087 第三十五話 デス オブ シャロン・ケンツ 02
― ガラガラガラ、ドッシャーン!!!!!!!
どうだ、俺の
だが雷斬波が起こしたスパークと粉塵が治まると、
「ふうっ、ふうっ……」
「ぜえっ、ぜえっ……」
「はあっ、はあっ……」
そこにはダメージを深く負いながらも、いまだ健在な召喚勇者達の姿があった。
「くそったれめ……!」
シャロンの僅かな妨害は、召喚勇者達に防御を整えさせるには十分な時間だったのだ。
「て、てめえよくもやりやがったな!」
「マジで死ぬかと思ったぜ!」
「よくも俺達召喚勇者様に対してこんなマネを!」
さっきまでの舐めた空気は彼らにはもう無い。
召喚勇者達はただならぬ殺気を漲らせている。
だが一方、俺はガクンと力が抜けはじめた。
「ちくしょう、時間切れだ!」
そして――
4.25,4.0、3.5、2.75、2.0……1.0……
しかも一旦
そうなると暫く
「くそ、あの技の会得が間に合っていれば……」
あの技とは、ユリウスとアリサに叩き込まれている、対バーク戦の秘策・秘技の事だ。
だが、たられば言っても仕方がねえ。
もう万事休すだ。
「お、なんだ?」
「ヤツの様子がおかしいぞ」
「気を付けろ、ワナかもしれん」
肩で息をする姿を見て、召喚勇者達は俺の異変に気付いたようだ。
試しにと、タケヒサが恐る恐る斬りかかって来やがった!
― グオッ! ザンッ!
「くっ……!」
袈裟斬りにされそうにするも、俺は辛うじて避けた。
いや、除けそこねた。
皮一枚バッサリと斬られ、服に血がにじむ。
「おい、こいつもうガス欠みたいだぞ」
「マジか!」
「そうかそうか、ガス欠か」
三人は顔を見合わせてニヤリと笑みを浮かべ、それからショーゴが持っていたハイポーションを回し飲みした。
途端に奴らのダメージが回復しやがった。
ちくしょうめ、そんなもん持ってやがったのかよ!
「オラッ!」
今度はユキマサの容赦のない斬撃!
「ス、
― ガキンッ
「なんだこりゃ?」
「こいつは大神官や聖女が使う防御結界だぜ」
「あの野郎、なんでもありかよ?」
あぶねえ、間一髪!
辛うじてソーサリーストックから
こいつもアリサ由来の防御結界だ。
自由度は低いが絶対に破れねえ!
だが……
「おい、これを外せ。あと回復魔法とかは使うんじゃねーぞ!でないと愛しのシャロンちゃんを殺す!」
「ぐっ……」
ユキマサは、俺が最も恐れていた手段をとりやがった。
それはシャロンを人質として利用する事。
駄目だ……
動きが鈍くなった今、その手を使われるともう勝ち目がねぇ。
― フッ……
― ドカッ!
「ぐふぅ……」
腹筋に力を入れて耐えようとするも、勇者のパワーには耐えられねぇ。
腹の奥底から脊椎へと激痛が走り抜ける!
とても立っていられるわけが無く、悶絶しながら地に横たわった。
「へへへ、どうやら本当にガス欠らしいな。なら……」
「ぐふふ……」
「へへへ……」
ユキマサは自分の聖剣を鞘に納めた。
ショーゴとタケヒサもそれに見習い鞘に納める。
「ケンツ、楽には死なせねえぜ」
「気のすむまでボコボコにしてやる」
「ぶっ殺すのはそれからだ!」
三人が一斉に殴り掛かり、俺は避ける事も出来ず殴られ放題となった。
― ボコッ! ゲスッ! バキッ!
「ぎゃっ、おぐっ、ぶはっ、」
タコ殴り状態だ、だが俺は絶対に死なんぞ!
こうなったら、何が何でもアリサ達が来るまで生きてやる。
俺が生きてりゃ奴らをここに足止め出来るんだ!
そうすりゃ俺は助からなくても、きっとシャロンだけは助けてもらえる!
意識を途切れさすな、生きる事に集中しろ!
― ボコッ! ボコッ! ボコッ!
すでに立ち上がる事もままならず、いいように蹴られ殴られ……
ああ、なんだかギルドで冒険者達にイジメられていた頃を思い出すぜ。
あの時もこんな感じで死にかけたっけ……
ほかにも何かいろいろと思い出が……
…………
……
て、いけねえ。
これ、走馬灯ってやつだ。
駄目だ駄目だ、まだ死ぬわけにはいかねぇ!
だけどもう、意識が途切れそうだぜ……
「この野郎、なかなか音を上げねーな」
「おいユキマサ、もういいんじゃないか?」
「そうだな、俺もいい加減飽きてきたところだ。おい、シャロンちゃん」
「はい!」
うう……ユキマサ、シャロンに何をするつもりだ?
「ほら、これを受け取れ」
― ドチャッ……
ユキマサはファイティングナイフをシャロンの前に投げ捨てた。
シャロンはナイフを拾いシゲシゲと見る。
「えっと、これで何を……」
「そいつでケンツにトドメを刺すんだ。早くやれ」
バカ野郎、なんて命令を下しやがる!
