075 第三十話 ファーストコンタクト 01 ~ケンツvsバーク(邪)



― ズキュンッ! ズキュンッ! ズキュンッ!



「あぐぅ……」



召喚勇者ショーゴは己の魔力量を限界近くまで一気に吸い取られ、気を失ってしまった。


魔力を吸われながらビクン、ビクンと身体が痙攣し、ショーゴは最後の時が近づいていた。



『ふふふ。ではさらばだ、異世界の勇者よ』



バーク(邪)はフィニッシュとばかりに手に力を込めた!


だが刹那!



「そこで何をしてやがる!」


『む、誰だ?』



バーク(邪)は声のする方を向くと、そこには空に浮かぶケンツの姿が!


そしてケンツは見知らぬ男が二人と、倒れているキュイとキリスの姿を確認した!



「キュイ!キリス!」



ケンツは驚いて地に降りた。





*





Sideケンツ



何度も雷の音が響き、これは何かあると思って文字通り飛んで来たら、とんでもない現場に出くわしちまったようだぜ!



「てめぇ、一体何者だ?キュイとキリスに何をしやがった!」



俺は小柄な男の顔面を鷲づかみして高々と持ち上げている男(バーク(邪))に向かって咆えた。



『なんだ、誰かと思えば咬ませ犬・・・・のケンツではないか。いつも一緒にいる女……アリサはいないのか?』


「なっ!?」



なんだこいつは?


なぜ俺とアリサの事を知っている!?


それにこいつに顔を掴まれビクンビクンと痙攣している男は一体……


つーか、噛ませ犬だと!?そりゃいったい誰のこったい!!!



「おい、てめぇマジで何者だ?キュイとキリスに何をしやがった!」


『誤解するな。キュイとキリスをやったのはコイツの方だぞ』



掴んでいる男をこちらに向けてアピールする。



「なんだと?ではてめぇが掴んでいる男は何者だ?」



俺は訝しげな顔をしながら顔を掴まれている男ともども見直した。


ん?この掴まれている男、東洋人か?


まさか……



『たしか召喚勇者ショーゴとか名乗っておったか。それとキュイとキリスは結果的に我が助けたようなものだ』


「召喚勇者!?」



マジかよ、本当に召喚勇者ってか!


え、ちょっと待て。


ならば召喚勇者をやっつけたこの男は、召喚勇者以上の実力者ということか!?


いやそれよりも、こいつは敵なのか?味方なのか?


俺は改めて男を見返した。



「じいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……」



でかい図体、真っ黒な皮膚、青黒い鱗鎧、爬虫類的な金色の目、禍々しいどす黒いオーラ……



「…………」



いやいやいや、こいつが味方であるわけが無いぜ!


どこをどう見ても邪悪の化身って感じだぞ!?



「おい、てめぇにも色々と訊きたい事はあるが、まずはその召喚勇者から手を離せ!」



この場にシャロンはいない。


だが、恐らくこの召喚勇者はシャロンの行方を知っているに違いねえ!


この男が召喚勇者を殺す前に、なんとかしてシャロンの情報を吐かせねーと……



『てめぇてめぇと、咬ませ犬風情が何を偉そうな口を……だがまあいい、このさい(バークの相手に相応しいかどうか)貴様の実力を見てやろうではないか。さあかかって来るがいい!』


「へ?……えええ!!!???」



なんと男は俺に戦いを挑んで来た!


いや、なんで?


初対面の人にてめぇ・・・とか言ったから怒らしちゃったかな。


それなら謝るぞ、ごめんなさい!


こう見えて僕は暴力反対派なんですよ。



― ドサリ



男は召喚勇者の顔から手を離した。


召喚勇者は地面に落されるも意識は無いようだ。


顔色を悪くしてビクンビクンと痙攣しながら完全にのびてやがる。


だがこいつはマジでやべぇ。最強の召喚勇者をこんな目に合わせるとは……


こんなヤツまるで勝てる気がしねぇ。



「ま、まあ落ち着けって。俺は召喚勇者こいつから情報を聞き出して、あとキリスとキュイを助けられればそれでいいんだ。てめぇ……いや、あなた様が何者かは知らないが、戦う理由はないはずだろ?」



誰がてめぇみたいな見るからに危なそうな奴の相手なんかするかよ!


