062 第二十五話 ケンツ無双!狼狽する冒険者達 01


「バーク、武闘会にて勝負だ!俺の全力を受けてみやがれ!」


「僕は負けませんよ。生半可な覚悟だったら只ではすまさない!」



バチバチと火花を散らした後、バーク達はスタンピードの件で話があるからと奥の部屋に通されて行った。


もちろんシャロンも一緒にだ。


シャロンは一瞬こっちを見て微笑んだあと、辛そうな顔をしながらバーク達の後に続いた。


シャロン、もう少しだけ待っていてくれ。必ず迎えに行くからな!





「ケンツさん、バシッと決めましたね!かっこ好かったですよ!」



バーク達の姿が完全に見えなくなってから、アリサ達三人が激励に集まってきた。



「ああ……そうだな……」


「あれ?ケンツさん、なんだか元気ないですね。どうしたんです?」



アリサは意外そうな顔をして覗き込む。


ははは、こちとら結構凹んでんだよ。



「いやな、本当はあそこまで強気で挑戦状を叩きつけるつもりじゃなかったんだ」


「へ?なんでまた?戦う前にハッタリをかますのは常套でしょう?」


「格下だと思わせておいて、当日油断させて本気になる前にフルボッコにしてやろうかと……あー、失敗した!なんで俺はあんな強気に――


『俺にシャロンを奪われたくなければ全力でかかって来い!』


――なんて言っちまったんだ!失敗した!失敗した!失敗した!本当に失敗した!あいつ絶対最初から全力で来るぞ!こえええええええ……」



バークのつらを見た瞬間に全身にアドレナリンが駆け巡って、細かい策とか全て頭から吹き飛んじまったんだよっ!


何やってんだ、俺は!



「せ、せこい……」

「ケンツ、おまえ……」

「こんな人に邪竜退治を任せて本当に大丈夫かしら……」



アリサ、ユリウス、ミヤビ、三者三様の呆れ顔。



「だー!おまえら、うるせーぞ!遥か格上の相手に挑む俺の身にもなってくれ!ちくしょう、もうこうなったら正攻法で挑むしかねえ!」


「当たり前です!」

「何を今さら……」

「シャロンさん、ケンツさんはダメかもしれない……」




俺が頭を抱えて人生最大級の後悔をしていると、何やら周囲がざわめきだした。



「おい、ケンツのヤツは本当に〈故意による虚位登録〉じゃなかったのかよ?」

「オレ、絶対に故意によるものだと思ってたんだけど……」

「バカ言え、故意に決まっているだろう!」

「そうだ、あいつはギルド長とギルド上層部をうまく丸め込んだ。だから俺達が正義の名のもとに鉄槌をだな……」

「俺も誰かにそう訊いたぞ。だからケンツは故意なんだぞ。奴は嘘を吐いているんだ!」

「でもさっきのバークの様子は嘘を吐いているようには……」

「というか、今さら故意じゃないと言われても困るぜ!」

「真偽はどうあれ、もう故意のままでいいんじゃないかな?」

「俺達、散々なことをケンツにしちまったんだ、どうすんだよこれ!」

「どうするってとりあえず謝るしかないだろう」

「バカか!あのケンツだぞ!器量も小さく、やられたら倍にして返す根に持つ男だ!謝って済むもんか!」

「その根に持つ男が力を付けて……やばいな」

「いや、でももう過去の事じゃねーか。ケンツだって気にしてなんか……」



ギルド内には現在20名ほど冒険者達がいたが、俺とバークとのやり取りを見て全員が俄に困惑している。


そう、事の真偽に関係なく、俺をイジメる大義名分・免罪符が公けに揺らぎ困惑しているのだ。


だが俺に対して心から謝罪しようなんて思っているヤツは恐らく一人もいねえ。


全員が自分に非が無い理由を探そうと必死なのだ。


『自分は悪くない!』という新たな大義名分・免罪符が欲しいだけなのだ。



こいつらほんとゴミだな。


そんなだから、絶頂期の俺からも見下されていたんだぜ。どれ……



「テメーら何を眠たいこと言ってんだ?」


「「「「「ケケケケケケケケ、ケンツ!?」」」」」」


「過去の事?随分と都合のいいことほざいてんじゃねーか。テメーらにとっちゃ過去でも、俺に取っちゃ生々しい“今”だぜ!だいたいイジメ自体はほんの数日前まで続いていただろ!おかげで俺は何度も死にかけたんだ!実際一度死んだんだぞ!」


「ううううう、うるせえケンツ!ちょっと誤解が解けたからって、ちょちょちょ調子に乗ってんじゃねーぞ!テメーなんざ俺の超絶ダイナマイト覇王拳で成敗してやる!オラッ!…………うべっ!?」



激昂する俺に、冒険者が一人煩く罵りながら殴りかけてきたが、



― バゴオオオオオン!



