057 第二十二話 ユリウス 03


Side ケンツ




「ケンツさん、ただいま戻りましたよ!」



背後から元気の良いアリサ声が聞こえた!



「おう、アリサ戻ったか……て、えええええ!!!???」



俺は振り向き返事途中でピシリと固まった。


なぜなら、そこにいたのは



【まピンクのツインテール】

【場末の娼婦のようなどぎつい化粧】

【崩壊した輪郭と目鼻立ち】

【貧乳化した胸】



目を覆いたくなるほどケバく不細工に劣化したアリサ?の姿があったからだ!




「おまえは一体誰だ!?」


「へ?アリサですけど?」



違う、この珍獣がアリサのわけがない!


なんだこいつは!?



「あう……あう……!?」



隣ではユリウスが指を差しながら口をパクパクさせてやがる。


まあこんな得体のしれない珍獣が現れたら困惑するわな。



「なんですか?初対面の相手に指を差すなんて失礼な……」



アリサかもしれない女はブスッと首をかしげる。



「すすす、すみません、僕の思い浮かべるアリサさんとはかけ離れていたのでつい……」



ユリウスは謝罪しながらもマジマジとアリサを食い入るように見つめる。



「なあ、おまえ本当にアリサなのか? こえ以外は面影が全くないんだが!?」



俺もマジマジとアリサと名のる珍獣を食い入るように見た。


うん、全くの別人だ。



「ああ、そういえば変装落として無かったっけ。ギルドで支給された女性冒険者用変装具を使ったんですよ」



変装具?ああ、そう言えばそんなの配っていたな……



「すると本当にアリサか。なんかスゲーな、顔の輪郭やパーツの形目鼻立ちも変わってるぞ!?」



アリサは変装が褒められていると勘違いしたのかドヤ顔を晒したあと変装を落とした。


なるほど、ピンクの髪は当然ウィック、顔の輪郭変化は口に綿を含み、吊り上がった細目はテープで目を引っ張るわけか。胸はバストプレスで抑え込んでいるんだな。


それにしてもすげえセンスだ。見事に珍獣化してたぜ。



「で、なんだってそんな変装を?」


「うんそれがね……」



眉間にシワを寄せながらアリサは話し出す。


アリサはまずは【ミヤビの村】に行ったのだが、あろうことか召喚勇者と遭遇!


以降ずっと付きまとわれていたらしく、その後の政都でとうとう魅了されそうになったそうだ。



「それで召喚勇者をシバキ倒したんだけど、政都で指名手配されちゃって……それで変装して逃げ帰って来たの。あのユキマサって召喚勇者、ほんと要注意だわ」



え、こいつ今さらりととんでもないことを言ったぞ?


召喚勇者をシバキ倒した!?



「いやいや、相手は召喚勇者だぞ!?いくらアリサでも勝てるわけねーじゃん!」


「ふふん、魅了されたふりして油断させたんですよ。ガバっと押し倒してきて気持ち悪かったけどね」


「押し倒して!?」



ユリウスが強く反応する。こいつもやっぱり男なんだな。



「それにしたってなぁ。それで一体どうやってトドメを……」


「男には共通の急所があるじゃないですか。そこを膝蹴りすればどんな屈強な男でもイチコロですよ。後はボコボコにシバキ回して……ね?」



― ヒュッ……



俺とユリウスから変な息が出た。



「ね?」じゃねーよ!



こいつ、なんて酷い事をするんだ!そこは男にとって絶対的タブーな領域なんだぞ!!!


