084 第三十三話 シャロンの悲劇 02
― ザンッ!ザクッ!
「がっ!?」
突如、俺達の戦いに聖剣のニ振りが割って入り、俺の左腕と右脚をバッサリと斬り飛ばした!
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」
倒れる俺の目の前で、斬り飛ばされた腕と脚が、血をまき散らしながら宙を舞った。
「あっと、悪かったな。うっかり斬り落としちまった」
「へへへ、あまりにも暇だったもんでつい……な」
「はぁ?おいショーゴ、タケヒサ、横から割り込むんじゃねーよ!」
久しぶりに味わう切断の激痛!
なにがうっかりだ、バカ野郎!
突然横から割り込んできやがって!
俺の腕と足を斬り落としたのは召喚勇者ショーゴとタケヒサ。
まずった。観戦に徹しているものだと勝手に決めつけて油断しちまった。
― プシューッ
切断面から勢いよく血が噴き出る。
流血を防ぐため、俺は自前のヒールを使った。
血はなんとかとまったが、立つことはできず、俺は地に伏せたままだ。
それに俺のヒールじゃ痛み迄はまでとれねえ。
身をよじり激痛に悶える。
「ぷっ、無様ね、ケンツ」
― ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ!
「あぐっ、うっ、うぅ……」
芋虫のように地べたに這いつくばる俺を見て、シャロンは嬉々として蹴りを入れる。
堪えるぜ……
どんな暴力よりも、シャロンの一言の方が堪える。
その上、蹴りまで入れられて……
事前にアリサから召喚勇者の説明を聞いて無けりゃ、間違いなく心は折れていただろうな。
だが言葉の暴力と蹴りはとにかく、切断の激痛を味わうのはこれが初めてじゃない。
バロンとブルーノに両腕を斬られた時は、情けない事に戦意消失しちまったが、今回は全く戦意は落ちていないぜ!
それにこんな状態だが、俺にはまだまだ勝機はある!
まずはこのダメージに慣れろ。
痛みをこらえて精神集中だ!
シャロンとユキマサのイチャコラに動揺するな!
でないとソーサリーストックが発動しねぇ!
これはアリサ達との特訓中に分かった事だが、この
とんでもないレアスキルを手に入れ有頂天になっていたが、弱点はちゃんと存在していたのだ。
ユリウスとアリサはその事実にいち早く気付き、対処するべくペインコントロールとメンタルコントロールも特訓に取り入れたんだが……
俺はまだまだ未熟だったようだ。
「あーあ、これじゃもうこいつと遊べねーじゃん。ゲームは終わりか」
「悪い悪い、あまりに間延びした流れだったからつい」
「へへへ、どうにも飽きちまってよ」
「しょうがねーな……んじゃ、こいつが生きているうちに楽しむとするか。 ほら、シャロンちゃん♪」
「はい?ひゃっ!あぅ!むぐぅ……」
片手片足を斬り落とされ、身動きままならない俺の前で、あろうことかユキマサはシャロンの唇を奪いやがった!
唇を合わせ舌を絡ませるユキマサとシャロン。
激怒、憤怒、悲哀、絶望、憎悪、怨嗟、憤慨、怨恨、殺意!
そんな負の感情で頭の中が埋め尽くされた!
ちくしょう、完全に俺に見せつけてやがる!
クチュクチュと淫靡な音が耳につき、シャロンはウットリとしながらユキマサの首に腕を回した。
さらにユキマサはシャロンのシャツのボタンに指をかけ……
「やめろおおおおお!シャロン、正気に戻ってくれええええ!!!」
絶叫が周囲に響く!
だがシャロンには響かなかった。
「ぷはっ……はぁはぁ、ユキマサさま……」
ああ……やめろ、やめてくれ!
そんな奴にそんな蕩けた顔を晒さないでくれ!
シャロン!
「てめぇ、ユキマサ!今すぐシャロンにかけた魅了を解きやがれ!」
もうやめてくれ!これ以上は頭がどうにかなっちまいそうだ!
