070 第二十九話 召喚勇者の戯れ 03 ~狙われた女達
◆リットールの街・南東側
キュイとキリスはシャロンを探してリットールの街・南東側を探していた。
「すみません、こんな感じの女性を見ませんでしたか?」
「栗色のショートヘアにダークグリーンの武闘着を着た美人です。ご存じありませんか?」
二人は、シャロンの似顔絵を差し出しながら訪ねて回った。
「うーん、見ないねぇ?」
「知らないなぁ……」
しかし誰に訊いても良い返事は無かった。
「やはり、ここには来てないんじゃいかなぁ」
「うん、南側にはシャロンもあまり行かないもんね」
キュイとキリスは次の捜索場所に移動することにした。
「ねえ、キュイ……」
「わかってる。誰かが私達のあとを付けているみたいね」
身の危険を感じたキュイとキリスは、もう少し人通り多い場所に移動する事にした。
しかし追跡者は人目を気にすることは全くしないらしい。
「おまえ達、バークパーティーのキュイとキリスだな。一緒に付いてこい」
人の往来のある中、そいつは堂々とキュイとキリスの前に立ち塞がった!
二人は男の顔つきを見て強張った。
明らかに自分達とは違う、少し小柄で黒髪。
そして、ややノッペラとした顔つき……
しかも聖闘衣を纏っている。
歳は二十歳前後くらいか。
「その東洋顔……まさか召喚者!?」
「行方不明のシャロンもあんたの仕業!?」
「おいおい、召喚勇者様に向かってその口の利き方はなんだよ」
「しょ、召喚勇者!?」
「さ、最悪だ……」
召喚勇者と聞いてキュイとキリスの顔色が絶望色に染まった。
なぜなら、召喚勇者に声かけられて、貞操が無事でいられる可能性はほぼ皆無。
やり捨てされるだけならまだ救われた方で、魅了漬けにされれば勇者の付属物、すなわち専属性奴隷にされてしまう。
「で、まあシャロンちゃんだが、確かに俺達が預かっているぜ。おまえ達は狩りの対象なのさ」
「アタイ達が狩りの対象!?」
「どういうこと!?」
「一応は大義名分の元に執行する
「さっきから狩りの対象って……」
「アタイ達をどうするつもりさ!」
「決まっている、二人には俺達の
「そんな、嘘でしょ!?」
「見逃してよ!いえ、見逃して下さい!」
「ダメだ!と言いたいところだが、今回はゲームの一環だからな。おまえ達は三級冒険者だが、バフ効果により一級並の実力と聞いたぞ。なら抗ってみろ」
しかしキュイとキリスは絶望色をより濃くするだけだった。
いくらなんでも一介の冒険者が召喚勇者にかなうはずがない。
「無茶苦茶だ!」
「召喚勇者に勝てるわけないよ!」
「なんだ、抗う気は無しか?なら俺に一撃でも浴びせたら無罪放免の上、シャロンちゃんも解放してやろう。もちろん二人同時にかかってきていいぞ」
ショーゴはニヤニヤしながら二人に一本のか細い〈希望の糸〉を垂らした。
思わず顔を見合わすキュイとキリス。二人の絶望色が僅かに柔らんだ。
キュイもキリスもバークの元に来てから随分と力を上げた。
しかも今はバークの傘の元。アルティメット状態ではないが、それでもそこいらの冒険者では歯が立たないレベルの強さはある。
たった一撃与えるだけでいいのなら……
キュイとキリスの心に火が付いた!
「一撃でいいのね!?」
「それくらいなら……キュイ、やろう!」
キュイとキリスはショーゴの垂らした糸に釣られ承諾。場所を近くの広場に移した。
「それではお嬢ちゃん達、いつでもかかって来いよ」
「舐めやがって……キリス、最初から全力で行くよ!」
「わかった!絶対に一撃入れてシャロンを助けよう!」
― ゴゴゴゴゴゴゴ……
キュイとキリスの魔力が膨れ上がる!
「
「
キリスの大魔法が召喚勇者ショーゴを包み、キュイの戦斧が超絶暴力的にショーゴを襲う!
