040 第十六話 ラミアの祠と亜人レイミア 01(裏話あり)


「おいアリサ、わかるのか?」


「大丈夫、ラミア遺跡のことは、連邦に来る前に異世界の友人達から教えて貰ったから。多分応用が効くはず……ほら!」



アリサが転移装置(転送装置)のコントロールパネル石板テーブルを操作してポンと叩くと――



― キュルルルルルルルルルルルル……



俺とアリサは見たことも無い文字の積層型立体魔法陣に包まれ転送された。




― キュルルルルルルルルルルルル……



「ふえー、いきなり転送させられたから驚いたぜ。ふむ?」



俺は周囲を確認する。


屋根のある石造りの大きな祠……こいつがラミアの祠だな、初めてみるぜ。


アリサが早速想い人の痕跡がないか調べてやがるな。


湖が見えて、周りの山々や森は全て見覚えがある。ここは間違いなく湖の小島のようだ。


しっかし、祠以外は草木だけで何にもねーな。


こりゃこんな島に転送されても長くは生きられねーぞ?


だって食物が全然ーもん。





「わああああああああああああああああああああああ!!!!」



― ビクゥッ



「な、なんだっ!?」



突然のアリサの悲鳴!いや絶叫か!?



「おい、どうした!?」


「ユーシスの痕跡が……どこにも無いの……」



あっちゃー、苦労してここまで来たのにハズレだったか。


可哀そうに、ガタガタと震えてるし。


でもなんで痕跡が無いってすぐわかるんだ?



「なあ、その痕跡っていうのはいったい……?」


「ぐすっ……ユーシスはね……」



アリサの話によると、ユーシスとか言う想い人は、転送事故の際に左腕を失ったそうだ。


だから転送先には夥しいおびただしい想い人の血の痕があるはず。


しかしこのラミアの祠には血の痕などどこにも無かった。


つまり想い人はここには来ていない。


…………


あー、こりゃいよいよ駄目みたいだな。



「他の祠に転送された可能性とかあるんじゃねーか?」



しかしアリサは項垂れながら首を横に振る。



「一緒に探してくれている仲間達から通信が入ったの。他には何処にもいなかったって……ここが最後だったの……だからここに来ていないということは……ユーシスは次元の狭間を彷徨っているの……もう助けられないの……」


「そ、そうか。なんと言って慰めていいかわからねーが……あれだ、希望を閉ざしちゃいけねーよ。ここに着いたばかりだし、もっと島の中とかも探してみようぜ、な?」


「うん……」



うわ、なんとも辛そうなアリサの表情。痛ましくて見てられねーぜ……




ふふふふ……


だがこれは逆にチャンスだ!僥倖だ!


想い人の存在が消えたのなら、俺がアリサを頂いてやる!


そしてのし上がりシャロンを取り戻すんだ!


よっしゃあああああああああ!!!!






「…………」



なんてな。


出来るワケねーわ、そんな事。


いや、俺もここに来る前はそう考えていたよ?


想い人さえ見つからなければアリサは俺のもんだ!ってな。


でも無理だ。


こいつはもう一人の俺みたいなもんだ。


今まで最愛の想い人を求め探し続け来てよ、結果離れ離れが確定しちまったんだ。


俺もシャロンと離れてしまったからわかる。


でも俺にはまだシャロンを取り返せる可能性はある!


だけどこいつには想い人と結ばれる可能性はもうない。


次元の狭間とかどうしようもねーよ、人知の及ぶ領域じゃねーし。


なんだよちくしょう、こんな結末なんてあんまりだぜ!


なあ主神の慈愛の女神セフィース様!


創造の女神テラリューム様!


破壊の女神ディスタツォーネ様!


なんなら水の女神アクアリウス様や山の女神エリシューム様でもいい!


えーい、この際、海神カナロア様か亜神ラミア様でもいいや!


見ているなら、なんとかしてやってくれよ!


次元の狭間なんて俺達人間には手の出しようがねーよ!



…………


いや分かっているよ。


女神は存在しているくせに、人々の個の願いを叶えた事なんか一度もねーから。


そこまで女神が人間世界に介入してきたら、世の中おかしくなっちまう。


だけど、だけどな。


たまにはちっぽけな人間の願いにも耳を傾けてくれや!


こいつを助けてやってくれ!


頼むよ!





そんな女神様達に八つ当たりしながら小島を見て回る。


しかしアリサの想い人の痕跡はどこにも無かった。


ここにはアリサの想い人は居ない。それが確定してしまった。




キラキラと輝く湖面を前にアリサはへたり込み放心状態だ。


ずっとブツブツと何か呟き完全に心が飛んでしまっている。


何か言葉をかけようにも、こんなの言葉のかけようがねぇ。


安易な慰めなどアリサと想い人への冒涜でしかない。


俺に出来る事は、アリサが正気に戻るまで後ろから見守るだけだった。



「くそ、やりきれねーぜ!」



モヤモヤとしたやりきれない気持ちが鬱積していく。





その時――



― ボコッ



「あん、なんだありゃ?」



湖面が突如盛り上がる!?


何かいる!?



― ゴバァッ



「ぷはぁっ!」


「な、なんだ!?」



湖面から勢いよく姿を現したのは、なんと女の上半身!


しかも裸のようだ!



「あら、お客さん?」



突然現れた女は俺達を見て軽く微笑むと、湖面からこっちに向かって来た。

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