しかしユキマサはハッとした表情になった。
「おっと、魅了か。そうそう、忘れていたぜ」
「なに?」
意外なことに、ユキマサは俺の訴えに応じた。
― パチン
ユキマサは指を鳴らす。
それが魅了の解除のようだ。
― シュウウウウゥゥゥゥ
「あれ……え?……」
ピンク一色に染まっていたシャロンの脳が、みるみる冷めていき、
上気して蕩けた雌顔のシャロンの表情も、見る見る青ざめていく!
「いやああああああああ、なんなのこれ!?ケンツ!ケンツー!」
シャロン絶叫!
残酷なことに、魅了中の出来事は全て記憶に残っている。
俺を蹴り倒したことも、ユキマサとともに俺を倒そうとしたことも、ユキマサに胸を揉まれ感じたことも、ユキマサにキスされそれを喜んで受け入れたことも。
さらには手足を斬られた俺を見て、嬉々として蹴りを入れたことも。
ほんの数十分の間に仕出かした事が、罪悪感となりシャロンに圧し掛かる!
「へへへ、これこれ。これを見ておきたかったんだ。さあ、ケンツの見ている前で楽しもうぜ」
こここ、この野郎!なんて悪趣味なやつだ!
― ぐいっ!
「あぐぅ!?」
半狂乱のシャロンを引き寄せ、ユキマサは強引に唇を奪いにかかった!
必死で抵抗するシャロンだが、勇者の腕力には絶対に敵わない。
「やめろオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「んーんー、実に良い響きだ。ではいただこうか」
シャロンは顎を掴まれ強引に唇が開かされ……ユキマサの唇と舌が蹂躙しようとする!
「ケンツ……見ないで……お願い……逃げて……」
どうすることも出来ず、きつく目が閉じられたシャロンの瞼から、一筋の光が滴り落ちた。
― ブチン
頭の中で野太い音を立てて何かが切れた!
「てめえ、シャロンから離れろおおおおおおおおおおおおおおお!」
― バッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「ぶげええええええええええええええええええええええええ!?」
俺の
奴の顔面が歪み、折れた歯が宙を舞う!
戦闘時ではなかったせいか、結界は発動されずダイレクトにぶん殴れたぜ!
「な!?なんだてめえ!」
「手足ぶった切られて動けないハズじゃ!?」
召喚勇者達が驚くのも無理はない。
俺の身体は切れた服以外は元通りだ!
あまりの激怒・憤怒・怒髪天に痛みや動揺なんてすっ飛んじまったぜ!
おかげで
限度を超えた怒りってのは、激痛や動揺なんてもん軽く凌駕するんだよ!
― ドシャッ!
ざまーみやがれ、ユキマサを地べたに叩きのめしたぞ!
この隙にシャロンを……
「そうはいくか!」
「現地人の猿のクセに!」
召喚勇者ショーゴとタケヒサが激昂して襲い掛かって来た!
このクソボケ勇者が!俺の行く手を阻むな!!!
「「
「縮地ぃ!」
― バシュッ!
「なっ!?」
「消えた!?」
勇者最強の剣技、ジゴブレイクが放たれる前に縮地で回避!
こんな近接戦闘でそんな大技食らう訳ないだろ!
舐めるのも大概にしやがれ!
「どこを見ている!」
「後ろだと!?」
「こ、この!!」
「魔法剣
溜めが少なくても放てる魔法剣技、
こいつをヤツらの背後から撃ち放った!
― バシュッ!ドビュウウウウウウウ!
斬撃波とともに風の刃が召喚勇者達の背中に突き刺さる!
「ぎゃっ!?」
「ぬおっ!?」
直撃!
しかし悲しいかな、ダメージは少ない。
ユキマサの聖闘衣ほどではないが、こいつらの聖闘衣らしき衣服も防御力が高いようだ。
だがそれでもいい、怯ませるだけで十分!
今はとにかくシャロンだ!
正気に戻ったシャロンを奪還さえすれば……
シャロン、もう手が届くぞ!
シャロン!
だがシャロンには届かなかった。なぜなら……
「魔闘破!」
― ボンッ!
「なっ!?」
シャロンの手の平から気功弾が放たれ直撃!
俺は吹き飛ばされた。
シャロンは再び魅了されていた。
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