聞いてるだけでタマヒュンしちまったぜ。



「ところで、そちらの方々は?」



アリサはユリウスとミヤビ様に向かい合った。



「前に話したことがあったろ?この人がユリウスだ。それとお連れのミヤビ様。この国認定の現人神だよ」


「ユリウスですって!?」


「どうも」

「はじめまして」



驚いたアリサだったが、その顔は急速に失望していくのが見て取れた。



「あははは、やっぱり人違いだったんですね。そうですよね、腕もちゃんと有るし、顔も全然違う……」



やはり心のどこかでは、ユリウスがユーシスの可能性を捨てきれていなかったんだな。


こいつの想い人ユーシスは隻腕だ。


しかしユリウスにはちゃんと両腕が揃っている。


ユリウスがユーシスである可能性は百パーセント無い。


ガックリと項垂れるアリサ……


「まあ、あれだ飯でも食って元気出そうぜ!ユリウス、ミヤビ様、いいかな?」













俺達はまた冒険者ギルド飲食ブースに戻り、食事をしながら改めて自己紹介をした。





「そういやユリウスはなんでリットールに留まっているんだ?」


「俺もアリサさんと同じようなもんだよ、仲間とはぐれちまってな。政都の大使館で情報集めようとしたが閉鎖されてたんでのんびり戻って来たんだ。でも仲間とはリットールで落ち合う予定だからそのうち再会できるだろう」



アリサと違い、ユリウスの方はそう心配はしていないようだ。



「ところでアリサさん、ケンツさんは良くしてくれていますか?」


「へ?あ、はい。凄く力になって貰ってますよ。ケンツさんが居なければユーシス……私の大切な人なんですけど、安否確認はまだ出来ていなかったでしょうし」



唐突なミヤビ様の質問に、アリサは目を広げてシパシパとまばたきする。



「アリサさんの目から見て、ケンツさんは善人の部類に見えますか?」


「え?」



質問の意図が見えず、アリサはまた目をシパシパとまばたく。


この現人神、またかよ。一体俺がなんだってんだ?



「善人……ですか?うーん……」



おいアリサ、悩むなよ!俺って見るからに善人オーラが出てるじゃん!


しかしアリサは、



「善人じゃないですね」



バッサリ言い切った。


ぐはっ、即答するなし!


なに?じゃあアリサは俺の事を悪人だと思っていたのか?


軽く……いやかなりショックなんだけど!



「でも悪人じゃないと思いますよ」



良かった、アリサは俺の事を悪人とは思ってはいないようだ。


でも微妙だな。まあいいや。


確かに俺は善人じゃないし悪人でもねーよ。



「私もケンツさんを悪人だとは思っていません。でも今はケンツさんが善人とう確証が欲しいのです」



は?確証?何を言っているんだ?


まるで俺が善人でないと困るような感じだが???



「ミヤビ、焦り過ぎだ。ケンツとアリサさんが困っているじゃないか」


「ごめんなさい、つい……」



ユリウスがミヤビ様を叱った。


いやユリウス、おまえ何気にミヤビ様とタメ口じゃねーか。


その上しかりつけるとか何様だよ!?



「なぁ、おまえら何を隠しているんだ?気持ち悪いんだが……」



俺の知らないところで、何か良くない事に巻き込まれている感じがする……


気持ち悪いことこの上ない。


なんなんだ、こいつらは?


ユリウスがフゥーと溜息をついてから打ち明け始めた。



「ケンツ、おまえバンバラ様から邪竜アパーカレスの討伐依頼を頼まれただろう。その際に無限魔法貯蔵ソーサリーストックと幾つかの魔法を授かった。違うか?」



え、なんでユリウスがその事を知っているんだ?



「あの後(政都に向かった後)、俺達も大賢者バンバラ様の霊と遭遇したんだ。俺達はバンバラ様からのメッセンジャーなんだよ」



はぁ?バンバラは五百年前の世界に戻ったはずだろう?なんでこいつ等が接触できるんだ?


もしかしてさらに五百年過ごした現在のバンバラの霊とか?


あいつ邪霊ぽい感じだったし、は浄化されずにそのまま地縛霊にでもなったのかな?



