058 第二十三話 シャロンの願い・バークの想い 01


Side シャロン



ケンツに告白された翌日、私達バークパーティーは予定してあった【スタンピード獣たちの集団暴走】の予兆がある村への調査に向かった。


そして私達が到着して二日目、調査も途中でスタンピードが発生してしまった!


少し離れた森林から、濛々と砂煙を上げて魔獣の群れが向かって来る。


その数は約300、中にはかなり大型の魔獣もチラホラと混ざっている!



「くっ、調査半ばでいきなりスタンピードが起きるとはな!みんな行くぞ!」


「「「 はい! 」」」



バークさんの号令で、魔術師キリス、戦士キュイ、そして武闘家の私は、対スタンピードフォーメーションをとる!


そして魔獣達との彼我の距離が二百メートルまで近づいたとき、キリスの魔法で戦端が開かれた!





爆裂魔法エクスプロージョン 三連撃!」



― ズガドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

― ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

― ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



まずはキリスの爆裂魔法が魔獣群の中心三か所に炸裂!



― ギャピイイイイイイイイイイ!!!!

― プガアアアアアアアアアアア!!!!

― アンギャアアアアアアアアア!!!!



四散する魔獣!


この一撃で、魔獣群の八割が壊滅!


残ったのは爆裂魔法にも耐えるレベルの高い魔獣達だ。


しかもなぜか黒い個体が目立つ。



「よーし、次は俺とキュイの出番だ!行くぞ!」


「はい!」



ここからは掃討戦に入る!


バークさんとキュイが前に出て、大魔法を放ったキリスは後ろへ。


私はキリスの護衛と負傷者の回復サポート役だ。


スタンピードのような四足獣メインの大量襲撃の場合、武闘家の私では前に出ても満足な活躍はできない。



「魔法剣、サンダーブレイク破壊の雷斬!」


「魔戦斧、裂壊怒号れっかいどごう殲滅破せんめつは!」



― ガラガラドッシャーン!


― ギュイイイイイイイイイイン、ドッゴオオオオオン!



バークさんとキュイの進撃に、魔獣達は順調に殲滅されていく。



「いいぞ、みんな!あと少しだ!」



しかし、あと少しの魔獣の中に、とんでもなく強い一匹が混ざっていた。



― ギチギチゴチギチ、ギリリリリリィィィ



真っ黒で巨大な体躯、まるでカマキリのような容姿……


不気味な歯ぎしり轟かせながら、それは私達に向かって襲って来た!


いえ、狙いは……私!?



― ギュンッ!ビュンッ!



「くっ、この!」



こいつ、信じられないくらい動きが早い!避けるだけで精一杯だわ!


ならっ!



「こおおおおおおおおおおお……」



攻撃は最大の防御!


呼吸を練り上げ闘気を高め、そしてジャンプ一撃!


巨大な赤い目に向けて拳を叩きつける!



「破アアアアアアアアアアアアア!!!!」



― ベキャンッ!ボンッ!



浸透勁による内部破壊!魔獣の右目が破裂!



― グキャアアアアアアアアアア!?



魔獣は苦し紛れに鎌を畳んだ腕を振り、顔面に取り付く私を叩き落とした!



― バシッ!



「ぎゃんっ!」



そこへ凶鎌の一撃!



― ギャオッ!



「シャロンさん!」



バークさんは咄嗟に私を庇う!



― バシュッ!



危ない!なんて無茶な!


バークさんの青紫色の髪が数センチ刈り取られ、キラキラと空に舞った。


あと少しずれていたら、舞っていたのは髪ではなくバークさんの首のほうだ!



「シャロンさん、怪我は無いか!?」


「はい、大丈夫……あうっ!?」



バークさんは私を抱きかかえ、魔獣から距離を置く。



― キシャアアアアアアアアアアア!!!!



魔獣の威圧!


大鎌のような両腕は怪しく緑色に輝き威圧する。私にはそれが普通ではないことが一目でわかった。


あの手の発光は時空絡みのケースが多い。傷つけられれば恐らく治癒・回復は不可能だ!



「バークさん、私も前に出ます!あの魔獣の腕は普通じゃない!」


「大丈夫だ、シャロンさんは絶対に前に出るな!」



― パシッ……ピシッ……



そう言うと、バークさんは私を地に下ろし、ゾッとさせる漆黒の雷を全身に纏わせた。



― キシャアアアアアアアアアアアアア!!!!!



「舐めるな化け物!全力のサンダーブレイク破壊の雷斬だ!」



― バシュッ!ガラガラドッシャーン


― ギャピイイイイイイイイイイ!!!



ソニックブームを伴い、サンダーブレイクの雷斬波が見事漆黒の魔獣の頭を真二つ!


