072 第二十九話 召喚勇者の戯れ 05 ~怒りのバーク
「すみません、この辺りで栗毛の女性冒険者を見ませんでしたか?」
バークは必死になってリットールの街南西側を捜索していた。
しかし誰も見たものはいないという。
「ここではないな。やはりケンツさんが捜索している中心エリアか?」
バークが見切りを付けようとしたとき――
「バーク、やっと見つけた!」
「シャロンの居場所がわかったよ!」
キュイとキリスがバークの元へ駆けてきた。
「本当かい?いったいどこに!?」
「私達の捜索していた南東エリアの広場だよ!」
「アタイ達じゃ手に負えそうにない強いやつに捕まっているんだ!」
「なんだって!?わかった、二人とも連れて行ってくれ!」
バークは急ぎ南東エリアの広場に向かった。
「ここか?」
「うん」
「ほら、あいつだよ!」
キリスの指さす方向には、やや小柄で黒髪の男が!
しかも獲物を見る目でバークを睨んでいる。
「おまえか、シャロンさんを攫ったのは!シャロンさんは何処にいる!」
バークは激怒しながら怒鳴りつけた!
「おうおう、煩せーな。怒鳴らなくても聞こえてるっての。安心しな、シャロンちゃんならまだ手を付けずに俺達が預かっているぜ」
シャロンがまだ無事であるような事を聞き、バークは安堵の表情を浮かべたが、すぐに厳しい表情となった。
「俺達!?おまえ一人の仕業じゃないのか?おまえは何者だ!」
「もう正体は感づいているんじゃないのか?」
「では、やはり召喚勇者か!」
「ご名答。俺は異世界から召喚された勇者ショーゴという」
ショーゴはニヤニヤしながら抜剣した。
召喚勇者ショーゴ――
召喚されて丁度一年になる少し小柄な二十歳男性。
召喚者同士でパーティーは組まず、ほとんど
「さあ、これ以上の事を聞きたければ、まずは俺を倒すことだな。それとも尻尾を捲いて逃げ出すが?」
「ぐくっ……」
ショーゴと対峙しているだけで、バークは額から嫌な汗が一筋流れた。
いかにバークが強くとも、本気の召喚勇者に相手に勝てるとは思えない。
それでもバークは引くわけにはいかない。引けばシャロンが奴ら召喚勇者達の慰み者にされてしまうのだ。
バークは召喚勇者から発せられる異常な威圧感を気合で跳ねのけ抜剣した。
「くそ、これで僕も
召喚勇者への反抗……それはアドレア連邦への反抗と同じこと。
刃を向ければそれだけで国賊と見なされる。
それを承知の上で、バークは抜剣した。そしてバチバチと黒い稲妻が全身に纏い始める。
「いくぞ!」
バークは低姿勢の構えから弾かれるように突撃!
「
― バチバチバチ、ドシュッ!
黒き雷を伴う超高速の突きがショーゴの喉元を襲う!
「は、速い!?」
予想外の速い雷突!
にやけていたショーゴの顔色が、一気に驚きの顔色に変わった!
「
「ぐおっ!?」
「
「ぬぅっ!?」
「
「このっ!?」
超高速の魔法剣撃!
しかしバークの剣撃は、悲しいまでに軽かった。
バークは魔法剣の威力を押さえ、その分の力を全てスピードに回しているのだ。
だが、ショーゴのスピード領域で戦うには他に方法が無い。
「俺のスピードと同等だと!?なんだこいつは!?」
それはショーゴにとっては全くの予想外!
もちろん最大火力では、バークは召喚勇者に遠く及ばない。
しかし最大火力を放つ大技には、必ず“溜め”が必要だ。
「奴に“溜め”の時間を与えるものか!」
「こ、こいつ!」
バークは自身が使えるバフを最大にして、さらには不完全ながらデバフも発動させ、ショーゴの溜めを封殺する!
「舐めるな!勇者必殺の剣技、
溜めの無いノーアクションからの
― ガラガラ、ドッシャアアアアアアアアアアアン!!!
「そんな力の入っていない
必殺魔法剣、
― ガラガラ、グォッシャアアアアアアアアアアン!!!
白き雷と黒き雷を伴う二つの雷斬波が激しくぶつかり合い、衝撃波を発生させて周囲に広がる!
― バキッ!メキャッ!
周囲の街路樹が衝撃波を食らい、軒並み折れていく!
「きゃあああああああああ!!!」
「ひいいいいいいいいいい!!!」
キュイとキリスが衝撃波に吹き飛ばされまいとして、必死で地面に伏せて耐えた。
バークとショーゴは双方ともに健在だ。
だが、バークは少し肩で息をし始めていた。ここにきてスタミナの差が出始めてきたようだ。
「なんなんだテメーは!ちょこまか鬱陶しい!
「させるか!魔法剣
― バシュッ!バシュバシュッ!
