068 第二十九話 召喚勇者の戯れ 01 ~消えたシャロン~
― キンキンキンッ! ガキンッ! ズバッ!
「ケンツさん、実にいい感じです!今なら素の力で一級下位くらいの実力はありますよ!」
「へへへ、じゃあ身体強化を取り入れれば、瞬間的に特級下位くらいに届きそうだな」
あれから七日が過ぎ、ガンツフィールド内での総特訓時間は1000時間を超えていた。
このうちアリサ、ユリウス、ミヤビを相手にした特訓は300時間くらいか。
流石に1000時間まるまる付き合って貰う訳にはいかねえし必要もねえ。
それにガンツフィールドの弊害に巻き込むわけにはいかないからな(時間の流れが違うため、ほんの僅かだが老けてしまう)。
「じゃあ続いてあれ行ってみましょうか」
「おう、あれか!」
俺はアリサとの地稽古を一旦切り上げた。
そして呼吸を整え精神統一……
「
― ビシンッ!ビュクッ!
一瞬全身の筋肉が律動し、直後に力が膨れ上がる!
1.25倍、1.5倍、1.75倍、2..0倍、2.25倍…………3.5倍、3.75倍、4.0倍!
「よし、身体強化4倍に到達だぜ!」
「ケンツ、もう少し上げられそうか?」
「やってみる……4.01倍、4.02倍……4.20倍、4.25倍……ぐぐっ、この辺が限界みたいだぜ!」
これ以上に倍率を上げれば確実に身体がダメージを受けて、戦うどころではなくなりそうだ。
「いいぞケンツ、上出来だ!暫く4.25倍を維持して見ろ!アリサさん、頼んだ!」
「任せて!さあケンツさん、その状態で私と勝負よ!
この特訓が始まって以来、初めてアリサが身体強化を使い俺に剣を向けた!
しかし、こっちは限界の4.25倍だというのに、向うは1.2倍かよ。
やっぱり元の実力差が大きいんだな。
「はああああああああああああああ!!!」
「やああああああああああああああ!!!」
― ガキンッ!
そして約5分後……
「ぶはっ、ちくしょう限界だ!」
5分を超え始めてから、俺の身体が悲鳴をあげ始めた。
アリサとユリウスから聞かされてはいたが、倍率が上がれば上がる程、連続稼働の戦闘時間は短くなるらしい。
俺の
もちろん、もっと低倍率時なら連続稼働時間はぐんと伸びる。
この辺がバークのバフとは違うな。あいつのバフは身体に負荷を感じた事がなかった。
「でもケンツさん、余程の相手でない限り、最大倍率での限界稼働はしないで下さいね」
「
「わかった。でもよう……」
「なんだ?」
「どうかしました?」
「最大倍率連続稼働で戦わざるを得ない強敵にはどうするんだ?」
「そんなの決まっているだろう。気合だ気合!」
「根性です!根性があれば何とかなりますよ!」
訊いた俺が……以下略。
だがこれで
これも元々武闘家の呼吸法をマスターしていたおかげだな。そうでなきゃ、こんなにすぐマスター出来るなんて絶対に無理だった。
呼吸法を叩き込んでくれたシャロンにはホント感謝だぜ。
縮地の方も目途はたっているし、次はいよいよ対バーク戦のキモとなる戦技のマスターを……
「ん?」
誰かがこっちに向かって来る姿が目に付いた。いったい誰だ?
フィールド内と外とでは時間差10倍なので非常にゆっくりと動いている。
「あれってキリスさんじゃないですか?」
「本当だ。あんなに焦った顔をして何かあったのか?」
まさかバークの野郎、今さら俺の挑戦を反故にするとか言い出して、キリスを使いに出したんじゃ無いだろうな?
なんだか嫌な予感がするぜ……
俺はガンツフィールドを解いてキリスを待った。
スローモーションだったキリスが急に駈足に。
「はぁ、はぁ……ケンツ……はぁ、はぁ……」
余程慌てて来たのだろう、キリスは俺達の前に来るなり両手で膝を押さえ肩で息をしている。
「おいおい、大丈夫かよ。とりあえず回復させてやるぜ」
俺は数少ないモノにできた魔法、ヒールを使ってみた!
