083 第三十三話 シャロンの悲劇 01




― バシュッ! ゴッ!



シャロンのとんでもないスピードの打撃!



「はっ!やあっ!」



― シュバババババッ!



「おかしいぜ、数日前に見たシャロンとは別人の如く力が増している!?」



最近ちょくちょくと特訓の応援に来てくれたシャロン。


時々俺とも組み手をしたこともあった。


だからバーク影響下のシャロンの実力も、俺は十分把握していたつもりだった。


だが今目の前で俺に凶拳を向けるシャロンは数日前の比ではない。


段違いに強くなっている!


いったいどういうことだ?


まさか魅了されると力も上がるのか?


そんなの聞いてねーぞ!?



「く、シャロン。なんとか自力で魅了を解除できないのか!?」


「私は魅了なんてされていない!私のユキマサ様への想いも、ケンツアンタに対する憎悪も本物よ!」


「ぐはっ!」



だ、だめだ。ショックで魂が抜けそうになる。


だがシャロンが力を付けたとしても、それでも実力は俺の方が上。


身体強化を使わずとも、剣を握れば必ず倒せる。


だけど、シャロンに拳や剣を向けるなんて出来ねーよ!


もうシャロンを無視してユキマサを殺りに――



「させない!」



― ババッ!



「 !? 」



今度はシャロン自身が壁となり、俺の前に立ち塞がる。


そんなシャロンに対して、満足そうなユキマサ。


「いいぞ!シャロンちゃんの愛を感じるぜ!」


「はい、ありがとうございます!えへへ……」



ユキマサに褒められシャロンはデレた。


シャロン~~、そんな奴に惚気ないでくれよ~~……


にしてもユキマサの野郎、俺のシャロンを盾代わりに使いやがって!


これじゃソーサリーストック無限魔法貯蔵の魔法も撃てないぜ!


もっとも、今の俺のメンタルじゃソーサリーストックが使えるか怪しいものだけどな。


ただ幸いにして、他二人の勇者は戦いには参加せず、観戦に徹している。


どうやら奴らの中で何か決め事でもあるらしいな。


なんにせよ助かるぜ。


さすがに召喚勇者三体を一度に相手をしたら瞬殺されちまいそうだ。



「ケンツ、ちょこまかと逃げないでよ!勝負しなさい!」


「いやだ、シャロンとは戦いたくねえ!」



絶対にシャロンに手は上げねえ!


俺はかつてDVに走り、シャロンを苦しめたんだ。


だからシャロンに手を上げるなんて事は、もう何があろうと絶対にあっちゃならねぇ!




しばらく俺とシャロンのダラダラとした攻防が続いていたが、ユキマサはこの展開に少々飽きてきたようだ。



「どーれ、ぼちぼち俺も手伝ってやるか。おまえらは手を出すなよ。あれは俺の獲物だ」


「ういーす」

「へーい」


「ちっ……」



それまで時々チャチャを入れる程度だったユキマサが、本格的に参戦してきやがった!


聖剣を振り回して迫って来やがる!



― ブオッ! ゴッ!



「きゃっ!」



聖剣の衝撃波がシャロンにかすり、シャロンは小さく悲鳴をあげた。


てめえ、雑な攻撃をするんじゃねぇ!


シャロンに当たったらどうすんだ!


そこからはシャロンとユキマサ二人がかりの攻撃!



「ふはははは、俺様の素早い剣撃がおまえに見えるかぁぁ!」



― ボヒュッ! ブファッ!



ユキマサの聖剣が危険な衝撃波を伴い襲い掛かる!


ぐぬっ、なんつー剛剣だ!


こんなもん俺の使う細身な魔法付与剣じゃ、受けた瞬間粉々に粉砕されちまう!


必死で除け、必死で受け流す。


鍔迫り合いなんて間違ってもできねえ!



― ブオッ!



「だめだ、このままじゃやられる!」



必要以上に手の内を見せないよう【縮地】も【身体強化】も使わずにいたが、これはいよいよ限界だ!



身体強化ブーストアップ三倍!」



― バシュッ!




スピード、パワー、動体視力、反応速度、それら身体パラメーターが一気に上昇した!


防御一辺倒だった俺が攻撃に転じる!


俺の動きが急に変わった事にユキマサは驚いた!



「な、なんだ!?この野郎、突然動きが!?」


「ユキマサ様、これはケンツの身体強化です!」


「身体強化!? やろう、そんなもん使えるのか!」



ユキマサと少々やりあって、こいつの戦闘力はだいだい理解した。


パワーは次元が違い過ぎてどうやっても勝てないが、スピードなら身体強化ブーストアップ三倍以上で上回れる!


本当は限界の4.25倍で勝負を決めたいが、後ろに控えている二人の召喚勇者をも相手にするとなると、どう考えても戦闘時間が足りねえ。(身体強化ブーストアップ4.25倍時の連続戦闘時間は約5分)


だけど三倍でも大技を撃たせないよう出来るだけ接近して戦えば、どうにかヤツに勝てそうだ!


そう、こいつの剣技自体は酷く未熟なんだ。


超一流の器を持つ36流のド素人って感じだぜ。


きっと強力な基本スペックに胡坐をかいて、トレーニングはしていなかったんだろうな。


召喚者特有の強化法、【レベル上げ】も怠っているようだ。


これなら超近接戦闘に持ち込めば多分勝てるぞ!


召喚勇者、恐るるに足らず!



「おりゃ!」



― ザンッ!



「ぬがっ!?」



やった、背中に一太刀入れてやったぜ!


て、あれれ?



「いってえええ!!!やってくれおったな、ケンツ!」



おいおい、痛がるだけでノーダメージかよ。


もしやヤツが身にまとっているのは聖闘衣セントクロスの類か?


だったら――



サンダースタビング破牙の雷突!」



魔法剣技の中でもそれほど溜めを必要としないサンダースタビング破牙の雷突


こいつで覆いのない喉元を穿つ!



「死ね、ごるぅらあああああああああ!!!!」



― ガッ! バチッ!



しかし俺のサンダースタビング破牙の雷突は、結界シールドに阻まれて弾かれてしまった。


くそ、この聖闘衣セントクロス。戦闘時は肌が露出している部分を結界で守るのかよ!


こりゃ十分に魔力を込めた技でないと倒せねえぞ!?


二番煎じだがホーリーフラッシュで隙を作るか?


だけどこいつ、戦いの最中もホーリーフラッシュ聖なる閃光を警戒しているのは見て取れたからな。


はなってから対処されたら俺が逆に隙を与えちまう。


そもそも、シャロンにメンタルを削られまくったせいか、動揺してソーサリーストックがうまく発動しねえー!?


などと思案していたら――



― ザンッ!ザクッ!



「がっ!?」



突如、俺達の戦いに聖剣のニ振りが割って入り、俺の左腕と右脚をバッサリと斬り飛ばした!







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