089 第三十六話 葬送戦 01(裏話あり)


Sideユリウス




― キンキン、ガキン!



「なんだテメーは!」

「なぜ俺達召喚勇者と互角以上に戦える!?」


「戦っているだと?勘違いするな、俺はケンツが復活するまでの繋ぎだ。本当は瞬殺したいところを堪えているんだぜ?寿命が少しでも伸びたことに感謝するんだな!」



召喚勇者ユキマサとタケヒサは、何をしても全く通用しない目の前の男に大苦戦していた。



「感謝だと?野郎、俺達召喚勇者に向かって舐めた口を!」

「ケンツは首を刎ねて頭潰されて死んだんだ。復活なんてするかよ!」


「じゃあ、あれは何だ?」



ユリウスは、剣先をある方向に向けた。

そこにはシャロンを抱きかかえ、嘆き悲しむケンツの姿があった



「そんな馬鹿な!?」

「ありえねえ!!」



ユキマサとタケヒサは、ケンツが健在している事実に驚愕した。


その驚く二人の姿に、ユリウスは口元がニヤリ。しかし目は全く笑っていない。



「だいたいテメーは何者だ!」

「俺達のゲームに割り込んできやがって!」


「俺か?俺はユリウスと呼ばれている者だ」


「ユリウス!?」

「じゃあ、アキヒロ達をったって言う……」



ユキマサとタケヒサに緊張に走る。


ユキマサは、つい先日まで失踪した召喚勇者アキヒロ仲間の召喚勇者と、そのアキヒロを殺したと噂されているユリウスの調査をしていた。


なので、勇者殺しのユリウスの事は人相書きを見た程度には知ってはいた。


しかしユキマサには目の前の男がユリウスだとは、何故か認識出来なかったようだ。


また、ユリウスがケンツの仲間に入っていた情報は知らされていなかった。


話を持ち込んだブルーノとバロンは、ユリウス(とミヤビ)がケンツの仲間になったという認識は無かったようだ。


それ故、ユキマサとタケヒサは目の前の酷く存在感が希薄な男の正体が、実は調査対象のユリウスだとは全く想像しておらず、驚くとともに底知れぬ不気味さを感じた。


そもそも、ブルーノとバロンは、冒険者ギルドに戻って来たユリウスを、なぜかユリウスと認識出来なかった。


ここに来る前に廃教会で会った時も、アリサはアリサと認識できたが、ユリウスをユリウスとは思っていなかった。


ブルーノとバロンだけじゃない。それどころか、冒険者ギルドに戻って来たユリウスをユリウスと認識できたのは、なぜかケンツと受付嬢ケイトだけだったのだ。


ユリウスには何か特殊な事情がありそうだ。



「おいおい、あいつらは魔力切れを起こして勝手に自壊・自滅したんだ。俺のせいにされても困るな」


「魔力切れで自壊!?」

「聖剣の墓標に彫られた内容は本当だったのか!?」



召喚勇者アキヒロ及びその仲間の失踪調査で、ユキマサは聖剣を墓標にしたアキヒロ達の墓らしきもを見つけた。


その聖剣には――


『異世界から召喚されし勇者アキヒロ、魔法剣士トシオ、魔法戦士カズシゲ。

 リットールの地にて魔力切れを起こし帰らぬ人となる。

 ティラム歴2021年1月某日。』


そう一文が掘られていたのだ。


そしてその一文を書き掘った者こそがユリウスだったのである。



「これから死にゆくおまえ達には、もう関係のないことだよ。それ!」



― バシュッ!ガキンッ!



「ぐっ……」

「くくっ……」



ユリウスの手を抜いた剣技の前に、ユキマサとタケヒサは翻弄され、その場に釘付けにされるのだった。





*





Sideバーク



「はあああああああああああ!!!!!」



― バシュッ!ビシュッ!ザンッ!



「ぐおっ!テ、テメー!さっきとはまた違う動きを!?」



召喚勇者ショーゴは、さらに変貌したパワーを振るうバークに押されていた。



「これは……僕の力が増している?先の戦いで敗北した時とは全く違うぞ!」



バークは、自身の急激なパワーアップに驚いていた。


ショーゴとのファーストアタックの時は、攻撃をスピードに全振りして、どうにか戦いのていになっていた。


だが今は違う。


そんな小細工などしなくとも、バフだけで接近戦なら互角に……いや、互角以上に戦えるのだ!



