034 第十三話 邪竜アパーカレスのダンジョン 01


日が変わり、早朝――



俺とアリサは冒険者ギルドの飲食ブースで朝食を取り、さあこれからラミアの森へ出発って時に、ギルド長から冒険者達へ重大報告があった。


なんでもこの地に召喚勇者が来ているそうだ。



「立ち振る舞いには十分気を払うこと。特に若い女性冒険者はなるべく表に出ないこと!」 



ギルド長のピリピリとした口調で報告と注意が終わると、ギルド内は異様な空気に包まれた。





異世界から呼ばれし召喚勇者、それは国家防衛の要(かなめ)。


世界の大国はそれぞれ複数人所有し、それにより世界のパワーバランスが保たれている。


やつらは決して実戦で使われる事の無い番犬……言わば戦争抑止力だ。


忌々しいが、俺達はその番犬の傘の下で暮らしている。


通常戦力では遥かに劣るアドレア連邦が、他国からの侵略を受けない理由が召喚勇者の保有によるものなのだ。


ただこの番犬、性欲が強い上に素行も悪く、しかも餌代がやたらとかかる。



その召喚勇者来訪の知らせに、ギルド内は騒然としたままだ。


そんな中、ブルーノとバロンの周りに人だかりが出来ていた。


やつら、昨日教会で召喚勇者と遭遇したらしい。



「だから俺達はビシッと言ってやったんだ」

「口の利き方に気をつけろ、雑魚め!ってな」

「そしたら借りて来た猫みたいに大人しくなりやがったぜ!」

「全く何が勇者だ、あんなやつ全然大したことねーよ、かっかっかっ!」


「スゲー!さすがブルーノさんとバロンさんだ!」

「俺達に言えない事を平然と言ってのける!」

「そこにシビれる!あこがれるゥ!」



…………うん、絶対嘘だな。


召喚勇者に大口叩くヤツなんて、女を寝取られてぶちキレた男くらいなもんだ。



「まったく、朝からテンションが下がる話だな。なあ、アリサ」


「…………」


「アリサ?」


「あ、ごめんなさい。ぼんやりしていました。召喚勇者かぁ……迂闊に街に出てユーシスを探せないなぁ……どうしよう……」



深刻な表情のアリサ。


まあ、たしかにアリサほどの美少女なら、召喚勇者に見つかれば確実に狙われて性奴隷にされるわな。



「おいおいアリサ、今はラミアの森のダンジョン攻略に全力を注ごうや。今日は二つのダンジョンを攻略予定なんだからな!」


「あ、うん……そうだね」



憂鬱そうなアリサの背中を押して、俺達はラミアの森に向かった。






ラミアの森に着いて、速攻でフォレストラビットを二十羽ほど仕留め、本日のノルマを達成する。



ストール馬房!」



アリサが一声あげるとパックリと空間が開き、中から美しい白馬が出て来た。


この馬の名はファイス、アリサの愛馬で小柄ながら屈強な牝馬だ。


しかし品種的にはどこにでも目にする普通の乗用馬だそうだ。



「ファイス、またごめんね」



俺とアリサはフォレストラビットを詰めた袋をファイスに結わえ付けると、また開いた空間にファイスを戻した。


なんでも時間停止空間を利用した馬房だとかで、入れるのは馬限定だが、馬に荷物を結わえ付けたり、怪我人を馬に乗せて馬房に収納するくらいはできるそうだ。


まあ、機能限定版のアイテムボックスみたいなもんだな。


普通こんな事ができるのは、時空魔術師か超レアなアイテムボックスの所有者くらいなものだが、アリサはそのいずれかとも違うという。


本当に謎の多い女だぜ。





「さあ、ダンジョンに行きましょうか!」


「はいよ、行きますか」



ダンジョンには俺も一緒に潜ることにした。


アリサの圧倒的な強さは認めるが、そうは言ってもどこか危なさがある。


ダンジョンなんて一人で行かせたら、触手まみれになって帰らぬ人になりそうだしな。


アリサも、前回いきなり苦手なヒドラが出て来た事もあって、少し慎重になったみたいだ。


俺も一緒に行ってやると言ったら是非お願いしますと頭を下げられた。


どうやらヒドラを倒したことで、それなりに信頼されるようになったようだ。



ホーリーライトボール聖光球体!」



― ボヒュッ! ボヒュッ! ボヒュッ! ボヒュッ! ボヒュッ!