― ズゴオオオオオオオオン!ゴワアアアアアアアアアア!
― ドッゴオオオオオオオオオオオオオオン!
「むおっ!?」
その迫力に気圧されるショーゴ!
はたして、その結果は……
……
…………
……
…
「ショーゴさまぁ~♡」
「お情けを頂戴ませ~♡」
蕩けた雌顔を晒し、召喚勇者ショーゴに身体を絡める戦士キュイと魔術師キリス――
二人はショーゴの
「へへへ、こんな簡単に腕のたつ美女をゲットできるとはな。俺も結構運が強いじゃないか。さて次はバークってやつか」
召喚勇者ショーゴは、キュイとキリスを両脇に侍らせ、バークが捜索しているエリアへ向かった。
*
◆リットールの街・西区上空
アリサはリットールの街・西側を捜索していた。
今は人々に聞いて回った後で、続いて空からシャロンを探している。
遥か遠くには、同じくユリウスが空から捜索している姿があった。彼も飛空魔法を使えるようだ。
「どこにも居ない……やはりここじゃないみたいね……ん?えっ!?」
それは“ピキューン♪ピキューン♪”と、アリサの魔導通信機が鳴ったのとほぼ同時だった。
― ガラガラドッシャーン!
何か異様な気配を感じた途端、アリサの頭上からいきなり落雷が!?
「きゃあああああああ!」
― ドシャッ!
一瞬、魔導通信機に気を取られたせいでアリサは反応が遅れ、落雷を直撃!
雷圧に押され、地上の西区再開発地域に叩き落とされた。
「いたたたたたた、一体なんなのよ、もう!」
ムクリと起き上がり、着ている服をパンパンと叩く。
そして金切り声を上げた!
「ああ!?落雷のせいでポンチョがズタボロに!お気に入りだったのに!」
ポンチョをお釈迦にされ、アリサの顔色が一瞬絶望色に染まった。
しかしすぐ怒りを露にして古い建物に向かって咆えた。
「そこにいるのは分っているわ。さっさと出て来なさい!」
一拍置いて、ノソリと三人の男が建物の影から現れた。
「へえ、俺達の事に気付いていたんだ」
「こいつ
「ユキマサの言った通り、只者じゃないみたいだな」
現れたのは黒髪に東洋顔の男達。
召喚勇者タケヒサと仲間の召喚者二人。
「俺達は……はうっ!?」
― ダクンッ
アリサの容姿を見た瞬間、タケヒサの胸が大きく跳ねあがった!
「タケヒサ、どうかしたか?」
「あいつを見た途端、なんだか急に胸が……???」
「そりゃひと目惚れだぜ。結構純情なとこあるじゃねーか」
仲間の二人にから揶揄われながら、タケヒサ達はアリサと対峙した。
「俺の名は召喚勇者タケヒサ。こいつらは仲間の魔術師ヒロシと剣聖ムサシだ」
「勇者法に基づき、おまえを我々の付属物とする。【人間アリサ】はこれで終了だ」
「大人しく従うか、それとも一戦交えるか、好きな方を選ぶがいい」
ニチャリと嫌らしい笑みを浮かべ、三人はアリサを威圧する!
タケヒサ達は、いくらアリサが強いとはいえ、自分達が名乗りを上げた時点で膝をつき、必死で慈悲を乞うだろうとタカを括っていたのだが……
「シャロンさんはあなた達の手の中なのかしら?」
アリサは全く動ぜず、逆に挑発的な眼差しでシャロンの事を問い詰める。
「そうだ、シャロンは俺の仲間が預かっている」
「なら話は早いわ、あなた達を半殺しにして居場所を吐かせれば即解決ね」
これまでアリサは、この国の治安組織・公安組織に目を付けられないよう、一線を超えた行動をしないようにしてきた。
しかし事はシャロンに関わる重大な事案だ。もう保身に拘っている場合ではない。
腹を括る時が来たのだ!
「
― キュイイイイイイイイイイイイイイン……
アリサは聖剣を握り、白銀の鎧を身に纏った。
そして三人に向かって突撃!
「はあああああああああああああ!!!」
その結果は……
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