054 第二十一話 バロンの回想と召喚勇者 02


Side バロン




「おい、おまえらやめろ!」



突然割って入った男は、俺達に怒声を浴びせてきやがった。



 ― ピタリ



「なんだぁ?テメーは?」

「余所者か?俺達の楽しみの時間に水を差しやがって」

 



 ― ビクン、ビクン……



ん、なんか様子がおかしいな。


ボコり続けたケンツの意識は飛びかけ、身体は大きく痙攣している。



「やべえ。やり過ぎたかな?」

「なあに、死にはしねーだろ」



 ― ゲラゲラゲラゲラ



俺達はピクピクと痙攣しているケンツを指差して笑いに笑った。


ん、しかしこの痙攣はちょっとヤバいかな?


まあケイトもギルド長も不在だし、ケンツが死んでも問題無しだぜ。


ははははははは……んがっ!?




「どけっ!」



 ― ドンッ!



「「「「 !? 」」」」



男は俺達を押しのけ、ケンツに無理やり薬草を食わせやがった!



「おい、あんた目を覚ませ!薬草を食うんだ!」


「うっ……うぐっ……」



ケンツが薬草を咀嚼して飲み込み喉を通るたびに、死にかけていたケンツが回復していく。


どうやらハイポーション並に効果がある薬草のようだ。



なんだこいつは?人の楽しみを邪魔しやがって!


ムカついた俺はスラリと腰の剣を抜いた。


そしてケンツを介抱している男の背に向かって斬撃!



「オラァッ!」



― ギュオッ!


―ヒラリ



しかし驚いた事に、男は俺の背後からの斬撃を躱しやがった!



「テメー、避けてんじゃねーよ!」



なんだこいつは!?背中にも目が付いているのか!?


俺は怒気を荒げて咆えるも、男は全く臆さない。


逆に男はくって掛かる!



「おまえ、いやおまえら何のツモリだ!」



なんのツモリだぁ?そりゃこっちのセリフだぜ!


改めてこの男を見据えると、着ている服がこの辺じゃほとんど見慣れないタイプであることに気が付いた。


むぅ……こいつ余所者のようだな、外国人かぁ?




「俺はこのリットールの二級冒険者パーティー、〈天翔ける雷光〉のリーダー、バロンってもんだ」


「そして俺はパーティーナンバー2のブルーノだ。テメー、ケンツを助けるなんてマネしやがって」


「バロンさん、ブルーノさん、こいつ本当に余所者みたいですよ」


「やっちゃいましょうぜ。ケンツの代わりに踊ってもらいやしょうや!」


「げひ、げひひひひひ♪」



俺達は、ヤツの周りをぐるりと囲む。


しかし男は臆する事は全く無く、何かの格闘術の構えをとった。



「なんだ余所者よそもの、抵抗する気かよ!」

「バカな奴だぜ、大人しくボコられりゃ身ぐるみ剥がされるだけで済むのによ」



俺達はニヤニヤしながら抜剣した。


バカな男だ。


俺のパーティーとガチで戦って無事でいられるわけねーだろ!


俺は目配せして、まずは仲間のうち、剣士のロン、魔術師のベナン、武闘家のチャリンをけしかけた。


しかし……



「ぎゃああああああああああ!」

「うぎゃあああああああああ!」

「ぐえええええええええええ!」



ほんの数秒で男は仲間三人を素手で片付けた!


なんだこいつは!?


ロン、ベナン、チャリンはそれぞれ三級上位の冒険者だぞ?


こんなどこの馬の骨ともわからないようなヤツに、アッサリと倒されるほど弱い奴らじゃねぇ!



「どうする?まだやるか?」



― カチン



ちっ、この野郎、大物ぶりやがって……


だが、どうやらただ者じゃないらしいな。



「余所者が……」

「好き勝手暴れやがって……」



舐めやがって、この斬撃で死にやがれ!



―ギュバッ!



「むっ!?」



俺とブルーノが放つ亜音速の斬撃!


一瞬男の顔が気色ばんだ気もしたが……



― バシッ!バチッ!



「「な、なんだぁ!?」」



なんとこの野郎、素手で俺達の斬撃を摘まんで止めやがった!?


「どうなってんだ、こりゃあ!?」

「て、てめえ離しやがれ!」


「…………」



しかし男は手を離さずにボソリと何か呟いた。



その途端!



― バリバリバリ!



その途端、摘ままれた剣から雷(いかずち)が走る!


「ほんげえええええええええええ!!!!」

「あんぎゃああああああああああ!!!!」



絶叫をあげる俺とブルーノ!