「これならシャロンさんの仇を討てる!ショーゴ!よくもシャロンさんを殺したな!おまえ達は絶対に許さん!」


「た、たかが女一人が死んだくらいでムキになりやがって!テメー頭おかしいぜ!」


「おかしいのは貴様達の方だ!殺してやる!殺してやるぞ!ショーゴ!」


「しゃらくせえ、死ぬのはテメーだ!」



― ガキンッ!



バークと召喚勇者ショーゴの戦いは、さらに熾烈を極めるのだった。





*





Sideケンツ



数分、ほんの一ニいちに分の間、


俺はシャロンを抱きしめ、悲しみと絶望に身も心も崩していた。


声を大にして泣いた。


シャロンとの思い出がフラッシュバックして、悲しみが無尽蔵に大きくなり、わんわんと泣いた。



「シャロン……シャロン……うく……ううぅぅぅ……」



だが、俺にはするべき事がある。


それも今だからこそ最優先でやらなきゃならねぇ。


だから服の袖で涙を拭った。



「シャロン……すまねえが少しだけ離れるぜ。どうしても今しか出来ないことがあるんだ」 



俺はシャロンを優しく地に寝かせた。



「アリサ」


「はい」


「すまねえが、その聖剣を貸してくれ。シャロンの仇を取りに行く」



俺の剣は砕けてしまい使い物にならねえ。


新しい得物が必要だ。


アリサの持つ聖剣なら、きっと奴らを屠ることが出来る。



「ごめんなさい。聖剣は普通の人には持てないの」



アリサはそう言うと、俺が納得するように聖剣を手渡した。


ぐっ……とんでもなく重い。


なるほど、聖剣を扱えるのは女神の使徒と呼ばれる特異な類だけというのは本当なんだな。



「なら仕方ねえ。素手で奴らをぶっ殺してやる」


「ケンツさん、やつらの首魁は召喚勇者ユキマサです。他は任せて下さい」


「そうか、やはりあの野郎か」



俺はユリウスと交戦中のユキマサを睨む。


あいつのせいでシャロンが……


あいつのせいで……


シャロンの死に対する絶望と悲しみが、激しい怒気・殺意へと変わっていく!



「ケンツ、こいつを使え!」



― ビュッ、バシッ!



ユリウスは戦闘を一時中断し、自分の剣を俺に投げ渡した。



「そいつはラーズソード滅ぼしの剣。バンバラ様から修復を頼まれた古代の秘剣で、人間が作り出した究極の一振りだ。まだ六割程度の修復度だが、それでもおまえなら接近戦で召喚勇者を倒せるはずだ!」


「すまない、ありがたく借りるぜ」


「気にするな。もともと修復が終われば、おまえに譲る予定だったんだ」



俺は改めてラーズソード滅ぼしの剣を強く握りしめた。



「なるほど、こいつは凄い」



どんな剣でも強度と斬れ味、魔力伝導率と魔力増幅率にそれぞれ差がある。


聖剣や魔剣はそれぞれ高い水準にあり、特殊素材剣・魔法剣・魔法付与剣がそれに続く。


今ユリウスが渡したラーズソード滅ぼしの剣は、恐らく聖剣クラスの強度を持つ逸品なのだろう。


完全状態なら魔力伝導率と魔力増幅率も聖剣クラスなのかもしれねぇ。


人間が作り出した究極の一振りというのも頷ける。


しかも大賢者バンバラから渡されたということは、さしずめこの剣は【対邪竜アパーカレスの決戦兵器】なのだろう。


これなら……



「ユリウス、交代してくれ。ユキマサは俺がる!」


「なら私はタケヒサを。さっき逃した因縁にカタを付けるわ」



俺の後に、並々ならぬ殺気を漲らせるアリサが続いた。


アリサはアリサで責任を感じているんだな。


いやアリサだけじゃねぇ。


俺も、ユリウスも、そしてバークも、皆がシャロンの死に責任を感じているんだ。




よし!


ここからは葬送戦、シャロンの弔い合戦だ!


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