060 第二十四話 叩きつけられた挑戦状 01


Side ケンツ




― ガチャリ、ギィイイイイイイイ……



重いギルドの扉が開き、バーク達がスタンピード予兆調査から戻ってきやがった。


待っていたぜ、バーク!



俺は冷静に淡々と、決して熱くならずに挑戦状を叩きつけるつもりだった。


戦いはもう始まっている。相手をよく見て冷静に確実に倒すためにクレバーになれ!


そう思って対峙しようとした。


しかしそれは無理だった。


バークの姿を見た瞬間からアドレナリンが出っ放しになっちまったぜ!


パチンっとスイッチが入ったかのように、頭も身体も即戦闘に入れる状態だ!


バークゥ、俺はテメーをぶっ倒す!



「おい、バークだぜ……」

「バークを睨むケンツの目を見ろよ、ありゃ何かあるぜ。まさか勝負でも挑む気か!?」

「バカ言うな、ケンツが少しくらい強くなったからってバークに敵うわけがない」



冒険者達は俺のただならぬ危険な緊張に気付き、ギルド内が俄にざわめき始めた。


もちろんバークも俺の気配には気づいている。



「ケンツさん、少しだけ待ってくれ。依頼完了の手続きだけ済ましたい」


「ああ、いいぜ。終わったら来てくれ」



バークはシャロン、キュイ、キリスとともに受付カウンターに向かった。



「……というわけで、調査途中でスタンピードが発生しました。これらは魔獣の討伐部位です。あと、魔獣の中に漆黒の蟷螂型魔獣がいました。恐らく時空系の攻撃を有する異世界の魔獣です。他にスタンピードとは違いますが、復活竜を一頭仕留めました。こちらが竜核になります」


「かしこまりました。すぐに査定いたします。」


「お願いします。我々はギルド内にいますので声がけ下さい」



バークは踵を返し、真っすぐにこちらへ向かって来た。



事務的な手続き自体はすぐ終わり、あとは討伐部位の査定だけか。


あの数だと40分はかかるな。


よし……



「ふぅぅぅぅっぅ……、じゃあちょっと行って来るぜ」


「頑張ってください!」

「よし、行ってこい!」

「なんか緊張しますね!」



俺は後ろで見守っているアリサ、ユリウス、ミヤビを背にし、バークに向かって歩き出す。


む、あの野郎もスゲー威圧感だな。油断すると気負けしちまいそうだぜ。


お互いが進み、彼我の距離が無くなり、そして俺達は対峙する。



「ケンツさん、僕に用がお有りの御様子ですね」


「ああ、バーク。まずはオメーに礼を言いたい。この一年、シャロンを守ってくれてありがとう。そこは心から感謝している」



まずは区切りと話し合いだ。


感情を押し殺し、バークに礼を言う。


意外に思うかもしれないが、感謝しているのは事実だ。


あいつはシャロン達を守ってくれたからな。


だから礼を言って頭を下げる事に抵抗は無い――……



嘘だぜ、俺はそんな出来た人間じゃない!


だが筋は通す。



「ケンツさん、頭を上げてくれ。ケンツさんに頭を下げられる理由は無いですよ。シャロンさんは僕のパーティーメンバーだ。守るのは当然です」



― ピクッ



僕のパーティーメンバーね……


なるほど、今の返事だけでテメーの考えがよくわかるぜ。


テメーがシャロンを手放す気が無いって事をな!


だがな、



「そうか、だけどな。虫のいい話だが、そろそろシャロンを返して欲しいんだ。シャロンがテメーのパーティーメンバーってのは認める。なんせこの俺が頼んだようなものだからな」


「ケンツさん、それが分かっているようならこの話は終わり――」


「だがテメーはシャロンの心を射止める事が出来なかった!シャロンの心にはずっと俺がある!そして俺の心もシャロンだけだ!テメーの都合だけで終わりに出来る話じゃねーぞ!バーク、シャロンを解放しろ!優しく言うのはこれが最後だ!」



― ズイッ!



俺はさらに一歩分バークに迫る。それこそ額がぶつかり合いそうになる距離だ。


だがバークも全く怯まない!



― グリッ!



逆に、俺に額を擦り付けながらバークは挑発して来やがった。


この野郎、バークのクセに似合わねえことするじゃねえか!



「ケンツさん、僕は見かけほど優しくないし、心も広くはないんですよ。愛する女を解放しろ差し出せと言われて、ヘラヘラと野面のづら晒して渡すほどお人よしじゃない!全ては【もう遅い!】と悟って下さい!」



何が【もう遅い!】だ!俺に言わせりゃ【まだ間に合う!】だぜ!


諦めの悪さこそがケンツ様の真骨頂だ! ……む?


バークの背後で心配そうに俺達を見守るシャロンの姿がふと目に入った。



な、シャロン。俺の言った通りだろ。


話合いじゃ絶対に解決しない。


これは惚れた女を奪い合う雄同士の戦いなんだ。


シャロンがバークに恩義を感じている事は分っている。


だがこの戦いは絶対に避けられねえ!


仮にシャロンが止めようと手を尽くしたとしても、絶対に止まらねぇんだ!



「バーク、ならば俺はテメーに挑戦するぜ!」


「いいでしょう。こちらとしても望むところだ!ケンツさんを倒して今度こそシャロンさんの心を射止めてやる!」



― ギリリリリリリィ



煙でも吹きそうなくらい、お互いの額と額が強くこすれ合う!



「ぬぅぅぅぅぅ!」


「ぐぐぐぐぐぐ!」



しかし俺は不意に後ろに下がり、距離を取りなおした。



「だがその前に一つだけハッキリしておきたい事があるぜ!」



挑戦状を叩きつけるまでに、どうしてももう一度確かめておきたいことがある。


その確かめておきたい事とは……



「バーク、ポーター時代のテメーはどうして俺達にバフなんか掛けやがった?」



それはこの一年間、ずっと疑問に思っていた事だ。



「ケンツさん、その事ならギルドの査問会で散々説明した。ケンツさんもギルド長達から聞いたはずだ」


「たしかにな。だが俺はテメーの口からもう一度聞きたい。いったい何故だ?」



この件だけは誤魔化さねえ。


そしてその返事次第では、今この場でバークを叩きのめしてやる!


どうなんだ、バーク!!!

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