「くそっ!」
勇者の決戦雷撃魔法
しかしバークはそんなスキを与えはしない!
徹底して“溜め”の邪魔をする!
しかしこのまま時間が経てば、先に体力を消失するのはバークの方だ。
戦闘中の召喚勇者のスタミナは、底が無いのではと疑うくらい漲っている!
時間はバークには味方しない、むしろ敵なのだ!
「なんとかして召喚勇者を弱らす一撃を……」
だが悲しいかな。バークは実践的な剣技においてはまだまだ経験不足。
この一年、愚直に剣技に磨き掛けてはきたつもりだが、基本は一人稽古であり実戦においても魔獣相手がメイン。
人間との稽古も人型魔物との戦闘経験も、バークは圧倒的に少ない。
故にバークは格上の人間が相手となったとき、避ける以外の術をまだ身に付けていなかった。
人外級の力を持ちつつも、バークの引き出しは案外少ないのだ。
「どうすれば……そうだ!」
バークは過去において、唯一自分に一太刀浴びせた相手、【ケンツ】の事を思い出した。
「ケンツさん、技をお借りしますよ!」
バークはワザと少しだけ力を抜き、大きく肩で息をしてみた。剣速も若干遅くする。
途端にショーゴの連撃が襲い掛かり、一転してバークは防戦一方となった。
「うっ、くくくっ……ぷはっ!ぜぇ、ぜぇ……」
「スタミナ切れか?どうやら自力の差が出たようだな!所詮おまえは現地人の猿だ。俺様のようなエリートには勝てないのさ!おらっ!」
― ザシュンッ!
ショーゴの斬撃は徐々に力任せの乱雑なものとなり、勝利を確信した笑みを浮かべていた。
だがバークは冷静にショーゴを観察していた。
そして、ショーゴの気持ちが完全に弛緩している事を感じ取った!
「待っていたよ、あんたが気を緩めるのをな!」
― バチッ!バチバチバチバチッ!
バークの体表を爆ぜる細かな黒き
「むっ!?」
ショーゴはバークの雰囲気が微かに変わった事に気付き、咄嗟に距離を取ろうとした。
しかし完全に舐めてかかっていたせいか、反応が鈍い!
「反撃だ!
黒き雷を纏った鋭い突きが、ショーゴの喉元を穿つ!
―バリバリバリ、ガッ!!!
「うわっ!?」
しかしショーゴは慌てながらもバックステップでギリギリ躱した!
「やはり下がったか、想定通り!」
これで終わりじゃない!
剣に込められた黒き雷は、ほぼゼロ距離のショーゴに襲いかかる!
「爆ぜろ!
― バリバリバリバリ!バチーーーーーーーーーン!!!
「うわぁっ!?」
剣先から放たれた
だが大きなダメージではないようだ。本当に目くらましにしかなっていない。
しかし!
「ふん、ケンツさんとの戦いで想定済みだ!はぁあああああああ!」
このスキにバークは極大の大技を放つための“溜め”に入る!
そしてコンマ数秒後、ショーゴの目が慣れ状況を把握したとき、バークの大技が放たれた!
「食らえ!全力の
雷撃系魔法剣技最大の奥義!
「ひっ!?」
ショーゴは咄嗟に間合の圏外へとさらにバックステップしようとするも間に合わない!
バークの
― ガラガラガラ、ドッシャーン!!!!!!!
耳を劈く大轟音!
それはまさに対ケンツ戦での立場を変えた再現だ!
「やったか?召喚勇者に僕の
バークは戦いの最中に絶対言ってはいけない言葉、『やったか?』をうっかり口にしてしまう。
フラグとして成立していれば、ショーゴは無傷で即反撃するところだが……
「ぐぅぅぅぅ……かはっ!」
それは全くの杞憂だった。
致命傷では無いが、バークの
強固な聖闘衣の腹部分が吹き飛び、ショーゴは腹を擦りながら膝を着き、苦悶の表情を浮かべている。
「こ、この現地人の猿がぁぁ!……ごふっ!」
「よし、攻撃が通っている!ここから一気に畳みかけてやるぞ!」
だが相手は召喚勇者だ、優勢だからと言って慢心するな!
バークは自分自身にそう言い聞かせ、ショーゴに対して一切気を緩めない!
目の前の敵に対して全力で集中する!
バークはショーゴに対して気は緩めなかった。
そう、徹底して気を緩めなかった。
しかし、それ以外は全くの無警戒だった。
刹那――
「
「
― ドギュウウウウウウウウウウウウウウン!
― ドッゴオオオオオオオオオオオオオオン!
「なっ!?うわぁあああ!!!」
背後から大魔法と戦斧破がクリーンヒット、バークは10メートル以上吹き飛ばされた!
しかも完全に虚を突かれた形となり、大きなダメージを受けてしまった。
「ぐふっ……いったい何が……なっ、そんな!?」
振り向いたバークの視線の先には、にちゃりと
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