045 第十八話 告白 02
Side ケンツ
まさかシャロンの方から会いに来てくれるなんて!
くーっ、めっちゃ緊張するぜ。
いいか
一年前のような天邪鬼全開な
自分中心に物事を考えるな!シャロンを中心に考えろ!
よーし……よーし……よーしっ!
「シャロン!」
「は、はい!」
「すまなかった!」
「えっ!?」
酒に溺れ、八つ当たりにDVをしてしまった俺!
一年前のシャロンに対する身勝手な行い!
そしてシャロンを突き放し、バークに押し付けるようにして俺は去った!
その後、徹底したシャロンに対する無視!
それがどれだけシャロンを苦しめたことか。
子供の頃から常に笑顔のシャロンが、この一年は悲しみ苦しむ表情しかしなかった。
今更謝ってもシャロンを苦しめた事実は消えねえ。
全部俺の責任だ!シャロンを苦しめたのは全部俺の責任だ!逃げの姿勢からの最悪の選択だ!
この根っこをアヤフヤにしちゃ絶対にダメだ!
「この一年間、本当に済まなかった!俺の身勝手な振る舞いと浅はかな考えが、シャロンを苦しませ悲しませちまった。すまない!シャロンが望むならどんな罰でも受ける!」
― ズザッ!
俺は心の底から本気で謝った。
本気の土下座で謝った!
アリサにやったような戦略的土下座じゃねぇ!
真剣な土下座だ!
だが許してくれなんて絶対に言えねえ!
シャロンが罰を求めるのなら、俺はシャロンの気のすむまでどんな罰でも受ける。
一年もシャロンを辛い思いをさせた俺が許されるなんてこと、あっちゃいけねーんだ!
*
Side シャロン
「ケンツ……」
ケンツ、何を言っているの?
私が悲しみ苦しんだのはケンツのせいじゃない、全て私自身が招いたことよ!
私が相談も無しに最悪のタイミングでバークさんに会った。
次の日、最悪のタイミングでバークさんにお願いした。
私の浅はかで愚かな行動が、私とケンツの関係を破局に招いたの!
だからケンツは何も悪くない!
それにケンツは私以上に苦しんだじゃない!
毎日が生き死にの連続だったじゃない!
罰を受けるのは私の方!
「ケンツ……」
「…………」
ケンツの前に両ひざを付いた。
「ケンツ、お願い。顔を上げて」
「シャロン……」
ケンツの手を取り、体を起こすのを促した。
「ケンツ、違うの、そうじゃない!悪いのは……」
「シャロン、俺のしたことは百人が百人とも、いや千人が千人とも俺が悪いと言うさ。頼むから自分を責めないでくれ」
「ケンツ……私は許さないから」
「ああ、許さなくていい。すきなだけ罰してくれ」
「違うの。私はケンツが酷い事をしたとは思っていないから。だから罰することも許す事もない。ケンツに非なんて最初からない。あの時のケンツのおかげで私達は生きているんだもん。許す許さない以前の問題よ!」
もし、バーの一件以降、それまで通りケンツと共に在ったとしたら、お互いただでは済まなかった事は間違いない。
しかしケンツは私との関係を完全に絶ち、私をバークさんの傘に入れ、鉄壁の安全を確保してくれた。
しかしそのしわ寄せは全てケンツに……ケンツは私の為に犠牲になったのだ。
日々ボロボロになっていくケンツ……
私を無視し続けたのも、私とは無関係であることのアピール。
私を守るための自己犠牲……
そこまでして私を守ってくれたケンツが悪いわけがない!
感謝することはあっても、罰を与えるなどあり得ない!
「ケンツ!」
身体が自然と動き、私はケンツの胸に飛び込んだ。
「シャロン……シャロン!」
私達は一年ぶりにお互いを強く抱きしめ合った。
*
Side ケンツ
シャロンから懐かしい温もりと溢れんばかりの優しさを感じ、情けない事に涙腺が緩んでしまった。
シャロン、辛い思いをさせて本当にすまねえ!
