090 第三十六話 葬送戦 02(裏話あり)


もうワンクッション入ります。

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「ケンツ、すまんが仕事が出来たようだ」



ユリウスはそう言って空を見上げた。



「あれは!?」



いつの間に集まって来たのか、空には夥しい数の翼竜型復活竜が数多く舞っている。


それに混じって人影も見えた。



「大方、邪竜の眷属だろう。召喚勇者の放つ聖属の力に引き寄せられたみたいだな。仇討ちの邪魔になるからサクッと片付けてくる」



そう言ってすぐユリウスの身体がフワリと空に浮いたかと思うと、飛び交う復活竜の群れの中へ突撃して行った。







「へへへ、あの野郎ユリウスがいなくなりやがった。」

「あいつがいなけりゃ、ケンツなんざハナクソみてーなもんだぜ!」



手こずらされたユリウスが飛び去ったのを見て、ユキマサとタケヒサは安堵の表情を浮かべた。


次いで俺に向かってシャウトチックに威圧する。



「ケンツ。まさか刎ねたドタマ蹴り潰されても生き返るなんて思わなかったぜ」

「今度は生き返られねえように、全身消滅させてやんよ」



蹴り潰す!?


アリサが「グロい」とか言っていたけどそういうことか。


こいつら、俺の首を刎ねたあと何してくれてんだ!


召喚者ってのは皆こうなのか?


なんでこんな残酷な事を平気で出来るんだよ。


聴いた話じゃこいつらの召喚元アース世界ってのは、【かがく】とか言う技術が進んだ文化水準の高い社会と聞いたことがあるが、そんなの絶対嘘だろ!


こんな奴らの文化水準が高いなんてわけがねぇ。


こいつら人の皮を被った陰湿なモンスターじゃねーか!


なんでこんな連中に遊ばれてシャロンが自殺しなけりゃならねーんだ!


なんでこんな下らねえ連中にシャロンが……


絶対に許さねえ!



「ケンツさんを消滅させる?私もいるのにそんなこと出来るワケないでしょう」



ドスの効いた声で、アリサが前に出る。



「ん?よく見りゃラリサ・・・じゃねーか!そうか偽名を使っていたんだな!」



ユキマサは初めてアリサ本人と対峙したはずだが、アリサの顔を見るなり驚きの声をあげた。



「アリサ、このクソ野郎と知り合いだったのか?」


「知り合いも何も、政都に想い人ユーシスを探しに行った時、魅了しようとしてきたのがこの男よ!」


「ああ、股間を粉砕した勇者って、このクソ野郎ユキマサだったのか」


「あの時、穏便に済まそうなんて思わなければ……ひと思いに屠ればよかったわ!そうすればシャロンさんは……」



アリサはギリリと歯ぎしりをして悔しがった。



それはユリウスとミヤビが仲間になる前日のこと。


想い人を探しに【ミヤビの村】経由で【政都】へ単独で向かったアリサ。


そこで遭遇した勇者一行と言うのがユキマサパーティーだったのだ。


政都にてユキマサと遭遇時、アリサは名前をラリサと偽り穏便に済まそうとしたのだが、なぜか激高してユキマサの股間を粉砕、全身ボコボコにしてシバキ倒した。


そして我に返り、慌てて回復させたのち、急ぎソソクサとその場を去ったのだった。



「ここで会ったが百年目、ラリサ……いやアリサ!今度こそ魅了してやるぜ!」

「いいやユキマサ、あの女は俺の獲物だ。そういう約束だっただろ!対処方が分かった以上、絶対に譲らねーよ!」



― ダクン……

― ダクン……

― ダクン……

― ダクン……



ユキマサとタケヒサは、アリサの姿を見てからというもの、歪な鼓動が鳴りっぱなしだ。


なにか本能のようなモノに心が突き動かされ、アリサが欲しくてたまらない!



「きっちりと【召喚勇者の本能】にとり憑かれているみたいね。哀れで迷惑な……同情なんてしないけどね」


「本能?何を訳の分からんことを……」

「食らえアリサ!勇者の魅了チャームアイ三連撃!」



会話中にもかかわらず、いきなりタケヒサの魅了攻撃が炸裂!


魅了が通じない相手には重ね掛けが有効!


シャロンを魅了堕ちさせた実績を目の当たりにして、タケヒサは自信を持って勇者の魅了チャームアイを炸裂させた!



― ブワッ!ブワッ!!ブワッ!!!



禍々しいオーラがタケヒサの目から放たれる!



「よし、これでアリサは俺達のものだ!」

「味方に付けて、ユリウスにぶつけようぜ!」



ユキマサもタケヒサも、アリサを確実に手中に収めたとほくそ笑んだ。


しかし――



― シュルシュルシュル……ポン♪



しかし勇者の魅了チャームアイのオーラは、即座にアリサの前に出たケンツによって、全てソーサリーストック無限魔法貯蔵に吸収格納されてしまった。



「ちっ。ケンツのやつ、忌々しい能力だぜ。だがアリサ、助かったのは今だけだ。必ず魅了漬けにしてやる!」


「へーそう。せいぜい魅了できるよう頑張る事ね。」



目を細め、侮蔑と怒気と殺気のこもった視線をタケヒサにぶつけるアリサ。


勇者の魅了チャームアイを使ったことで、逆にアリサの怒りを激しく買ったようだ。



「アリサ、無理するなよ。トドメを刺すのは俺に回してくれればいいから」



人命の安い世界だが、それでも人を殺めるのは覚悟がいるし業も背負う。


アリサにこんな業を背負わせちゃいけねぇ。これは俺が背負うべき業だ。



「ありがとうケンツさん、考えておくわ」



アリサはそう言って微笑したあと、全身を白銀の鎧に身を包み、聖剣をタケヒサに向けた。





そうだ、バークの野郎はどうだ?



「だあああああああああああああああ!!!」



― ガキンッ!ギュリリリリリリィ……ザンッ!



「うぐあ!ぬぬぬぬぬ!!!」



バークの徹底した近接攻撃の前に、召喚勇者ショーゴは被弾を免れず、なます斬りにされていく!


凄いなあいつ。前にやり合った時と比べて格段に強くなってやがる!



「ケンツさん、こいつを討ちとり次第、そっちの応援に行きます!」



俺はコクリと頷いて返事とした。






ユリウスは?



バーニングファイヤー灼熱の炎!」



― ブオオオオオオオオオオオッ!ゴオオオオオオオオオオオッ!



上空では炎の柱が振り回され、次々と復活竜が飲み込まれて消滅していた。


あれがユリウスのガチの力!?


魔法騎士には見えないな、全身炎を纏い戦う姿は魔人みたいだ。


実はイフリートなんじゃねえか?


ユリウスは軽く手を振った後、次々と現れる翼竜型復活竜を炎で薙ぎ払った。




アリサ、バーク、ユリウス、三人とも何の心配も無さそうだ。


安心して敵首魁ユキマサを討つことに専念できる!





「よし、それじゃ始めるぜ!」


「はい!」



― バシュッ! バシュッ!



「でやああああああああああああ!!!!!」


「はあああああああああああああ!!!!!」



俺とアリサは、それぞれの標的ユキマサとタケヒサに弾かれるように突撃した!





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次回は【ケンツvsユキマサ】から。


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