身体も電気破裂を起こし完全に絶命した。



「やったぁ!」

「流石バークね!」



キュイとキリスがバークの勝利に飛びあがって喜んでいる。


しかし私はバークさんの必殺技を見て、背筋に冷たいモノが走った。


この黒いサンダーブレイク破壊の雷斬は、あの時ケンツにトドメを刺そうとした技。


ケンツのサンダーブレイク破壊の雷斬とは明らかに異質……


バークさんは一体いつ何処でこんな魔法剣技を会得したのだろう?



しかし、なにはともあれスタンピードを無事殲滅できた。


だけど私達が地上の魔獣達の生死を確認していて、パーティー内に弛緩した空気が漂いかけたとき……



― キシャアアアアアアアアアアア!!!!



「えっ!?」


「くっ、もう一匹いたのか!どこだ!?」



なんと先程のカマキリのような魔獣がもう一匹、上空からバークさん目掛けて急降下突撃してくる!


完全に虚を突かれた形になり、バークさんは横に飛びのいて避けようとした!


しかし魔獣は高速で軌道を変え、凶悪な鎌の腕を振る!


だめ、これはやられる!


そう思った刹那!



― ドゴオオオオオオオオオオオ!!!!



突如地面が爆発したかのように大きく割れ、巨大な何かが姿を現した!



― ギャオオオオオオオオオオオオ!!!バクウッ!?



突如地中から現れたそれは、上空から突っ込んで来たカマキリ魔獣の首に噛みつきねじ伏せ一瞬で絶命させた!



「な、なに!?」


「新しい魔獣?」


「違う、これ魔獣じゃないわ!」


「こいつは復活竜、ティラノドラゴンだ!」



復活竜――


特殊な魔力により、太古の化石より生まれる独自体形のドラゴンだ。


邪竜の眷属という一説もある。



「キュイ、キリス、すまんがまた任せていいか?シャロンさん、彼女達のサポートを頼む」


「いいよ!」

「まかせて!」

「う、うん……」



バークさんはティラノドラゴンの討伐を私達に任せた。



「まただわ……」



バークさんは何故か復活竜とは自分で戦おうとはしない。


いつも私達に任せる。


無敵のバークさんでも復活竜は苦手なのかしら……


復活竜の討伐方法、それは額の奥にある魔核(竜核)を貫き破壊するか、首を斬り落とせばいい。


それを知らずに戦えば、例え勇者でも勝つことは出来ない。


「土魔法、ボルケエロプション大火砕流!」


ますはキリスの火砕流魔法でティラノドラゴンの視界を防ぐ!



「魔戦斧、破号撃滅斬はごうげきめつざん!はああああああああああああ!!!!」



そしてキュイが大きくジャンプ!

そこから一気に振り下ろされる超破壊エネルギーの戦斧!



― ブォッ!バシュッ!



豪快な風切り音とともに、ティラノドラゴンの首がすっ飛ぶ!



やった、ティラノドラゴンに勝利した!



インデンデアリー焼夷爆炎!」



― ボオオオオオオオオオオオオオ!!!!



さらにキュイの焼夷魔法がティラノドラゴンの遺体を焼き尽くす!


こうして焼却処理しないとティラノドラゴンの遺体は瘴気をまき散らし、周囲に甚大な被害をもたらしてしまうのだ。



「ご苦労様。みんな無事だな、怪我した者はいないかい?」



バークさんが優しい顔でパーティーメンバーを気づかい労う。



「うん、誰も怪我してないよ!」

「ふぅ、少しビックリしたけど今回も無事討伐できたね」


「シャロンさんは?」


「私も大丈夫です。どこも怪我はありません」


「よし、じゃあ村に戻ろう。今夜は念のため村に泊まって、問題が起きなければ明日の朝ギルドに戻るとしよう」


「「「 はい! 」」」



その晩、私達は村が用意してくれた宿に泊まった。


翌朝、村長より討伐証明のサインを貰い手続きを済ませる。


これから私達はチャーターした二台の早馬車に分乗して、ギルドまで戻るのだけど……



「キュイ、あんた来るときはバークと一緒だったじゃない!帰りはアタイに譲りなさいよ!」


「ダメ―、あんたこそ前回は行きも帰りもバークと一緒だったでしょ!絶対に譲らないからね!」



わー!ぎゃー!


キュイとキリスはバークのとなりを掛けて争い始める。


いつもの事なので気にはしないけど、今日だけは……



「キュイ、キリス、悪いけど帰りは私に譲ってくれないかな。バークさんと大事な話があるのよ」



私のお願いに二人は一瞬にしてピタリと争いをやめた。そしてお互いの顔を見合わせ、



「「どうぞ!どうぞ!」」



快く譲って貰った。



「バークさん、いいですか?」


「もちろんだよ!さあどうぞ」



私が一緒に乗ると聞いて驚き喜ぶバークさんだったが、私の重い表情に気付き何かを察したようだ。


バークさんはすぐに悲しそうな笑顔に変わり、私を馬車に招き入れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る