だがシャロン、俺は今から身勝手なお願いを押し付けにゃあならねぇ。
確かめねばならねぇ。
でないと先には進めねぇんだ。
「シャロン!」
「は、はい!」
シャロンの手をとりながら、ゆっくりと二人して立ち上がり、真っすぐにシャロンの目を見据えた。
「この一年放置して済まなかった。シャロンがどう思ったとしても、責任は全て俺にある。そんな俺がこれから口にしようとしていることは、厚かましいのは重々承知している。気を悪くするかもしれねえし、怒って当然な事だ。だけど聞いてくれ!」
こ、こええ……これからの告白をシャロンがどう思うかを考えると小便ちびりそうだぜ。
― パシンッ!
少し震えが来ている両太ももを叩き、気合を入れ直す!
頼むシャロン、俺を拒絶しないでくれ!
「シャロン、俺はおまえの事が好きだ!一年前からずっと気持ちは変わっちゃいねえ!毎日おまえの事ばかり考えていた!だからシャロン、俺はおまえの気持ちが知りたい!シャロン!」
言っちまった!
シャロンが好きだと言っちまった!シャロンの気持ちを知りたいと言っちまった!
くーっ、もう後には引けねえ!
シャロン、おまえはどうなんだ。
俺はもう過去の男なのか。
やはりバークの女になっちまったのか。
シャロン、おまえの気持ちを教えてくれ!
シャロン!
*
Side シャロン
ひゃあああああああああああ!!!!
これは夢?
ケンツが私の事を好きだと、一年前から気持ちは変わっていないと言ってくれた!
こんな嬉しい事が……嗚呼、夢のよう!!!
ケンツ……私もあなたの事を……
「はっ!?」
しかしその時、舞い上がりかけていた私に最悪のあの日がフラッシュバックした。
そうだ、私は……ケンツの告白を手放しで喜ぶ事が出来ない……
ケンツの告白に応えるには、私も全てを曝け出さないと……
「ケンツ……」
「シャロン!」
― ビクッ!
怖い、怖いよケンツ……
これから口にすることが、あなたの想いを霧散させ、私を嫌悪するのではないかと思うと怖くてたまらない……
― ガクガク……
膝に震えが……
「はぁ……はぁ……」
く、苦しい、息が思うようにできない……
「シャロン!おいどうした!?」
ケンツが私の異変に気が付いた。
はぁ、はぁ、……
『シャロン……』
心の中でもう人の私……浅ましい私が囁きかける。
『シャロン、あなた何を言うツモリ?まさかあの事を話すの?』
そうよ、あれを隠したままケンツの想いに応えるわけにはいかないもの。
『およしよシャロン。あれを話せばケンツは二度と振り向いてくれないよ』
そうかもしれない……でも、これだけは黙っていてはダメ!
『シャロン、それを話したら今度こそ破局するよ。きっと次のチャンスは無いわ』
でもこれを黙っている事は、ケンツに対する冒涜であり明確な裏切り!
『シャロン、あなた正直に走り過ぎよ。それにそんな事を聞かされてケンツが悲しまないとでも? シャロン、どんな相思相愛のカップルだって秘密の一つや二つはあるものなの。墓場まで持って行きなさい、シャロン』
そうかもしれない。でもこれを黙っていては、いつか必ずケンツを悲しませる!
『シャロン、最後の警告よ。思い直しなさい。それを話せばあなたの望まない結末になるわ』
わかってる、だけど私はこれ以上ケンツを裏切りたくない!
……………………
…………
……
「はっ!?」
「おい、シャロン大丈夫か?なんだか意識が飛んでいたようだが……」
ケンツが心配と不安の入り混じった顔をしている。
早く彼に答えないと……
「大丈夫、大丈夫だから」
「そうか、それでシャロン……」
ケンツ、あなたに全てを委ねる。だから聞いて。
「ケンツ、私を好きでいてくれてありがとう。凄く嬉しい……私も同じよ。この一年間ケンツへの気持ちは微塵も変わってはいないわ。ずっとケンツを、ケンツだけを愛していた。もちろん今もケンツを愛しているわ!私の心にはケンツしかいないの!」
「シャロン!」
ケンツは感極まったのか私を強く抱きしめようした。
このまま身を任せることが出来たなら、どんなに幸せな事だろう。
― トン……
だけど私は両の手を突き出し、ケンツを制した。
「シャロン?」
「ごめん、ケンツ……話はまだ終わっていないの……」
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