「ケンツさん、邪竜アパーカレスは形を変えて存在している可能性があります。アパーカレスの眷属、復活竜達が最近になって各地で多数目撃されるようになりました。」


「ケンツ、よく聞いてくれ。今から一年数か月ほど前に、邪竜アパーカレスはどうやら黒魔石に姿を変えて冒険者と融合したみたいなんだ。いずれヤツは姿を現すかもしれない。その時に唯一対抗できる者が、バンバラ様から無限魔法貯蔵ソーサリーストック他を授かったおまえだけなんだよ」


「黒魔石ですって!?」



今度はアリサが叫んだ。


なんだってんだ、いったい?



「だからバンバラ様は気になっているのさ『ケンツに託して大丈夫なのか、逃げたりしないだろうか、与えたスキルを悪用して人族と敵対しないだろうか』ってな」



なるほど、合点がいったぜ。


だからこの現人神のお嬢ちゃんは、俺の善性を知りたかったのか。


だけどなぁ……



「なあ、そういうのは俺みたいな冒険者じゃ無くて、国や真正勇者なんかが出張る案件じゃないか?」



別にアパーカレスと戦うのがイヤってわけじゃないが、何か違う感じがするぞ。



「勇者は真正・召喚を問わず完全討伐することは出来ない。邪竜アパーカレスは聖属の力を糧とするんだ。勇者が出張るなど餌をやるような行いでしかないのさ。仮に一時的に勝てても、ヤツの魔力残滓により翌日にはさらに強力になって復活してしまう」



ああ、そういやバンバラが言っていたな。


五百年前、時の為政者が召喚勇者を大量投入して討伐に挑んだが、あっさり全滅させられたって。


その理由がこれか。


ふーむ、この案件には勇者を含む女神の使徒では解決不可能なわけだ。人間側で対処するしかないんだな。


ぶっちゃけ国に丸投げしたいところだが、五百年前と同じことを繰り返しそうだしなぁ。


そもそもバンバラから無限魔法貯蔵ソーサリーストックを貰っちゃったし、アパーカレスの討伐も約束したもんな。


てか、無限魔法貯蔵ソーサリーストックを誰かに譲渡する方法なんて知らんし……


ここは一つ、シャロンと明るい未来を築くためにも邪魔な小石アパーカレスは俺自身の手で片付けるべきだな!


俺は邪竜アパーカレスの討伐を条件に、無限魔法貯蔵ソーサリーストックを譲り受けたんだ。やっぱり俺が討伐するのが筋ってもんだろう。


でも他に討伐したいやつがいるなら遠慮なく譲るぞ!


アリサ、ユリウス、ミヤビ様、あんたらどうだ!



― チラリ



しかしアリサとユリウスとミヤビ様は、目を背けてフリフリと手を振り断りやがった。


なんだこいつら!?



「わかったよ、邪竜退治は俺が受け持つぜ!ただし……」


「「ただし?」」


「ただし、俺とバークとの決着を優先だ!それが済んだら邪竜を見つけ次第必ず討伐してやる!これでいいか?」



悪いが優先順位ってもんがある。


俺はシャロンのためなら世界を敵に回すことも厭わない男だぜ!


一番はシャロン!二番が邪竜討伐だ!異論は認めん!



「ああ、構わない。俺も邪竜討伐の時はケンツを全力でサポートするからな!」


「ケンツさん、色々失礼な物言いをしてすみません。私もユリウスさん同様全力でサポートしますね!今後私の事はミヤビと呼んでください」



おおお、なんか強烈に濃い仲間が一気に二人も!?


やったぜ、俺はもうボッチじゃねぇ!


あとは一番傍にいて欲しいシャロンを取り戻せば、超新星一番星ファーストスターの爆誕だぁ!


その為にはバークに挑戦状を……





その時だ。



― ガチャリ、ギィイイイイイイイ……



重いギルドの扉が開き、バーク達がスタンピード予兆調査から戻ってきやがった。


待っていたぜ、バーク!


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