063 第二十五話 ケンツ無双!狼狽する冒険者達 02
― にちゃぁ……
俺は狼狽している冒険者達に、糸を引くような粘っこいスマイルを送った。
― ぞおおおおおおおお……
そのスマイルに、冒険者共は心底震えあがったようだ。
「いやー、この一年、ほんっっっと辛かったぜ。そりゃあ俺にだって非はあったし、イジメに遭うのも当然だ。でもなぁ、流石にやり過ぎだろう。違うか?」
「いやあの」
「そのあの」
「あのあの」
俺は冒険者達一人一人の前をメンチ切りながらジックリと回る。
「はぁ、暫く仕事は回して貰えねーわ、愛するシャロンとは離れ離れになるわ、金なくて浮浪者どもと残飯漁りで牽制しあうわ、安宿にも泊まれなくなって寒風の公園で寝泊まりするわ、酔っ払いにゲロと小便掛けられるわ、テメーらには毎日殺されそうになるわ、実際一回殺されるわ、散々だったぜ。 で、この落とし前、どうやって着けるつもりなんだ?んん?」
ネチッコイ愚痴&説教モード発動。ほらほらどうした、なんとか言ってみろや。
すると三人の冒険者が俺の前に出て謝罪しはじめた。
たしかこいつ等は三級下位の剣士だったか。
「ケンツ済まなかった!」
「反省している、本当だ!」
「おまえの気のすむように煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」
へー、ちゃんと謝罪が出来るんじゃねーか。
まあ俺も鬼じゃねーし、全殺しのツモリだったけど半殺しで勘弁してやるよ。それで
その後は……その、良かったらお友達になってあげてもいいよ?
なんて思ってたら――
「スキあり!」
「調子に乗ってんじゃねーぞケンツ!」
「誰がゴミムシに頭を下げるもんかよ!」
「「「食らえ、必殺三位一体の剣!」」」
こいつらいきなり抜剣してかかって来やがった!
へっ!そんなことだろうと思ってたよ、これで完全に正当防衛成立だぁ!
― ブオッ! ビシュッ! ゴウッ!
剣の腹で襲って来るところを見ると、流石に命まで取るツモリは無いようだな。
それでも剣士達の斬撃は鋭く、マトモに食らえば骨の二三本は持って行かれる!
食らえばだけど。
「
― ドスッ! ドスッ! ズムッ!
「ぼあぁっ!」
「うぶぅっ!」
「ぐほぉっ!」
俺は奴らご自慢の“三位一体の剣”とやらを易々躱し、それぞれのドテッ腹に
奴らはその場に“くの字”になってあっけなく沈んだ。
しかし、俺に抵抗するのはこの三人だけでは無かった!
「バカめケンツ、後ろがスキだらけだぜ!」
「なに!?」
「
「
「
背後から魔術師三人組が魔法を放った!これは流石に避けられない!
― ビュオウ!
― ゴオオウ!
― バビュウ!
そして奴らの魔法は全弾直撃……
否、直撃ならず!――
「へ、避けられなけりゃ全部受けるだけのことだぜ!」
― ポンッ! ポンッ! シュポンッ!
「何だ!?」
「俺達の魔法が消えた!?」
「いったい何がおきたんだ!?」
奴らの魔法は、全て
こいつ等、ギルド内で魔法ぶっ放すとか頭おかしいだろう。暴挙にも程があるぜ。
でもこれはあれだな、長いあいだ俺をイジメて楽しんでいた感覚が抜けきれないんだ。
『ケンツには何をしてもかまわない』
そういうイジメ特有の感性が根付いちまったんだな。忌々しくも嘆かわしいぜ。
「テメーらの俺に対する考えはよーく理解した。そしてその考えを直させるためには、やはり俺の味わった苦痛を体験させんとイカンようだな!」
剣士達と魔術師達の攻撃を軽くあしらったことで、冒険者達は今度こそ本気で俺に畏怖したようだ。
そして過去に自分達が俺にしたことを改めて思い返し、彼らは震えあがり激しく後悔した。
「さーて、それじゃテメーらの処遇だが……」
「けけけ、ケンツ聞いてくれ!」
「ぜぜぜ、全部誤解だったんだ!」
「ははは、話せばわかる!」
冒険者達は必死で言い訳しようとしていたが当然無視。
「さっきバークも言っていたよなぁ?」
「「「「 ななな、何をですか!? 」」」」
「この世界定番の言葉【もう遅い】さ。何を言おうともう遅いわ!テメーらはキッチリと俺の【イジメ返しリスト】に載ってるからな。十倍返しで徹底的にやってやるぜ!さあ、いよいよ【イジメ返しショー】の始まりだぁ!」
「「「「 ひいいいいいいいいいいい!!!! 」」」」
ふははははははははははは!