そんなことして俺が死んだら、シャロンは一生俺を殺した十字架を背負う事になっちまう!
いやその前に、きっとシャロンの心が壊れる!
「シャロン、よせ……やめるんだ……」
「なに?怖いの?」
しかしシャロンは俺が怯えていると思ったのか、歪な笑みを浮かべて蔑視した。
「この期に及んで命乞いかしら。ふふふ、無様ね」
「シャロン……」
― バキッ
俺はシャロンを止めようとしてヨロヨロと起き上がったが、すぐシャロンに張っ倒されてしまった。
そしてシャロンは俺に馬乗りになり、ナイフを握りしめ高らかと上げる。
だめだ、もうどうしようもない。
シャロン、こんな事になってすまねぇ。
せめて最後に……
「シャロン……」
「な、なによ。そんな目で見ないでよ!」
微かに戸惑うシャロン。
そう言うなよ、最後にシャロンを目に焼き付けておきたかったんだ。
アリサ、ユリウス、最後の最後に他人まかせですまねえが、どうかシャロンを救ってやってくれ。
「さあ、もういいぜ」
だけど、やっぱり悔しいなぁ……
こんなの後悔しか残らねえよ……
そう思いながら俺は覚悟を決めて目を瞑った。
― ボトッ
なんだ?何かが頬を……
うっすらと目を開けるとシャロンの目から涙が零れていた。
「あ、あれ?なんで涙が……」
シャロンは一旦振り上げたナイフを戻し、服の袖で涙を拭った。
突然のことに戸惑うシャロン。
ピシピシと脳内に何か亀裂が入り、身体が何か抵抗する。
「あれ……え?」
刹那、何か大切な事を思い出しそうになるが、ピンクの靄が被ってしまい、どうしても思い出せない。
だけど、思い出さないと取り返しがつかない事になる!
シャロンはそんな予感がした。
ピシピシと脳内での亀裂はさらに広がり、シャロンの戸惑いはますます大きくなっていく。
そんなシャロンに召喚勇者達は早くトドメをさせと急かした。
「シャロンちゃん、何やってんの!」
「早くケンツを刺して!そのあと俺達と楽しもうぜ!」
「やっぱり魅了の掛かりが甘かったかな?」
「は、はい!」
ハッとして、シャロンは再びナイフを高く振り上げ、一気に胸に突き刺した!
― ザクッ!
「ごふっ!」
ナイフは外れる事なく、深々と心臓を貫いた。
そして生命力が放散するかのように、生暖かい鮮血が吹き出した。
その鮮血は俺に降り注がれた。
俺の顔や胸が、シャロンの暖かい血のシャワーで赤く染まっていく!
「シャロン!?」
「ケンツ、ごめんね。これが精いっぱいの抵抗……逃げて……生きて……」
「シャロン!!!!!!」
シャロンは僅かに微笑んだあと、俺に覆いかぶさり息絶えた。
「そんな、嘘だろ!?シャロン!シャローン!!!!!」
ユキマサの言った通り、魅了の効きが甘かったのか、奇跡的に最後の最後で正気を取り戻したのか、それはわからない。
わかっているのは、シャロンは最後の最後で
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫が周囲に大きく響く。
されどシャロンにもう声は届かない。
「おいおい、なんてこった!」
「シャロンちゃんが死んじまったぜ」
「あっちゃー、もう一回くらい重ね掛けしときゃよかったぜ。まさか土壇場で魅了に抵抗するとは」
ユキマサにとってもシャロンの自殺は全くの想定外だったらしく、何をどうしていいかわからず唖然としている。
「シャロン!シャロン!目を開けてくれ、頼む!」
しかしシャロンが目を開くことは無かった。
シャロンが死んだ?
え、嘘だろ?
シャロン?
「認めねえ、こんなの認めねえ!……そ、そうだ!まだアレがある!」
まだシャロンは死んじゃいねぇ!
アリサが言ってたんだ、殺されても五分以内なら死んだうちに入らないって!
頸椎をへし折られ、完全死状態だった俺を蘇らせたアリサの
原型をとどめないほど肉体が損傷しても、完全回復させる超絶回復術!
あれなら、シャロンを絶対に助けられる!
しかもそれは
「
― …………
くそう、
アリサの
「
― …………
発動しない!
落ち着け、動揺するな!
シャロンの命がかかっているんだぞ!
「
「
「
「
― …………
うわああああああああああああ!
何をやっているんだ!
身体を襲う激痛なんざ、もう感じていないだろ!
動揺するのをやめろ!
俺が落ち着きさえすればシャロンは助かるんだ!
深呼吸してもう一度!
「
― キュイイイイイイイイイン……
金色の粒子がシャロンを包み込む!
やった、
これでシャロンは助かるぞ!
良かった、良かったなぁ、シャロン!
「さっきからテメーは何をやっているんだ?」
「 !? 」
― シュラッ!ザンッ!
刹那、シャロンを包む金色の粒子が消えて、
ついで視界が不自然に傾く。天と地がグルグル回る。
そのグルグル回る不自然な視界に入ったのは……
俺に向けて聖剣を一閃した召喚勇者ユキマサ。
最後に俺に向けた微笑を浮かべたまま、静かに横たわっているシャロン。
そしてユキマサに首をバッサリと跳ねられ、血を吹き出している俺の
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