、わかってんのか?シャロンは召喚勇者に殺されたんだぞ!なのに、何故やつらの仲間を呼びやがった!」

「アリサさん、僕もケンツさんと同意見だ。召喚者に助けを求めるなど度し難い!」



だよな!


バーク、もっと言ってやれ!


召喚者なんざ即斬だ!


人の皮を被った淫獣どもめ!



「シャロンさんが生き返らなくてもいいの!?」


「「 ! 」」



うぐっ……


なんだよ、こいつら抜きじゃシャロンは助からないってのか?


シャロンにはもちろん助かってほしいぜ!


でもこいつ等は召喚者で……



「ぐぐぐ……」



バークも困惑してやがるな。当然だ。


アリサはなんだって召喚者を助っ人に寄越したんだよ!


なんでこいつらが必要なんだ!?



「ケンツ、バーク、まずはアリサさんの説明を聴いたらどうだ?追い返すならその後でもいいだろう」



ユリウスが割って入り、剣を下ろさせようとする。



「わかった……」

「説明してくれ」


「ふぅ……」

「勘弁してよね」



双方とも剣と刀を鞘に戻し、アリサの説明を待った。



「この二人はね……」



この二人の名はヒロキとアカリ。


アリサと想い人君ユーシスの親友で、スラヴ王国がアース世界から召喚した【召喚勇者】と【召喚聖女】だそうだ。


しかし複雑な事情があって、敵対こそしていないが今はスラヴ王国には属していないらしい。


それでこの二人だが、アリサはアドレア連邦の南方から想い人君を捜索してきたが、この二人は北方から捜索してきたという。


そしてこのリットールで落ち合う事を事前に取り決めていたのだ。(アリサが上空より捜索中に入った通信が、彼らのリットール入りを知らせるものだったようだ)



「この子も聖女!?しかも連邦以外の召喚者!?」

「もう一人は勇者だって?女を襲ったりしないのか?」



俺とバークは懐疑的な目でジロジロ見る。



「私達は王国に召喚された勇者と聖女。しかも今は野良フリーだし」

「女を襲う?するわけないだろう。召喚者だからって人を性犯罪者扱いしないでくれるかな。凄く気分が悪いぞ」



おお、なんかマトモな人達みたいだぞ?


本当に召喚者か?



「もうわかったでしょ。聖女のアカリに甦生を手伝って貰うの。私みたいな新米野良聖女一人じゃ甦生なんてどう足掻いても無理、甦生魔法の発動すらままならないのよ。でも聖女が二人なら甦生の成功率は確実に上がるわ!」



俺とバークは改めて二人を見た。


確かにこいつ等は違うな。連邦の召喚勇者みたいなギラギラした嫌な感じが全くしねぇ。


着ている服も普通の旅人の服だ。


ユキマサが着ていた派手にかぶいた感じの聖闘衣とかじゃないし。


それなら……



「謝罪する」


「 え? 」

「 お? 」


「数々の非礼を謝罪する。悪かった、どうかシャロンを助けてくれ!」



実のところ、俺はこいつらの事を信用したわけじゃねぇ。


今さっき召喚勇者達ユキマサ達のせいでシャロンが死んだばかりなんだ。


それで召喚者を信用しろってのは無理な話だぜ。


それでも俺はシャロンのために全身全霊を込めて、二人の召喚者に謝罪し助けを請うた。


バークも俺に続き頭を下げる。



「わかった、謝罪を受け入れるぜ」

「甦生かぁ、これは気合を入れないと……」



不信感が拭えない。


必死ではあるが心からの謝罪ではない。


そんな事、恐らくこの二人は気付いているはずだ。


それでもヒロキとアカリは快く謝罪を受け入れてくれた。


そして、シャロンの甦生を全力で協力する事を約束してくれたのだった。


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