042 第十六話 ラミアの祠と亜人レイミア 03(裏話あり)


 


 

「わ、もしかしてあなたがユーシス君の想い人のアリサさん!?こりゃマズイ!

寝ぼけてオッパイブリュブリュの件は、絶対に秘密にしてくれって頼まれていたのに!」


「オッパイブリュブリュなんてどうでもいい!ユーシスは!?ユーシスはどこおおおおおおおお!!!!」


「ひいいいいいいい!」


「オッパイブリュブリュって……想い人君よ、あんた一体なにやってんだ……」





どうやらアリサの想い人は、このレイミアって蛇女ラミアと接触したようだ。


想い人の痕跡、すなわち血の痕が全く無かったのは、管理人であるレイミアがしっかりと洗い流すなりして掃除したからだろう。



「で、レイミアさんよ。アリサの想い人は無事なのかい?」



俺はレイミアに訊ねながら、アリサをレイミアから引きはがした。



「ゴホッゴホッ、なんて馬鹿力なの!? ええ無事よ。私の身体を張った献身的な介護のおかげで、二日ほどで完全に意識を取り戻したわ」



エヘン!と得意げに背中を反るレイミア。


巨大なスイカップがバイーンと大きく揺れる。またしても俺の目玉も大きく揺れる。



「無事!?……ユーシスやっぱり生きていたんだ……、良かった……本当に……ううぅ……」



さっきまでの絶望の涙とは違い、嬉しさで感激の涙をボロボロ溢すアリサ。


うん、いいね。


これでアリサを腫物扱いせずに済む。というか純粋に祝福するぜ。


いやー、良かった良かった。



「それで、ユーシスってやつは?ここにいるのかい?」


「もういないわ。三週間近く前だったかなぁ、何をするにもお金が必要だから、まずは冒険者ギルドに行くって。それで私に伝言頼んでラミアの森の外に出たの」


「三週間近く前……私が連邦に転移してきた頃だわ……」


「ユーシス君はアリサさん達が転送されてくるかもしれないからと、最後の満月の晩まで待っていたの。けど誰も来なかったから自分から動く事にしたみたい。お金を手にしたら【政都の大使館】に行くとか言ってたかな。あと私のことづけで【ミヤビの村】に寄ったと思う」


「【ミヤビの村】って【現人神ミヤビ】のいる村だな。ワリと近所だぜ」


「ちなみにミヤビは私の妹なの」


「マジか!祠の守護者・管理人とか言うから只者ではないとは思っていたが、まさか現人神の姉とは……」


「じゃあその【ミヤビの村】か【政都の大使館】に行けばユーシスに会えるの!?」



これ以上ないくらいアリサの顔が眩しく輝く!


しかし俺は残念な事実をアリサに伝えた。



「いやアリサ、リットール政都の大使館は内戦が迫っているせいで全て閉鎖されたよ。大使館員は全て自国に向かったはずだ」


「そんな!」



輝いていた顔が一気に曇った。



「それで、さっき言ったユーシス君の伝言なんだけど、冒険者ギルドの武闘大会開催中まではリットール付近に留まるそうよ。でも武闘大会終了後は自力で母国を目指すって」


「冒険者ギルドの武闘大会?」


「なんでそんなモノに……」




冒険者ギルド主催の武闘大会。


どこの国のどんな街の冒険者ギルドでも大なり小なり開催しているイベントだ。


開催時期や開催内容は、各冒険者ギルドによって違う。


小さな村レベルの冒険者ギルドでは、農産物が商品の相撲大会のような小規模な大会を開催している。


アリサが前に住んでいたダバスという砂漠の街では、芸能事務所からプロの司会者を呼んで大々的な大会を開いた。


このリットールの冒険者ギルドでは、普通に部門別トーナメント方式での大会で行われる。





「ごめん、私が勧めたの。もしユーシス君の仲間が訊ねてきたら、人が集まる武闘大会にも探しに来るかもしれないからって……まずかったかな?」



少し申し訳そうなレイミア。



「いや、ナイスアシストだよ。武闘大会に想い人が来るのなら、アリサはそれを待っていりゃいいんだから」


「それは……そうだけど……」



どうもアリサは心ここに在らずのようで、今すぐ想い人を探して会いに行きたいようだ。



「まあ、慌てなさんな。想い人君の生存はこれで確実になったんだ。まずは冒険者ギルドで訊いてみようぜ」


「うん……」




ふぅ、危ねぇ……このまま想い人君を探しに行かれたら、俺の成長もここでストップしちまう。


アリサには悪いけど、まだまだ色々と戦いのレクチャーをしてくれないとな。


今度は俺とシャロンのために、もう少しだけ付き合って貰うぜ。一緒にいられるうちに力を付けておかねーと。


なんせこっちもバークとの対戦を考えているんだ。


奴に挑んで勝つ!


そして俺はシャロンを取り戻すんだ!





何?


自分の都合でアリサを犠牲にしていいのか?


他力本願じゃなくて自分で何とかしろ?


アリサに甘えるな?



いや、おまえら何言ってんだ?


こっちだってシャロン取り戻すのに必死なんだよ!


ハッキリ言う、悔しいがアリサの戦闘レクチャー無しに打倒バークなんて絶対に無理だ。


今は形振りなりふりなんてかまっていられねーんだよ!


利用できるものは何でも利用する!


変な浪花節プライドに捕らわれて、チャンスを逃すなんて二度と御免だぜ!


シャロンを手に入れるまで、俺は絶対にアリサを離さねえ!



「もしもしケンツさんとやら、なんか凄い悪い顔してるけど……何を悪だくみしてるんだい?」


「うぇ? 心外だな、レイミアさん! ぼかぁ僕はアリサの今後を真剣に考えていたんだよ!」



やべー、顔に出てた。


でもさ、実際問題暫くは何も出来ないぜ?


なんせ今のリットールには異世界から来た召喚者達が我が物顔でのし歩いているもん。


アリサみたいな美少女が街でフラフラしていたら、奴らが放っておくわけがねーし。


流石のアリサも召喚勇者には太刀打ちできねーよ。


女を見れば襲う事しか脳のないやつらだ。きっと魅了されて性奴隷にされちまうぜ。


アイツら召喚者の感性はもはや人じゃねぇからな!





一通り食事と話が終わり、俺とアリサはレイミアの案内でダンジョンを抜けて外に出た。


ちなみにダンジョンのレッサーラミアが全てレイミアの支配下ペットというのは本当らしく、襲って来ることはなかった。


ただ彼女達はギラギラと獲物を見る目をしながら、悔しそうに俺を睨んでいた。



「アリサさん、ユーシス君と再会できることを心から願っているわ」


「こちらこそ、ユーシスの命を助けて頂きありがとうございました!」


「色々と世話になったな。今度お礼に……は無理か。レッサーラミアの餌食にされちまうな」


「その気持ちだけでいいわ。じゃあね、二人とも」



レイミアは踵……じゃなく、蛇の胴体を翻してひるがえして戻っていった。



「よし、急いで戻るぞ!ケイトにギルド預金を下ろした外国人がいなかったか、もう一度聞いてみるんだ!」


「うん! ストール馬房!」



突如空間がパックリと開き、中からいつもの白馬が現れた。



「さあケンツさん乗って!飛ばすわよ!」


「お、おう!」



― パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!



俺とアリサは白馬に跨り、一路リットールの冒険者ギルドを目指したのだった。


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