078 第三十一話 カチコミ 02


Sideケンツ



「どうやらあの教会が召喚勇者達のアジトらしいな」



かなり距離を置いて召喚勇者ショーゴを追尾していたが、敵のアジトが判明した時点で脚を一旦止めた。



「恐らく窓に見張りもいるだろうし、もう少し近づけばこちらに気付きそうだ。さて、どうしたものか……」



向うは召喚勇者を含む召喚者複数人、しかもシャロンが人質に取られている状態。


真正面から乗り込んで勝てる見込みは限りなくゼロだ。



「なんとか虚を突いてシャロンを救い出すしかないな」



だがあまり策を講じている時間は無い。


こうしている間にも、シャロンがどんな目に合わされているかを思うと、瞬時に冷静さが吹き飛びそうになる。



「慎重に冷静に、しかし急いで勝負をかけるぞ」




*




◆リットール東エリアにある再開発区域の廃教会堂


Side 召喚勇者




― バタンッ!



「はぁはぁ……」

「ぜぇぜぇ……」

「ひぃひぃ……」



ユキマサ達がアジトにしている廃協会に、召喚勇者タケヒサ、召喚剣聖ムサシ、召喚魔術師ヒロシが戻って来た。



「おう、戻ったか……ん、手ぶらかよ。獲物アリサはどうした?」



ユキマサは這う這うの体で戻って来た三人を不審に思い問うた。



「え、獲物どころの話じゃねぇ!」

「あの女、シャレにならねえ強さだ!」

「危なく死ぬところだったぜ!」



ついさっき、アリサに物言わぬ肉塊にされかけたタケヒサとムサシは真底ゾッとし、ヒロシも身震いしている。



「は?強いとは言えたかが女一人だろ?魅了で制圧できなかったのか?」


「その魅了を使った途端、狂戦士バーサーカー化しやがったんだよ!」


「??? 何言ってんだおまえ?」



事態が把握できず、詳細を訊こうとしたユキマサにさらに凶報がもたらされる。



― バタンッ!



「た、助けてくれ!」



今度は召喚勇者ショーゴが死にそうな顔色で戻って来た!



「今度はショーゴか。おまえもひでえ有様だな。獲物バークはどうしたんだ?」


「そのバークに殺されかけたんだ!あの野郎、突然豹変して別人みたいに強くなりやがった!」


「おまえもかよ!?」




ユキマサの頭は混乱した。


世界最強であるはずの召喚勇者。


それがたかが冒険者に敗北するなどあり合えない。


そかも同じようなパターンで連続でだ。


その上ショーゴはユキマサに警告する。



「しかもだ、おまえの相手をするケンツって男も只者じゃないみたいだぞ、戦うなら油断するな!」


「なに?」



ショーゴはバーク(邪)にやられ気を失ってしまったが、その後に気が付いたときにはバークの姿はなく、代わりにケンツが不気味な男(変貌したバーク)に殴りかかり、腕十字ひしぎ固めを掛けて倒した時だった。



「なんでそいつがケンツと分かるんだ?ケンツの特徴は教えてなかったハズだが」


「戦ってたやつが『見事だケンツ』って言ったんだ。ケンツと戦っていたヤツ、とんでもなく危なそうな男だったぞ。ありゃ人間じゃねーな」




しかしユキマサは戻って来た勇者達の話など全く本気にしていない。


かわりに「こいつら、実はメチャメチャ弱かったのか?」と思い、ショーゴとタケヒサを侮蔑した。



「おまえら、相手を舐めてかかり過ぎたんじゃねーか?普通に考えて、勇者が冒険者風情に負けるワケねーだろ!」


「それはそうだが……けどよ!」

「でも現実にボコボコにされたんだぜ!」




その時、教会の上階層にて魔眼望遠鏡を使い見張りをしていた召喚回復士タミヤが降りてきた。



「おい、ケンツって野郎がもうすぐここに来るぞ!」



タミヤの報告に抗論はピタリと止まった。


ショーゴとタケヒサの脳裏に自分達がボコボコにされたことがフラッシュバックし緊張が走る。



「ケンツだけか?」

「他にもいないか?