キラキラと銀色の粒子が舞い、問題無くキリスを回復させた。
「え、なんでケンツがヒールを!?」
キリスは俺がヒールを使った事に驚いた。
ふむ、本家アリサやシャロンのヒールと比べりゃ全然弱いが、この程度の疲労回復なら余裕だな。
「へー、ケンツさんもやるじゃない。それなら十分いけますね!」
アリサは満足そうに目を細める。
「ふふふアリサよ、もっと褒めてくれてもいいんだぜ!」
俺は上機嫌になってドヤ顔を晒しかける。
おっと、こんな事をしている場合じゃなかったな。
「どうしたキリス、まさか挑戦状の破棄を言い渡しに来たんじゃあるめーな?」
割とガチに訊いて見た。
キリスは俺の問いには答えず、周りを見渡した。
そして見る見る顔色が青くなっていく。
「そんな、絶対にここだと思ったのに……ケンツ、シャロンは?シャロンはここには来なかった?」
なに?
キリスはシャロンを探して慌てていたのか?
バーク達に何かあったのか、それともシャロンの身に何かあったのか!?
「今日、シャロンは来てねーぜ?」
「じゃあ昨日は?昨日はシャロン来たでしょ!?」
キリスは泣きそうな顔で俺に縋りつく。
いったい何だってんだ?
シャロンの身になにかあったのか!?
「シャロンは昨日も来ていない。おいキリス、いったい何があったんだ?」
なんだ?とてつもなく悪い予感がするぜ……
「昨日、バークさんの特訓が早く終わったから、シャロンだけケンツに会いに行ったの。でも今日になってもシャロンは帰って来なくて……」
「なんだって!?早く終わったって何時頃の話だ!」
「午後二時くらい……」
「!?」
24時間以上前だと!?
「おまえら、シャロンと喧嘩でもしたのか!?」
「してないよ!アタイ達、シャロンとはずっと仲良しだもん!ねえ、シャロンは本当にここじゃないの?隠してるとかじゃなくて?」
「隠してねーよ!シャロンはここには居ない!」
それでもキリスは懐疑的な目で俺の顔色を探る。
どうも俺がシャロンをかくまっているのではと疑っているみたいだな。
「キリスさん、ケンツさんの言う事は本当ですよ。シャロンさんはここには来ていません」
「そんな、じゃあシャロンは何処へ……」
アリサからもシャロンは来ていないと言われて、キリスはガックリと項垂れてしまった。
おい、何故俺の言葉は疑って、アリサの言葉はすぐ信じた?
「まさか召喚勇者の魔の手に堕ちたんじゃ……シャロンさん、凄い美人だから……」
アリサは顔をこわばらせながら呟いた。
召喚勇者!?
そう言えばリットールには三人の召喚勇者が集まっていたんだっけ。
いやいや…………まさかそんな…………本当に!?
「おーい、ケンツさん!」
「ケンツ!」
キリスに続き、今度はバークとキュイまでもがやってきた。
「キリスから聞いたぜ、シャロンがいなくなっただと!?」
バークぅ!テメーが付いていながら何やってんだ!
「すまないケンツさん、まだ日が高かったこともあって油断してしまった。一人で行かせるべきじゃなかった!本当にすまない!」
くっ、いなくなったのは午後2時だったか。
それも俺のところに来ようとして……
「わかった。とにかく手分けして探そう。だがキュイとキリスは絶対に一人にはなるなよ!まだ日は高いが召喚勇者と遭遇する可能性はゼロじゃない!」
俺はキュイとキリスに釘を刺す。
「アリサさんとミヤビさんも一人きりにはならないで下さい!」
バークもアリサとミヤビを気遣ってくれたが――
「私なら大丈夫。召喚勇者なんかに遅れはとらないわ!」
「私も大丈夫です。もし魅了しようとしてきたら、逆に魅了して差し上げます!」
え、ミヤビって魅了使えるのか!?マジで!?
そういやこいつラミア族だっけ。
レッサーラミアの上位互換みたいな種族だし、なら魅了で対抗できるかも知れないな。
アリサは……勇者の股間を平気で粉砕してフルボッコにするようなやつだ、心配は無用か。
俺達は一応冒険者ギルドでケイトに報告したあと、担当区域を決めてそれぞれ捜索に散った。
警察にはすでに通報済みだそうだ。しかし動いてくれる様子は無いとの事。
どこに行ったんだシャロン、どうか無事でいてくれ!
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