今日、先に手を出したのはテメーらだ!大義は完全に我にあり!
ついにこのクソッタレ冒険者共に復讐する時が来たぜ!!
積年の恨みを今ここで!
さあ、
― パシッ……ピシピシッ……
身体の周囲をバチバチと放電させ、アリサ由来の
「ケンツさん、そこまでです。ギルド内での暴力沙汰はこれ以上認められません!」
凛とした声でケイトが割って入った。
「ちっ、ケイトか。テメーらケイトの顔に免じて今日のところはこれで引いてやるぜ。だが、これで助かったと思うなよ?俺はテメーら以上に陰湿だぜ。
『今ここで素直にやられておけばよかった』
そう思うこと間違い無しだ。せいぜい楽しみにして待っているんだな!
はーっはっはっはっ!」
俺は大悪党のような高笑いをしてから冒険者達をおちょくるのをやめた。
ああ気分がいい、スカッとしたぜ!
「ひいいいいいいいい、あいつ悪魔かよ!」
「おいケイト、ケンツをなんとかしてくれ!」
「ギルド職員ならケンツを拘束しろ!」
冒険者達は、今度はケイトに縋った。
しかしケイトは……
「何を言っているのです?冒険者同士の問題は、ギルド内での暴力沙汰を除いてギルドは基本不介入です。自分達で解決して下さい。それにあなた達、私の目を盗んで散々ケンツさんをイジメていたでしょう?そのあなた達が何を今更……」
ケイトは氷の眼差しで冒険者達を侮蔑した。
― ゾクッ
こんな冷たい目をしたケイトは初めて見る。俺でさえ一瞬足が竦みそうになったぜ。
冒険者達はそれならと、今度は周りの職員達に縋り始めた。
職員達は困った顔をしていたが、そのうち何人かはベラの元に向かった。
「おいベラ、これどうするんだよ!」
「おまえの言う通りに今までケンツを無視していたが、この流れはかなりマズイぞ」
「こんなこと出張中のギルド長に知れたら俺達どうなるんだよ!」
「落ち着きなさい。
職員達はベラと何やら揉めた後、説き伏せられたのか各自の持ち場に戻って行った。
その後は冒険者達の言葉に一切無視を決め込んだ。
「ベラ……あいつは一体?」
なんで職員達は、たかが受付嬢のベラに相談するんだ?
いやそれよりも、なんか妙な視線を感じるぜ。今度は一体なんだ?
気になり振り返れば、そこにはドン引きしているアリサ、ユリウス、ミヤビの姿が。
「さすがケンツさんですね、器量・度量の狭さにビックリです。いくら相手が先に手を出したとは言え、あれでは完全に悪役ですよ」
「ケンツ、ああいうのはどうかと思うぞ。ここで彼らを許せばギルド内での株も一気に上がっただろうに。それを【イジメ返しリスト】って、おまえ……」
「バンバラ様は人選を誤った。リットールの運命ももはやこれまで……」
なんだよ、そんな目で見なくてもいいじゃん!
俺だって皆と仲良くしてもよかったんだぜ?
その、ぶっちゃけ友達だって欲しかったし……
でもこいつらさっきまで俺を無視してたじゃん。
しまいにゃ『亡き者に……』とか言ってたじゃん。
そんな奴らを許すなんて、俺の小さくて可愛らしい器量・度量じゃ絶対無理だって!
俺は聖人君子でもないし、正義の味方でもないんだからなっ!
「どいつもこいつも俺の事を理解してねぇ!ふん!」
俺はちょっぴり拗ねてしまった。
でもまあ、冒険者どもの事はもういい。バークとの勝負がつくまではお預けだ。
これからは武闘会に向かって心と技を研ぎ澄ますぜ!
ところがそう思った矢先。
「そうだ!私も出てみようかな♪」
「アリサさんが出るなら俺も出るか。面白そうだし」
なんとアリサとユリウスが武闘大会参加に手を上げた!
いや、なに考えてんのおまえら?
俺のこと応援してくれるんじゃないの!?
「だって、武闘会に参加したら目立つでしょ?そしたらユーシスの目に確実止まるはずだし!」
「俺も同じような理由だな」
「ちょっと待てい!おまえらが出たらバークと当たる前に俺が終わりそうじゃん!」
こいつら確実に人外級だろ、いくら何でも分が悪いぜ!
「大丈夫、ケンツさんやバークさんと当たる時は棄権するから」
「そうそう、俺達の目的は仲間探しであって優勝とかじゃないし」
本当か?本当だな!?俺と当たったら絶対に棄権しろよ!
俺は何度も何度もしつこいくらい念押しした。
なんかスゲー不安だぜ……
だけど、いよいよこれでバークとの決戦が動き出した。
今この瞬間から気持ちを入れ替えて、打倒バークに向けてさらなる精進するぜ!
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