074 第二十九話 召喚勇者の戯れ 07 ~邪竜覚醒


(困るな……我の血を引く者が、たかが異世界の勇者まがい物如きに後れを取るとは情けない)


「む、なんだ!?」



ショーゴはバークの異変に気付きギョッとした。


横たわるバークの身体が邪気に覆われ傷を癒し、腕を付いて上体を起こそうとしている!



「なんだ?一体何が起きて……ええい、とにかくトドメ刺してやる!」



ショーゴは稲光る聖剣を振るい、バークの首を刎ねにかかった!



― バチバチッ、グオッ!


― バシッ!



「 !? 」



しかしショーゴの斬撃を、バークはなんと指先で掴んで止めてしまった!



『ふぅ、聖属の力を浴びて、しかもこやつバークが意識を飛ばしたおかげで、人格干渉ではなく、一時的だが身体の自由が利くようになったわ。礼を言うぞ、異世界の勇者よ』



― ブンッ!



バークは聖剣ごとショーゴを振り投げた!



「うわっ!」



振り飛ばされたショーゴはゴロゴロと地面を転がっていく。


一方で、バークはユラリと立ち上がり、パンパンと服に着いた土を叩いて落とす。


だがバークの雰囲気は、どこか禍々しく変わっていた。



「てめぇ、死にぞこないのクセにやってくれるじゃねーか!今度こそぶっ殺してやる!」



ショーゴは自分が転がされた事に酷く激昂!


この世界で最強であるはずの勇者が、こんな死にかけていた男に転がされるなど、有ってはならないのだ!


しかしバークは全く動じない。


いや、激昂しているショーゴを見て嬉しそうにすらしている。



『なかなか活きが良いではないか。ではショーゴとか言ったか、遠慮なくかかって来るがよい』



― ブチッ!



上から目線のモノ言いに、ショーゴがブチ切れた!



「勇者様に向かってかかって来いだぁ?てめー、軽口を叩いたことを後悔しながら死にやがれ!」



ショーゴはさらに激昂してバークに斬りかかった!



― ザシュッ!ザンッ!ズバッ!



ショーゴの力任せの連撃!


しかしバークはいとも容易くヒョイヒョイと躱す。


その上、反撃をせずにただニヤニヤするのみ。



『どうした?この時代の召喚勇者の力とはその程度か?』



― ブチッ! ブチンッ!



「舐めるな!ジゴブレイク勇者の雷斬!!!」



凄まじい閃光と共に、ジゴブレイク勇者の雷斬が放たれ、雷斬波がバークを襲う!



― バシュッ!ギュルルルルルルゥゥゥ……



しかしバークはジゴブレイク勇者の雷斬の雷斬波を手の平で受け止め……しかも吸収した!



「なんだ?今何をしやがった!?」



今度こそ木端微塵に吹き飛ぶと確信していたショーゴは、予想外の出来事に我が目を疑った。



『うむ、悪くない味だ。ほらどうした、もっとどんどん撃ってこい』


「ほざけ!ブレーブブレイク勇者の斬撃!」



今度は聖属の魔力をタップリと乗せた斬撃飛ばし!



― ギュルルルルルルゥゥゥ……



だが、またもや同じようにバークは吸収してしまった。



ライディーン勇者の雷!」「ギガディーン勇者の大雷!」



さらには勇者の殲滅魔法!



― ギュルルルルルルゥゥゥ……



またしても吸収、全く効果無し!


それどころかバークは目を細めて舌なめずりしている。



「バカな!俺の技が通じねえ!最強の勇者がこんなヤツを仕留められないなんて!」



ここに来て、ショーゴはバークの異常さヤバさに気が付いた。



『もう終わりか?だったらそろそろ反撃するがいいか?』


「反撃だと!?ふざけるな、勇者がおまえみたいな猿に舐められてたまるか!」



ショーゴは怒りのままに今度は斬撃連打を繰り返す。



― ザンッ!シュバッ!ビュシュッ!



しかし当たらない、斬れない、かすりもしない。


時々素手で払いのけられる。



「ぜぇ、ぜぇ、こいつ、やべえ!どうやっても倒せねえ!」



ついに勝てないと悟らされたショーゴ。


しかしその悟りは少々遅かった。ついにバークの反撃が始まったのだ!



― ドスゥ!



「おごっ!?」



まるで縮地でも使ったかのような鋭い踏み込み!


そしてレバーブローボディフックが深々とショーゴに突き刺さった!


その強烈な一撃に、ショーゴはアッサリと撃沈。カエルのように地に崩れ落ちる。



『なんだ?これから遊んでやろうと思っておったのに、脆いやつだな』



バークはつまらなそうに言い捨てると、ショーゴの顔面を鷲づかみにして高く持ち上げた。



ホーリードレナージュ聖属魔力強制吸引!』



バークの手に力が入り、爪が顔面に抉り刺さる!


そして――



― ズキュンッ! ズキュンッ! ズキュンッ!



「ぎゃあああああああ!魔力が!魔力が吸われる!」



ショーゴは足をバタバタさせて字通り足掻く!


しかしバークはホーリードレナージュ聖属魔力強制吸引をやめない!



「うごあああああああああ!!!!」



― ズキュンッ! ズキュンッ! ズキュンッ!



やがてバークの身体に変化が起き始めた!


胸に埋め込まれた黒魔石が“オオオオオ”と不気味なうなりを上げる。


身体は一回り大きくなり、皮膚は黒く染まっていく。


瞳はより金色に輝き、しかも不気味な爬虫類的な目に変ってしまった。


さらには周囲の魔素を固定化し、青黒い竜鱗的なメイルスケールメイルに身体が覆われた。


もう誰が見ても、これがバークだとは思わないだろう。



『いいぞ、もう何人か聖属の力を取り込み、バークを誑かしてたぶらかして身体を奪えば…………むははははは!』



― ズキュンッ! ズキュンッ! ズキュンッ!



バークの身体を乗っ取った【黒魔石に宿る思念体邪竜アカーパレス】は、歪んだ笑みを浮かべて勇者の魔力を吸収し続けるのであった。



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