032 第十二話 ブルーノとバロンの逆襲/そして召喚勇者 2




 ◆女神セフィース系教会―― 





セイクリッドヒール完全回復!」



人の良さそうな初老に差し掛かった大神官が、セイクリッドヒール完全回復を行使!


途端に銀色の粒子がブルーノとバロンの患部を包み込み、取れた腕が瞬く間に完治した!



ここは女神セフィース系教会の礼拝堂。


ギャーギャー煩い取り巻き達は追い出され、外で待機中のようだ。



「ふぅ、一時はどうなるかと思ったぜ」

「全くだ、女神テラリューム系教会は駄目だな、金とるばかりでマトモな治療をしやがらねぇ」


「おやおや、この傷はテラリューム教の雑な仕事のせいでしたか」



従者(アコライト)が持ってきたお茶を勧めながら、大神官は請求額を告げた。




「すみませんね、傷の内容が内容だけにお高くなってしまいまして」



大神官の提示金額は、二人合わせて100万ルブル。



「なんだぁ?この金額は!?」

「えらい安いじゃねーか、テラリューム系教会じゃ二人で8000万ルブルも請求されたぞ!?」



金額の差に驚くブルーノとバロン。



「テラリューム教は駄目ですよ。あそこは勘違いした意識高い系が集まるカルト宗教化してしまいました。大昔はああじゃなかったんですけどね。まあブランド力は今でも高いですが……」


「そうなのか?知らなかった……」

「すっかり騙されたぜ……で、大神官さん、その100万ルブルなんだが……」



ハッキリ言ってバロンとブルーノは金がない。


アリサを娼館に売り渡す事が出来なかった時点で、8000万ルブルもの大借金を抱えている。


100万ルブルどころか1万ルブルでさえ厳しい。


しかし意識高い系ボッタクリ教のテラリューム教とは違い、セフィース教は崇める女神はちょっとアレだが、庶民のための宗教だ。


金の無い者から搾り取ろうなどという気はサラサラない。



「ああ、いいですよ。払える時に少しずつ払って頂ければ結構ですので。取り立てもしませんし、利息もつきませんからご安心を」


「ありがとう!」

「恩に着る!」


「いいんですよ。それよりも……あんなテラリューム教よりも、セフィース教を今後とも宜しくお願いしますね」



どうやらこの大神官、テラリューム系教会に対して並々ならぬ対抗心を持っているようだ。







「はははは、兄ちゃん達、災難だったな」



突如堂内に響く笑い声。


三人のやりとりを見て、面白そうにニヤニヤしながら男が一人やってきた。



「ちっ……」



なぜか大神官は小さく舌打ちする。



「しかし治した腕がポロリと取れるとか、どんなギャグだよ。ギャハハハハ!」



男はよほどツボったのか、目に涙を浮かべてヒーヒー大笑いしながら崩壊しそうな腹筋をさすった。



「あー?」

「なんだよ、てめーは?」



すごむブルーノとバロン!


そのブルーノとバロンに対して、大神官が大慌てで男を紹介する。



「こ、この方は異世界から召喚された勇者のユキマサ様です!つい先程、首都アドレアから遠路はるばるこの地についたばかりで、当教会に御挨拶に参られたのですよ」


「異世界?召喚?勇者?」

「じゃあ悪名高い召喚勇者か!」



― ギロリ



「口の利き方に気をつけろ、雑魚ども!」



ビリビリと堂内に響くユキマサの怒声!そして途轍もない勇者の波動!



― ビクゥッ!



「「は、はい!すみませんでした!」」


「おう、それでいいんだ」



明らかに異質で凶悪な気を放つユキマサという召喚勇者。


傍若無人なブルーノとバロンでさえ、召喚勇者に一喝された途端、借りてきた猫のように大人(おとな)しくなってしまった。


その後、バロンとブルーノは勇者ユキマサに散々いじられながら、徹底的に媚びを売った。



「ユキマサ様、肩はこっていませんか?よければお揉みしますよ」

「長旅でお疲れでしょう。すぐ足湯を用意します。爪のお手入れもどうですか?」



揉み手をしながらユキマサに媚び諂うへつらうバロンとブルーノ。



「ぎゃははははははは!テメーら中々面白いな!気に入ったぜ」


「「はいっ、ありがとうございます!」」


「おう、なんか困った事でもあれば何でも相談しろ!特に女絡みはな!ぐわはははははははははは!」



バロンとブルーノはユキマサに気に入られ、見事勇者の腰巾着ポジションを射止めたのであった。







------------------------------------------------------------





以下、この世界の勇者設定(読み飛ばし可)



真正勇者――

この世界の創造神が一柱、【創造の女神テラリューム】からの祝福ギフトを受け、かつ神託を与えられた世界の守護者。世界を揺るがす大異変に対応し、人間同士の諍い(戦争など)には基本介入しない。

本物の女神の使徒。


召喚勇者――

国家により異世界から召喚された勇者。一国につき複数人所有している。

召喚された際に、この世界の主神【慈愛の女神セフィース】から勇者の祝福ギフトを授かる。

真正勇者の劣化コピー版だが恐ろしく強く、概ね性格に難が有る。

なお、召喚されて授かる祝福は必ずしも【勇者】とは限らず、【聖騎士】【剣聖】【魔術師】【回復士】など多岐に渡る。ごく稀に祝福ギフト無しの【無能力者】も現れる。


アドレア連邦認定勇者――

アドレア連邦民の中から人外級の力を持つ者を、特に選りすぐって勇者称号を与えたもの。

アドレア連邦独自のシステム。

民にとっては理不尽な勇者特権が与えられ、平時においては好き放題している。

(かつてケンツが目指していたのは、このアドレア連邦認定勇者)


野良勇者――

創造の女神テラリュームからの祝福ギフトを受けはしたものの、まだ神託が降りておらず、目的がない現地勇者。


真正勇者(魔族)――

【破壊の女神ディスタツォーネ】の祝福ギフトと神託を受けた魔族の勇者。

(ディスタツォーネは【創造の女神テラリューム】と共に、この世界を創った創造神の一柱)



このうち本作品には【召喚勇者】【アドレア連邦認定勇者】【野良勇者】が少し関係して来る。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る