「ぎゃばあああああああああああ!!!!!」



刹那、カウンター一閃!


俺は縮地法を使い、殴りかかってきた冒険者を速攻で張っ倒した!



「なんか言うたか兄ちゃん?」


「ぐおおおお、たった一撃で足腰が立たねえ!?わわわわ悪かった!ああああああ謝る!調子に乗り過ぎました!だだだっだから勘弁してくれ!」



土下座して冒険者は必死で慈悲を求めた。


だがテメーなんかにかける慈悲など持ち合わせてねーんだよ!



「テメーは俺が勘弁すると思うのか?」



俺は殺気をたっぷりと込めて、ニッコリと微笑みながら問うた。



「ひっ!?ははははい!お優しいケンツ様なら勘弁して頂けるかと……」


「ははは、確かに俺はお優しいからな」


「へ、へへへ……じゃあ、オレはこれで……」


「なんて勘弁するわけねーだろ!俺が優しいのはシャロン限定だぜ!」



― ボッコオオオオオオン! ガンッ! ベシャッ!



「おぼおおおおおおおおおお!………ガクリ」



俺は冒険者を蹴り上げた!


蹴り上げられた冒険者は天井まで飛ばされ激突して落下して……そして沈黙した(死んではいない)。



「ひいいいい、ボーンズが!」

「あいつ、三級上位の武闘家だろ!?それが二級とは言え素手のケンツにあんなアッサリと!」

「ひでぇ、土下座して謝ってるのに何の躊躇いもなくやりやがった!」

「クソ、ケンツのくせに、ケンツのくせに、ケンツのくせに生意気なんだよ!」

「任せろ、俺がケンツにお灸をすえてやる! フレイムスプレッド爆炎放射!」



― ゴオオオウウ!



何をトチ狂ったのか、一人の魔術師が爆炎魔法を行使!


炎の柱が一直線に向かって来る!


こいつ、建物の中でなんて無茶しやがる!


しかし残念だったな、今の俺にはそんなチャチな魔法上級爆炎魔法など通じないぜ!



ストライバー絶対障壁!」



― キンッ!キンッ!



俺は無限魔法貯蔵ソーサリーストックからストライバー絶対障壁を発動!


もちろんこれはアリサから取り込んだ魔法だ。


キラキラと金色の粒子が舞い、物理・魔法とも完璧に防ぐ鉄壁の結界が出現する!



―ゴオオウ!バシュン……



そして結界は魔術師冒険者の放った爆炎魔法をいとも容易く完璧に防いだ!


おお、初めてストライバーを使ってみたが中々スゲエじゃねーか!



「そそそ、そんなバカな!俺の最高の爆炎魔法が!?」

「ししし、信じられん!どうしてケンツがこれほど高度な魔法障壁を!?」

「こここ、こうなったらここにいる全員でケンツを亡き者にして……」



誰だ、俺を亡き者にするとか言ったやつ!


そんな事言うやつは【イジメ返しリスト】の一番上に書き加えてやるぜ!



「テメーら、ガタガタうるせーぞ!」



― ガラガラガラドッシャーーーーン!



今度は無限魔法貯蔵ソーサリーストックからギガボルト中級雷撃魔法を発動させて威嚇!


雷がギルド内を荒れ狂い、右往左往する冒険者達!



「うぎゃあああああああああああ!」

「ななな、なんでケンツが雷撃魔法を!?」

「こここ、殺される……俺達ケンツに殺される!」



全くの予想外の雷撃魔法に、冒険者達は狼狽する!


へ、これで多少静かになるだろうぜ。


さあテメーら、楽しい楽しい【イジメ返しショー】の始まりだぁ!



― にちゃぁ……



俺は狼狽している冒険者達に、糸を引くような粘っこいスマイルを送った。


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