055 第二十二話 ユリウス 01
Side ケンツ
◆リットール冒険者ギルド AM
「間が悪いぜ……」
昨日、シャロンに告白して、今日にでもバークの野郎に挑戦状を叩きつけようと思っていたんだが、バーク達はとある村からの依頼、【スタンピード予兆の調査】だとかですでにギルドを発っていた。戻ってくるのは三日後になる。
それじゃ戻って来るまでアリサに鍛えて貰おうと思えば、アリサはアリサで……
『ケンツさん、ごめんなさい!やっぱり【政都】と【ミヤビの村】の様子を見てきます!明後日には戻る予定です!』
そう言ってやはり早朝から出かけて行った。
おかげで今日は久々に独りきりで過ごしている。
そう俺独りきりで。
そう言えば、ギルド内での空気が少し変わった。
いや、俺に対する冒険者共の見る目が変わったというべきか?
どうやら夕べのバロンとブルーノの戦いを見ていた冒険者がいたらしく、あっちでヒソヒソこっちでヒソヒソと何やら噂してやがる。
そんな中、
「おいケンツ、昨夜バロンとブルーノをフルボッコにしたってのは本当か?」
事の真偽を確かめるべく、一人の冒険者が話しかけて来た。
コイツは確か三級下位冒険者だったな。少し前まで俺をイジメて楽しんでたやつだ。
「ああん?だったらどうした。俺は平等主義者だからな、バロンとブルーノだけじゃなく、俺をイジメた奴らはいずれ全員報復してやるぜ。今からテメーもボコってやろうか?」
― ギロリ!
そう言って睨むと、冒険者は「ひっ……いや、俺は別に……」と小さな悲鳴をあげて、そそくさと逃げて行った。
ふん、ヘタレめ。
だが俺をイジメるヤツは完全にいなくなったようだな。
へへへ。報復を恐れて俺の周りには誰も近づいてこようとしない。
俺は孤高の冒険者、ケンツ様だぜ!
「…………」
でも、これはこれでなんか寂しいぜ……
おいおまえら、少しくらい話しかけてくれてもいいんだぜ?
もう威嚇したりしないからさ。
仲良くしてくれるならイジメ返しなんかしないって!
― シーン……
なんでぇ、バーロー!
てめえら揃って無視しやがって!
やっぱりコイツらいつかイジメ返す!
― ダンッ!
― ビクッ!
俺は勢いよくテーブルに手をついて立ち上がった。
そしてそのままギルド裏の広場へ……
「仕方ない、一人稽古を始めるか……
― ブワッ!
俺の周りが特殊な結界で覆われた。
今、結界内部は通常の10倍のスピードで時間が流れている。
仮に俺がこの結界内で10時間過ごしたとしても、結界の外は1時間しか流れていない。
これはバンバラから譲り受けた【
この
その代わり使用時間制限があって総時間が1万時間に達すれば使えなくなる。
英雄ガンツってのは、五百年前に邪竜アパーカレス討伐の為にバンバラとコンビを組んでいた男らしい。
そういえば、子供の頃にお婆ちゃんから英雄ガンツの話を聞かされたことがあるぜ。
くっそ面白くない話だったから、この話を聞かされるとすぐ眠れたんだよな。
だから話の内容は忘れたが、英雄ガンツの名前だけはなんとなく覚えている。
ちなみに名前が俺と似ているが、別に俺の御先祖さまってわけじゃないと思う。
ケンツやガンツって名前はリットールじゃ別段珍しい名前でもないしな。
「それにしても……」
俺は自分自身を見つめ直す。
アリサの【縮地】【身体強化】を知った時は、バークの背中に届く気がしてきた。
そして【
「まったく、人間てのは欲張りな生物だぜ。シャロンと逃げて田舎で暮らしても幸せに暮らせるってのによ……」
自分自身にそう毒づく。
俺はこの短期間でかなりの力を取り戻した。さらなる上昇だってもちろん見込める。
だが同時に今の自分が【
アリサの説明では、俺の身体強化の上限は四倍で頭打ちらしい。
それ以上は身体が負荷に耐えられず、肉体に大ダメージを与え激痛で戦うどころではなくなってしまうそうだ。
「基本スペックを向上して身体強化を限界の四倍まで上げても多分あの野郎には勝てねぇ。俺にはバークを倒すための決定打に欠けるんだよな。一つ思いついた方法があるが、うまくいけばいいんだが……」
ブツブツと独り言を言いながら、俺は【
「情けない戦いは出来ないぞ、俺だけでなくシャロンも恥ずかしい思いをするからな。その為にも絶対に勝たないと……」
やはり俺はバークに正面から挑んでシャロンに相応しい男であることを証明したい!
「シャロン、今度は絶対に手放さないからな!」
その為にも修行だ!訓練だ!トレーニングだ!
そんな感じに今日が過ぎ、明日が過ぎ、明後日になり――
「ふう、筋力・持久力・瞬発力はかなりついたが動体視力はあまり変わってないな。こればかりは相手がいないと鍛えようがないぜ。やはり一人稽古では限界がある」
と言っても、俺に付き合ってくれるような冒険者仲間はいねーしな。
これがボッチの辛いところだぜ。
だが今日アリサが帰って来る。
あいつとの地稽古なら一気に技量も上がりそうだ。
そう思いながらギルドの飲食ブースで昼休憩していると………
「久しぶりだな、ケンツ。あんた一人かい?」
紺髪の可愛い美少女を傍に連れ持って、俺にとって命の恩人の男、ユリウスが現れた。
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