自然界ではまず見る事の無いピュアホワイト純白の輝きを放つ球体が、ダンジョン内を煌煌と照らす。


今回はコウモリの大群はなく、俺達はすぐダンジョンに潜り始めた。





ところでこのダンジョンは一度来たことがある。


あれは、今は亡き旧一番星旧ファーストスターが力を付ける前の事だったか。


俺、シャロン、キリス、キュイ、そしてバークの五人で潜った時だったな。


なので、俺はおぼろげながらこのダンジョン構造を覚えている。


十中八九、このダンジョンが外れなことはわかっているが、それでもアリサはこの目で確認しておきたかったようだ。


そして潜りはしてみたが、やはりハズレだった。



「ま、ここは駄目なことは薄々わかっていたしな、早く出て昼飯にしようや」


「そうね、こんなダンジョンに長居は無用よ!」



アリサは落ち込む様子もなく、もと来た道を引き返す。



「あら?」


「どうしたアリサ?」


「ケンツさん、ここに横道があるみたい」


「どこだ?分からねーぞ??」



あれ、なんかこんなこと前にもあったような?


俺は妙な既視感を覚えた。



「あ……!」


「どうしたの?」



怪訝な顔をするアリサ。


そうだよ、ここはバークの野郎が『脇道がある』とか言って足を止めた場所だ!


何かあるようには見えないが、アリサも横道があると言った以上、本当に横道があるのか!?



「アリサ、詳しく教えてくれ。横道っていうのはどこにある?」


「あ、うん。ちょっと待ってね。ホーリーライトボール聖光球体!」



― ボヒュッ! ボヒュッ!



新たに二つのホーリーライトボール聖光球体を放ち、明るさが圧倒的に増す。



「ケンツさん、わかる?ここよ!」



圧倒的な光に照らされ、壁の一部が透けて見えた!


その透けた壁を、なんとアリサが潜り抜けた!


一瞬消えたように見えたが、壁の向こうにうっすらとアリサの姿が!



「バークの野郎が言っていたのはこの横道のことか!」



俺はアリサに続き壁に向かって突き進んだ!



― フッ……



少しの抵抗感のあと、まるで異空間にでも迷い込んだような感覚に襲われる。



「ケンツさん、ここって随分弱まっているけど結界に覆われた空間だわ。この入り口も本来は強い結界で覆われ壁にカモフラージュされていたみたい。それが弱まってしまったのよ」


「じゃあ、ここはまだ手付かずの場所なのか!?」


「もしかして転移装置はこの奥!?」



俺とアリサは顔を見合わせたあと、奥へ向かって進み始めた。



「中々に深いな……」



一本道をもうかなり進んでいると言うのにまるで終点に付かない。



「こういうダンジョンってラスボスとか出そう……」


「アリサ、フラグが立つようなこと言うなよー」



そう、そんな事を言った時に限って何かがおきるのは冒険者の常識!


まったくアリサにも困ったもんだぜ……


などと思っていたら、ほら見ろ、なんかでやがったぞ!?



「ケ、ケンツさん、あそこ!?」


「言わんこっちゃない!」



アリサがササっと俺の背中に隠れた。


いやまてアリサよ、おまえが怖がるほどの相手なの?



「ケケケケ、ケンツさん、あれゴースト幽霊だわ!」


「んあ? ああ、おまえ霊の類は苦手なのか」



丁度曲がり角付近にぼんやりと《人のような姿をしたゴースト》が浮かんでいた。


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