「ケンツだけだ。迷わずこっちに向かって来る!」



ケンツだけと聞いてショーゴとタケヒサは大きく息を吐いて緊張を解いた。



「ふん、どうやらショーゴの後を付けられたみたいだな。こちらから案内する手間が省けたぜ!」



ユキマサと他二人の召喚勇者は教会大扉の内側で待ち構え、他の召喚者は窓や裏口からの侵入を警戒した。



「待ってください!約束です、私を参戦させ下さい!(ケンツと一緒に戦って、なんとかスキを見つけて脱出を……)」



ずっと成り行きを見ていたシャロンが声をあげる。



「心配するな、約束ならちゃんと覚えているぜ。思う存分一緒に戦わせてやる」



約束は反故にされてはおらず、小さく安堵したシャロンだったが、ユキマサの表情は悪意に満ち溢れていた。



それから約十分後……



「おい、全然来ないぞ?」

「まさか直前で逃げたのか?」

「もしかして、別の建物を探しているとか」



不審に思い扉を少し開けて外の様子を覗うと、ケンツの姿はどこにも無かった。


念のため、教会の周囲も探してみたがやはりいない。



「おいユキマサ、やはりいないぞ」

「回りの建物の中にもいねえ」


「ははは!あの野郎、直前で逃げ出したようだぜ!」



ユキマサは意外な結末に大笑い。他の者達もケラケラと笑いだした。


そしてシャロンを絶望させるかのように同情の言葉をかけた。



「残念だったなシャロンちゃん、おまえは見捨てられたようだな」


「…………」



ユキマサは物を言わぬシャロンを抱え寄せた。



(ケンツ……それでいい、そのまま逃げて!)



シャロンは両の手を合わせ、ケンツが無事逃げおおせる事を願った。


しかしユキマサは見逃す気など全く無い。



「ふん、逃げるのなら追い詰めるだけのことだ!」


「そんな、ケンツは逃げたんだしもういいでしょ!私をすきにして終わりにして下さい!」



シャロンは必死でユキマサに懇願した。


しかしユキマサはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるだけだ。



「残念だがゲームは続いている。それにみすみす獲物を逃したんじゃ依頼者に笑われるからな。ケンツとバークはキッチリ潰してやるぜ」


「い、依頼者? 依頼者って一体誰なんです!?」


「おっと余計な事を喋っちまったな。誰ってそりゃあ守秘義務ってやつさ」



召喚勇者達が誰かの依頼で動いていたことに驚きを隠せないシャロン。


召喚勇者が連邦以外の案件で動くなど、自分達の暇つぶし以外は有り得ないからだ。



「依頼者……」



ケンツとバークを潰したい誰かが召喚勇者に頼んだ?

もしや私を攫ったのも依頼によるもの?



「ケンツとバークさんが邪魔で、私を欲する者……まさか!」



シャロンは瞬時にバロンとブルーノに襲われた時の事を思い出した。



「まさか、バロンさんとブルーノさんが!?あの二人が依頼者なんですか!?」



ユキマサはシャロンの問いには答えずニヤニヤするのみ。


しかし、ユキマサの片眉が一瞬ピクリと跳ね上がるのをシャロンは見逃さなかなかった。



「やはり……どんな繋がりがあるのかは分からないけど、依頼者はあの二人なんだわ。そうなんでしょ!」


「守秘義務だって言っただろ。俺はこうみえても約束を守る男なんだぜ。…………そう言えばシャロンちゃんとの約束も守らなきゃな」


「約束?」


「そう、約束だ。ケンツとともに参戦したいのだろう?」



ユキマサは目を妖しく輝かせながら含みのある声でシャロンに言った。





さらに五分経過……



「ふん、裏をかいて裏口か窓からでも侵入してくるかと思ったが、本当に逃げたようだな。手間取らせやがって」



結局ケンツは現れず、ユキマサ達はケンツの追跡に外に出ようと玄関扉に手を掛けた。


刹那!



― ドッゴーン!



突如、轟音とともに天井が崩落した!



「な、なんだ、何事だ!?」



驚いたユキマサ達が上を向いた瞬間!



ホーリーフラッシュ聖なる閃光!」



―カッ、ビカッ!!!



眼球が焼かれんばかりの光量が、ユキマサ達を襲った!



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