071 第二十九話 召喚勇者の戯れ 04 ~怒れるアリサ(裏話有り)



「ぎゃっ!」

「ぐぎゃっ!」



勇者タケヒサと剣聖ムサシは、剣の腹で強烈な一撃を食らい地面に叩き伏せられた!


少し離れた所には魔術師ヒロシが気を失い倒れている。 



「なんだ、この女は!?」

「こいつ、戦い慣れてやがる!」



召喚勇者タケヒサと剣聖ムサシは焦っていた。


彼らを召喚したアドレア連邦政府からは『勇者とはこの世界において最強にして頂点の存在』と説明を受けていた。


事実、タケヒサはこれまで戯れたわむれに蹴散らして来た相手の中に、自分達を慌てさせるような強敵はいなかった。


しかし、目の前のこの女アリサは違った。


明らかにタケヒサ達二人と互角に……いや互角以上に戦いを演じている!


アリサは戦いが始まるや否や、戦いにおいて面倒になるであろう存在、魔術師ヒロシを真っ先に叩き伏せ意識を刈り取った。


そして次の瞬間には、彫刻装飾の施された立派な剣をふるい、タケヒサと剣聖ムサシに斬りかかったのだ!



― ガキガキン!



しかし、そこは流石に勇者と剣聖、アリサの初撃には耐えた!……のだが、数撃後には剣の腹で強烈な一撃を食らい、二人して地面に叩き伏せられたのだった。



「連邦の召喚勇者と召喚剣聖がどれほどのものかと思ったけど、全然大したこと無いのね。さっさと降参してシャロンさんを返しなさいな。そうすれば三分の一殺しくらいで許してあげる」


「ふざけるな、ちょっと油断しただけだ!」

「本気になった俺達に勝てるヤツなんざ、この世にいるワケねーんだよ!」



ここは再開発区域、取り壊し中の老朽化した建物があるだけで、人は彼らを除いて誰もいない。


タケヒサとムサシは魔力全開でアリサに襲い掛かった!



ブレーブブレイク勇者の斬撃!」

ホーリーブレード聖なる光斬!」


― バシュッ!

― シュバッ!



勇者と剣聖の斬撃飛ばし技!


聖気の波動と衝撃波がアリサに襲い掛かる!



彗星斬すいせいざん!」


― ギュビュンッ!



しかしアリサは同じような斬撃飛ばし技を放ち、勇者の斬撃ブレーブブレイク聖なる光斬ホーリーブレードを対消滅させてしまった。



「そんなバカな、俺の最高の剣技だぞ!?」

「なら、これはどうだ!ギガディーン勇者の大雷!」



タケヒサは勇者の大量破壊殲滅魔法、ギガディーン勇者の大雷を発動!



― ガラガラドッシャーン!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



再開発区域全域を雷が荒れ狂い、全ての建物が破壊しつくされていく!



「ふははは!エリア丸ごと灰塵にする勇者の殲滅雷撃魔法だ。ただの人間には耐えられまい」

「ザマ―見やがれ、調子乗るから命を堕とすんだよ!」

「だけど、あいつ見た目は抜群に可愛かったのにな。惜しいなぁ……」

「まったくだ、この後のお楽しみが半減されちまったぜ」



二人は勝利を確信しながら周囲が沈静化するのを待った。


やがて濛々とした煙と砂ぼこりが薄れていき――



「何を高笑いしながらゲスいこと言っているのかしら」


「なに!?」

「うそだろ!?」



驚愕するタケヒサとムサシ!


二人の前には、ストライバー防御結界で守られ全くの無傷なアリサの姿があった。



「信じられねえこの女!」

ギガディーン勇者の大雷に耐えるヤツがこの世にいるのかよ!?」


「今のがギガディーン?王国の召喚勇者のギガディーンと比べれば、こんなの静電気レベルなんだけど。あなた本当に勇者?」



アリサは本気でタケヒサが勇者であることを疑った。忌々しいスラヴ王国の召喚勇者と比べれば、あまりにも弱すぎるからだ。


しかしタケヒサは間違いなく召喚勇者だった。


そしてアリサの言葉にタケヒサはプライドを傷つけられ激昂する!



「舐めるな、女!」

「絶対後悔させてやる!」



それまでどちらかと言えば距離を取って戦っていたのだが、タケヒサとムサシは近接戦闘に切り替え力ずくで剣を砕きにいった!


そして近接戦闘に切り替えれば、あの外法も……



― ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!



剣技もへったくれも無い、力任せの連撃を繰り返すタケヒサとムサシ!


元々この二人は勇者と剣聖のジョブにオンブされていただけで、技を磨こうとする努力をしていない。


剣技に関しては、稚拙で素人剥き出しであることが近接戦闘で露呈される。


それでも斬撃の力は尋常なものでは無いのだが……



「おかしい、なんでこの女の剣は砕けねえ!?」

「タケヒサ、こいつの剣はもしかして俺達と同じ聖剣じゃねーのか!?」



いつまで経っても砕けないアリサの剣に、二人は不審に感じ始めた。


聖剣と刃を交えて砕けないのは一部の魔剣と同じ聖剣のみ。


ミスリルの剣でさえ十撃も交えれば砕け散る。


思い通りに事が進まない事に、二人は狼狽し始め嫌な汗が流れだした。


一方アリサは二人の力量を計るツモリで暫く付き合っていたが、そろそろ面倒くさくなってきたようだ。



― ガスッ! ドカッ!



