043 第十七話 想い人の情報と召喚勇者の影(裏話あり)
「ユーシスさんと言う名の外国人冒険者ですか?うーん、ちょっと覚えがないですねぇ?」
冒険者ギルド受付嬢ケイトは、討伐依頼完了書をパラパラと捲りながら調べたが、該当者は居なかった。
一部クシャクシャのビリビリに破かれ名前が欠損していた討伐依頼完了書があったが、周りの職員に訊ねるとユーシスではなく、ユリウスという別の外国人冒険者だった。
ケイトの隣ではベラが預金引き落とし者記録をペララララララ~と流し見して調べている?
いやおまえ、絶対見てないだろ!
「そんなハズは……確かに冒険者ギルドに来ているハズなんです!」
「うーん……ベラ、あなたユーシスって冒険者に覚えはない?」
話を振られた事に一瞬迷惑そうな顔をするベラであったが――
「ありませんね。この一か月以内での外国人男性冒険者と言えば、あのクソ生意気な男だけでした」
「クソ生意気?それはなんて名の人です?」
ベラは答える。
「えーと……たしかユリウスさんでしたっけ?」
「ユリウス!?名前が似ている……もしかして聞き間違えたんじゃ?」
アリサの顔が輝きだした。
しかし俺は残酷な事実を突きつける。
「アリサ、そのユリウスってヤツは違う。俺は直接会って助けてもらい、その上に飯までご馳走になったんだ。想い人君とは別人だぜ」
そう、俺はアリサと出会う以前、このギルドでユリウスという男に出会っている。
あれはバロンとブルーノ達が依頼失敗の腹いせに、俺を殴る蹴るの暴行をした時のこと。
危なく死にかけた俺をユリウスが助けてくれたんだ。
だからこそわかる。
ユリウスがアリサの想い人のユーシスであるはずがない。
だってヤツは…………
「でも……じゃあユリウスって人はどんな人だったんですか?」
「どんな人って……そうだなぁ。身長は俺と同じくらいだったか。まあ180センチ弱だな」
「ユーシスは身長178センチです!
「そ、そうか。で髪の色は真っ黒で……」
「ユーシスの髪も黒です!」
「え?ああ、うん。そいでもって瞳の色はこげ茶だ」
「ユーシスもこげ茶の瞳です!そのユリウスって人、きっとユーシスだわ!」
アリサはもう木端微塵に爆発しそうなくらいテンションが曝上がりだ。
「ユーシスと会える!今度こそ会える!わはーい!」
「おい、アリサ。ちょっと落ち着けって!」
ああ、なんか言いづらいなぁ……
「落ち着けって言ったろ! でもな、そいつは隻腕じゃないんだよ。ちゃんと両手があったんだ」
「え?」
ハッチャケたアリサの動きがピタリと止まった。
「腕が……ある?」
「ああ……」
「義手の可能性は……」
「それは無いな。ユリウスは両の手を使い、バロン一味をコテンパンにやっつけていた。あれが義手であるものか」
「そう……ですか……」
そう、そいつはちゃんと両腕があったんだ。だから明確に違うと言えたんだよ。すまんな、アリサ。
「…………」
真夏の太陽のように輝いていたアリサの顔が、皆既日食の如く暗くなってしまった。
「アリサさん、残念ですが、ここ一か月の間に片腕の冒険者が立ち寄った記録はありません。もしかしたら、飲食ブースに立ち寄って食事だけをした可能性はありますが……」
「そんなハズは……じゃあユーシスはいったい何処へ……」
どういう訳だ?
レイミアは、確かに想い人は冒険者ギルドに行くと言っていたのだが――
「もしかしたら政都の冒険者ギルドかもしれないな……」
「冒険者ギルドはここだけじゃないんですか?」
「ああ、リットールの都市は、この中心街と政都に別れているんだ。政治を担う専門の都市があるんだよ。大使館もそこにある」
「じゃあ、そこに行けばユーシスが!?」
アリサの沈んだ顔が、また明るくなる!
