061 第二十四話 叩きつけられた挑戦状 02
俺達【
こいつのおかげで俺達は昇格し、地位と名誉と富を手にいれた。
こいつのせいで俺達はド底辺に叩き落とされた。
バークを雇った時にバフが使える事を言ってくれれば、こんな状況にはなっていなかったハズだ!
なんでこんな俺達を貶めるような事を……
パーティーから追放した仕返し?いや、それはもっと後か。
それにこいつは俺が追放を言い渡す前から、冒険者への転向を目論んでいたらしいからな。
「それは……俺も申し訳ない事をしたと思うし、ギルドにも冒険者達にもケンツさん達に非は無い事を訴えたんだ。でも、ギルド長とケイトさん以外、誰も耳を貸そうとしなかったんだ!それでもギルド長が理解してくれたから、大事にはならない……そう思っていたんだ……」
さっきまでの強気な態度が嘘のように消えさり、バークの語尾は弱くなる。
言っている事も俺が訊いている事じゃない。
しかしそのまま話を続けることにした。
「だが、冒険者達は俺達を
「わからない、わからないんだ……まるで、何者かの意思が介入されたかのようにギルド職員も冒険者達もケンツさん達の事を……」
何が分からないだ!自分の発言には責任を持てよ!
おかげで俺はこの一年……
いや、当時こいつは確かに弁明してくれていたよな。
じゃあなんでだ?
「そうかよ。じゃあそこはまあいい。いいから俺の訊いた事に答えてくれ」
なぜバークはバフ使いであることを黙っていた?
「ギルドに説明した通りさ。僕自身、最初はバフを発動していたことに気が付かなかったんだ。その後、気が付いた時もバフの効果は決して強くなかった。こんな微々たるバフなら黙っていても問題無いと思った。
だけどそれから僕のバフは急速にパワーアップして、気が付いたときにはファーストスターは大躍進!ケンツさんはアドレア連邦認定勇者最有力候補にまでのし上がっていた!」
「だったら……いや、だとしても!遅くなってからでも言えばよかったじゃねーか!」
「言おうとしたさ!でもその頃のケンツさんは、僕のシャロンさんに対する秘めた想いに気が付いて、何を話そうとしても邪険にして聞く耳を持たなかったじゃないか!だから僕は諦めてパーティーを抜けて冒険者になる決意をしたんだ。“とにかくケンツさんから離れてバフの効果を止めないと今に大変な事になる!”そう思ったんだ!」
なんだと?
バークが冒険者に転向しようと思った理由が、そんなことだったとは想像すらしなかったぜ。
まさかバークがそんな悩みを抱えていたとは……
「もちろんシャロンさんへの思いを断ち切る為でもある!それにパーティーを抜けると言えば話くらい聞いて貰えると思ったんだ!でも抜ける前にケンツさんから追放を食らってしまって話す機会を失ってしまった。仕方なく僕は去り際にキュイとキリスに事情を話して……それはケンツさんにも伝わったと思うけど……けどケンツさんは信じなかった。その結果、ファーストスターとケンツさんは……」
バークは顔をクシャクシャにして苦渋の表情を浮かべていた。
なんだよ、こんな歯車の合わねえ話だったのかよ。
くだらねえ、バークにも俺自身にもくだらねえ、くだらなすぎて反吐が出るぜ。
じゃあ俺が聞く耳を持っていれば、事態は全く変わっていたってのか?
