065 第二十六話 トレーニング 02


そんなこんなで何度も死にかけた剣の特訓は一旦お休み。



「休むのは甘えです!」

「ケンツ、楽しようとするな!」



脳筋コンビアリサとユリウスはワーワー言ってるが無視。


てか、休ませろ。


それに楽するのが目的じゃねーし。次は魔法の練習に入るんだよ。


とは言え、無限魔法貯蔵ソーサリーストックに蓄えられている魔法の使用は、ルール違反になるので一切使えない。借り物の力はNGだ。


そもそも相手に対しての魔法の直接使用は、俺がエントリーしている【魔法剣の部】では原則禁止でもある。(自分に対しての限定的な支援魔法と、魔法を剣に乗せて斬撃と共に放つのは許されている)


そして俺は魔法剣士であって魔術師ではない。


当然自前の魔法など使えるわけがないし持ってもいない。


これまではな……



「だが今の俺は違うぜ!さあ刮目せよ! 俺の魔法、必殺クリエイトウォーター飲料水生成!」



― チョロチョロ……



物凄くか細い量だが、手の平から2秒ほど水が沸きだした!


俺の魔法に気が付いたアリサが、不思議そうに訊いてきた。



「あれ?ケンツさん、それソーサリーストックじゃないですよね?」


「ふふふ、アリサよ。これは俺自身の魔法だぜ。驚いたか!」


「驚くと言うか、本当に『あれ?』って程度ですけど……もしかして手品?」


「手品じゃねぇ、ちゃんとした魔法だぜ!」



バンバラから譲り受けたソーサリーストックだが、実は取り込んだ魔法を使うと魔法を放つ感覚を学習できるのだ。


だからと言って、取り込んだ魔法を自分のスキルとして使えるようになれるかと言えば、それはもちろん無理で、あくまで感覚を学習するだけだ。


しかしそれを応用すれば、スケールダウンした魔法のマスターに大いに役立てる事ができる。


もちろんマスターしようとする魔法との相性にもよる。やはり魔法は相性・適性による差が大きい。


生粋の魔術師のようにはいかねぇ。


例えば――


学習元のアリサの場合、クリエイトウォーター飲料水生成は、その気になれば放水車レベルの量を放出できる。


しかし俺の場合はせいぜい30cc程度しか水を生成することができねえ。


だがしかし!たった30ccでも、クリエイトウォーター飲料水生成を使えたことには違いねえ!


俺にとっちゃ大躍進だ!



「次はボルト生活電撃!」



― パチッ!



俺の指先でバチバチと静電気レベルの電撃が走った。


これを身体のツボを押しながら放てば、肩こりや腰痛によく効くはずだぜ!たぶん。



「えっと、そのチョチョロした水と静電気みたいなチャチな雷は、武闘会で何か役に立つんですか?」


「いや全く」


「はい?」



見りゃわかるだろ。こんなの役立つわけないぜ。


今はストックされた魔法がどの程度学習できて、どの程度マスターできるか再チェック中なんだよ。


だが実際のところ、ほとんどのモノは使い物にならねぇ。まあ最初から過度な期待はしていないけどな。


多少使えるのはヒール通常回復くらいなものか。しかしそれもアリサのヒール通常回復と比べれば、三分の一以下の効果しかねぇ。



「そうだ!ユリウスとミヤビは何かいい魔法持ってないかな」



俺はユリウスとミヤビにも頼んで魔法をストックさせて貰った。


しかし俺が会得して武闘大会で活用できる魔法は何も無かった。


そもそもスケールダウンした魔法そのものが会得出来ねえ。


こいつら役にたたねえな。


だが彼らのストックされた魔法は、かなり後になって役立つことになる。





「ねえケンツさん、一つ良い方法があるんですけど……」



黙々と俺の魔法を見ていたアリサだったが、何か思いついたのか声を掛けてきた。


話を聞いてみると…………むむっ!?



「アリサ、それは俺も思いついた戦技だ。やはり実現可能なんだな!?」


「私からすればかなりスケールダウンしたものになりますが可能です。それでも確実にバークさんと良い勝負になると思いますよ。鍛え方次第では圧倒できるかも」



アリサが話した内容は、俺が考えた対バーク戦でキモとなる戦技そのものだった。


武闘大会のレギュレーション的にも問題無いはず。


まさかアリサが既に活用していたとはな。


あー、だからコイツこんなに強かったのか。



「え?その戦技はまだ連邦に来てから使った事はありませんよ」



素であの強さかよ。こいつ、やっぱりおかしいぜ……



「ふふふ、でもケンツさん。あなたは実に運がいい。先駆者として私がミッチリと教えて差し上げましょう!」



おお、ようやく根性論・精神論以外の技術的なサポートが受けられる!


そういうの待ってたんだよ、宜しくたのむぜ!


俺はわくわくして期待した。


ところがそこにユリウスがひょいと顔を出す。



「ケンツ、その戦技なら俺も多少心得がある。協力してやれるぜ」



なにぃ!?ユリウス、おまえも使えるのかよ!?


この戦技を思いついて有頂天になっていたのに、スラヴ王国では珍しくもない戦技だったのか?


なんだか恥ずかしくなって来たんだけど。


マジで王国の冒険者ってのはイロイロとぶっ飛んでるぜ。


…………はっ、まさかミヤビも?



「私は見学していますね」



ミヤビは元の青髪の美少女姿に戻り休憩。


流石にミヤビは使えないか。そりゃそうだよな。



「じゃあケンツさん、まずはその戦技を取り入れる事ができるように、今まで以上に徹底的に身体をイジメ抜いて身体キャパを広げましょう!」


「喜べケンツ、これまでの倍……いや三倍の力で特訓するからな!」



この脳筋コンビ!結局やることは今までと同じかよ!


しかもなんでそんなに嬉しそうなんだ!


その“にちゃぁ”って感じの笑みをやめろ!



ディメンション報酬の時アーマー空鎧装デフォイメント展開装着!」


「いでよ、ラーズソード滅ぼしの剣!」



― シュイイイイイイイイイイイイン!



アリサは白銀の騎士へと姿を変え、ユリウスは見る者を圧倒する剣を手にした。


こいつらガチの装備を纏いやがった!


俺の過激で過酷な特訓は、どうやら地獄の二番底にステージが移動したようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る