035 第十三話 邪竜アパーカレスのダンジョン 02


丁度曲がり角付近に、ぼんやりと《人のような姿をしたゴースト》が浮かんでいた。




問題は、あれが人に害なすゴーストか、はたまた人畜無害のゴーストかだが……


まあ十中八九は人に害なすゴーストだよな、ダンジョンのゴーストなんて、ほとんどが地縛霊ハンティングと相場は決まっている。



「と言うわけで、ケンツさんお願いします!」


「いや、何が“と言うわけ”なんだよ。このホーリーチックな光で除霊とか出来るんじゃないのか?」


「はっ!言われて見れば、確かに出来るかも!?ホーリーフラッシュ聖なる閃光!」



― カッ! ピカッ!!!



『うがああああああああああああ!!!!????』



ゴーストはアリサの光をくらい、転げまわり悶絶している!



「お、いいぞ!確実に効いているみたいだ!もう一丁!」


「じゃあ次は……ホーリーピュアファイ聖なる浄化!」



― シュキイイイイイイイイイイイイイン!



『ほげえええええええええええ!!!!?????』



これはアリサが使う洗濯や風呂代わりの魔法か!?


洗濯じゃなくて、本当に邪気や悪霊を払う浄化魔法だったのか!



「よしよし、もう一撃くらいで昇天しそうだぞ!頑張れアリサ!」


「は、はい!セイントアロー聖女の矢……」



『やめんかバカモノ!おんしゃは我を殺す気かい!』



「「ゴーストが喋った!?」」



え、マジか!?


ダンジョンのゴーストなんて腐った霊魂と爛れた残留思念の混合体で、コミュニケーションなんざ出来ないのが普通だぜ?


ていうか、『殺す気かい!』って、おまえもう死んでるじゃん?



『まったく……清らかな気を放つ女人を感じて、久々に姿を現したらこのザマじゃ。こりゃ、おんしゃ達、いったい何者じゃ?なぜ我を屠ろうとした!いや、まず謝れ!』



なんだこいつ!?ゴーストのクセにメチャメチャ喋るやつだな。



「俺はケンツ、こっちはアリサ。俺達は冒険者だ。そっちは?」


『我の名は古(いにしえ)の大賢者バンバラ!500年程前にこの迷宮(ダンジョン)に巣食う邪竜アパーカレスを封印した者じゃ!我が姿を現したのには理由がある!』


「そうか、じゃあまたな。アリサ、先を行こうぜ!」

「そうね、今日はもう一つダンジョンに潜るから、早く回らないと」



俺とアリサは、関わると面倒そうなので、ゴーストを無視して先に進もうとした。



『またんかい!おんしゃ達、謝罪もせずに通り過ぎるとは何事か!?あと我の話を聞いていけ!でないと祟(たた)るぞよ!』


「はぁ……」

「ふぅ……」



どうやら手遅れのようだ。


『自我のあるゴーストには絶対に関わるな!』と、死んだ爺ちゃんが言っていたが……爺ちゃん、関わっちまったよ。どうしよう……



「あー、さっきはすまなかったな。てっきり悪霊の類だと思ったんだよ」

「すみません、怖くて必死だったもので……」



まずは謝罪から入ろう。なんとか穏便にスルーの方向で……よし、いくぞアリサ!



『そうか、謝ってくれりゃそれでええんじゃ!実はおんしゃ達に頼みが……て、こりゃ!どこに行く!話は終わっとりゃせんぞ!』



ちっ、ダメか!こりゃ話を聞かない事には解放してくれそうにないな。



『そこな可憐な女人、こちらに来ませい!来なければこちらからいくぞい!』


「うへぇ……」



おいアリサ、声に出てるぞ!穏便にいけ!


アリサは渋々バンバラの近くまで行った。



『もそっと、もそっと近うよるのじゃ!あー、よしよし。それでいいぞ!ふーむ……』



バンバラは舐め回すようにアリサをジロジロと値踏みする。



『よし、合格じゃ!こりゃ女人!そなたを二代目大賢者バンバラに任命する!邪竜アパーカレスが再び世に這い出れば、その時こそリットールは、いやアドレアの大地は疫病がはびこり、人々は死に至らされるであろう!残念ながら我の封印の力は弱まっておる!これからは女人がこの地にて邪竜アパーカレスを死ぬまで……いやさ、死んでからも封印し続けるのじゃ!』 


「絶対に嫌です!ケンツさん、もう行こう!」



アリサ即答でノーを叩きつける!


いやそりゃそうだろう。このゴースト、無茶ぶりが過ぎる。やっぱり悪霊なんじゃねーか?