― ドサリ……ぷすぷす……


ブルーノは雷撃にやられ崩れ倒れた。



「ぬぅううう………」



しかし、多少雷撃耐性のある俺は辛うじて耐えた!




「てめぇ、何者だ!?」


「通りすがりの魔法騎士マジックナイトさ」



はぁ?魔法騎士だと???



「ふざけんな!剣なんか全然使わなかったじゃねーか!」


「おまえらは弱くはないが、剣を使うほど強くも無いからな」


「っ――――!!!!」



くそっ、言ってくれるじゃねえか!


「おい、おまえら起きろ!」


「リーダー、ダメだ」

「身体がマトモに動かねぇ」

「いでえ、いでえよ!」

「野郎、ぶっ殺してやる!……クソ、身体が動かねぇ!」



なんとか反撃してやろうとパーティーメンバーを奮い起こそうとしたが、ブルーノ以外は完全に戦意喪失。


中には肩の関節を外された者もいて、これは無理だと悟らされた。


ブルーノの方も雷のショックでまだ起き上がれない。


それならと、周りの冒険者を見るも、どいつもこいつも我関せずとばかりに見て見ぬフリをしやがる。


おまえら、余所者にいいようにされて悔しくねえのかよ!



「…………」


ギャラリー達はやはり動こうとはしない。



「ちっ」



腹が立つが仕方のねえことか。

悔しいがこの男、相当な雷撃魔法と格闘技の使い手だ。


そして今この場にいる冒険者は俺とブルーノを除けば三級以下の連中ばかり。


加勢してくれたとしても返り討ちにされるのがオチだな。


俺は諦めパーティーメンバーに一喝した。



「おら、おまえら!さっさと教会に行って治療するぞ!モタモタするな!」


「「「へ、へい……」」」



ムカつくが、何か仕込みでもしないとこいつには勝てねぇ。


俺はギリギリと歯ぎしりしながら仲間を連れてギルドから去ることにした。


くそ、屈辱だぜ。こんな余所者に……


去り際にブルーノが男に名を聞いたが、ヤツはユリウスと名乗ったようだ。


後でベラにも聞いたが、やはりユリウスで間違いないらしい。


ユリウスか……


何者かは知らんが、必ずぶっ殺してやる!





*





「とまあ、これが俺達とユリウスとのファーストコンタクトです」

「思い出してもハラワタが煮えくり返るぜ……」



嫌な事を思い出し、俺とブルーノの眉間にシワが寄る。


ユキマサは興味深そうに聞いていたが、



「ふーん、亜音速の斬撃を指でつまみ、雷撃魔法を使う魔法騎士か。まるで俺達召喚勇者みたいな野郎だな。で、そいつはそれからどうしたんだ?」


「ここからはユキマサさんも御調べかと思いやすが、ヤツは【ミヤビの村】に向かい復活竜退治をしたあと、北の【リットール政都】に向かいやしたぜ」


「ほう、政都か」



ユキマサの目がギラリと光る。


ユリウスが【リットール政都】に向かったという情報は、まだ入手してなかったようだ。


「バロン、ブルーノ、俺は明日から政都に行って調査する。帰ってきたらケンツとか言う野郎をキッチリ潰してやる。まあのんびりと待っていろ」


ユキマサはもう一度約束してくれた。


あ、そうだ!どうせなら邪魔なあいつも……



「そうだ!ついでにバークって冒険者もボコって再起不能にしてくれませんか?」

「そいつ、今のシャロンが所属するパーティーリーダーなんですが、他に二人の上玉の女を抱えているんですよ」


「なに?勇者でもないのに女を複数抱えるとは聞き捨てならんな、よしわかった。その代わり女二人は俺が貰うぞ」


「どうぞ!どうぞ!」

「宜しくお願いします!」



ユキマサは明日早朝より聖都向かうらしく、早く寝ると言って侍らしていた女とともに去って行った。



「ふふふ……ケンツの野郎、召喚勇者に狙われるとは気の毒にな」


「しかもバークまで屠らせるよう仕向けるとはよく思いついたな」


「ああ、土壇場で閃いたんだ。バークさえ消えれば俺達がリットールナンバーワンの冒険者だぜ!」


「あいつら完全に詰んだな。ざまあみろだ!じゃあ絶望しかないケンツとバークの未来にを祝して……」


「「かんぱーい!」」



俺とブルーノの留飲が少し下がり、機嫌が良くなったところで前祝の祝杯をあげた。


ふふふ、これで俺達がリットールナンバーワン冒険者か。悪くないぜ。

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