「かはっ!」

「ぐふっ!」



またしても剣の腹で一撃を食らわされ、タケヒサとムサシは地に這いつくばった。



「さあ、もういいでしょ。シャロンさんの行方を教えな……!?」



しかしタケヒサもくせ者だった。


地に這いつくばり、気絶したかのようにピクリとも動かない二人に、アリサは注意しながらも確かめに近づく。


刹那!


地に伏せていたタケヒサが顔を上げた!



勇者の魅了チャームアイ!」


― ブワッ!シュグウウゥゥゥゥゥウウウウ!


外法、勇者の魅了チャームアイが炸裂!


禍々しくも濃厚で悍ましいオーラがタケヒサの目から放たれた!


それがアリサの瞳に捩じり込まれ、脳の奥底まで浸蝕する!



「はうっ!?」



 ― トゥクン……



偽りのトキメキがアリサの胸に響き、目の前のタケヒサが愛おしく感じだした!


同時にあれだけ愛してやまない想い人ユーシスへの想いが一瞬揺らぎ、憎悪の対象に反転し始める!


さらには一気に性欲が膨れ上がり、今すぐタケヒサに抱かれたい衝動が全身を駆け巡った!



「かはっ……くふぅぅぅぅ……」



しかしそれも一瞬のこと。


アリサは過去の魅了被害のトラウマのせいで、今では魅了されると魅了憎しみのあまり一気に性格が豹変、狂暴化してしまう!


さらにはアリサには多少ながら【魅了耐性】があった。


アリサを完全に魅了堕ちさせるには一撃では全く足らない。


少なくとも十撃は必要だったのだ。


そして生半可な魅了攻撃は返って命とりになる!



「へへへ、油断したな。これでおまえは俺達の付属物専属性奴隷だ……!?」

「身体がふやけるまで、たっぷりじっくりと舐ってやる……!?」



― グシャッ!

― ボキュンッ!



今度こそ勝ちを確信し、立ち上がろうとしたタケヒサとムサシに、信じられないパワーの蹴撃が襲う!


タケヒサはどてっ腹に一撃くらい、空高く蹴り飛ばされた!


ムサシは顎に一撃を食らった瞬間、顔の下半分が吹き飛び消失!



「ぎゃああああああああ!!!」

「ぎょぼおおおおおおお!!!」



落下して悶え苦しむタケヒサ!激痛とパニックで転げまわるムサシ!


そして二人の目に映ったのは、


“シュコオオオオオオオオ……”という不気味な音をたてながら、


全身が金色の粒子と血霧に覆われ、


髪を逆立たせ目を真赤に血で染めた、


魔人の如きアリサの姿!



「よくも私に薄汚い勇者の魅了チャームアイなんて外法を……あなた達、覚悟は出来ているんでしょうね!?」



「ななな、なんで勇者の魅了チャームアイが通じない!?」

「あごあごあぼぼぼぼ!!!」


「煩い!」



― ボコッ!

― ベキッ!



そこからはアリサが一方的に、しかも圧倒的暴力で殴る蹴るの暴行を続ける!



― ガスッ!ボコッ!ガツンッ!

 ドカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!



「うぎゃ!よせ!やめえええええへええええええええ!!!」

「あびゅ!わびゃ!あわびゅううううううううううう!!!」



― ゴスッ! ゴスッ! ゴスッ!



やがてタケヒサ達の姿が徐々に人の形からただの肉塊に変わり始めた頃……



「アリサ、もう止せよせ!それ以上やったらシャロンさんの事を聞き出せなくなるぞ!」



アリサは突如背後から羽交い絞めにされ、動きを止められた。



「はっ!?え、ユリウスさん?なんで……わわ!私また暴走しちゃったの!?」



アリサは我に返り、慌てて目の前の肉塊にセイクリッドヒール完全回復をかけた。


幸いなことに、タケヒサとムサシはピクピクと辛うじて生きており、ほとんど肉塊の状態から元の健常体へと回復していく。


と、同時に!



― キュイイイイイイイイイイイイイイン……



気絶しているタケヒサとムサシ、二人は突如積層型立体魔法陣に覆われた!



「この魔法陣は!」

「転移魔法だ!近くに術者がいるはず!」



アリサとユリウスは辺りを見回し探す。



「あそこ!」

「!?」



アリサの目線の先には――



「ちくしょう、まさか俺達が惨敗するとは!奴ら一体何者だ!?」



少し離れたところに魔法陣に包まれながら毒づく魔術師ヒロシの姿が!



「あいつが術者だ!くそ、逃げられる!」

「なんてこと!あいつ時空魔術師だったのね!シャロンさんの居場所をまだ吐かせてないのに!」



― ヒュン!ヒュン!ヒュン!



召喚勇者タケヒサ、剣聖ムサシ、魔術師ヒロシは、アリサとユリウスの目の前から忽然と姿を消した。


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