拒否だ、拒否!


いや、かっこ悪いとか思うなよ?


俺やアリサの事を知っているのは気になるが、マジでこいつと戦う理由なんか全くねえんだ。


おっかなくて戦いを避けているわけじゃないからな!


それにキリスとキュイを助けたとか言っているし……


うん、こいつのナリは邪悪だが、きっと根は良い奴なんだ。そういう事にしておこう。


それに俺はこいつと戦って時間を食っている暇はない。


早くシャロンを助けないと!



『ふふ、ぐはははははははは!』


「なんだ?何がおかしい」



男は突然大笑いした後、俺のことを蔑視しやがった。



『なんだ、バークに大層な挑戦状を叩きつけるのだから、どれくらい成長したのかと思えば……こいつはまるでヘタレではないか!』


「な、なんだと!」



バークを引き合いに出してバカにされたせいで、一瞬にして怒りの沸点越えしそうになった。


だが、どういうわけだ?


こいつは俺がバークに挑戦状を叩きつけた事を知っている。


バークに挑戦状を叩きつけた時にギルドにいたのか?


いやいや、こんな邪悪そうなやつ、あの場には絶対にいなかったぞ??



『話にならん。とんだ期待外れだ。うぬのような腑抜けた男が、女を賭けて決闘など五百年早いわ!』



― ブワッ!



「うおっ!?」



男から発せられる禍々しいオーラに威圧され、俺はチンチンの先まで委縮する!


こ、こえええええ!


嫌だ、どんなにバカにされようと、こいつと戦うのは断固拒否する!



「ふ、ふん。運が良かったな。今の俺は戦う気分じゃねーんだ。見逃してやるから気が変わらないうちに、ここから立ち去……」


『では、この男の魔力吸い尽くしたら、次はアリサをしゃぶりつくしてやろう』


「はっ!?」



アリサをしゃぶりつくすだと!?


なぜだ、なぜアリサを狙う!?



『そして次はシャロンとかいう女を眷属しもべにして、生涯我の傍に置いてやろうではないか』


「 なっ!? 」



こいつ、シャロンのことまで!?


しかも眷属しもべだと!?



『さあどうする?』



男はニヤリとイヤな笑みを浮かべ挑発する!


この野郎、アリサをしゃぶるだけでなく、シャロンまで奪う気か!?


いや分かっている、多分これはやつの挑発だ。


だから乗るな、今は全力で戦いを回避することを考えろ!


落ち着け!冷静になれ!


目の前に転がっている無様に気を失っている召喚勇者を見てみろ!


どう考えても俺が勝てる相手じゃないぞ!


ふぅぅぅぅ……


俺は一呼吸して自身を落ち着かせてから、謹んでお断り申し上げようと口を開く。


だが口から出た言葉は……



「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

てめえ、気が変わったぜ!

そのつら、形が変わるまでぶん殴ってやる!!!」



アリサをしゃぶり、シャロンを眷属しもべにするだと!?


ブチ切れたぜ!


てめぇは俺を、完全に怒らせた!!!



「縮地ぃ!」



― バシュッ!



まだ不完全ながら縮地でやつの懐に入り、渾身の力でやつの顔面をぶん殴る!



「どりゃあああああああああああああああ!!!!」



― バシッ!



しかしインパクトの瞬間、俺の拳はやつの手の平に遮られた。



『ほう、縮地か。使える者は途絶えたと聞いていたが……』


「ぐっ……あぐっ!」



― グリッ!



男は俺の拳を握り包み、力を込めて捻ってきた!


こいつ、なんて馬鹿力だ。手首を壊されちまう!