「アリサさん、残念ながら政都は立ち入りを禁止なのです。なにしろ内戦が近いって噂でして、テロを恐れているのですよ。……かりに今政都に行っても恐らくユーシスさんは居ないと思われます。近隣の村か、この中心街のどこかに潜伏しておられる可能性の方が高いと思いますよ」
「そういえばケンツさんも島で言っていたような……そうなのですか。じゃあ今まで通りビラ配りで探すしかないのかな……」
ガックリとするアリサにケイトがさらに追い打ちをかける。
「良くない話ばかりで申し訳ないのですが、ユーシスさんの捜索活動は午前中のみでお願いしたいのです」
「そんな、どうしてです!?」
ケイトの話にアリサは抗議した。
いや、そりゃそうだろう。
午前中だけとか、人通りもそんなに多くねーのに。
「実は、新たに召喚勇者のパーティーが少なくとも二組、このリットールに来訪してきました。」
「また召喚勇者……」
「彼らは概ね午前中までは惰眠を貪り、昼から夜遅くまで活動しているようです。彼らと鉢合わせするわけにはいかないでしょう?特にアリサさんはね」
「それは……はい……」
ん、なんか最後の言い方が妙に引っかかるな。
『特にあなたはね』
ん~~~。ああ、アリサは外国人だからな。
いざという時、リットールからの保護は無いし。
そういう意味かな?
いや保護と言う点ではリットールの民も同じくぞんざいに扱われているぞ。
「それとこれを」
ケイトは続いてアリサに紙包みを渡した。
中には各種ウイック、各種毛染め、つけまつげ、テーピングテープ、他小物類などが入っていた。
「これは?」
「これは女性冒険者全員に支給しているものです。召喚勇者対策に、必要に応じて顔のイメージを変えて下さい」
おお、そこまでするのか。
万が一目を付けられたら顔の感じを変えてやり過ごせとかそんな感じか。
女性冒険者は大変だな。
「ありがとうございます。早速これを使って……て、今日はもう捜索に出るのは無理かぁ……」
時刻は午後三時半を回っている。これからが召喚勇者達が活発に動き出す時間帯と言ってもいい。
「まあまあ、いずれ想い人君と会えるのは間違いないし。捜索は明日からでも大丈夫だろう。慌てなくても大丈夫さ」
「でもケンツさん、ユーシスも外国人です。私、リットールに来るまで色々差別にあったり、時には強姦されそうになったりもしました。この国はきっと私達外国人が長く居続けるのは困難だと思います。だから早くユーシスを見つけて保護しないと……今日はもう諦めますが……」
いやアリサ、そんなに慌てるな。
どうせ武闘大会の日には遭えるんだしさ(多分)。
つーか、強姦されそうになった?相手何者だよ!?
アリサはチラリと時計を見た後、なにやら頭を切り替えた。
「じゃあケンツさん、時間もあるし、シャロンさんを取り戻すために裏の試験場で稽古でもつけましょうか」
おお、アリサ!
ちゃんと分かっているじゃねーか!
そうそう、俺達は持ちつ持たれつのwinwinな関係だもんな。
「そうこなくっちゃ!宜しく頼むぜ!」
「はいはい。今までケンツさんにはお世話になったもの。お礼の意味を込めてキッチリ鍛えてあげるからね」
日暮れまでまだ一時間以上ある。鍛えて貰うには十分な時間だ。
俺達は、ギルド裏の広場に向かった。
*
「どうですシャロンさん。あの二人、付き合いそうな気配は全く無いでしょう」
ケイトは、柱の影からコッソリと様子を覗っていたシャロンに声をかけた。
「本当ですね。アリサさん、本当にブレてない。ケンツに全く魅かれていないみたいです。ケンツも時々エッチな目でアリサさんを見るだけみたいで虚ろぐ様子もないし……」
「ふふふ、だから言ったでしょう。あの二人は絶対にくっつかないって。でもそれより、さっきも話していたのですが、召喚勇者パーティーが少なくとも計三組、このリットールに来ています。シャロンさん気を付けてください。奴ら召喚勇者は
「三組も!?はい、気を付けます。ここまで来てケンツをまた裏切るようなマネは絶対にしたくありませんから!」
両開きの玄関が開き、バーク達三人が入って来た。
どうやらバークパーティーも召喚勇者対策を練るようだ。
シャロンはケイトに一礼してからバーク達の輪に戻っていった。
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