なんだよそれ……
いや待て、そうだとしてもだ。
「なあバーク、だったらテメーがバフを掛けるのをやめれば良かったんじゃねーのか?」
「やめようとしたさ!でも当時の僕は、まだこのバフを自由にコントロールできなかったんだ。僕のバフは仲間に対してはバフ効果がダダ洩れになってしまう。今だって完全にはコントロール出来てないんだ。この事もギルドにはちゃんと報告してある!ケンツさんの耳にも入っていたはずだ!」
ああ、たしかそうだったな。そうだったよ。査問会でそう説明された。
だからギルド長やギルド上層部は俺を分相応の降格処分にしただけだったんだ。
本当に悪質で違法性有りと判決されていたら、今頃俺は冒険者資格を剥奪されていたはずだからな。
「だからケンツさんには非は無い!だけど僕はその後、シャロンさんがDVを受けていると聞いて……居ても立ってもいられなくなって……自分に原因があるのにケンツさんはもうダメだと思ってしまったんだ……」
バークは悔しそうに、申し訳なさそうに、悲しそうに、目に涙を浮かべていた。
そうか、こいつも良心の呵責にいっぱいいっぱいだったんだな。
腹にいろいろ溜めすぎたんだ。だからこんなに堰を切ったように話したんだろう。
もしかしたら懺悔のつもりなのかもしれねーな。
まったく、やれやれだぜ。
やり切れない気持ちは残っちゃいるが、それでも俺はスッキリしたぜ……
なんて嘘だぜ!
俺はそんなに出来た人間じゃねーんだよ!
「おらバーク、歯を食いしばりやがれぇぇぇええええええ!!!」
― バッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
不意打ち気味に、俺の渾身の拳がバークの右頬を直撃!
「ぐわっ!」
― ドカッ
バークは勢いで床に叩きつけられた!
「きゃあああああああああ!!!!」
「バーク、しっかりして!!!!!」
キュイとキリスが慌ててすっ飛んで来て心配する。
シャロンは……シャロンは唇を噛みしめ感情を殺し、必死で成り行きを見守っている。
「ふん、これでバフの件はチャラにしてやるぜ!ギルドの査問会におけるテメーの説明にも、何の落ち度も無かったことを認めてやる!」
「うぐぅ……ケンツさん……すまなかった……」
バークはよろめきながら立ち上がった。
バーク、テメーは当時冒険者じゃなく臨時雇用扱いのポーターだったからな。だからギルドに所属していたわけじゃない。
テメーの起こした問題……いや、俺達の起こした問題は、リーダーである俺の責任だ。
だから皆から俺が責められるのはやはり仕方ねぇ。ムカつくがバフの件でテメーに責任は問えねーよ。
だからバフの件はこれでお終いだ、もう区切りを付ける!
これでここからは純粋にシャロンの為だけに戦えるぜ。混じりっ
「ではバーク、俺は改めてテメーに挑戦状を叩きつける!舞台は武闘大会の場だ!そこで決着を付けるぞ!俺にシャロンを奪われたくなければ全力でかかって来い!」
俺はバークに向かって挑戦状を叩きつけた!
「わかった。その挑戦を謹んでお受けする!シャロンさんを想う気持ちと覚悟を僕に見せてくれ!僕にぶつけてみろ!僕は絶対に負けないぞ!」
もちろんバークは挑戦状を受けた!
だがその意気込みは俺の度量を計ろうかのような言い回しだ。
何が見せてくれだ!何がぶつけてみろだ!本当にムカつく野郎だぜ!しかもそんな真っすぐな瞳を俺に向けるんじゃねぇ!
気に入らねぇ、やっぱりテメーは気に入らねえ!
バーク、故意でなかったとしてもテメーのしたことはマッチポンプみたいなもんだ。
それをわかっていて、なお俺の挑戦を受けるんだな?
負い目を感じているにも関わらず挑戦を受けるんだな?
それほどシャロンを愛して放したくないんだな?
だったら上等だ!
こっちはテメーがシャロンと無理やり関係を持った件だけでも、すでに怒り心頭なんだ!
必ずテメーをぶちのめして、必ずシャロンを奪いかえしてやるから覚悟しろ!
「おら、一緒に来い!受付カウンターでエントリーするぞ!」
俺とバークは受付のケイトの前で、揃って武闘大会にエントリーした。
こうして俺とバークは正式に〈
だが俺達の決闘に水を差す者がいるとは、この時は全く思っていなかった。
*
「へ、あいつら何を盛り上がっていやがるんだ」
「残念だが武闘大会前にテメー達が終わる事は決定済みなのさ」
バロンとブルーノ。
俺の悪評を徹底的に拡散した張本人二人が、遠くから冷ややかな目で様子を見ていたことに、俺達は気が付かなかった。
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