『なんと断ると申すか!?こりゃ女人!このリットールの地が好きではないのか!民のために犠牲になってやろうという心気はないのか!?ワシは愛するリットールの地を守るために500年もここでアパーカレスを封じてきたというのに!おんしゃ達、リットールの民なのじゃろう?郷土愛はないのか!おんしゃ達の血は何色じゃい!』


「お気持ちは重々御理解しました。でも私は外国人なので他を当たって下さい。それに私には他にやることがあるので」


『ガーン!なんということじゃ!犠牲になってくれそうな女人じゃと思ったのに、とんだ見込み違いだったわい!……今日にも我の封印は効力を失う……終わりじゃ……我の愛するリットールはもう終わりなんじゃぁ……おおおおんんん!』



おい、このゴーストとんでもない事を言いだしたぞ!終わりとか言わずにもう少し頑張れよ!俺が生きている間だけでいいから!



「こうなったらおんしゃ達を呪ってやる!祟ってやる!ダンジョンの外に出て『リットールが滅びるのはこいつらのせいです!』と、拡声器使って言いふらしてやる!それが嫌なら二代目バンバラを襲名せい!」


「おまえ、やっぱり悪霊だろ!」


『悪霊とはなんじゃ!失礼な……なあ女人、なんとかリットールのために犠牲になってくれぬか、頼む!この通り!他に使命や天命などないのじゃろう?』


「ねぇ、ちょっと外してくれる?」



アリサは俺を遠ざけバンバラと何やらヒソヒソ話をしだした。



『なんと!女人はテラリューム様の……そうじゃったか、こりゃあ頼むのは無理じゃわい。あいわかった、そう言う事なら仕方がない。はぁ、これでリットールも最後か……子孫達には申し訳ない事じゃが、これも運命なのじゃろうなぁ……』



いったいアリサに何を吹き込まれたのか、バンバラは諦めたようだ。


しかしリットールが終わりとか洒落にならんこと言っているし!?



「おいおい、ちょっと待てよ!リットールの最後だぁ?爺さん、バカ言っちゃいけねーぜ!今のリットールは昔と比べて多分弱くはねーぜ?邪竜の一匹や二匹、退治するくらい容易いはずだ」


『爺さんじゃと!?我は女子(おなご)じゃ!しかも我がこのダンジョンに括られた時はまだ二十歳だぞえ!そのうえすぐ霊体化したから歳など食っておらぬわ!ピッチピチの永遠の二十歳じゃい!』



え、そうなの?


だって仕方ないじゃん!見るからに邪霊ぽくて性別なんてわかんねーもん。


声もオッサンみたいに野太いし。



「悪かったよ、おばちゃん」


『お、おばちゃん!?ま、まあよい。ふん、我の時代でも為政者共が同じことをほざきおったわ。じゃが召喚勇者達を大量投入したが、全員骸になって帰ってきおったぞ。あいつらまるで役にたたん。今の時代の召喚勇者がどれ程のものかは知らぬが、おぬしたちが勝てるとは到底思えぬよ』


「マジか!?」



召喚勇者を大量投入しても勝てなかっただと!?


え、じゃあこれガチでヤバイやつじゃね?




「ん?よく見ればお主もソコソコの力があるではないか。むむむ……しかし心がこうも邪(よこしま)で汚れていてはのう……じゃがしかし……ううむ、現状これで手を打つしか……もう残された時間もないしな」



こいつ、喧嘩売ってやがるのか?


おいアリサ、いいからこいつ消滅させてしまえ!



『よしわかった!こうなったら封印するのは諦めて、おんしゃに賭けてみよう。えーと、おんしゃの名は何と言ったかな?』


「…………」


『なぜ黙っておる?』


「へん!騙されないぜ、名前を聞き出して俺に呪いでも掛けるつもりだろう!」


『かー!疑り深いやつじゃのう!我がそんな姑息なマネをするワケなかろう!見損なうな!』


「そうよ、ケンツ・・・さん。なんでも疑ってかかるのは良くないわ」


「あ、バカ、アリサ!!!」


『ほーか、ほーか、おんしゃの名はケンツと言うのじゃな?よしよし、これで《時の呪い》を掛けることが出来る……ひっひっひっ』


「おい、やっぱり呪いじゃねーか!」



慌てても後の祭り。シャレになってねーんだよ!



「アリサぁあぁぁああああああああああ!」


「えへへ……ごめんなさーい♡」


『えへへ……ごめんなさーい♡』じゃねーよ!何かあったら責任とれよ!



― ブオッ!



むお!なんかバンバラの雰囲気がガラリと変わった!


やめろ、真面目な面をするな!厄介ごとに巻き込むんじゃねぇ!



『時間逆行法第三部第二章第五節!500年の時の流れよ!ケンツの生命を糧として今(いま)逆行せり!』



― ギュイイイイイイイイイイイイイイイイン!



「ババア、今なんつった!俺の生命を糧とか言わなかったか!?おいバカやめろ!ぎゃああああああああ!」


「きゃああああああああああああああ!!!!」



とつぜん積層型立体魔法陣が現れ、それが俺達を遥かな過去へと引きずり込んだ!


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