『なんだ、たかが手首を捻られたくらいで……むっ!?』



この野郎、バカにしたように見下しやがって!


だがそう来るのは想定内だぜ。俺を甘く見たてめぇの負けだ!


俺は力のベクトルをほんの少し変えてやると……



―ゴロリン



男は奇麗に転がった!



『なに!?いったい何をした!』



優勢であったはずが一瞬で転がされ、わけがわからず男は混乱する!


ユリウスから教えて貰った力を逸らす技だ!


だがこれだけじゃねーぜ!


こいつが混乱して本気を出す前に一気に決めてやる!



「おりゃ!」



そこからまだ掴まれている腕を逆に利用して、瞬時にして〈腕ひしぎ十字固め〉を決めた!



「どおおおおりゃああああああああああ!!!!」



― メキメキメキィィィ!!!



『ぐおおおおおおおおおおお!!!???』



どうだこの野郎、シャロン直伝の〈腕ひしぎ十字固め〉!


完全に決まったぜ。もう外すのは絶対に不可能だ!


魔力も込めていない拳の打撃と思って甘く見たな。舐めてかかるからこうなるんだぜ!


剣や魔法、スキルに馬鹿力だけが勝負の決定打ではないことを、身をもっておもい知りやがれ!



「とか思いつつ、テラボルト上級雷撃オオォォォ!!!」



―バリバリバリバリ!



『おぐっ!?』



密着状態からの、アリサ由来テラボルト上級雷撃だぜ!


常人なら腕が電気破裂起こすこと間違いなしだ!



『ぐおおおおおお!!!顔をぶん殴るのではなかったのか!?』


「マヌケ、騙される方が悪い!」


『ぬぅぅぅぅ……』



へ、本当は顔面ボコボコにしてやりたかったが、腕一本で勘弁してやる!



「てめぇはいったい何者だ!なぜ俺達の事を知っている!?やはり召喚勇者の仲間なのか!?」



さあさあ、早く言わないと腕と関節がぶっ壊れるぜ!



― ギュリリリリリリリリリィ!バリバリバリバリバリ!



俺は渾身の力で雷撃と関節を決め続ける!


しかし男の顔を見て俺はギョッとした。


まるで痛そうな顔をしていないのだ。


こいつ、痛みを感じる神経が無いのか!?



『ふふ、ははは!こいつは驚いた。まさかただの人間が我を転がすとはな!』


「はっ?てめぇ、強がってんじゃねーぜ!」


『見事だケンツ。だがうぬは我の力を見誤っておるぞ?』


「なんだと?何を強がりを……うぉっ!?」



― ぐいっ



突如、俺の身体が持ち上がった!


なんだ?一体なにが…………て、こいつマジか!?


信じられない事に、男は〈雷撃〉と〈腕ひしぎ十字固め〉を決められながら悠々と立ち上がった!



「バカな、有り得ねえ!腕と関節がぶっ壊れるぞ!」



しかもそこからさらに――



― グインッ!ボキョッ!



「ぐわっ!?」



なんと、強引に腕を曲げ〈腕ひしぎ十字固め〉を解きやがった!



「こいつ化け物か!?絶対人間じゃねぇ!ぐえっ!!」



その上、男は俺の首を掴み高々と持ち上げた!


ぐ、ぐるぢい!気道が潰されそうだ!


ちくしょうめ、やっぱり俺が勝てる相手じゃなかった。


力の出し惜しみ・・・・・・・なんかするんじゃなかたったぜ!



『ふははは、ケンツ人間よ、なかなか楽しませて貰ったぞ……むっ!?』



背後に熱気を感じ、男の目線が逸れた。


刹那!



流星斬りゅうせいざん!」



謎の斬撃波が男の背を襲った!




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ここまでお読みくださりありがとうございます!


サブタイトルに『(裏話あり)』の記載のあるエピソードには、期間限定で視点違いや関連・参考のエピソードが【近況ノート】にて紹介されております。

次話までの繋ぎがてらにお楽しみください。

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