079 第三十一話 カチコミ 03 ~ケンツ強襲



Sideケンツ



ストライバーサーチ通常探知……」



俺は、周囲の建物を陰に迂回しながら召喚勇者達のアジトである廃協会へ取り付いた。


そして教会の外壁に手を当てソーサリーストック無限魔法貯蔵からアリサの短距離気配察知魔法【ストライバーサーチ通常探知】を使った。


アリサのストライバーサーチ通常探知は不完全なものだが、それでも廃協会一つを調べるくらいならなんとか探れる。



「堂内大扉付近に召喚勇者と思われる者が三人、そしてシャロン。裏口と窓際を警戒している召喚者が四人、ん?奥の小部屋にも二人……こいつは大したやつじゃないな。敵は全員男か、スワローフライ燕の飛翔!」



召喚勇者三人と召喚者四人を俺一人で相手しても絶対勝てっこねーぜ。


奇襲を掛けて戦わずして一気にシャロンを奪い返す!


俺は空中くうちゅうに舞い上がり、シャロンに被害の及ばないよう注意して……



「魔法剣、グラビトンバッシュ重力子の圧斬!」



サンダーブレイク破壊の雷斬と並ぶ難易度Sの魔法剣技、グラビトンバッシュ重力子の圧斬が炸裂!



― ドッゴーン! ベシャッ!



大きな木造二階建て教会を、屋根の上から重力刃が襲い、堂内まで大穴を空けた!



グラビトンバッシュ重力子の圧斬は堂内の床まで届き、インパクトの瞬間重力波が四散する!



― ズババババーン!!!



「ぎゃああああああ!」

「ひいいいいいいい!」

「るぎゃあああああ!」

「げぼおおおおおお!」



衝撃で、シャロンの傍にいた勇者を除く、召喚者達を壁に叩きつけた!


完全に虚を突かれた形となり、重力波をモロに身体に浸透させた剣聖ムサシ、魔術師ヒロシ、剣士コージ、回復士タミヤの四人は瞬時に意識を刈り取ら気絶。



「な、なんだ、何事だ!?」



ユキマサ達は天井からの奇襲は想定していなかったらしく、不用意に天井に開いた大穴に顔を上げた!


その瞬間を狙って!



ホーリーフラッシュ聖なる閃光!」



―カッ、ビカッ!!!



ソーサリーストック無限魔法貯蔵からアリサ由来の魔法、ホーリーフラッシュ聖なる閃光が炸裂!



「きゃああああああああ!」


「うおおおおおおおおお!?」

「ぐわああああああああ!?」

「はがああああああああ!?」



1000メガカンデラ雷の十倍に相当する光量が、シャロンと召喚勇者達の網膜を襲った!


度を超えた光を受け、ユキマサ達は両目を押さえて床を転がりまくる!



「よし、奇襲成功!」



一瞬だけ怯ませるつもりだったのだが、アリサ由来のホーリーフラッシュ聖なる閃光は効果が絶大!


まさかこんな簡単に召喚勇者の視覚を奪い戦闘不能に出来るとは……


だがこれは千載一遇のチャンス!


俺は視覚を奪われ苦しみもがく召喚者達に、トドメを差すか悩んだ。


手に握る魔法付与剣にも力が入る。


だが……



「ダメだ出来ねえ。殺せば必ず連邦から追手がかかり、メンツと見せしめのために公開処刑にされる……」



勇者殺しが連邦にバレようものなら、俺はもちろん、シャロン、バーク、キュイ、キリス、それにアリサやユリウスにも連邦の手が及んじまう。


それどころか俺の所属しているリットール冒険者ギルドも……ケイトも……


みんな必ず処刑される!


だが殺さなないでおけば、追手の度合いは多少なりとも緩くなり、脱出の可能性は広がる!


ケイトにも迷惑はかからないだろう。



「くそ、理不尽すぎるだろ!」



しかし、とりあえず最大の目的であるシャロンの奪還は成功しそうだ!



「シャロン無事か?脱出するぞ!」


「ううう……ケンツ?ケンツなの?」


「ああ、もう大丈夫だぜ。アリサ達と合流しよう」



まだ視覚が回復していないシャロンを抱きかかえ、俺は廃教会から脱出した!




*



Side 召喚勇者



数分後、



「ぐぐぐ、おのれケンツ!」



ユキマサ達の視力が回復したとき、教会堂内にケンツとシャロンの姿はどこにも無かった。



「うう……さっきのはホーリーフラッシュ聖なる閃光か?」

「なんで冒険者風情が聖属の上位魔法を……しかもあいつは魔法剣士じゃなかったのか?」



ホーリーフラッシュ聖なる閃光を使えるジョブというのは限られている。


確認されているジョブは大神官、聖者、聖女、それに極一部の上級神官のみだ。


神職でもないケンツが使える魔法ではない。



「油断したな、まさかあんな奇襲をかけてきやがるとは」



ユキマサ自身、奇襲をかけて来るだろうとは思っていた。


奇襲以外、冒険者風情が勇者相手に女を奪還するなんてまず無理だからだ。


ユキマサは、無い知恵絞ってコソコソと奇襲にならない奇襲をしかけてくるであろうケンツを、嘲笑いながら返り討ちにする気満々でいた。


そしてケンツの前で魅了を解いたシャロンを犯し、絶望に身をよじるケンツを前にして圧倒的な愉悦に浸る!


そこまでを楽しみに予定していたのだが……


それがまさか大胆かつ豪胆!


二階建て教会の直上から大穴を開け、一瞬で視覚を奪われシャロンが奪還されるなど全く想定していなかった。


せいぜい裏口からコソコソと侵入してくるくらいしか想定していなかったのだ。



「舐めたマネしやがって!」

「もちろん追うんだろ?」



アリサとバークにやられた腹いせに、ケンツを血祭にしてやる!


とでも言いたげなショーゴとタケヒサ。



「当たり前だ、行くぞ!」



激怒するユキマサを先頭に、三人の召喚勇者はケンツの追撃に入った!




*



Sideケンツ



「シャロン、もうすぐアリサ達と合流できる。もう大丈夫だぞ!どこか身体に異常はないか」


「ケンツ……私は大丈夫よ」



よし、シャロンは汚されてはいないようだな。


もし汚されていたならシャロンなら、『ケンツ、ごめんなさい……』そう言うハズだ。



「ふぅ……」



シャロンをなんとか奪還し、汚されていない事も確認できて俺は安堵した。



「ねえ、ケンツ。そろそろ下ろしてくれないかな」



抱きかかえられてお姫様ダッコされているシャロンが懇願する。



「おっと、すまねえ。怪我一つしていないようだし、いつまでもダッコする理由はないよな」



二人して走った方が全然速い。


俺はシャロンを下ろした。



「それで今後の事なんだけどよぅ……」


「うん」


「召喚勇者を敵に回しちまった以上、もうリットールにはいられねぇ。バーク達にも声をかけて皆でリットールから……いやアドレア連邦から脱出するぞ。国外に逃亡する以外、道はねーんだ」


「うん」



スラヴ王国、ミンバリ特別自治区、チャイ帝国、マウリア共和国、魔族領バルト、環状砂漠と中央大森林、逃亡者の都ダバス、海を越えれば魔族の大地アコック大陸。


逃げ込む国はいくらでもある。


アリサとユリウスに頼めばスラヴ王国への亡命もすんなり行くかもしれねぇ。


もうバークとの決闘どころの話じゃない。


まずは皆で生き残る事を考えねーと!



「何があってもシャロンを守る!だからシャロン、一緒に国外で暮らそう!」


「え?嫌なんだけど」



シャロンは拒否した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る